大切な場所
第2話です
ちなみに3話目からはそんなに早く書けない!
人物表
エウナ
吸血鬼 ヘタレの称号を獲得するのは主人公の特権ですよね!?
楓
巫女さん 話をややこしくすることに定評のあるヒロイン的立ち位置な人
ミツキ
クラゲです 少し変でもクラゲです 女の子になれるけどクラゲです
アリス・イン・ワンダーランド
魔術師 恋人は女の子 本人も女の子
「エウナさんは別の世界に行ってみたいとか思ったことありますか?」
「何?ついに成仏したくなったの?」
「いえいえ、ここまで来たらそう簡単に成仏しないですよー。あ、ソレ取ってください」
「ソレってドレよ。私は現状のままで満足かしらね…何よその顔、文句あるの?」
□ □ □ □
庭に面している大きな一枚窓から月明かりが差し込む部屋の中に、私がページをめくる音だけが静かに響く。幸い、起きたときにはすでに楓はいなかったから、この静かな時間を精一杯満喫することにしましょう。
そう決めると『不思議の国のアリス』のページをまた一枚とめくる。
それにしてもこの本、ギャグなのかジョークなのかよくわからない言い回しが多い気がする。…何か楽しみ方でもあるのかしらね?
とはいえ、今日は満月。些細なことは気にせずに海の様に広く谷の様に深い心持で気にしないことにしましょう。
そう決めてからテーブルの上にセットされていた紅茶を飲んで一息入れていると、窓から差し込む月明かりが昼間の如く明るくなり、ガラスの砕ける音が辺りに響き渡った。そして視界の端からこちら目掛けて突っ込んで来た黒く大きな影。
そのままそいつは、速度を落とすこともなく私を殴り飛ばしてきた。
とっさの判断で不完全ながら受身だけは取ろうと身体を捻らせると、私がぶつかった食器棚から食器が落ちて割れる音が何処か遠くから聞こえてくる。
肋骨が数本折れたのか少し呼吸が苦しい中、突然の突っ込んでくるや否や殴り飛ばしてきた素敵な来訪者のことを観察する。
警戒する様にこちらを見ているそいつは、同じく図太い図体に付いた太い手足、そして爪に尻尾に牙に翼と、何処かで見たことあるような形。
というより、どう見ても竜なんだけど…家の修理費は誰が払うのかしらね?
私が竜を一体売るといくらになるのか考えていると、そのでかい図体の後ろから今にも火を噴きそうな細いヘビみたいな竜が見えた。それはもう、口から少し漏れるくらいに発射数秒前。
どうやら窓ガラスを壊したのはあっちみたいね…。とはいえ、さほど広くは無い家の中、さらに後ろにあるのは台所に倒れた食器棚。アレの威力はわからないけれど、ぶち込まれたらそうそう避けれる物でもないでしょう。
ということで全速力で前へと走り、強行突破を狙うことにする。
私はでかい竜がなぎ払う様にして振った爪をかがんで避けると、すれ違い様に回転を加えた裏拳を叩き込む。
鈍い手ごたえの中、庭のほうを見れば、竜の真上から奇襲を掛けた楓がこちらに撃たれるはずだった炎弾で迎撃されているのが見える。
私はそのまま速度は落とさずに庭先まで走りこむと、吹き飛んでいる楓を捕まえながらその場から飛び去った。
□ □ □ □
遠く眼下に街の明かりが見える頃、もう大丈夫でしょうと結論付けると飛ぶ速度を落とす。変なのに絡まれた上に、飛ぶのは苦手だから余計に疲れた…。
「…大丈夫?」
「とっさに防ぎましたけど、骨が数本やられました。上に目でもあるんですかね?アレ」
「そんな奇妙な生物には見えなかったけれど…というより骨が折れてるなら、そんなに力入れないほうがいいんじゃない?」
「エウナさんへの愛のぱわーで傷も治る治るー」
「…」
お姫様抱っこの格好になっている楓に聞くと、彼女は嬉しそうに狐耳をぴくぴくと動かしながら血の香りをする身体を押し付けてきた。そして、傷が痛むのか少しだけ顔をしかめた。
傷が治るどころか深くなってる気がするのだけれど…もしも彼女が抱きつくのをやめると、こちらの手間が余計に掛かることになるので何も言わないことにする。
「夜風は…寒いですね」
「ええ、そうね」
生ぬるい風が私のドレスと楓の赤いコートを軽く揺らし、もうすぐ熱気の終わりを知らせてくる。
「ところで、これからどうする?」
「ん、んー…とりあえずほとぼりが冷めるまで街外れの森にでも行きましょうか」
「そうねー」
そう決めるとだらだらと方向を修正する。
何故襲われたのかも判らず逃げる日々。惨めね…。
「愛の逃避行ですね」
「…」
いっそ落として全てなかったことにしてしまおうか?
その考えを実行に移そうか真剣に悩んでいると、私の真横をついさっき見たことあるような炎弾が通過していった。
後ろを見ると、これまたどこかで見たような大きいのと細いのが追ってきており、竜の影から銀色の髪がちらりと見えた。
「ちょっと!まだ追ってくるの!?」
「わお、意外としつこい人なんですね」
「あんた魔法使いでしょ?何とかしなさいよ!」
「無理ですよー…向こうは本職の魔術師なんですから…」
「ん…?」
楓の言葉に少しだけ疑問が出来たが、びゅんびゅんと後ろから飛んでくる弾に意識を持ってかれて消え去った。
「エウナさんこそ何か出来ないんですか!真後ろから直撃コース2発!」
「地に足付かないと安定した暮らしは遅れないのよ!」
「幸せ家族計画ですね!フェイント1発進路そのまま!」
「私は子供は嫌いよ!」
「嫌よ嫌よも好きのうちですか!エウナさんが望むなら私…!3発下に回避!」
「突き落とすわよ!」
二人とも何を言っているかもわからない中、避けたと思った炎弾の1つが私の真上で爆発した。
「しまっ…」
抵抗する間もなく、私たちは爆発に巻き込まれ落ちていく。
□ □ □ □
目を覚ますと方足に激痛が走った。見ると変な方向に曲がっており、どう見ても折れてる。
とりあえずコレでは歩けないので、折れてる足を両腕で持ち力と気合を込める。
「っ!」
とりあえずまっすぐに戻した足がくっつくまで動きようが無いので辺りを見渡すと、どうやら森の中に落ちたらしい。どうやら気を失った時間は長くない様子。
高さの割に傷が浅いのは木々がクッションにでもなったのか。
そこでやけに静かなことに気付き、慌てて楓の姿を探すが見える範囲にはいない。
まだ鈍痛がする足で辺りを探すと、そこには地面に倒れている楓が居た。
「楓!?」
「エウナさん…?えへへ…ちょっと…歩けそうに…ないです」
浅い呼吸を繰り返しながらも微笑む楓の手は変な方向に曲がっており、胸に刺さった枝が赤黒いコートの中で巫女服を赤く染めているのが見える。
とにかく夜の森は拙い。安全なところに行かないと何が出るかわかったものじゃない。
「エウナさん…近くに教会があるので…そこまで運んで行って…くれませんか?」
「ええ…」
なるべく衝撃を与えないようにしながら、彼女が指し示す方向へと歩いていくと、古ぼけた教会が見えた。
扉を開けると古ぼけた机やイスは端のほうに積まれており、教壇らしき物と大きな十字架が見える。
それにしても…私が教会に逃げ込む日が来るとは…ね。
「付いたわよ」
ちょうど中央辺りに楓を下ろすと、彼女は閉じている目を開けて微笑んだ。
「枝…抜いてくれます?」
「…いいの?」
「そっちのほうが…治りが遅くなるじゃないですか…」
「…」
彼女の言うとおりにずぶずぶと枝を抜くと、そこから赤黒い血が溢れ出てくる。
「ありがとう…ございます…」
彼女がそう言った時、教会内に微かな風が吹いた。扉は閉まっておりここで風が吹くはずは無いのに。
「コレは…?」
「ばれた…見たいですね…ミツ…キ…!」
楓がそう言うと、ふよふよと何処からかクラゲが飛んできた。
クラゲは2、3ほど触手を動かして楓の身体を触った後、ゆっくりと上へと飛んでいった。
「まったく…」
楓はクラゲの方も見ずにゆっくりと立ち上がるとペンダントを振って短刀にし、呟いた。
「世知辛い世の中です」
突如ドアが吹き飛んで炎弾が迫ってくるが、炎弾は私たちに当たる前に見えない壁の様な物にぶつかり爆発した。
そして私はその爆風から突っ込んできた大きな影を殴り飛ばす。後ろでは炎弾が何度も爆発する音が響く中、追撃を入れるために駆け出す。
竜が繰り出してきた尻尾を片手で受け止めながら、その腹に拳を叩きこむ。尻尾を受け止めた骨がミシリ、と鳴る音と何かを砕く手ごたえ。
「エウナ…さん…!」
楓の声に反応して後ろへと下がるが、炎弾はすぐ近くまで迫ってきており爆発した。何とか直撃は逃れるも吹き飛ばされる。
すぐさま近づいてきた竜の腕を受け取めると、そのままお互いに動けなくなった。
とはいえ…馬鹿力を負傷した腕で受け止め続けるのは…結構辛いわね。
頼みの綱である楓の方では未だに炎弾が止んでおらず、見るからにふらふらとし始めて今にも倒れそうな様子。
すると突如弾は止み、ドアから銀色の髪が走り込んできた。
見た目はワンピースを着た少女といった所だけれど、手に杖を持って銀色の髪をなびかせているその顔は何処かで見たことあるような…。
「くっ…!」
少し気を抜いた瞬間に目の前の竜の爪が迫ってきたので力を入れ直す。
銀色の少女は楓まで一直線に走りぬくと、振り下ろされる短刀を下から杖で弾いてそのまま叩き付けた。
「楓!」
カランカランと弾かれた短刀が鳴る中、私の横目では細い竜がこちらへと炎を吐こうとしている様子が見える。
しかし、どうせ貰うなら相打ちまで持っていこうと思った瞬間、目の前の竜がゆっくりと崩れ落ちるのが見えた。
その後ろからは刀を突き刺している水色の髪の少女が見える。
『ロック…我が名の下に命ずる』
巨体に潰れそうになっている間、小さく呟くような声が聞こえてきたような気がしたかと思うと、細い竜は結界の中で自爆していた。
そして、倒れていた楓は銀色の少女に馬乗りになってその細い首を絞めており、このままだと確実に殺すでしょう。
「楓!ダメ!」
私は叫ぶと倒れこんでくる巨体をどけて彼女へと駆け寄り、その冷たい身体を抱きしめる。
「もう大丈夫だから…だから帰って来なさい…」
荒い呼吸を繰り返している彼女を抱きしめて何度か囁くと、呼吸が少しずつ穏やかになって崩れ落ちる様にして眠りについた。
「まだ生きてる?」
楓をゆっくりと寝かせてから、動かない少女へと問いかける。
少女は銀色の長い髪に薄い藍色のワンピースを着ていて、こうしてみると探せばいそうな不思議な子にしか見えない。
「…殺さないんですね」
「その話は追々するとして…今は火を付けましょうか」
どうやら生きていることを確認すると立ち上がる。
「…寒いでしょう?」
□ □ □ □
ぱちぱちと廃材が燃える音が響く。火はミツキが付けた。決して摩擦で起そうとか花火で付けようとかの挑戦はしていない。
そしてミツキは火をつけた後またクラゲの姿になると、ふよふよとどこかに飛んでいった。
「…それで、どうして生かしたんですか?」
しばらくの間、燃えている焚き火を見つめていると少女が言った。
「まるで生きてることが不満みたいな言い方ね」
「もしも晩御飯になるのが理由なら、生きてるのは嫌ですから」
「ふーん…」
そういう捉え方もあるのか。というより、そういう捉え方が出来る様な経験をしたことあるのね、この子。
「まぁ、食べるつもりは無いわよ。生かしたのはただ答えて欲しい事があるから」
「答えたら別世界までの片道切符の発行ですか?」
「それは答え次第ね」
すると、彼女はくすくすと笑った。
「いいですねー。
私が答えれることで良ければ答えましょう」
「そう、それじゃ早速…何で私たちを襲ったの?」
「…」
「…」
私がそう聞くと、彼女は何処か上の方を見たりして落ち着かなくなった。
「…えーと」
「どうかした?」
ものすごく微妙な空気が流れる中、焚き火のぱちぱちとした音だけが響く。
「えーと…ですね…その…」
視線を合わせようとせずにちらちらとこちらを見てどうも忙しない。その様子はまるで怒られそうな子供の様。
「何よ、怒らないから言ってみなさい」
「その…あの家が大切な人の家でして…それで…勝手に住まれてて少し頭に血が上ったと言いますか…その…ごめんなさい」
そしておどおどと上目遣いでこちらを見てくる。
…つまり、そういうことね。
私がゆらりと立ち上がると、何を思ったのか彼女はビクッと体を震わせた。
しかしそのまま楓の元まで行き、ゆっくりとその体を持ち上げる。
「ねぇ楓?」
「…」
眠った振りを続ける楓に優しく語り掛ける。
「あそこ見つけたのあなただったわよね…知ってたの?」
「…」
「何も答えないって事は勝手に解釈していいってことよね…?」
「…シ、シラナイヨ」
「本当に?」
「…ホ、ホントダヨ」
「…」
「…」
ゆっくりと楓の足を焚き火に近づける。
「熱!熱いです!燃えちゃう!こげちゃいます!」
「知ってたの?」
「ダメ!ミディアムになっちゃいます!」
「答えて欲しいなー?」
「答えます!答えますから!」
楓を降ろすと、ばたばたと靴を脱いで素足になった。
「…怒らない?」
「怒る…でも言わないともっと怒る」
「…し、知ってました」
「そう…」
私は静かに呟いて彼女の体を抱えると、そのまま投げ飛ばす。
「知ってたのなら最初から言いなさいよ!」
「あーれー」
ゆっくりと地面に落ちてからわざとらしくぴくぴくと動く楓を尻目に、少女へと向き合う。
「知らないこととはいえ、悪い事したわね」
「…怒らないんですか?」
「結果として誰も死んでないんだし、別にいいんじゃない?」
私がそういって笑うと、彼女は少しだけ悲しそうな顔をした。
「…お人好しなんですね」
「ええ、昔言われた…わ?」
『エウナさんはお人好しですねー…』
突然誰かの声が聞こえたかと思うと、軽い頭痛に襲われ思わず頭を抑える。
誰…だっけ?
「どうかしましたか?」
私の目の前で銀髪の少女が首をかしげている。
「いえ…ねぇ、私たちって何処か出会ったことある?」
「会ったこと…ですか?」
んー、と考えている彼女を見ている間も頭痛は収まらない。
「たぶん無いと思いますよ?」
「…そう」
それじゃ、あの声は…何?
「エウナさん…」
声がする方を見ると楓が真剣そうな顔をしている。
「…ボクがこっそり混ぜたクマさんパンツ、履いたならちゃんと見せてくれないとダメじゃないですか!」
夜の教会に打撃音が響き渡った。
「…」
「あ、あのー…?」
「…何?」
「ひっ!」
彼女を横目で見ると、怯える小動物みたいな顔をされて少しへこんだ。
「も、もしよろしければ…家に来ませんか?」
「…いいの?」
「はい、私的にはあの家にさえ居て貰わなければ構いませんから…それに」
彼女はそこで切ると床で沈黙している楓のほうを見つめる。
「聞きたい事も…ありますから…」
その時の彼女は、何故だかとても幻想的に見える。
…そういえば、名前なんて言うのかしらね?
□ □ □ □
「ねぇ楓?」
「んー?」
「私たちの他に誰か一緒に暮らしてなかった?」
「んー…」
引越しのための荷造りから顔を少しだけ顔を上げて楓の方を見ると、彼女は少しだけ目を伏せた気がしたけど、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「きっと勘違いですよ」
「…そう」
その後、二人とも会話もなく黙々と荷造りをする中で、彼女が目を伏せた時に見せた表情が少しだけ気になった。
バトル回っぽいのだよ!
関係ないですが後書きに書くことが思いつかない!
ということで少しでも楽しんでいただけたら幸いです