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物語は静かに幕を下りる

終わった!間に合った!

ということで最終回です


土下座aaを用意してたんですが…出さなくて済みましたね!


人物表はありません

というか生きてる人たち全員出ます

 あなたがこの世界で一人にならない様に、寂しがることがない様に。

 ほんの一かけらでもいいから。

 幸せな日常を…あなたと一緒に…。



□ □ □ □ 



 病室で一人、アリスが窓から月を見上げている。本来は真ん丸なお月様は、半身を無くしていても光輝いている。

 アリスは暫く無言で見つめていたのだが、何かに気づいたようにピクリと動くと、自身よりも大きな竜が寄り添うように後ろへと降り立った。


「何か用ですか?」


 アリスが声を掛けるのと同時にドアが開けられると、音も無く竜が崩れ落ちた。竜の頭が光の粒子を出しながら宙へと舞う。竜が倒れた後には、血まみれで短刀を持っている楓が立っていた。


「ノック代わりにしては随分物騒ですね。お面…ということはその血はエウナさんのですか?」

「エウナさんが復活する前にお話したかったものでして…なんならアリスさんも頭を飛ばしてみます?」

「遠慮します。私は普通に死にますから」

「またまたー、ご冗談をー」


 くすりと笑う楓とは対照的に、アリスは無表情を貫き通している。

 楓はふらふらと歩いていくと、窓ガラスを開けた。さーっとカーテンが揺れて、風と月明かりが中へと入る。


「それで、お話ってなんですか?」

「んー…そうですね。予定通りなら、ルカさんが会いに来ますよ。迎えにでも行ってあげたらどうですか?」

「…どういうことですか?」

「あれ?嬉しくないんですか?まぁいいですけど、次の満月の夜。ルカさんが始めて出会った協会に現れます。ボクが言いたいのはそれだけです」

「その情報を…私に信じろと?」

「信じる信じないはお任せします。けれど、信じなかった結果どうなってもボクは知りません」


 そう告げると楓は窓枠に足をかける。


「待ってください」

「…」


 ピクリと狐耳が動いて、楓は振り返る。


「目的は…なんですか?」

「そんなの簡単じゃないですか」


 楓はにっこり微笑むとアリスを見つめた。


「私はあの人が笑っていられる。それだけが目的です。だから…あなたには邪魔してもらいたくないんですよ。ではでは、他に用もなさそうなのでコレで」

「あ、窓は閉め…」

「嫌です」


 最後にくすりと笑うと、楓の姿が消えた。


「…どうしてココの人たちは皆自分勝手なんでしょうね?」


 アリスの呟きと同時に、開いた窓から風が吹き込んでくる。



□ □ □ □



 遠くで『たこ焼き』という不可解な文字が見えた。その隣では赤くて触手のあるアレがウィンクしているイラスト。それにしても…たこ焼きって何?もしかしてアレを丸ごと焼いた奴なの?ハハッまさかー?

 気になったので、近づくと屋台を覗き込んでみる。黒い鉄板の型らしき中では、狐色した丸い何かがくるくると回り続けていた。見た感じだと、赤くてキモイアレの気配は無いね。となると、たい焼きみたいに見た目が似てるだけ?でも、アレには似てない気がする…。

 私が熱心に見つめていると、暇そうな店主がやる気の無い声で「いらっしゃい」と牽制を入れてきた。目の前の何かに気を取られていて不覚にも先手を打たれたけれど、冷静に微笑んで対処する。

 さてどうしよう…聞くべきか、聞かぬべきか。

 もしもココで聞いて、たこ焼きなる何かの正体がわかったとする。しかしそうなると、知的欲求は満たされるけど、買うか買わないかの二択を迫られることになり、しかもこちらには情報を聞いたという負い目があり、知らないなら食べて見ればいいんじゃない?という勧めから買わざるを得ない状況になるのは予想できる。ということは…。

 結論を出すと、微笑みを維持しながらそそくさとその場を離れる。触らぬ神にたたりなし。

 しかしたこ焼きとか言う奇妙な食べ物のせいで、本来の目的がどこか吹っ飛んでいたのは反省点ね。あ…ラムネ売ってる。けど…アレを見失うとかあるのかねぇ?

 きんきんに冷えたラムネで喉を潤しながら、人ごみへと視線を投げる。皆が浴衣や着物といった出で立ちでお祭り雰囲気を醸し出している中、一人だけ明らかに浮いている存在が見える。

 そいつは夏の蒸し暑い夜中だというのに赤いコートをしっかり着込んでいて、頭には狐のお面。両手に持ったべっこう飴とりんご飴を交互に舐めながら人の流れを綺麗に捌いている。そいつの視線の先では浴衣姿のちっこい子供が目を輝かせて、あっちへふらふら、こっちへふらふら。かと思うと戻ってきてアレがどーとかコレがどーとか語りかける。けれど、そいつは人込みと同じ様に全てをスルーしてまた飴をぺろり。

 ああ…あの光景どっかで見た気がする…。

 今頃はユメもあのちっこい子みたいに祭りを楽しんでいるのかと思うと、ストーキング紛いのことをしている自分の境遇を呪いたくなる。でも私がユメの子守をした場合、アレと全く同じ光景になるのか…それはちと嫌ね。

 私だって出来ることなら、こんな赤いコートを着ていたくない!目立つし、暑いし…あ、ラムネの中身無くなった…でも脱いだら脱いだでナイフが隠せないじゃない!丸腰で歩くくらいなら周りの奇妙な視線にも耐えてみせよう!アレ?その理屈だとあいつも武器を携帯してるってことかな?まさかファッションで着込んでいるわけじゃないでしょうね。あの馬鹿じゃないんだし。


「あ、ラムネもう一本もらえない?」


 適当な店で、適当に見繕ったラムネのビンを手に追跡を再開する。

 それにしても、ユメの子守と今の状況…どっちがいいかと月に問いかけてみたら、半月のそいつは笑みを雲の中に隠しやがった。都合が悪いと身を隠せる奴はいいなぁ…。

 今宵はお祭り無礼講。

 なのに私は名前も知らない魔法使いの追跡係…夢も希望も無いわね。

 この追跡が無事終わりを告げることを願いたいわ、ホントに。

 仰いだ視線を戻すと、占いという不吉な2文字が見えた。あそこで占ってもらったら、あの子と同じ様に今日のお祭りで何かが起きるとか出るかね?占わないけど。たまには実家を信じますとも。あそこで信じれるのは占いの結果くらいだし。

 ということでどこかの誰かさんを見守り続ける。今この瞬間にアレが通り魔なんかに襲われて、ささやかなその命を終えてくれたら、私は大手を振ってその通り魔を殺しに掛かるんだけど…望み薄ね。

 私の願いとは裏腹に、魔法使いは射的屋で一番大きな人形を撃ち落としては連れのちびっ子にあげていた。我が店舗一番の目玉が一発で落とされたからか、店主の顔が少し引きつっていた。店主とは対照的に、彼女が次の獲物へと狙いを定めて様を道行く人が面白そうに眺めている。はぁ…あの店も災難だねぇ…私には全く関係ないけど。

 …アレ?


「ねぇ、持ちきれなくなったから何か容器くれない?」

「…」


 返事もしない無愛想な店主から容器を貰うと、戯れに掬った水風船の群れを移す。しかし顔色がよくないけど、どこか調子でも悪いのかねぇ?そういや…このプールこんなに広かったっけ?

 涙声を聞きながらプールにあった水風船の過半数を素直に戻すと、青色の奴を1つだけ貰ってぱしゃぱしゃしながら歩いていく。まだ取れたのに…あの店主、最後には土下座までして阻止しやがって…。まぁ別に店主に恨みがあるわけじゃないし、土下座までされたら素直に引くのが大人というもの。

 べっこう飴は噛み砕いたのか、新しくヒマワリの飴細工を手にして、魔法使いは退屈そうに歩いていく。隣では自身の上半身ほどの大きさの猫の人形を抱えた少女が、嬉しさを抑えきれない様に忍び笑いをしている。ああ…平和ねぇ…。

 あの子を見てたらアリスを思い出してきた。夏祭り、一緒に行きたかったなぁ…。

 それにしても…今宵はお祭り無礼講。

 長かった物語の終点にしては…ちょっとばかし平和すぎる。



□ □ □ □



「毎晩ご苦労様です」


 アリスが居る病室のドアを開けると、こっちが何を言う前に声を掛けられた。相変わらず、寝てる分には怪我人なのかそうでないのか区別がつかないわね。


「元気そうで何より、それじゃコレで…」

「まぁまぁそう焦らないで、こちらに来てくださいな。お話がありますから」

「…話?」


 のんびり話を聞いていられる心境じゃないけど…素直に聞くために部屋の中へと入る。アレから数日。今日も楓は見つからない。


「悪いけど…忙しいから話なら後にしてくれない?」

「わかってますよ、楓さんを探すんですよね?」

「解ってるならっ!」


 余裕がある様に微笑まれて頭に血が上る。解ってるのに…私を呼んだの…?


「焦らないでください、話はまだ始まってません」


 諭される様なトーンで話されると少しだけ冷静になった。今ココでアリスにイライラをぶつけても、どうしようもない。


「…解ってるなら、早くしてくれない?」

「楓さんの場所…知りたいですか?」


 え…?今なんて…?


「し、知ってるの!?」


 思わずアリスへと詰め寄ると、詳しい話を聞こうとする。


「ちょ、ちょっと近いです!近いですって!」

「ああごめんなさい」


 少し離れると深呼吸を一つ。冷静になれ私。おーけい?おーけー。うん、冷静だ。


「それで楓さんの場所なんですけど…」

「早く言いなさい!」

「…」

「ぬぉぉぉぉ…」


 二度目は無いらしく、詰め寄った瞬間に何かで後頭部を強打された。言葉に出来ない痛みと共にうめき声が漏れる。


「冷静になりましたか?」

「…はい」


 めっ!と言われたので素直におとなしくしている。


「教えてあげても良いですけど、交換条件がひとつあります」

「…何?」

「私を…ある場所に連れてってほしいんです。それが条件です」

「それはいいけど…いつから?」


 アリスはにっこりと笑うと、告げた。


「勿論、今からです」



□ □ □ □



 メリーさんたちに連絡をして合流場所へと来てみれば、猫の子一匹とて居なかった。代わりにちらりと魔法使いが入った協会へと視線を投げても、うんともすんとも言わない。言われたら困るけど。

 かといって大してすることもないので、水風船をふにゅぅと変形させて遊ぶ。手持ち無沙汰で揉まれ続けられたそれは、ゴムが伸びて適度な柔らかさ。

 …ふむ。

 ふと、アリスのアレはどのくらいのやわっこさだったかと気になった。記憶に指名手配を出して脳内を巡らせても、何だか鼻血が出そうになっていたという情報しか返ってこない。

 嗚呼…なんと甘く切ないあの思い出…!


「…」


 思い出したら余計に気になってきた。

 メリーさんたちは?来ない?念のために辺りを見渡してみるけれど、相変わらずにゃーともわんとも聞こえない。

 ささっと体で水風船を隠すと、記憶を頼りに大きさはこのくらいだとか、柔らかさはああだとかと夢追い人となる。それにしても、大きさだけは何とか小さく出来そうだけど…やわらかさはどうだったかなぁ…。小さいから硬かったんだっけ?いやでも…見た目に反して柔らかかった気がするんだよねぇ…。

 他に比較対象が居ないので、仕方なく自身の胸を揉みながらさらに夢を追う。相手が居ないことによる哀しき自己供給。


「あの…ルカさん…?」

「あらメリーさん、もう着いたのね」


 声を掛けられたので、一瞬で笑顔を作って対応する。

 楽しそうに笑顔を振りまいているユメには私の行為に気づいている様子は無く、片手にチョコバナナ、そしてもう片手にはあのたこ焼きという、どうやって食べるつもりだったのか気になる格好でやってきた。一方、ユメとは対照的に、若干引きつった笑い方をしているメリーさんは眠り姫を抱えている関係か、何も持ってない。代わりに口から飴の棒が見えた。

 二人とも浴衣姿で、一人いつもと変わらない格好をしている私が少し損した気分になる。


「ユメ…その様子だと目一杯楽しんだようね」

「うん!あのね、あのですね」

「うんうん…で、メリーさん?」


 とりあえずユメに話しかけてから、メリーさんに問いかけてみる。


「は、はい…なんでしょうか?」

「うん、ねぇユメ。流れ星って知ってる?」

「んー?しってるー!」

「さっき夜空見上げてたらいくつか見つけたから、探してみたら?」

「ふむふむー」


 笑顔でユメに語りかけると視線を夜空に向けて、再びメリーさんへ。


「で、メリーさん…見た?」

「な、何のことでしょうねぇ?」

「何のことだろうねぇ?」


 変わらない笑顔で聞いてみると、余所見をしながらひゅーひゅーと吹けない口笛を吹いた。そうかー、わからないんだぁ。


「…っ!」


 笑顔は保ったまま、不意打ちでナイフを振りぬく。けれど気配を察せられたのか、ナイフは空振りに終わり、メリーさんはその場から飛びのいて私から距離を取る。


「ルカー、見つからないー」

「そう?もっとよく探してみたら?」


 未だあるはずがない流れ星を探しているユメに適当な返事を返しながら、着地に走りこむと突き刺す。避けられるのは想定内だったので、体を回転させながら回し蹴りを入れて、回り込もうとしていたメリーさんを強制的に私の視界内へと入れる。


「ねぇ、メリーさん…?見たの?」

「み、見てないですよ…?」


 迂闊に動かれることが無いようナイフを突きつけながら、後ろ手にもう片手を回してゆっくりと抜く。そうですかー、見てないんですかー。


「もう!見つからないじゃないのですか!」

「あなたの探し方が悪いだけじゃないの?」

「そんなことないもん!」

「まぁまぁ、流れ星は一瞬で流れちゃうんですから、見つからなくても仕方ないですよー」


 探すのに飽きたのか、夜空を見上げていたユメがこちらに向いたので、ナイフを仕舞って対処する。転がっていたメリーさんもすぐに起き上がっていて、ユメの頭を撫でていた。

 命拾いしましたね…。

 心の中でポツリと呟くと、メリーさんの体がびくっと震えた。

 まあ…今は置いておくか。


「魔法使いはあの教会の中よ。ずっと見てたから動いてないはず」


 心を切り替えると話を進める。夜は長いようで短いのだから、いつまでも同じことに囚われていられない。


「ずっと見て…?あ、そうですね。見てたならあそこに居るはずですねー」

「んー?」


 何か言いたそうにしていたメリーさんを笑顔で黙らせると、三人で協会へと歩いていく。ぱっと見た感じだと罠の類は見えない。見えたら罠にならないとも思うけれど。

 壊れて開けっ放しになっているドアから中身を覗いて見ると、正面にはいくつかの机と十字架、十字架の上にはステンドグラス。照明の類は無いけれど、月明かりを多く取り込む構造なのか、または天井に穴が空きまくってるからか、中は意外と明るい。

 メリーさんと顔を見合わせると、まず最初に私が入る。一歩を踏み出し見ても何も反応が無く、魔法使いが居るのはココじゃなく奥に見えるドアの方なんじゃないかと思った。


「こんな夜更けに何のよう?」


 教会内に静かな声が響いたので、思わずナイフに手を掛ける。けれど、辺りを見渡しても何も見えない。


「ルカ!後ろ!」


 ユメの声に反応して振り向くのと同時に、腕を掴まれると何かに投げ飛ばされた。完全に虚を付かれたので満足に受身も取れずに、机の山へと突っ込む。木製の机は私を優しく受け止めるなんてことはしてくれず、息が詰まって視界が霞んだ。

 霞む視界の中、ユメが何かを言ってこちらに来ようとしているのが見える。けれどその動きはすぐに止まった。

 ドアの影から魔法使いと大剣を持った少女が出てくる。大剣の切っ先はユメに向けられていて、迂闊な動きが出来ないように静かに睨み付けている。あの子…人形の…戦えたのか…。

 咳き込みながら身体を起こすと、魔法使いはちらりとこちらを見ただけで、メリーさんへと視線を向ける。


「で、質問に答えてもらえない?五体満足、皆で一緒にココを出たいんでしょう?」

「そうですねー。言うまでも無いとは思うんですが、あなたに頼みことがあってきました」

「頼み事ね…断るといったら?」

「内容も聞かずに断るんですか?随分と短期ですね。それとも…何か嫌な思い出でもあるんですか?」


 メリーさんがくすくすと挑発するようにして嗤うと、魔法使いの気配が鋭くなるのを感じる。…お願いだから化け物を挑発するようなことはしないでほしい。


「それとも…ここで3対1で私達と戦いますか?その腕、怪我してるんでしょう?」

「3対2よ!」


 大剣を持った少女が挑発に乗ってメリーさんへと剣を向けた。その隙を突いて、手に持っていた水風船を投げつけると走り出す。水風船は少女の手前で切られるだろうけど…水はどうかしらね?

 少女が水風船に反応して切ったのを確認してから指を鳴らす。


『遠き日の思い出をこの手に』


 水が少女の顔に掛かって目くらましをしている間に押し倒すと、首元にナイフを押し付ける。彼女の首から血が少しだけ流れた。


「形勢逆転ね。さぁどうする?この子を見捨てる?」

「ソラ…ごめんなさい」


 魔法も使わずに大人しく人質になっているということは…この子は魔法使いじゃないのかな?どういう関係?


「形勢逆転?何を言ってるの?」


 カチリと音がした。

 音のした方をちらりと見ると、銃口をこちらへと向けているのが見えた。…思わず薄く息を吐く。


「そっちの子がどれだけ早いか知らないけど、引き金を引くより早く私を殺せる?」


 ユメはというと、飛び掛るに掛かれない様子で私と銃の方を見ている。コレでこっちの優位が無くなったか…。


「それはそっちにもいえるんじゃない?私を撃ったらこの子の首から赤い花を咲くけど、そうしたら2対1で…しかも人質も居ないあなたが不利でしょ?」

「そっちのちびっ子、実戦経験が少ないよね?親しい人が撃たれたとして、きちんと私を襲える?名前を叫んで近寄るのが関の山だと思うけど?」

「…」


 …わお。

 一応反論してみたはいいけれど、正直驚いた。そこまで見抜かれてたなんて…。


「ルカ…」


 ユメの不安そうな声が聞こえてきた。ああ…ダメね。私が撃たれたら。この子は絶対に戦えない。かといってメリーさんは眠り姫を守らないといけないから、そこまで期待は出来ない…さてどうしようか。

 自力で弾を防ぐのは…無理ね。出来たらとっくにしてる。何か盾があればいいんだけど。

 盾か…目の前にあるじゃない。

 悟られない様にちらりと少女を観察する。手には未だに大剣が握られていて、視線の先は魔法使い。自分で何とかしようという気配は感じられない…。

 ということは、簡単に動かせる。幸いにも手には接近戦じゃ邪魔になるだけの大きい獲物を持ったままだし、コレを盾にしてこの場を凌ぐのが一番最善の手に思える。魔法使いが動かないことから見ても人質としての効果は期待できるし…上手くいけば血が手に入る。はっ…簡単ね。

 目を閉じると薄く息を吸う。


「ユメ!銃声がしたら真っ先に襲い掛かりなさい!」

「で、でもルカが…」

「私は大丈夫だから。それとも、私が死ぬと思うの?」


 ユメに出来る限りの激励と虚勢を飛ばすと目を閉じる。最善なんて知るか!目的のために利用はするけど、犠牲にすることは嫌だ。んなことしたらあの家と一緒じゃない。まぁ…撃たれたら十中八九死ぬかな。まさか生かすとか…そんなに甘くはないだろうし。

 目を閉じていると、ユメが覚悟を決めた気配がしたので思わず薄く笑ってしまう。

 …いい子ね。

 さぁ、私の打てる手は全部打った。後は向こうが決めるでしょう。


「はぁ…わかったわよ」

「ソラ!?」


 ため息が一つ聞こえると、カシャっと音がした。目を開けると魔法使いが両手を上げて銃から弾倉(マガジン)を外している。


「ほら、奈々を放してくれない?」

「…」


 無言で喉元に当てていたナイフを仕舞うと立ち上がる。この子、奈々って言うんだ。

 奈々はすぐに立ち上がると、魔法使いのとこまで走り寄って何かを呟いた。沈んだ顔から察するに…謝ってるのね。

 魔法使いは無表情のまま沈んだ顔の奈々をくしゃくしゃと撫でると、自分の後ろに隠した。


「それで頼み事だって?大方予想は出来てるけど話してみて。承諾するかはそれからよ」


 辺りの張り詰めた空気が一瞬で溶けたのを感じて、思わず息を吐く。遅れながら、心臓の鼓動が激しくなっているのに気づいた。もう二度としたくない…。

 そういえば…。

 和やかな雰囲気を出そうとしているのか、笑顔で近づいているメリーさんの方を眺める。

 あの人はずっと動かなかったな…。

 哀れにも行動の意図からは外れてメリーさんは奈々に警戒されてた。そりゃそうだ、あんな笑顔で来られたら私も警戒する。

 一体何処まで見抜いていたのやら…。

 見上げてみると、天井の隙間から半分に割れた月が見えた。

 まぁ、所詮は茶番かぁ…。



□ □ □ □



 夜風を切ってアリスを運ぶ。

 何か思うところがあるのか、夜空を飛んでいる間中アリスはずっと無言で、何を聞いても答えてくれなかった。

 頭上には殴りたくなるほど綺麗な満月。何だか、楓が好きそうな月ね。

 ひたすら指し示す方向へと飛んでいると、気分は宅急便か…死体運送か。

 やがて協会が見えてきて、アリスはその協会を指差した。どうもあそこが目的地みたいなので、静かに下りていく。

 ゆっくりとアリスを降ろすと、たたらを踏んで地面に立った。


「大丈夫?」

「さすがに走ったりは無理ですが…何とか平気です。それで、楓さんの場所でしたね?」


 ピッと上を指されたので釣られて見上げる。そこでは先ほどと変わらず、満月がこちらを見つめていた。…まさか月に居るとか言わないわよね?


「満月の夜、草原で待ってるらしいです」

「…」


 満月の夜に…なんだって?


「…ごめん、もう一度お願いできる?」

「はい…?ですから、満月の夜に草原で待ってるらしいです」

「…」


 満月の夜に…草原で…待ってる?『待つ』ってのはあれよね?私が知ってる『待つ』でいいのよね?つまり勝手に一人で居て、待ちましたよ!とか怒る奴じゃなくて…あの「何処何処に、何時何時待ち合わせね?」「うんわかった」で始まり、相手より早く来てしまった場合に発生する状況の…あの『待つ』よね?

 満月の夜に…ね?へぇ…そう…確かに見上げると満月があるわねぇ…?うん、どう見ても満月ね。


「…?ああそうですね。お礼がまだでしたか、送っていただいてありがとうございまひゅ!?」


 無言でアリスのほっぺを掴むと伸ばす。おお…この子も意外と伸びるわね。楓のが良いのは言うまでもないけど。


「ちょっひょ…いひゃいです…いひゃいですよー…」


 うにゅーと伸ばし続けるとばたばたと暴れ始めたので、片手で押さえ込みながらさらに伸ばす。


「ねぇアリス?今のお月様はなーに?」

「…満月でひゅ」

「そうね。私の目がおかしくなって無いみたいで何よりだったわ。ところでアリス?楓は満月の夜に待つって言ってたのよね?」


 やっと私の言いたいことが解ったのか、さーっと顔色を変える。


「…ひょ、ひょうです」

「だったら何で当日の!しかもかなり時間がたってから教えるのよ!」

「い、いひゃいでふ!いひゃいでふって!」


 気が済むまでこねくり回していると、アレ?こんな事してないでさっさと目的の場所に行ったほうがいいんじゃない?という思考が全身を駆け巡り、その拍子に楓の怒ったような笑顔が脳内で輝いて背筋が寒くなった。

 こうしてはいられない…早く行かなければ!


「…行くんですか?」

「何?悪いの?」

「悪いって訳じゃないですが…このまま行かずに居れば、何も変わらない日々に戻れますよ?」


 変わらない日常…か。


「…それでも行くわ」


 アリスに告げると強く地面を蹴り、飛び上がる。

 何も知らないままで居るのは嫌だから。

 出来る限りの速度で草原を目指すと、遠目に赤い何かが居るのに気づいた。近づけば、赤いコートに黒い髪。頭に乗っている狐耳はいいとして、狐のお面は…私のかしらね?


「遅かったですね」

「え、ええ…意地悪な魔術師に捕まっててね」

「そうですか」


 降り立ったと同時に声を掛けられたので、正直に遅れた理由を話すと、楓はくすくすと笑った。お、怒ってない?い、いやでも…この子の場合は笑ってても油断ならない。


「そんなところに立ってないで、一緒にお月様でも見ましょうよ」

「そ、そうね」


 恐る恐る楓の隣に腰を下ろすと、ぎゅーっと抱きついてきた。一瞬びくっと身体を引いたのは悟られないでいてほしい。


「…エウナさんは暖かいなー」


 あ…ヤバイすごいやわっこい。私の意志は関係なく表情筋がふやけて来て力がはいらない。抱き返すのがベストなのか、それともこのままのされるがままの状態を楽しむべきかという二択に悩んでいると、ぽふんと膝の上に頭を乗せられた。ぽんっと手を乗っけると、狐耳がぽふぽふと揺れる。


「エウナさん…月が綺麗ですよ」

「…ええ、そうね」


 私越しに月を見上げる彼女の顔は安らいでいるように見えて、このままでもいいかと思えた。


「お祭り…覚えてますか?」

「ん…」


 お祭り…?楓と行った事は無いような…?


「…その様子だと忘れてるみたいですね。このお面を買ってもらった日のことですよ」


 お面を撫でる楓の手を見つめていると、記憶が蘇って来た。確かあの時も倒れたのよね、この子。祭り毎に倒れる運命なのかしら?


「今思い出したわ。アレから随分経つのね…」

「そうですねー。そういえばあの時、夜桜を見る約束もしましたよね」

「結局、今年も見れなかったわね…まぁ来年があるか」

「…うむうむ」


 楓はそう頷くと私のお腹に頭を押し付けてくる。その様子が少しだけさびしそうだったのは、気のせいか…。


「今年のお祭り…一緒に行けなくてごめんなさい」

「別にいいのよ」

「また今度…一緒に行きたいですね」

「…」


 返事の代わりにさらさらと髪をなでると「んっ…」と声が漏れてきた。こんな穏やかな時間が、ずっと続けばいいのに。


「ねぇ、エウナさん?」

「んー…?」


 けれど、その時間を破ったのは楓だった。


「あなたが見ているのは、記憶の中のボクですか?それとも…今ココにいる私ですか?」

「…どういうこと?」


 思わず聞き返すと、楓は私から離れて二度三度と回った。回転を止めると、寂しそうに笑う。


「エウナさんは私に、ボクという面影を求めていて…私はそれに応えているだけかも知れないということです」

「…そんな…こと…は」


 即答…できなかった。

 それを答えと取ったのか、楓はとんっと一歩後ろに歩く。ほんの数歩の距離のはずなのに、彼女との距離がとても遠く感じられる。


「エウナさんは…優しいんですね…」


 哀しそうな目をした彼女はそのまま月を見上げる。月明かりに照られた姿はとても綺麗で儚くて…そのまま居なくなってしまうんじゃ無いかと思った。


「っ!?」


 その思いに耐え切れなくなって彼女の元に駆け寄ると、小さな身体を強く抱きしめる。抱きしめている間は、急に居なくなることはないと思ったから。


「あなたが何をいいたいのか私にはわからないけれど…でも、私が好きなのはあなたよ。他の誰でもない…今私が抱きしめているあなたよ」

「…エウナさん」


 最初の間は目を丸くしていた楓はすぐに笑うと、ぎゅっと抱き返してくれた。そして見つめ合うと、優しくキスをする。

 触れ合うだけの簡単なキスが終わると、少し潤んだ目で楓は私を見上げてくる。


「エウナさんはやっぱり優しいですね…。コレで…やっと私も決心がつきました」


 微笑みながら楓はペンダントを握り締める。


「ばいばい、エウナさん」

「えっ?」


 楓がそういうのと同時に、私の足元から巨大な魔方陣が浮かび上がってくる。



□ □ □ □



 すやすやと寝息が聞こえる。

 隣ではユメがあどけない顔で眠っていて、明日も変わらない日が続くことを信じているみたい。

 窓から空を見上げれば、満月の夜。長かった物語が…終わる夜。

 ユメが眠っているのを確認してから静かに部屋を出る。

 今頃メリーさんは眠り姫の近くで目覚めを待っているんだろうし、魔法使いは依頼をこなす為に聖堂で何かをしているんでしょう。

 静かに廊下を歩いて聖堂を目指す。

 ふと、後ろでカタリと音がした。

 振り向くとユメが眠そうに目をこすりながらこちらへと近づいてくる。

 …はぁ、やっぱりあなたなのね。


「ごめんね、起こしちゃった?」

「ルカ…どこかいくの?」

「…」

「素敵な夜だから、ちょっと散歩をね」

「そのまま…帰ってこないの?」

「…」


 とりあえず誤魔化せるか試してみたけれど、いきなり本質か…どうすっかな…。


「楓もね…夜中に一人で出かけたの。そして…帰ってこなかった」

「ユメ…」

「ねぇ…ルカはちゃんと帰ってくるのですよね…?勝手に居なくなったり…しないですよね?」


 嘘をつくか…少し悩んだ。


「心配しないで、私はちゃんと帰ってくるわよ」

「…ホント?」

「ええ、ホントに」


 優しくユメを抱きしめると頭をなでる。


「だから今は寝ましょう、ね?」

「やくそく」

「ん…?」

「やくそく!」


 突然腕を振り払われて少し驚く。約束…ねぇ?


「ルカは…約束を守るのですよね?だから…やくそく…」

「…わかったわよ」


 ユメと視線を合わせてから指切りげんまんをすると、ぎゅーっと抱きついてきた。


「約束…したのですよ」


 抱きついたままのユメをベットまで運ぶと、眠るまでぽんぽんと体を叩く。暫くすると、すやすやとした寝息が聞こえてくる。

 最後に頭を撫でてから立ち上がると部屋を出る。ドアを閉める直前、堪えられなかったような嗚咽の声が聞こえてきた。


「約束…か…」


 さっきよりは早足で廊下を歩きながら、先ほどユメのと絡めた小指を見つめて呟く。


「困ったわね…」


 出来ない約束はしないつもりだったのに。

 聖堂に着くと、魔法使いが一人だけ居た。


「あら、別れの挨拶はいいの?」

「辛気臭いのは苦手でね。すぐに始めてくれる?」

「ふーん…前にも言ったけど、身体ごととなると簡単には戻れないわよ?本当にいいのね?」

「ええ…お願い」


 月を見上げて、心の中で魔法の言葉を呟く。

 さようなら、ユメ。


『我が名の元に命ずる』


 呪文が聞こえると、視界が白く塗りつぶされた。



□ □ □ □



 魔方陣は私の足元から少しずつ大きさを広げていき、足元から順に段々と光の粒子が出てきて感覚が薄くなっていく。


「ばいばい…って…なんで…?」

「ほとんどは思い出せたんですよね?だったら解ると思いますが、エウナさんには帰る世界があるんですよ…それだけです」

「そんなの勝手すぎるじゃない!」


 私の意志など関係無く、粒子は足元からゆっくりと昇ってくる。


「ねぇ…楓。今更あなたの居ない世界に帰ってどうしろというの?だって…あなたの居ない世界なんて…」


 けれど楓は哀しそうな瞳を私に向けたまま頭を振る。


「ダメですよ。エウナさんを待ってる人も居るんですから…そんなこと言っちゃ」


 そんな…そんなの…勝手すぎるじゃない…。せっかくまた会えたのに…また…離れるというの?


「それなら…楓も一緒に…」

「エウナさん…無理なんです」

「何が…無理なのよ…」


 視界が滲む。泣いている場合じゃないのに、せっかく日常が取り戻せたと思ったのに…。


「ねぇエウナさん…私は…もう…」

「聞きたくない!」

「エウナさん…」


 聞きたくない!諦めた顔でそんなことを言って…なんであなたはいつもそう勝手なのよ!


「だって…お祭り…一緒に行こうって…約束…したじゃない…」

「…ごめんなさい」


 何で…謝るのよ…。


「夜桜だって…また見ようって…」

「…ごめんね」


 そんな…そんな言葉が聞きたいわけじゃ…ないのに…。


「もっと他に…あなたとしたいことが…たくさんあったのに…」

「…ごめん…ね」


 何で…そんな泣きそうな顔して謝るのよ…。


「ねぇ?何とかならないの…?私に出来ることなら何でもするから…ずっと一緒に…」

「ダメなんです…」

「何が…何がダメなのよ!」

「ねぇエウナさん…」


 泣きそうなのに、楓は笑顔を崩さない。


「私…エウナさんと一緒に居れて楽しかった」

「やめてよ…」

「エウナさんにとってはほんの少しの時間かも知れないですけど…それでも救われましたし、幸せでしたよ」

「やめて…」

「ねぇ、エウナさん…?」

「何で…そんな別れ話みたいな言い方をするの…?」

「もう…お別れなんです…」

「そんな…勝手すぎる…だって…私は…」


 したいことも…伝えたいことも…まだたくさんあるのに…。


「約束…したじゃない…私が笑っていられるなら…あなたも諦めないって…なのに…」

「そう…ですね…」


 もうどれだけ声を出しても、あなたには届かないの?。

 そんな…そんな馬鹿な事が…あるか。

 決意をすると一歩踏み出すと、深い水の中で歩き出したみたいな抵抗を感じた。まるで、私があの子の元に行くのを邪魔するかのような…強い抵抗。

 踏み出した私の足は地面に着くと、光の粒子を振りまいて感覚が無くなった。確かに形はあるのに動かすことが出来なくて、上手くバランスが保てずに地面へと倒れる。


「エウナさん…無理です」

「何が…無理なのよ…」


 地面に這い蹲ったまま、腕だけを動かして彼女の元へと近づく。ずりずりと身体を引きずる度に、地面に接している部分から粒子が漏れて感覚が消えていく。


「やめて…ください…無理しすぎると身体が…」

「嫌よ…」

「どう…して…」

「私は…まだあなたを抱きしめ足りないし…したいことも…たくさんあるのよ…」


 片腕が感じなくなったけれど気にしない。もう片方あれば何とか進める。

 段々と魔方陣の中心から遠ざかっていくと、抵抗が薄くなっていき、身体を動かすのも少しだけ楽になってきた。

 楓は逃げずにあの場所に居る。まるで泣いている様な彼女を何とかしてあげたくて、ずりずりと身体を引きずり続ける。

 けれど、やっと距離が縮まったというところで、全身の感覚がなくなり少しも動けなくなった。

 なんで…あと少しなのに…あと少しで…あの子を抱きしめられるのに…!


「私ね…エウナさんに会えてよかった」

「だ、だったら一緒に行きましょう…!?ねぇ…もうあなたが居ないと私は…」

「こんな私でも…愛してくれて…幸せでした…」

「楓…」


 もう…私には…何も出来ない。抱きしめることも…あなたの涙を拭うことだって…。


「私だって…私だって一緒に居たいんですよ…」


 楓は…完全に泣いていた。


「こんな別れ方…嫌ですよ…もっと遊びたかったし…たくさん色んなことをしたかった…」

「だったら…」

「もう無理なんです…もう…私は私の役割を果たしました…」

「かえ…で…」

「えへへ…最期は笑っていようって決めてたのに…なんで…涙が出るんでしょうね…」


 涙を流しながら、それでも楓は目を逸らさずに、笑顔を見せようとしている。


「エウナさん…私も…泣けたみたいです…」


 もう光は私の全身を包み込んできていて、彼女のことは…声しか聞こえなくなってきた。


「ありがとう…エウナさん…」


 白い視界の中、最期に…。


「出来るなら…私のこと…覚えていてくれたら…嬉しいな…」


 楓が…笑っていた気がした。


「ずっと大好きですよ…エウナさん」


 そして私の意識は無くなる。



□ □ □ □



 さわさわと風の音が聞こえてくる。

 うっすらと視界を開けると、あの子が好きそうな満月が見えた。


「エウナ…さん…?」


 名前を呼ばれた気がしたので視線を向けると、古い友人の驚いた顔が見えた。


「目が…覚めたんですか…?」

「…勝手に殺さないでくれない?」


 身体を起こすとぺきぱきと骨が鳴って筋肉が引きつった。そして…頬からは雫が流れてくる。アレ…私…泣いてるの…?


「エウナさんっ!」

「って…ちょっ!」


 頬に手を当てていると、突然に何かが突進してきたので再び地面へと転がる。


「良かった…もう…目を覚まさないんじゃ無いかと…」

「…悪かったわね」


 泣きじゃくるメリーの頭をなでながら、満月を見つめる。何だか頭がぼーっとする。記憶に靄が掛かっているみたいで、上手く思い出せない。

 何か…ずっと夢を見ていたような気がする…。

 暫く満月とにらめっこをしていると、脳裏にあの子の泣き顔が蘇って来た。

 そうだ…!あの子は…!?


「そ、そうだメリー!楓は…楓は何処…!?」


 私が聞くとメリーは目を見開くと、哀しそうに視線を逸らした。

 何…よ…。


「エウナさん…楓さんは…」


 嫌な…予感がした。


「楓さんは…あの日、死んだんです」


 え…?


「…嘘…よね…?」


 メリーは俯いたまま何も答えなかった。その反応が…嫌でも私に嘘じゃないということを教えてくれる。

 そんな…嘘…でしょう…?

 楓のことを思い出させてくれた満月に聞いても、そいつは雲の中に隠れるだけで、何も応えてはくれなかった。

はい、ということで完結しましたー


完結したのに完結のところにねぇよ!と言われたらごめんなさい


後は後日談と前日談のささやかなおまけが2話つく予定です

ええ、予定です

出来る限り早く仕上げたい(希望


長かったお話も今回が最終回で完結です


ではでは、皆様が少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです

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