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我が家では1年12ヶ月中11ヶ月はお鍋の季節です

誰が得する用語説明のコーナー

どんどんぱふぱふー♪ヾ(≧▽≦)ノシ

さぁ、第2回があるかどうかわからない誰が得する用語説明のコーナーがやってきました

第1回は『魔法使い』と『魔術師』の違いです

ちなみに本編には全く関係ないですから!


魔術師が魔法を専門にしている人のことで魔法使いは魔法が使える人のことです


数学で書くとこんな感じ

魔術師⊆魔法使い


コレでよくわからない人のために例を挙げると

魔術師=大学教授

魔法使い=生徒

だと思ってください

つまり魔法の専門家が魔術師なんですよ!


わかんなくても本編にはほぼ関係しないので気にしないでください


人物表

エウナ

きゅーけつき 昔にやったちゅーけつきというネタがネタじゃ無くなって来ました


魔法使い 嬉しいと耳がひょこひょこ動きます ちなみに正式に告白は一度もしてないです


アリス・イン・ワンダーランド

魔術師 お酒に弱い とにかく弱い 寝起きも弱い とにかく弱い


ミツキ

クラゲ ( ´_ゝ`)いいですよね、クラゲ


 私は今、人生最大の窮地に立たされている。

 目の前にあるのは開かれている1冊の本、認めたくない現実。スタート時は笑顔だった私の顔は既に仮面を通り越して石像と化している。


「つまり誰がしても大体同じ様な結果になる科学と考えが違って、魔法は出来る人だけが出来ればいいという考えで動いてます。

 もちろん、魔術師の中にも誰にでも使えるということを目指している人も居ますが・・・どちらにしても魔術師達の目的は一つ。アカッシックレコードを目指すことです」

「へ、へぇ・・・そうなの」


 ・・・アカシックレコードって何なのかしら。


「それでですねー・・・」


 アリスはそう言うと本のページを1枚めくり、ある場所を指し示した。どうしようもないので視線を落とせば、私へと襲い掛かってくる意味不明の言葉の羅列。

 それでから始まる言葉はほとんど理解が出来ない。中には辛うじてわかるものも少しあるけれど・・・それじゃわからないのと大して変わらないじゃない。

 アリスから発せられる言葉は空中で分解され、私の耳に届き、脳へと留まることをせずに逆耳から飛び出して行く。

 ここまで来ると、私の目の前に居る彼女は本当にいつも接していた彼女なのか疑問を覚えてしまう。


「ア、アリス・・・ちょっといい?」

「はい?どうかしましたか?」


 にこにこと嬉しそうに何かの言葉を発していた正体不明(アリス)は私の顔を見つめてくる。

 覚悟を・・・決めるときが来たようね。


「コレって・・・皆覚えてるものなの?」

「んーと・・・完全では無いですが、皆大体は覚えてるんじゃないでしょうか?」

「そ、そう・・・」


 私は精一杯の精神力を使って感情(ほんね)表情(たてまえ)に出ないように気をつける。


「大丈夫ですか?」


 ・・・どうやら少しだけ出てしまったらしく、心配そうにアリスが覗き込んでくる。

 どうしても認めたくないけれど、認めなければ先に進めない。それはわかっているのだけれど、それを認めるにはどうしてもプライドが躊躇してしまう。


「・・・少し休憩にします?」

「ええ・・・そうしましょう。紅茶入れてくるわね」


 そう告げるとそそくさと台所へと逃げて天を仰ぎながら逃れ続けていた事実に目を向ける。

 私って・・・馬鹿だったのね・・・。

 何時までも嘆いていてもしょうがないので、悲しみを背負ったまま適当に紅茶を入れて持ってくると、テーブルの上には現実が待っている。

 『だれでもわかる!まほうがくのほん(こどもよう!)』

 やたらと強調されたその本は挿絵も多く、さらに振り仮名も振っていて確かに子供用なんでしょうね・・・。私はわからなかったけれど。


「どうかしましたか?エウナさん」

「いえ、何でもないわ」


 忌々しいその本を何時までも見ていると、彼女に悟られてしまうのでさらりと視線を逸らしてカップに紅茶を注ぐ。

 ぽこぽこと湯気が立ち上ってくるソレは、既に香りだけでいつも飲んでいるものよりも劣っていることを主張してくる。


「・・・美味しくないですね」

「・・・ええ、ホントにね」


 適当に入れた紅茶は見事な風味を醸し出し、私達の味覚に渋みだけを訴えてくる。つまり不味い。すごく不味い。ストレートで飲む気にならないくらいに不味い。

 今度楓に紅茶の入れ方でも教えて貰おうかしら?


「ところでエウナさん?さっきの話、全くわかってないですよね?」


 アリスがカップにミルクやら砂糖やらをぶち込んでいる様子を羨ましそうに見ていると、スプーンでくるくるとかき混ぜながらアリスが言った。

 心臓が止まるかと思った。


「そ、そんなことは無いわよ?」

「そうですかー」


 世界が止まったかの様な空気の中、アリスのスプーンだけはくるくると動き続ける。

 私はその空気に耐え切れず、やけに乾く喉を不味い紅茶で喉を潤そうとして突然注ぎ込まれた熱に失敗していた。


「いいですか、エウナさん」


 そんな私の様子を微笑んで見ていたアリスが諭すように言う。


「わからないならちゃんとわからない、と言ってくれないと困ります。まぁ、言わなくてもわかりますが・・・」

「・・・」

「ちゃんと言ってくれれば此方もきちんと対処しますから・・・ね?」


 ・・・まずその手間の掛かる子を見るような顔を止めなさい、話はそこからよ。

 当然そんなことを言えるわけも無く、ただ黙って事態の沈静化を待つ。大体今回で本を変えるの3回目なのよ!?言えるわけ無いじゃない!


「ん、んー・・・あれ?ミツキさん、山狩りは終わったんですか?」


 困ったように紅茶を飲むアリスをなるべく見ないようにしていると、頭に救世主(なにか)が乗っかってきた。


「・・・乗るのは良いけれどお面ずらさないでよ?」


 私の上で応じるように揺れ動くミツキ。その動きは私に対する返答なのか、アリスに対する返答なのか、一体どっちなのかしらね?


「そうなんですかー、ではでは楓さんももう帰ってきますね」


 何故かはわからないけれど、アリスはミツキの言うことがわかるらしい。

 そして、魔法の勉強のことは楓には秘密にしておいて欲しい、という私の身勝手な願いを律儀にも守ろうとアリスはせっせと本を集め始めた。当然私も参加する。


「ただいま戻りましたー」

「お帰りなさい」


 アリスが使った本を片付けに行っている間に、秋なのだからとか言うよくわからない理由で山狩りへと向かった楓が帰ってくる。


「見てみてエウナさん、たいりょー!」


 嬉しそうに耳をぴくぴくと動かせながら、腰につけた籠を私の後ろから抱き付いてきて見せてくる楓。中には色鮮やかな良くわかんないキノコやら山菜らしきものやらがつまっている。正直よくわからないけれど・・・このキノコ大丈夫なのかしら・・・?。


「そう、それはよくやったわね」

「んー♪」


 よくはわからないけれど、褒めて欲しそうに耳が動いていたので頭を撫でると、気持ちよさそうに目を閉じた。


「・・・ねぇ楓?何か捕まえた?」


 さっきから籠の中に袋がぴくぴくと揺れて自己主張を繰り返してるのだけれど。


「んーとですね、ツチノコー!」

「そうなの、ツチノコなの」

「うむうむ!」


 さっきと同じ様に撫でて撫でてーと楓の耳がぴくぴくと動くが今度は無視する。・・・記憶違いが無ければツチノコってアレよね?あのヘビみたいな。


「・・・逃がしてらっしゃい」

「美味しいですよ?」

「ダメよ」

「ぶー・・・」


 そんなゲテモノ絶対に食べたくないので楓の言葉を一言で切り捨てると、彼女は不満そうにぶーぶー唸り始めた。

 そうしてしばらくの間むーむーと唸っていたが、やがてツチノコが入っている袋を持つと目を輝かせた。


「じゃあちゅーしてくれたら逃がしてあげます!」

「よし渡しなさい、私が捨ててくるから」

「やー!」


 その言葉が聞こえた瞬間に拳を振るうと、頭の上に居たミツキが驚いたように揺れた。願うは唯一つ、食べたくない。

 しかし、不完全な体勢から放たれた拳は目標にたどり着くことなく空を切る。


「あら、逃げなければ一瞬で終わったのに・・・残念ね」

「エウナさんの拳に愛が篭っているなら正面から受け止めましょう!」

「哀なら十分に篭ってるから安心しなさい」

「文字にしないとわからない違いを言わないでください!」

「何言ってるかわかんないわね!」


 拳に加えて蹴りを混ぜるも、彼女に当たる気配は無い。まぁ、当てる気もないのだから当然なのだけれど。もちろん、家具を壊さないように細心の注意を払うことは忘れない。


「わわっ!何してるんですか!」


 途中でアリスが帰ってくるも気にせず、当たらない攻撃を加えながら楓を何も無い角へと追い詰めていく。


「さぁ、追い詰めたわよ?」

「エウナさん!ケンカは良くないです!」

「アリス・・・コレはしないといけないことなのよ」


 あなたもツチノコなんてゲテモノ食べたくないでしょう?

 必死に止めようとするアリスへと対応しながらも、視線は楓から外さない。


「ふふ・・・追い詰めた?冗談でしょう?」


 追い詰められているにも関わらず楓は不敵な笑みを浮かべてそう言うと、そのまま両手を精一杯此方へと向けてくる。


「さぁ!観念してボクにちゅーするのです!」

「・・・エウナさん、手伝います」

「・・・見えてる所には傷を残さないようにね」

「わかりました」

「ちょ、ちょっとまってください!二人掛りは無理ですって!」


 夜も深まる家の中、楓の言葉が空しく響いた。



□ □ □ □



「ところでコレどうするの?」


 悪も滅して一段落付いたところで、山狩りの成果をどうするかアリスへと聞くと、彼女はんーと宙を見上げた。私も釣られて上を見るけれども・・・天井しかないわね。

 しばらくの間天井と勝負の付かないにらめっこしていると、ミツキが私の頭をぺしぺしと叩いて自己主張してくる。とりあえず頭に手をやって撫でるとふよふよとした感触が返ってきた。


「・・・ぬめぬめしてる」

「んー?」

「何でもないわ」


 気のせい・・・であって欲しいけれど、ぺしぺしが強くなった気がする。


「お鍋にしましょうか!」

「鍋って・・・誰が作るの?」


 自慢じゃないけれど私も楓も料理は全く出来ない。アリスも何かを温めたりするところは見たことあるけれど・・・出来てる物を温めるのを料理と呼ぶには少し辛いものがあるわね。


「安心してください!私が作るわけじゃないですから!」

「それじゃ誰が作るのよ」

「私に心当たりがありますから!その人のところに行きましょう」


 こうして自信満々に胸を張ったアリスに率いられて夜の街へと繰り出すことに。悲しいことに、張っている胸は見事なまでの平らっぷりなのだけれど。

 今がどのくらいの時間なのかはわからないけれど、夜中の街はとても静かで、私の背中からしている楓の寝息が微かに聞こえてくる。

 上を見上げれば半分に割れた月が光輝いているし、少し遠くを見れば建設途中となっている塔が見える。

 私の視界の中で、ゆっくりと塔から誰かが落ちていくのが視える。

 その幻想を見た瞬間、ズキッとした痛みに襲われて頭を抑えてしまう。


「どうかしましたか?」


 片手に籠を持っているアリスが不思議そうに覗き込んでくるけれども、返事をする余裕が出ない。

 私の目の前で銀色の髪が月明かりに反射する。その綺麗な髪も、赤い汚れが付いて・・・。

 微かな血の匂いが強くなった。


『・・・我が名の下に命ずる』


 しかし、突然誰かの声がしたかと思うと、急に頭痛は治まった。


「お家に戻ります?」

「大丈夫よ・・・さぁ、行きましょう」

「・・・そうですか」


 アリスに余計な心配を掛けないために笑いかけると、また夜の街を歩き始める。けれども私の足はすぐに止まる事になった。

 悲しいけれど、先頭を歩くには道がわからないのよね・・・。



□ □ □ □



 その後、とことことまるで鴨の子供の如くアリスの後ろを引っ付いて歩いていると、街外れの店へとたどり着いた。

 アリス曰く、看板も出てないその店は知る人ぞ知る高級料亭だとか何とか。見た感じでは小さい明かりが漏れているけれど、正直やってるのかやってないのかすらわからないわね。


「・・・コレ、やってるの?」

「だいじょーぶです、少し人嫌いの人がやってるからこうなってるだけですから」


 そう言うと、がらがらーと扉を開けて入っていくアリス。

 その店へと入る前に、ちょうどいい茂みへとツチノコ入りの袋を放り投げておくことも忘れない。口は開けておいたし、よほど運が悪くなければ死ぬことも無いでしょう。


「いらっしゃい・・・あら、アリスじゃない。元気してた?」

「お久しぶりです。元気してました」


 私が中へと入ると女将さんらしき人と知り合いらしく、和やかに会話をしている。一人蚊帳の外で切なく待つ私。


「最近来ないから気になってたのよ。そういえばルカは元気?」

「ルカさんは・・・そうですね、たぶん元気です」

「そ、それじゃ金が無くなったらいつでも戻って来いって言っておいて」

「はい、伝えておきますね」


 今一瞬、少しだけ暗い表情が出たような気がするのだけれど・・・気のせいかしらね?後ルカって前に聞いたことあるような?

 はてさて何時だっけ?と悩んでいる間にも話はぽんぽん進んでいって座敷へと案内された。

 落ちついた感じの部屋の中心には木で出来た大きな机があって、私達はそれぞれ思い思いの場所へと座る。ずっと私の背中で眠っている楓はコートを剥いでから適当なところで落とす。


「ここはよく来るの?」

「はい、結構馴染みなんですよー」


 女将さんの注いだお茶を飲みながら何が美味しいとかドレが美味しくないとかの話に花を咲かせていると、やがて料理がやってきた。

 お刺身やらお酒やらよくわからないものやらが私の目の前に次々と運び込まれて行く。運ばれていくたびに説明が入るのだけれど、ふんふん、はぁ、へー、と聞いていることしか出来ない。とりあえず何かの食材の名前を言ってることだけは辛うじてわかった。

 味は美味しいのも、そうでないのもあるけれど一応残さず食べる。それにしても、この小皿の料理だけでいくらになるのかしらね・・・。

 お酒も入りゆらゆらと食事が進む中、メインとなるお鍋がやってきた。

 見た目は普通で野菜がぐつぐつと煮えている。でも中に肉類が入っているような気がするのだけれど・・・まさかツチノコとか入れてないわよね?


「このお肉は?」

「はい、ソレはですね」


 営業スマイルで返された肉の名前は知らなかったけれどの、逆に知らないからこそ安心できる。味も普通に美味しかった。

 楓のことだからこっそりと毒キノコとか混ぜているのかと思ったのだけれど・・・そんなことも無い様子?

 そんな私の心境を知ってか否か、申し訳無さそうに言い始める女将さん。


「キノコなのですが、全て毒キノコだったので勝手ながら処分させていただきました」

「いえ、気にしないで」


 私は何とか微笑を維持して女将さんへと返す。

 混ぜてやがった!しかも全部!・・・通りでキノコが無いわけね。というより全部って事は私達にソレを食べさせようとしてたって事よね?・・・さてさて・・・どうしてくれようか。


「かえでさんずっとねてますねー」

「そうね・・・そろそろ起してもらえる?」

「はいー」


 私がほのかに赤い顔のアリスに頼むと、彼女はのそのそと動いて楓を揺さぶった。


「・・・おはようのちゅーが無いと起きません!」

「ちゅー?」

「・・・」


 頭が回ってないじゃない・・・。思わず頭を抱えるとアリスを楓から遠ざけ、料理についてきたカラシを集める。どける際にアリスがふわわーとか言っていたのだけれど・・・大丈夫なのしからね?色々と・・・。

 目標確認、発射まで3秒。

 静かに心の中で3秒カウントすると、何かのたまっている馬鹿へと爆弾を投下する。燃えるようなキスをあなたにプレゼント。


「んー・・・?んんんっー!?」


 爆弾は見事に目標へと着弾し、目を白黒とさせた楓が飛び起きてきた。


「大丈夫?はい、お茶」

「ありはとうごはいます」


 悶えるように耐えている彼女へとあつーいお茶を渡してあげる優しい私。


「っっっ!」


 結果、楓は涙目になりながら部屋の外へと消えていった。たぶん、癒しの水を求めて。

 その様子を冷めた目で見送っていると、視界の端でアリスがこっちに向けて口を開いているのが見えた。・・・何?


「あーん」

「・・・」


 ・・・何を求められているのかはわかるけれど、何で求められているのかがまるでわからない。さてさて・・・どう対処しようか。


「んー?」


 私が対処法に悩んでいると、不思議そうな顔をしてからまた口を開けるアリス。


「あーん」

「・・・あーん」

「えへー」


 何となく口元へと料理を運ぶと、ぱくりと食べてぺかーと笑う。そしてまた次をよこせとばかりに口を開ける。

 することもないし、しばらくの間アリスへと食べ物の輸送作業を続ける。気分は雛鳥に餌を与える親鳥。


「・・・もういいの?」

「やー」


 やがて、あーんも無くなったので聞いてみると、アリスはぺかーっと笑うと何故か私の頭をぺちんと叩いた。・・・誰か助けて。

 衝撃でずれたお面を直している間にもアリスの奇行は続く。

 彼女はのそのそと私の前まで動くと、ごろんと膝の上に頭を乗っけてきた。


「ねむー・・・」


 一言呟くと目を閉じるアリス。私は助けを求めるべくクラゲの方を見ると、そいつは目が合うや否やふよふよと飛んで私の頭の上に収まって動かなくなった。


「ちょ、ちょっと!アリス!離れなさい!」

「んー?」

「んー、じゃないから!いいから離れなさい!」

「うー・・・!」


 何とか引き剥がそうとするも、アリスは私の腰をホールドして離れようとしない。


「あったかー・・・」


 コレは拙い!かなり拙い!とにかく剥がさないと・・・もしも楓に見られたりなんかしたら。


「あ・・・」


 そこで私は気付いた。気付いてしまった。

 ぎぎぎ、と音が鳴りそうなぎこちなさで襖の方を見る。

 そこにはものすごい綺麗な笑顔を顔に貼り付けた楓が立っていた。それはもう・・・あまりにも綺麗過ぎて人形に見えるくらい。

 楓は笑顔はそのままでゆっくりと席へと着くと、黙々と食べ始めた。


「あ、あの・・・コレは・・・アリスが・・・ね?」


 たじたじになりながらも何とか現状を説明しようとがんばる私。


「いえいえ、いいんですよ?ボクのことはお気になさらず続けてください」


 す、素敵な笑顔ですね、楓さん。それはもう・・・素敵過ぎて怖いほどに。

 息が詰まるような沈黙が舞い降りた部屋の中に、アリスの寝息と鍋がぐつぐつと煮える音だけが響く。

 この状況は・・・かなり拙い・・・!

 如何にして現状をごまかし・・・もとい、打開策を考えるも移動が制限されている今、出来ることはほぼ皆無といって良い。


「あらエウナさん、お皿が空じゃないですかー。その状況じゃよそえないでしょうし、ボクがよそってあげますよ」


 ニコニコと笑顔のままでそう言うと私の皿を持っていく楓。そして返されてきた中身は・・・スープだけ。

 こ、これはどういうことなんでしょうか?楓さん?

 針のむしろのような状況の中、救世主とも呼べる女将さんがデザートのプリンを持ってきた。プリンはクリームのついてる高級そうなの。


「仲が宜しいんですね」


 ・・・救世主かと思えた女将さんは私達の現状を見ると、一言爆弾を落として去っていった。

 パキッと何かが折れた音が楓のほうから聞こえてくるけれど、怖くてそちらのほうはとても見れない。

 引き攣った笑顔を襖の外へと向けていると、食事も終わったのかかちゃかちゃとスプーンが鳴る音が聞こえてきた。

 そちらのほうをちらりと横目で見ると、無表情の楓が顔にクリームが付くのも気にせず機械的にプリンを口に運んでいる。その瞳は虚ろで光は無く、正直に言うとかなり怖い。すごく怖い。

 しかしその観察が功をなして打開策が閃いた。出来る限りの速度で脳内シミュレートをする。かなり難しいけれど・・・出来るとか出来ないとかじゃない!やるしかない!


「か、楓?」

「・・・はい、何でしょうか?」


 私が話しかけるとすぐに笑顔へと戻る楓。ただし、瞳は虚ろで光は無い。

 その顔を見た瞬間に心がくじけそうになったのだけれど、何とか勇気を振り絞って考えに考え抜いた作戦を実行に移すべく笑顔を作る。


「そ、その・・・ほっぺにクリームがついてるわよ?」

「・・・それはご丁寧にありがとうございます」

「よ、よければ私が取ってあげるからこっちにいらっしゃい」

「・・・はい?」


 ゆっくりと首を傾ける楓。・・・耐えろ、耐えるんだ私!泣くんじゃない!泣いたら全てが終わるわよ!

 全力で自身を鼓舞して笑顔を維持。

 そのまま永遠とも思える時間が過ぎ、やがてゆっくりと楓が此方へときて私の横に座る。


「・・・では、せっかくですからお願いしましょうか」

「え、ええ・・・任せて頂戴」


 ここが正念場ね・・・。

 覚悟を決めると、素早くクリームのついた楓の頬へとキスをする。そしてそのまま優しく舐め取ると、口内に上品な甘い味が広がる。


「・・・」

「と、取れたわよ・・・?」


 口を離して楓の顔色を伺おうとすると、突然視界が黒く塞がれたかと思うと、唇に柔らかいものが触れてすぐに離れた。


「か、楓・・・?」


 何も見えない中、思わず名前を呼ぶも返事は無い。そして、私は何かに後ろから抱きつかれた。


「見ないでください」


 とっさにそちらのほうを向こうとすると、楓の静止が掛かったので慌てて向くのを止める。視界の端で彼女の狐耳がぴくぴくと耳が動くのがちらりと見える。


「エウナさんはずるいですねー・・・」


 何も出来ないので黙って抱きしめられていると、後ろから楓の声がした。


「・・・ずるいです」


 呟くような声がすると、強く抱きしめられて静かになる。

 こ、コレは許されたと判断していいのかしらね・・・すごい気になるのだけれど・・・失言は絶対に避けたい。

 となければ大事なのは最初の言葉。

 さてさて・・・なんて返したら言いのかしらね?

 悩みながら窓のほうを見ると、整えられた庭が月明かりに照らされてるのが見える。


「・・・月が綺麗ね」


 ぽつりと漏れたのは、変わらないいつものやり取り。


「・・・ホントですね」


 返答が来た後、抱きつく力が少し優しくなったような気がした。


「ん・・・そんな・・・ダメですよー・・・」

「・・・」


 下のほうでアリスの声がしたかと思うと、楓の手がゆっくりと私の首に掛かる。


「ま、待って楓!は、話を・・・」

「いいですよー?何でも言ってください」


 そ、そこ首だから!そこ絞めたら声が出ないから!色々と出なくなっちゃうから!


「あれ?何も言わないんですか?遠慮しなくてもいいのに・・・」


 ぎぎぎ、っと楓の力が入っていく。ちょ・・・それ以上は・・・まず・・・っ!

 やがて骨の折れる音が聞こえてくるのと同時に視界が回り、私のは意識は無くなった。

昨日は湯豆腐今日はおでん

めぐりめぐるお鍋の季節ヾ(≧▽≦)ノシ


あ、前話から1週間で出来てますが・・・次もそうなるとは限りません


ではでは、少しでも楽しんでいただけたら幸いです

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