知らなくとも、何もしなくとも
お久しぶりです
2ヶ月ほどの時を経てまたココに帰ってきました
まぁ、前置きが長いのもアレですし、始めましょうか
人物表
エウナ
吸血鬼 晴れて恋人になりました 主人公補正の代わりにヘタレ
楓
魔法使い 大体全ての元凶 殺伐の原因とも言います ヒロ・・・イン・・・? 昔は子供の様に純粋でした
アリス・イン・ワンダーランド
魔術師 職業何でも屋 つまり便利屋さん モンハンのハンター的な
ミツキ
クラゲの形をした何か まいふぇいばりっときゃら故に致し方なし え?巫女服の人がヒロイン・・・? いやですねー、この子がヒロインに決まってるじゃないですか 今となっては唯一と言っても良いほのぼの要因
キミカさん
人間 女性 お肉
ずっとこの日常が続くと、心のどこかで信じていた。永遠なんて無い、そんなことは遠い昔に判っていたはずなのに。それとも、永遠なんて無いのが判っているからこそ、私は自身の手で日常を壊そうとしているのかもしれない。
昔から、壊せないものは無かった。お城の壁、野生動物に人間、私と同じ吸血鬼。そして変わらない日常も。
誰かに壊されるくらいなら、いっそこの手で・・・。
□ □ □ □
「エウナさん見てみてー」
「・・・何?」
読んでいる本から目を外してちらりとそちらを見ると、楓がコートを広げてひらひらと揺らしているのが見える。アリスから借りたこの本、何でもみすてりと言うやつでだらだら流れに任せて読んでもいいし、自分で何が起きたのか考えて読んでもいいという優れもの。今ちょうどラストの一番面白い謎解きの部分。そんな時間を邪魔されたのだから、自然と冷たい声色になるのも仕方ない。というより、見せたいのは身体かペンダントかそれとも・・・何だろ?
「おにゅーのこーとー」
コートだった。
ひらひらと揺らされている真っ赤なコートは、いつも彼女が着てるのと何がどう違うのか判らない。よって反応のしようがない。うん、そうよね。
「・・・そ、そう良かったわね」
とりあえず微笑んでおいてから読書に戻る。続き気になるし。
「むー!」
ちらりと見ると、真横で楓が頬を膨らませている。何となく突付いてみると、ぷしゅーと萎んだ。そしてまた手を離すと膨らみ始める。
彼女のほっぺははマシュマロみたいで突付き心地がとてもいい。
・・・こ、これは。
暫らくの間、ぷにぷに、ぷしゅー、を繰り返して楽しむ。
「・・・何してるんですか?」
「・・・」
後ろから冷たい声がした。振り向くと、気付かない間にアリスとミツキが居た。
コホン、咳を一つして彼女たちの冷たい視線を受け流すと、笑顔を浮かべる。
「何か用?」
「まぁいいですが」
いいと言いながらも、ジト目は続けるアリスさん。追い詰められる私。背中を伝う嫌な汗。どさくさに紛れて私の頭に乗り、ぺしぺし叩き始めるミツキ。
「旅行に行こうと思うんですよ」
「旅行?また唐突ね」
「ぷにぷにー」
何故か楓が私の頬をぷにぷにと突付くのを無視しながら進める。
「はい、新年も明けましたし何処か行こうかなーと思いましてー」
「へぇ?で、本音は?」
「かぷー」
「・・・」
「・・・」
「じゅるじゅるー」
無視し続けていたらほっぺに吸い付いてきたけれど、何とか無視する。何ともいえない空気が部屋の中を支配する。
「・・・お仕事です」
チラリとテーブルの上に放置されてる新聞を見てアリスが答えた。釣られてそちらを見ると『失踪事件相次ぐ』と馬鹿でかい見出し。・・・また物騒ね。
「し、新年なのに大変ね」
「はむはむ」
はぐはぐと噛み付かれた・・・ああもう!
彼女の頭を両手で抱えると強引に唇を奪う。楓は最初こそ目を白黒させて逃れよとしていたけれど、逃げように頭を抱えて唇を押し付けると、トロンと溶けた表情になって大人しくなった。
「ふにゃ・・・」
「良い子だから大人しくしてて、ね?」
「ひゃい・・・」
「で、何の話だっけ?」
ころんと膝の上に乗っかった彼女の頭を撫でながら続きを促す。
「エウナさんって・・・」
「どうかした?」
「はぁ・・・もういいです。それで日にちなんですが・・・」
ふむふむ、ほうほうと予定を聞いていると、人の形になったミツキが私の後ろから抱き付いてきたので、何となく肩に乗っかった頭を撫でる。都合二人に挟まれている状況なので、少し暑い・・・。
ふんふんふむふむ、なるほどわからん、とアリスの話を聞いていると、ふと、目の前でひょこひょこと動いている狐耳が気になった。
「ふにゃぁ!?」
特に意味も無いけれど、はむっと少しだけ口に含んでみれば、楓がビクッと動いた。面白いので舌でなぞってみる。
「んっ・・・あっ・・・」
逃げるようにして動く彼女の身体を強引に片手で押さえつけると、尚も続ける。楓は諦めたのか、逃げるのを止めて何かに耐える様にぴくぴくと震える。その様子を見ていると、心の中でふつふつと湧き上がる何か。彼女が動くたび、ふにふにと何かに押し付けられる片手。
「・・・すみませんが、話が続かないのでそういうのは二人だけの時にしてもらえますか?尤も、新世界に旅立ちたいなら、全力でお手伝いしますが」
「ごめんなさい」
「ふにゃぁ・・・」
笑顔のアリスがすごい怖いので急いで口を離す。口を離した瞬間、ビクッと楓の身体が跳ねた。驚いて私の心臓も跳ねた。
その後はぐたーとしてる楓を乗っけて大人しくしておく。命あっての物種よね。
□ □ □ □
ドナドナされて着いた場所は和室だった。まぁ私は子牛じゃないから、何処に連れてかれようが食べられることは無いのだろうけど。
「どーぞどーぞ、お茶です」
「ありがと」
全員分の荷物を置くと一息つく。どうして!私が全員分の荷物を持たないといけないのか!誰か教えて!
それにしても緑茶が美味しい・・・。この子、紅茶以外も煎れれたのね。
アリスは着くや否や何処かに行ってしまったし、ミツキは私の頭の上に居座ったまま動かない。ただ時間だけが殺されて退屈なので、テーブルの上においてあったパンフレットを適当にぺらぺら捲る。ほうほう。
「どうも肉が名物らしいわね」
「お肉ですか?」
「ええ、何だかそんなことが書いてある」
「ふみゅふみゅー」
楓はずるずると私の膝の上まで移動すると、パンフレットを読み始める。何が面白いのか同じページばかりずっと読み続ける。・・・ページ捲っていい?
いや、聞けばいいのだけれど、聞いた結果として、彼女が私の膝の上から動いてしまったら世界の一つが終焉を迎えてしまう!・・・気がするので黙ってる事にしよう。
そんなこんなで、暇をぷちぷち潰して遊んでいると、アリスが帰ってきて思い出したかのようにパンフレットを見始める。
「ふむふむ・・・まだお肉が有名何ですか・・・」
「まだって事は前にも来たことあるの?」
「はい、数年ほど前に」
「へぇ・・・」
何をしに来たのかは・・・聞かないほうがいいわね。
そうして、ご飯の時間になった。
女中さんがお辞儀をして料理を並べ始める。
前菜らしい何かから始まり、入っては並べるを繰り返す女中さん。食べ初めてもいいの・・・?
それにしても、メイン料理は何かのステーキらしいのだけれど、どう見ても3人分しか用意されない。膳は4つあるし・・・数でも間違えたのかしらね?
不思議に思っている間に、女中さんは慣れた手つきで料理を並べていく。ステーキに天ぷら、よくわからない和え物、ご飯、茶碗蒸し。
「何でアリスの所だけ肉が無いの?」
「お肉が苦手なので外して貰ったんです」
「・・・ふーん」
聞いてみると、とても綺麗な笑顔で答えてくれた。わー、うそ臭い。毒でも入ってるのかしらね?
ちらりと楓のほうを見ると、クスりと笑って食べ始めた。そしてその姿を無表情で見つめているアリス。一人意味がわからない私。まぁ・・・毒は入ってないみたいね?
黙々とした、何とも居心地の悪い空気が流れる中、気になったので肉から食べてみると、今まで食べたこと無い味。レモンでも掛けてるのか少しすっぱい?
正直言って不味くはないけど美味しくも無い。まぁこんなものか。名物って言うから期待したのだけれど、何だか肩透かしを貰った気分。私的には天ぷらのが美味しい。これは・・・キスの天ぷららしい。
キス・・・キスか。うん、キスよね。おはようから始まりおやすみなさいで終わるアレよね。うん・・・うん?今日はおはようのキスはしたっけ?アレ?おやすみなさいのもしてないような・・・?そもそも寝るときと起きるときって、一緒に寝てないわよね?ははっ!?
「楓さん・・・エウナさんが笑ったり泣いたりしてるんですけど、そんなにそのお肉美味しいんですか?」
「ん、んー・・・興味はありましたけど、正直びみょーです。好んで食べるほどでもないですね」
「・・・ほうほう」
とても失礼な会話が聞こえてきたけれど、事実っぽいから何もいえない。哀しみに背を向けるべく、目を逸らせばミツキの前の料理が見えた。
「あれ?あなたも肉料理嫌いだっけ?」
肉類には一切手付かずで、野菜類をひたすら黙々と食べているミツキに話しかけると、困ったように首をかしげた。・・・私何か変なこと言った?
「あらら、てっきり大丈夫だと思っていたんですがダメな方でしたか・・・ごめんなさい。きちんと確認すればよかったですね・・・」
申し訳無さそうに言うアリスに向かってふるふると首を振るミツキ。くすくすと笑っている楓。一人訳がわからない私。
「まぁ残すのもなんですし、エウナさんどうぞどうぞー」
「・・・」
何も判らないまま、話の矛先がこっちに向く。お願い光線も私に向く。氷点下の気配も私に・・・どういうことなの?
「いやなんですか?」
「まぁいいけど・・・」
別に断る理由も見つからないし。
「ところでコレ、何の肉?」
「モモ肉ですよー」
カタカタと何かのステーキが私の前に運ばれる間、ふと気になったことを聞いてみると、楓が答えた。そういう意味じゃないんだけど、モモ・・・って事は牛とか豚じゃないの?鳥肉?アレ、牛豚にモモってあったっけ?
「エウナさんとボクのは肩ですねー」
「・・・つまり、何の肉?」
「・・・」
「・・・」
余計に訳が判らなくなったので聞くと、くすくすと笑う人意外は黙り込んで目を逸らす皆さん。気になる、非常に気になる。
「「ねぇ、コレ何の」そういえば、出かけたときに小耳に挟んだんですが、明日お祭りがあるみたいですね」
「バナナに焼きそば?」
「たこ焼き、わたあめ」
「おー」
再度挑戦しようとすると、アリスが被せてこの話題は無かったことにされた。まぁ、食べれるものだしいっか。
それにしてもお祭りねー?
楓と一緒に行こうかと考えながら、焼きすぎで硬くなった肉を噛み千切る。
□ □ □ □
「お帰りなさいませ」
「・・・」
食事も終わり、探検という名のぶらぶらから帰ってくると、楓が三つ指を付いてお辞儀していた。謎の緊張感と一緒に、たらりと冷や汗が背中を流れるのが感じられる。
「お食事の前になさいますか?お風呂の中でなさいますか?それとも・・・今なさいますか?」
・・・ナ、ナニヲナサイマスナンダロネー?
「ア、アリスは?」
「突撃、隣の晩御飯をしてくるとかで出かけました」
「ミ・・・ミツキは?」
「アリスさんが一人じゃ不安ということなので、護衛に付いていきました」
「・・・」
わ、私の味方は何処に!?
というか、あいつらはどうでもいいときは居るのに、何で肝心なときは居ないの!?
「エウナさん・・・?」
動けない私に、不安そうな顔で擦り寄ってくると、上目遣いになる楓さん。演技だとは判ってる・・・判っていても、ころりとやられそうになる私。
い、いや!落ち着け私。そういうのはもっとこう・・・安心してゆっくりとできるところでですね?ほ、ほら!もし、ちょめちょめしてる間にアリスとかミツキが帰ってきたら、比喩とかじゃなく私の首が飛びかねないというか・・・そ、その、一応他のお客さんも少しは居るらしいし・・・ね?
「・・・やー?」
ブチン、と何かが切れる音がした。ごくりっと生唾を飲み込む音が、驚くほど大きく聞こえる。
「おおおおおお風呂に行きましょうか!?」
「うむうむ♪」
笑顔の返答を聞くや否や、楓を抱きかかえて走り出す。一分一秒たりとも無駄には出来ない!早くしないと、あいつらが帰ってきてしまう!
□ □ □ □
楓と一緒にお風呂に入って、色々やってのぼせかけた後、アリスに呼び出された。うん、やわっこくて可愛かった。
一体何のようじゃ?と思うも、これと言って心当たりは無い。・・・も、もしかして見られた?いや、大丈夫・・・大丈夫なはず・・・大丈夫だよね?私きっちり確認したもんね?だ、誰も居なかったよね?ちゃんと清掃中の看板まで用意したんだものね?
内心びくびくしながら玄関から外へと出ると、そこには木の棒を持ったアリスさん。今日は新月で、頼れるものは宿からの灯りくらいだけど、辺り見えるのかしらね?
「・・・来たわよ?」
このまま気付かれないままでいるのは・・・それはそれで切ないので、恐る恐る声を掛けてみる。
「あ、来たんですか」
「来たけど、何か用?」
「うむうむ、せっかくなので魔法の実践でもしようかと思いまして」
「実践ね・・・本気?」
「本気です」
「あの・・・私疲れてるんだけど」
「今までの何処に疲れる要素があったんですか?」
「誠心誠意励ませていただきます」
にっこり微笑むアリスへと、元気よく答える。場の風を読むんです!と何処かの幽霊も言ってた気がするし。・・・何処の幽霊だっけか。
「エウナさん・・・?聞いてますか?」
「ん?ああ、ごめん聞いてなかった。何?」
「ちゃんと聞いてないとダメですよ。いいですね?」
アリスはそう前置きをしてから、紙を足元に置いた。ここから見える範囲だと、紙には見事に何も書いてない。むしろ風が吹いたら飛んでいきそう。
何をするのかと思って眺めていたら、手に持っている棒で紙をトンと突いた。
「燃えろ」
「っ!?」
彼女がポツリと呟くと、紙を中心に炎が舞い上がって昼間の様に明るくなる。そして、私の驚きが抜けない間に炎は収まった。び、びっくりした。
驚いた事実を隠すべく、平静を装っていると、何故かはい、と棒と紙の束を渡される。渡された棒は何処からどう見ても鈍器にしか見えない。何?これで殴れと?
「それじゃどうぞー」
「・・・え?」
「どうかしましたか?」
そんな不思議そうな顔で聞かれても困るんだけど。
「せ、説明は?」
「無いですよ?説明しても理解できないと思いますし」
「・・・」
「ではではー、私は部屋で作業してますから。どうしても出来なかったら呼んで下さいね。だいじょーぶ、理屈は一緒です」
「ちょ、ちょっとまっ・・・」
引き止める間も無く、私を残して暖かい屋内へと帰っていくアリス。理屈って・・・何の理屈よ。
「あ、エウナさん」
こちらを向かずにアリスが言った。
「お風呂場で何をしていたのかは存じませんが、清掃中の札まで使うのはやりすぎだと思いますよ」
「・・・」
心臓が止まったかと思った。
固まっている私をよそにアリスは歩いていき、部屋に明かりが灯り、鳩が部屋の中に突撃するまでその場から動けなかった。
そうしてる間に、自分が何故ここにいるのかを思い出して、紙の束と棒、そして明かりの灯った部屋を見る。こ、ここはれいせいになるべきよね?うん、ありすはなにもいわなかった。わたしもなにもきかなかった。
ということで、紙をぺらぺらめくってみる。うん、見事に何も書かれてない。どう見てもただの紙ね。
ならば、と木の棒を見てみる。少し力を入れれば折れそうなソレは、まるでその辺で拾ったような形。よく見ると先のほうに泥が付いてた。・・・拾ったのね。
さてさて、どうしよう?
「・・・燃えろ」
とりあえずアリスの真似をしてみようと、呟いてから突いてみる。
・・・1分が経った。何も起きない。
・・・5分が経った。少し寒い。
・・・どれだけ待っただろう?
「出来るかー!」
私の声が響いた後、投げ捨てた木の棒が乾いた音を立てて落ちた。
さて、どうしよう。
チラリと私たちの部屋辺りを見上げてみると、何か微笑ましいものを見るような目でこちらを見ていたアリスと目が合った。
とっさに近くの石を投げつけた。
余裕で燃やされた。
何なのよあんた!
暫らく睨んでいると、笑いながら手を振って見えなくなった。
何時までも睨んでいても何も起きないので、また棒を持つと出来ないか試してみる。100くらいまでは数えていたけれど、ものすごく無駄な事をしてる気がしたのでやめた。
もう無理・・・さすがに疲れた。
やたらと疲労感を感じたので、棒を放り投げて空を見上げる。・・・月明かりが無いと星が綺麗ね。
時折くるっぽくるっぽと、平和の象徴が飛んできては飛び去っていく。アレって食べれるんだっけ。
「休憩?」
「ん?」
後ろから聞いたことが無い声がしたので振り返ると、何処かで見たことあるような水色のワンピースを着た少女が、同じくどこかで見たことあるような杖を持って立っていた。というよりミツキだった。でもこの子って喋らないはずだし・・・発言元は別かな?
きょろきょろと辺りを見渡してみると、ミツキの後ろに黒猫が一匹。ま、まさかね?
「やり方、教える、がんばる?」
「・・・」
猫を見つめてると、また声がした。知らなかったけど・・・猫って喋るのね。でも何で片言?
まぁいいか。
「で、あなたが何を教えてくれるの?」
「にゃー」
抱きかかえて聞いてみると、目の前の猫がまるで猫の様に鳴いた。
「いや、にゃーじゃなくてきちんと教えて欲しいのだけれ・・・どっ!?」
突然私の後頭部を衝撃が襲う。痛みを堪えて振り向けば、水晶の付いている杖を振り上げているミツキ。
「ちょっと!いきなり何するのよ!」
「にゃー?」
「・・・知らない」
ミツキから声がした。足元では華麗に着地した黒猫が、にゃーにゃーと私の足に擦り寄っている。
よ、よし、冷静にまとめて考えてみよう。
ミツキの口が動いて、さっき聞いた声がした。
腹話術・・・はする相手が見つからないし、する理由もわからない。
黒猫はにゃーとしか鳴いていない。
これらをまとめると・・・?
結論を出すと、頬を膨らませてご機嫌斜めなミツキからゆっくりと一歩引く。そのまま流れを断ち切らずに続ける!
「済みませんでした!」
土下座までの一連の流れが身体に染み込んでしまったのが少し切ない。誰かにタシタシと頭を叩かれる間も頭は上げず、ただひたすら嵐が過ぎるのを待つ。
「反省?」
「してる、すごいしてる」
「そう」
タシタシが止んだので顔を上げると、屈んでこちらを見下ろしているミツキと、白い生地をバックに舌を出してる犬が見えた。
「犬好きなの?」
「・・・?」
「い、いえ何でもないわ。ところであなた、喋らないんじゃなかったの?」
伝えると再び土下座に移行しなければならない気がしたので、話を逸らす。
「今夜、無礼講、大丈夫」
「へぇ・・・」
なるほど、全く判らない。
困ってアリスの方を見上げれば、微笑んでるアリスのさらに上、屋上付近で赤いコートと巫女服から伸びた足がぷらぷらしてるのが見えたので、全力で見なかったことにした。
「がんばる?」
「え、ええ」
「そう」
何をがんばるのかしらないけど、彼女は私の返事を聞くと落ちてた棒を拾ってきて、トンと突いた。
少しだけ間をおいてぼっと燃え上がる棒。もとい、私と数時間を共にすごした戦友。別に思い入れも無いし、燃えていく様をぼーっと見つめる。それにしても、どうしてこいつらは私がこれほど苦労してしようとしてることが簡単に出来るの?もしかして私が下手なだけ?そうなの?
「出来る?」
「出来ないわよ!」
「っ・・・」
思わず声を荒げると、ビクッと肩が跳ねて、涙目になっていくミツキ。建物から感じる殺気。
「ご、いきなり怒ってごめんね?出来ないから、ちょっと虫の居所が悪かったの。だから泣かないで、ね?」
「・・・平気・・・やり方、教える」
慌てて頭を撫でながらフォローすると、コクコクと頷いたので少しだけ安心する。それにしても、この子こんなに泣きやすかったっけ?
紙の束を地面に置くと、杖を手渡される。そしてそのまま、ひんやりとしたちっこい手が私の手を包み込んだ。
「目、閉じて?」
「え、ええ」
とりあえず言われたとおりにする。
「火、見える?」
「・・・見えない」
「そう」
ゆっくりと手を動かされてトン、と何かを突く感覚。
「杖、集中、流し込む」
「何を流し込むの?」
「意識」
・・・なるほど、全くわからない。
「質問、火、見える?」
「見えない」
「見える」
「・・・見えない?」
「視る」
「見える?」
「視る」
「見る」
「視えない?」
「視える」
ミツキの質問が繰り返されていくと、段々と自分が言ってるのか彼女が言ってるのかわからなくなる。
いつの間にか、暗闇の中にポツンと佇む火が視えた。
「唱えて」
「・・・燃えろ」
唱えると、杖を通じて何かが抜けてくような、不思議な感覚がする。
「出来た」
「・・・ん?」
見ると紙にピンポン玉みたいな小さい火が付いてる。
「燃え・・・てる?」
「燃えてる」
「ホントに燃えてるじゃない!」
思わずミツキを抱きしめてぐるぐると回る。彼女の足が軽く浮くくらい回っていると、私の手元からパキンという嫌な音がした。
「あ・・・」
「・・・」
ミツキの呟く声が聞こえる。
手元を見ると杖の姿は無く、大きな宝石がついてるペンダントに大きなヒビが入ってる。それにしてもこのペンダント、どこかーで見たことあるような?そ、そう・・・巫女服を着てた誰かが付けてた様なー?
『大切なペンダントだったのに…』
記憶の片隅で要らぬ回想が入った。
も、もしかして拙い?
唖然としてペンダントのヒビを見つめていると、そろり、そろり、とミツキが私から離れようとしてるのを視界の端に捉えた。
「っ!」
「逃がさないわよ!」
こうなれば死なばもろとも!犠牲は多いほうがいい!
じたばたと足掻くミツキを力付くで抑えて、とりあえずアリスの元へと向かう。
観念したのか、大人しくなったミツキを小脇に、ドアを2度、3度。
「はいはーい?」
ドアが少し開いた瞬間に全力で開くと、足を使って閉じないように固定する。バキッと音がしたけれど、些細なことよね?
「エ、エウナさん!?いきなりどうしたんですか?」
「アリス?ちょーっと付き合って欲しいことがあるんだけど・・・」
目を白黒させて驚いているアリスへとにっこり微笑むと、ペンダントを揺らす。彼女の視線はミツキへと行って、そしてペンダントに行って、其処に大きく入っているヒビに目が行ったのか、無理やり笑顔を作ろうとして失敗したみたいな、引き攣った顔で2歩、3歩と後ずさった。
「い、いやー・・・ソレはちょっと・・・」
出入り口は私が塞いでる。となれば彼女に残るのは・・・。
一瞬で私に背を向けると、窓目掛けて走り始めるアリス。けど・・・私のが早いのよね。
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃない?ほら、大人しくしてれば何もしないから、ね?」
彼女より早く窓までたどり着くと、勢いよく窓を閉めてにっこり笑う。皆一緒、以心伝心、皆幸せ、私笑顔。何処に拒む理由があるのかしらね?
さぁさぁ皆でいこうじゃない!
片手にミツキの手を取って、もう片手でアリスの手を取った辺りで、呟くようなアリスとミツキの声が聞こえてきた。
「かえで」
「あ、楓さんだ・・・」
一瞬の判断で窓を全開にすると飛び降りる。数秒間の自由落下の後、着地。私の自由は何処?
着地後も油断せずに前へと飛び跳ねると、後ろのほうで何かが爆発した。振り向くと、アリスの竜から2発目の火球が発せられる瞬間。
「騙したわね!」
火球を殴って消しながら叫んだけれど、窓閉めやがった。なら、直接行くだけ!
「エウナさん、そんなところでどうかしました?」
駆け出すべく、地面を強くけりだそうとした瞬間、屋上から楓が顔を出して、くすくすと笑っているのが見えた。
「ところで、今日は星が綺麗ですし・・・よければ一緒に見ませんか?」
「・・・」
一人で楓に会いに行くのと、アリスたちをとっ捕まえるの、どっちのほうが辛いかを脳内天秤に掛けてみる。
バキッと音を立てて楓の方に落ちた。
よし!あいつら捕まえてから行こう!
「ダメですか・・・?」
「一緒に見ましょうか!」
悲しそうにポツリと言う楓に即答してしまう。泣いてない・・・泣いてないわよ。
「さぁさ、ドンドン飲んでくださいねー」
「あ、ありがと」
トクトクと白ワインがグラスに注がれるのを見ながらお礼を言う。流されてるなー、と我ながらに思う。
「グラスはいっぱいありますから、どれだけ割ってもいいですよ」
屋上には登るのに使ったであろう梯子の他、ワイングラスの詰まった木の箱やら、ワインボトルの入った箱、さらにはするめにお菓子類等など・・・どうやって運んだのかしら?
疑問に思いながら、ポリポリと棒状のチョコ菓子を口に運んでいる楓を見てると、目と目が合った。にゃはーと馬鹿みたいに微笑まれたのに対して、にへーと阿呆みたいに応えてワインを口に含む。甘めの味ね。
さて・・・どうしよう。
いつも楓が使う武器であるペンダントは私の手の内だから・・・凶器になりそうなものは、ボトル、木箱、梯子。大きさと扱いやすさから考えると、木箱と梯子は除いてもいいわね。となると問題はボトルだけど・・・彼女はどうしてか、私に酌をするだけで自分のは飲んでくれない。よって取り上げようがない。でも、凶器となる可能性のものがある限り、話は切り出したくない。死に辛いとはいっても痛いのは嫌。
「それにしても、ワインなんて何処で買ったの?」
「ぶらぶらしてたら酒屋さんを見つけたんですよ」
「へぇ・・・ちょっとラベル見てもいい?」
「あいあい」
ボトルを受け取ってラベルを眺めると、よくわからない単語が羅列されていた。・・・一体これで何がわかるのかしらね。
ぼーっと眺めながら疑問をもてあそんでいると、空を見上げていた楓が楽しそうに聞いてきた。
「ところでエウナさん?片手、どうかしたんですか?」
和やかな雰囲気が一瞬で消し飛ぶ。楓はこちらも見ないで、何処か遠くのほうを眺めては一人笑っている。
「・・・ど、どうもしてないわよ?」
「そうなのかー」
何とか私がそう返すと、彼女は納得した振りだけしてくすくすと笑う。少しの違和感。とても近くに居るのに、何故かとても遠くに感じる。
「もう、ダメですよエウナさん。グラスにヒビが入ってます。そのままだと危ないですし、交換しますから出してくださいな」
「え、ええ」
無意識に力が入っていたのか、グラスにヒビが入っていた。遠くのほうからこちらへと視線を動かした楓はいつも通りの彼女だったので、少し安心してグラスを渡す。
そして彼女の手はこちらへと伸びてくると私の手首を掴み、力強く引き寄せた。
「つーかまーえた♪」
一瞬の出来事で反応無い間に屋根へと押し付けられると、馬乗りに乗られた。私の手にあったグラスが砕けて、ガラスが散らばる感覚がする。そして、彼女がしっかりと握っているのはグラスではなく、未開封のワインボトル。
何かをされているのか、手足が上手く動かせない。
「・・・どういうつもり?」
「スキンシップですよスキンシップ。ところで、ペンダントに傷が入ったんですね。通りで様子がおかしいと思ったんですよ。それならそうと、ちゃんと言ってくれればいいのに」
「・・・た、タイミングを計ってたのよ」
「タイミング?タイミングなんて必要なんですか?・・・悪い子悪い子、大切なものなのに、傷物にしちゃって。本当、悪い子」
彼女は言葉の内容とは違い、くすくすと楽しそうに笑うと、私の手首を離して砕けたグラスを握る。落ちてきそうな満点の星空に、彼女の手から流れた黒い液体が混じわって、私の頬へと落ちた。
「悪い子には、罰を与えないとダメですよね?」
そしてワインを振り上げると、私の頭目掛けて振り下ろして来た。ボトルが割れる音が屋根に響く。
「・・・そう思いましたけど、今宵は無礼講でしたね」
彼女はボトルを頭の真横へと振り下ろしながら、一人くすくすと笑う。ほ、本気で殺されるかと思った。実際のところ、殺せるのかどうなのかは知らないけれど・・・今ので気を失った挙句、目を覚ましたら部屋の布団の上で達磨になってた、くらいは覚悟してた。
「ごめんなさい、窮屈でしたね。でも、もう少しだけ我慢我慢。・・・我慢しないとダメですよ?そうそう、我慢」
楓はまるで自分に言い聞かせるように我慢と呟きながら、ゆっくりと私の顔に近づくと、ちゅっと血が落ちたところに柔らかい感触を残して離れていった。・・・キスは嬉しいけど、少し物足りない。
「ああ、そうでした。もし少しでも悪いと思ってるなら」
「・・・ん?」
名残惜しげに身体を起していると、楓の声がした。振り向けば新しいボトルとグラスを両手で持ちながら、満面の笑顔で両手を突き出している。
「ぎゅっとしてくださいな」
□ □ □ □
その昔、偉い人は言ったという。
1日とはちゅっちゅで始まり、ちゅっちゅで終わると。
現に彼は、おはようのちゅっちゅから行って来ます、お帰りなさいにおやすみなさい、さらにはまたねのちゅっちゅまでを最期の日が来るまで欠かさず続けたという。
その彼の黒歴史を後世に残そうと立ち上がった者たちが居る。彼らは本を作り、その本が発売停止となっても、隙を見ては路上等で売るというゲリラ戦術に切り替え、代々戦い続けている。
語り継がれる話では、5股まで成し遂げ、多忙の限りを尽くした彼の人生は壮大なビンタで幕を閉じたという。最期の言葉は『いいな、2股は刺される。3股ならそれは勇者だ。恐れることは無い。だが、4股以上は覚悟が要る』。恐るべし、ちゅっちゅ。
ある日、そんな彼の本を偶然見つけ、そして見習おうと思った。
「それじゃお祭りに行くけど、来る?」
「いってらっしゃい」
「・・・」
机でハサミと糊で何かをしている楓のれいとうビーム。こうかはばつぐんだ。取り付く島もないとはこの事か。
「・・・な、何してるの?」
「お手紙ー」
にへーっと笑った顔で見せられた紙には、新聞紙を繰り抜いた文字が張ってあった。意図的にずらしているのであろう並べ方で『子供の写真求む』と。・・・これには触れちゃいけない、私の勘がそう告げている。
しょうがないから一緒にお祭りできゃっきゃうふふ作戦は諦めて、第二作戦のいってらっしゃいのキス作戦で妥協しよう。うん、そうね。1日はちゅっちゅで始まると誰か言ってたじゃない!最近はおはようもお休みなさいもしてないけど!
浴衣まで着てお祭り雰囲気を作ったのが無駄になったけれど、気にしたら負けよね。
「ねぇ楓、何か忘れてることない?」
とはいえ、素直にちゅっちゅをせがむのは嫌だ。そういうのは楓がするもので、私は『しょうがないなー』と応えるのがいいんじゃない。ということで、誘導開始。
「ん、んー?何かありました?」
「ほ、ほら・・・昨日の晩御飯にあったじゃない?」
「美味しくなかったー」
そうかー、美味しくなかったのかー。そうかー・・・。そういうことを聞いてるんじゃないんだけど・・・。
「いやそうじゃなくて、ほら、食材に何かあったじゃない。き・・・?」
「きー?」
「そうそう、きー」
「ああ!」
もはや誘導でも何でもない誘導をすると、合点が言ったように笑顔で手を打った。細かいことは気にしちゃいけない。
「キミカさんですね!」
「・・・誰?」
「昨日まで酒屋さんに居た女の人」
「へぇ・・・」
昨日まで・・・ってことは今日は居ないのかしら?
「ミツキ、エウナさんに付いていってあげてください」
「・・・え?」
微妙な言い回しに悩んでいると、楓が淡々と言った。
「ではでは、楽しんで行って来て下さいねー。お土産は何でもいいですから。あんまし無駄遣いしちゃダメですよ?」
その後、何が何やらよくわからないまま追い出される様に廊下に出されると、楓は笑顔で手を振り、バタンと二人を繋ぐ扉は閉められた。
「・・・」
「・・・」
後に取り残されたのは、なにやらもじもじとしてるミツキと、呆然と放置された私だけ。もしかして嫌われ・・・?い、いや!そんな訳ないわよね!?
「と、とりあえず・・・行く?」
声を掛けるとビクッ、として見上げてくる。その光景はまるで私が苛めてるかの様な・・・私、何かしたっけ?・・・何もしてないはず?
記憶を辿って心当たりを探してみる。探してみる・・・探してみる・・・。
「もしかして、昨日の事気にしてるの?」
ありえそうな可能性を聞いてみると、恐る恐るという感じでコクコク頷くミツキ。
「何だ、そんなことだったのね」
つまり私は何も悪くなかったと!何処ぞの魔術師は放置しっぱなしで何も無かった様な態度だし、というか今日見てないし。恋人になったはずの魔法使いは機嫌が悪いのか、何だか冷たいし。私を気に掛けてくれるのはあなただけよ。
嬉しくなって彼女を抱きしめてぐるぐる回る。じたばたとしてるけど気にしない。うりうりー、愛い奴めー。
そのままグルグルと回っていたら、ドアが突然開いて何かが私の顔面を強打した。突然の痛みで蹲った私が見たものは、まるで貼り付けた様な笑顔で私を見下ろす楓だった。
静かな廊下にドアがギギギと悲鳴をあげる音が響いて、閉じた。それでも安心できず、息を潜めてドアの向こうを探る。
しばらくそのままで、もういいかな?と思った当たりで身体を起こした。ぺたぺたと心配そうに頭を触るミツキを撫でながら、ぶつかった何かを確認する。
ソレは何かの袋に包まれていた。袋を開ければ、紙に包まれた楕円形の何か。さらにぺりぺりと何かの模様が書かれている包み紙を剥がすと・・・可愛くデフォルメされた魚らしき何かが踊っている絵が見える。こ、これは・・・!何だっけ・・・。
あまりの衝撃に、手作り弁当という単語が出るまで時間が掛かった。
いいいいや、それよりもお弁当!つ、つまり愛妻弁当とかそういう類の・・・!せっせと愛と真心を込めて作った光景が目に浮かぶじゃない!きっとこの中にはご飯の上にふりかけでハートマークとか書いちゃったりして!そ、そうよね!冷たく感じたのは、お弁当を素直に渡すのが恥ずかしくて、それでどう渡そうか考えてたからよね!?何だそうだったの!そ、それじゃ早速・・・。
ミツキも気になるのか、蓋を開ける光景を目を輝かせて見てる。
「あ、開けるわよ?」
息を呑んで、ゆっくりとお弁当の蓋を開ける。
「ピギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
可能な限り、私が出来る最速で蓋を閉めた。私は何も見てない、何も聞いてない。よく見れば、蓋に書かれている魚らしきものには立派な足と手が生えているし、愛妻弁当なんて字も何処にも書いてない。それにしても、これを可愛いとか思った奴は誰だ!
そうよ、あの楓が作ったもの何だもの!冷静に考えれば、普通じゃない何かが入ってるってわかるじゃない!例えその何かが食べれるものだとしても!
「・・・それじゃ行きましょうか、立てる?」
何も起き無かったことにして袋へとしまうと、腰を抜かして驚いているミツキに手をさし出す。そのままぎゅっと繋いだまま、並んで歩く。
そういえば、包み紙に何か書かれてたわよね?
ごそごそと袋を漁ると、ぎゅっと握る手が強くなった。安心させるために優しく握り返してから、両手で包み紙を開く。
其処には四角と線、そして大きな丸と小さな丸、そしてバツ印が2つ書いてあった。大きい丸の所には丸っこい字で『お祭り』とメモられている。後は所々に地名らしき丸文字がいくつか。
「地図・・・よね?」
一緒に見ていたミツキも同じ意見のようでコクコクと頷く。
と、なると・・・。
「この丸とかバツはどういう意味なのかしらね?」
二人で歩きながら首を捻る。大きい丸はたぶん、お祭りが開催されている場所と判断していいけど・・・小さいのとバツ印は?
暫らく悩んでいると、ミツキに何かあったのか、急に辺りを見渡し始めた。蛾でも居たの?
ぼーっとその様子を眺めていると、小さい丸を示してから私たちの後ろ、通ってきた道の方を示す。ふむ・・・今日はもう喋らないのね。
「・・・」
「・・・」
突如取った謎の行動の意図がよくわからなかったので半笑いでやり過ごしていると、指で地図上の道を示してからつつつーっと丸まで辿っていく。
「もしかして、宿?」
コクコクと嬉しそうな顔で頷くミツキ。なるほど、宿か。そうなると、後はバツ印だけね。
バツ印はお祭りまでの通り道と、周りに家らしき物も無い、郊外とも言える場所の2箇所に赤く書いてある。私は数秒だけ考えると、結論を出した。
「行ってみれば判るでしょう」
満場一致で地図をしまうと、手を繋いで歩く。一緒にとことこ歩幅をあわせて歩いていると、まるででぇとの様・・・あれ?何かおかしいような・・・。
辺りは日暮れから少し経った様子で、未だに忌々しい赤みが空にちょこちょこある雲をしぶとく照らしている。早く沈めと念を送るも、まるで嘲笑っているかのようにゆっくりと沈んでいく。まぁ時間が解決してくれるし、どうでもいいか。
「ん・・・?」
ふと、道中の店の中にアリスの気配がしたので立ち止まる。
看板には、何とか酒屋という擦れ文字だけが何とか確認でき、シャッターは半分くらい閉じている。そこから覗ける床には、ワインやらビールやらの割れたビンの欠片が所狭しと散らばっていて、何かの揉め事があったことを暗に示している。位置的に・・・アレが楓の言ってた酒屋・・・?やってるようには見えないけど。
すると、誰かの銀髪が見えた。記憶の限り、私の周りに銀髪の奴は一人しか居ないし、殺気がそっくりだったからアレはアリスと判断しても良さそう。本当、私たちを殺そうとした時の殺気にそっくり、穏やかじゃないわね。
気になったのでそちらの方に行ってみようとするけど、片手がその場に置いてかれたので立ち止まる。片手の先ではミツキが熱心に何かを見つめていた。
「どうかしたの?」
「・・・」
聞いて見るけど、返事は無い。視点の先には・・・少し力を入れたり、風が吹けば壊れるんじゃないかと心配になって来るお店。長年の雨風に耐え抜いたその風格は、一種の妖気の様なものを辺りに垂れ流している。例によって例の如く、看板の文字は読めない。たぶん・・・駄菓子屋?今時珍しいわね。
「行きたいの?」
絶対にココから動かない、という鉄の意志を放っているミツキに聞くと、彼女は目を輝かせて頷いた。そして、数秒すらも待てないとばかりにクイクイと引っ張っていく。チラっと酒屋の方を見つつも、特に反対する理由も無いので、流されるまま妖気へと吸い込まれていく。薄暗い店内に、何処か懐かしい匂いがしている。
小銭を握り締め、トテテテっと細道をずいずい入っていくミツキを和んだ様子で眺めていると、季節も気にせず己が道を行くアイス売り場があることに気が付いた。それも棒アイス等が売ってるアレじゃなく、丸いカシャカシャで削り取る本格的なタイプ。色はピンク、茶色、白が2つずつ。その上には、誰が頼むのかすら不明な名前と一緒にお代はこちらへ、と書いてある缶。
『長年の血と汗と涙の結果、●の血を完全再現!ブラッティスペシャル!』
『思わずお酒が飲みたくなるアイス?焼き鳥愛好家にお勧め!焼き鳥味!』
『豆腐好きの、豆腐好きによる、豆腐好きのためのアイス、触感、味、全てが豆腐な豆腐キング!時と共に変わり行く豆腐をあなたに』
意味不明もココまで来ると呆れるしかなくなる。スペシャルとかキングとかって何よ。しかも肝心なところが読めないし。普通の味は無いのか、普通のは。
そう思ったら隅に小さくイチゴ、チョコ、バニラと書いてあった。・・・悪意を感じる配置ね。
ふと気付くと、隣にミツキが紙袋を握り締めて立っていた。・・・まるで気配がない。
「食べたい?」
一応聞いてみると、少し悩んだ末にこくりと頷かれた。頷いてしまった。となると一番無難そうなのは・・・。
□ □ □ □
最悪片方は当たりであろうという、甘い考えから導きされた結果。白いのを2つ、つまりバニラと豆腐味を買って分けることに。他のは冷気と一緒に、何かヤバイ気配が漂っていたから嫌だ。
「美味しい?」
自分のを食べる勇気がまだ無くて聞いてみると、不思議そうに首を捻っている。何?豆腐?豆腐なの?
辺りはもう薄暗いけれども、ミツキの手には駄菓子の入った紙袋にアイス。私の手には、普通のアイスであって欲しい物体。このままお祭りに行くのも何なので先にバツ印のあるところから見てみることにして、現在とことこ歩き中。別に行かなくてもいい気がしたんだけれど、何となく。
ともあれ、彼女が微妙な顔をしてるってことは私の方は普通だと信じていいでしょう。
早速一口舐めてみる。
舌に冷たいものが広がる瞬間、脳内にで点滅するTOFUの文字。豆乳アイスとか、大豆アイスとか、そんなチャチなものじゃ断じてない。味、質感共に名前に偽り無しの完璧な豆腐アイス!1口で後悔した。これはかなり不味い。
「・・・醤油の欲しくなる味ね」
ポツリと呟くと、どうなのか気になる様で私の手元を熱烈な視線が襲った。
「良かったら食べる?」
頷いたのを確認して交換する。断じて不味いからではない。これで両方とも豆腐だったりしたら、店に戻ってあの妖気溢れる長かった生涯にピリオドを打ってやる。
私の思いが通じたのか、どうなのか、舌に広がるのは甘い味。それにしてもバニラって何味になるのかしらね?牛乳?それともバニラ味?
ミツキの方をチラリと見てみると、お気に召したのか笑顔で舐めている。・・・豆腐好きだったのね。ソレに豆腐好きとか、全く関係ない気もするのだけれど。
残ったコーンを噛み砕きながら歩いていると、掲示板を見つけた。
其処には『伝統を守ろう』とか『行方不明者』だとかの貼り紙がべたべたと子供が悪戯で貼るシールの如く張ってある。それにしても、やけに行方不明者が多いのね。
楓の言ってた『キミカ』なる誰かも、顔写真の所に大きくバツ印が付いて其処に貼ってあった。むしろ行方不明者の人全部の写真にバツ印がついている。職務に忠実なのか、そうでないのか、どっちなのか判らない貼り紙ね。何の意味があるのやら。
そんなこんなで変な掲示板をスルーすると、目的の場所らしきところを見つけた。洞窟の入り口に壁を建てて、そこにドアを付けた様な場所。整備が行き届いてないのか、それともしてないのか、金属で出来たドアは風化してサビ色になっている。どう考えてもカップルにお勧めの、ドキドキ隠れスポットには見えない。怪しさが爆発してる。でも、ドアノブのサビは落ちてる辺り、利用者はまだ居るのかしらね。
「ここ・・・よね?」
隣の水色の彼女に聞いてみると、一心不乱に袋の中をかざごそしている。私が見てることに気付くと、少しだけ私の方を見て、袋の中を見て、名残惜しそうに飴玉を1つくれた。
「・・・ありがと」
何だか悪いことしたような気がしたけれど、貰えるものは貰っておく。
イチゴ味の甘さを感じながらドアノブに手を掛ける。捻ってがたがたと動かしてみるも、鍵が掛かってるみたいで開かない。けれどもドアは紳士だったのか、私が誠心誠意を込めたノックを数回をすると、バキッと言った後にギギギと音を立てて開いた。
中は明かりが付いて無くほぼ真っ暗。入り口には食料庫のかすれ文字。けれども、ぱっと見では食料らしきものは見当たらない。
床には、黒くてかぴかぴになっている何かが広がっている。壁には肉切り包丁らしき何かに大きなのこぎり。その刃には落としきれなかった汚れがこびり付いている。
他に何か無いのかと思って足を踏み入れてみると、ガシッという音が足元でした。そして肉が抉られて骨が削られる様な激痛と一緒に片足が動かなくなった。
激痛で涙目になりながら見てみると、巨大なトラバサミが私の足に噛み付いている。素敵な力で禍々しく噛み付いているそれは、兎なんかの小動物用にはとても見えない。用途はもっと大きな何かかね。というか骨折れるって!
その歯に両手を掛けて力を入れるも、少し噛む力が弱くなるだけで開かない。どういう力よコレ!
悪戦苦闘してると、隣で何かを見ていたミツキが、持って無かったはずの日本刀に手を掛けて、居合いの格好を取っている。なるほど、そのまま私の足をスパッと切れば開放されるわね。絶対に嫌!
「ちょ、ちょっと待ちなさいミツキ!話せば!話せば判るから!」
まるで浮気現場がばれた時の様な制止の声も空しく、彼女の刀が抜かれた。
ミツキの刀はまるで豆腐でも切るかの様にトラバサミの関節部分を切り裂くと、二つに分断した。おかげで開放されたけど・・・一歩間違ったら私の足が分断されるところだったわよ。
間違った場合の想像に戦慄してると、キラキラとした視線が送られていることに気付いた。目を向けると、褒めて褒めてーと全身で表してる。
「あ、ありがとう助かったわ」
頭を撫でると、目を細めて喜ばれるので、文句を言うわけにもいかない。まぁ、結果として足が抜けたからいっか。それより、ちぎれた和服の場所どうしよう・・・血が付いてるし、結構目立ちそう。
全く、こんな凶悪なもの誰が何のために設置したのかしらね。引っかかったら抜け出すどころか、足が食いちぎられかねないじゃない。まぁ何のためには・・・捕まえるためか。でも、何を?どうするために?
どうしてか、想像するだけの材料は揃ってる気がする。
楓やアリスの言動などを思い出そうとしていると、入り口から殺気がしたので思わず身構える。
「あれ?エウナさんじゃないですか。こんなところで、どうしたんですか?」
入り口では身構えた私が馬鹿みたいに思えるほど、笑顔のアリスが立っていた。杖も殺気も無かったら思わず騙されるところね。夜目は利くはずなのに、どうしてか表情が読めない。
ぎゅっとミツキが浴衣の裾を掴んだ。
「・・・せっかくだから、お祭りでも行こうかと思って」
「お祭りはあっちのほうだと思いましたが?」
「ちょっと散歩ついでにね。もう戻ろうと思うけど」
「そうでしたか。私はまだ少しすることがありますので・・・ご一緒出来なくて残念です。ではでは、まだ月明かりも無くて暗いですし、くれぐれも道中お気をつけて」
「え、ええ・・・そうね」
何を気を付けるのか。どうしてココに来たのか。こんな何も無いところでそもそも何をするのか。とか疑問は色々あるけれど、全て無視する。せっかく平和な日常に浸っていたのに、好き好んで非日常へと足を踏み入れたくない。
ぶんぶんとその手に持った杖を振るアリスに手を振り返して、お祭りへと歩いていく。ある程度距離が離れてから振り返ってみると、錆びたドアがゆっくりと閉まっていくのが見えた。
□ □ □ □
お祭りの場所まで行くと、ソースの焦げる匂いに砂糖やチョコレートの甘い匂い、さらには人の喧騒や誰かが飲んでる酒の匂いまで混じって、長時間居たら酔いそうな雰囲気で満ちている。何処から人が集まってきたのかしらね?
これだけ人が居るのだから、失踪事件の1つや2つ、起こっても不思議じゃない気がする。1つや2つじゃ済まない数が起きてるみたいだけど。
雰囲気に背中を押されるかの様に私の手を引っ張るミツキを嗜めながら、のんびりとお祭りを歩いていく。
焼きそばの屋台が数件、金魚すくいも数件、チョコバナナも数件・・・似たような店ばかり並べて客が来るのかしら。チョコバナナに至っては味も一緒じゃない。
流されるまま、引っ張られるまま進んでいると、ミツキはヨーヨーの屋台の前で足を止めた。中に水が入っててぱしゃぱしゃするアレ。
「やりたいの?はい」
あまりにもキラキラした視線で色とりどりの水風船を見つめているので、お金を渡すと意気揚々と釣りを始めた。喋れないと色々と不便かと思ったけど、意外と意思の疎通って出来るのね。
まるで、親の敵でも見るような目でヨーヨーの動きを見ている姿に微笑ましさを感じつつも、他に何があるかと周りを見渡してみる。
道の真ん中に楓と同じ赤いコートが見えた。他の人は其処には誰も居ないかの様に、気にも止めずにそいつを避けて歩いていく。
そいつはりんご飴を片手にこちらをじっと見つめていて、私と目が合うとにっこりと笑った。
最初は楓がお祭りに来てるのかと思った。けれども、あの子は和服を着てないし、頭にお面も乗っけていない。それに顔も雰囲気も違う。雰囲気は・・・昨日の夜の楓に似てるか。
でも、私はあの子以外にあのコートを着てる奴を・・・知らない?知らない・・・はず?・・・あれ?
記憶の中にある何かを引っ張り出そうとしている間に、そいつは狐のお面を顔に付けると、ふらふらと雑踏の中に消えていった。・・・お面を着けたら手に持ってるりんご飴は食べれないと思うんだけれど、どうするつもりなの?
「・・・ん?ああ、終わったの?それじゃ、行きましょうか」
歩いて行った方向をぼーっと眺めていると、ミツキが戦利品をパシャパシャと叩きながら、不思議そうに見つめていたので笑顔で立ち上がる。それにしても・・・何と言うか、死体が生きて動いてるみたいな奴だった。矛盾してるけど。
はぐれないように手を繋ぎながらミツキと歩いていくと、その屋台を見つけた。他の屋台からぽつーんと離れている屋台で、なぜか誰一人としてお客が居らず、サングラスをかけた白髪でながーい白ひげの店主が暇そうに辺りの人を眺めている。怪しさメーターが爆発してそうな屋台ね。現に道行く人はまるでココに店なんて無いかのように歩いていく。
並んでいる商品は指輪やら、何かの棒やら、お面やらと様々。そしてその中に、三角の突起が2つ付いている帽子。所謂、猫耳帽子なるものを見つけた。
「ちょ、ちょっとココで待ってね。好きなもの食べてていいから」
止まったまま動かない私を、不思議そうに見ていたミツキに少しのお金を渡すと、あくまでも偶然屋台の前を通りかかった感じを装って近づいていく。
店の前に付くと、暇そうな店主がチラリとこちらを見るだけで特に何も言ってこない。私も何か良いのがあったら買おうかな?という感じで商品を眺める。
近づいて判ったけれど、ただの石らしきものや紙くずみたいな物まで売ってる。・・・何の店なの。看板がある場所には、無い物は無い、としか書かれていない。
そして、あくまでも興味も無いけれど、何となくといった感じで猫耳帽子に手を伸ばして、もふもふしてみる。サラサラとした手触りがした。中身がないから冷たくてすぐ潰れるけど・・・中身があれば非常に手触りが良さそう・・・そう、中身があれば・・・
サラサラ感を堪能して物思いにふけっていると、非常に冷たい視線が背中へと浴びせられるのを感じる。
チラリと後ろを見たら、チョコバナナを両手に抱えているミツキがジト目でこちらを眺めていた。
慌てて帽子を元の場所に戻すと、今度は指輪を手に取る。宝石もない無骨なソレは、私好み。そういえば、楓のペンダント壊しちゃったわよね。思い出していると、要らぬ回想までしそうになったので慌てて思考を現実に戻す。・・・白ワインは暫らく飲め無さそう。
「これ、いくら?」
ついでに・・・あくまでもついでに!という感じで猫耳帽子と指輪を店主に見せると、やる気の無い声で値段を言った。馬鹿みたいに安かった。人気といい、値段といい、やる気といい、大丈夫なのかしらね、この店。
私の雰囲気がそうだったのか、それとも元々プレゼント用に準備してあったのか、ぎこちない手つきで包装をしてくれる。リボンを掛ける手がプルプル震えてるのだけれど、大丈夫?
お代と代わりに物を受け取ると、会釈をして離れる。異界に迷い込んだ気分ってコンナ感じなのかしらね。
ミツキの元まで戻ると、何故かぷくーっと頬を膨らませてご立腹の様子。チョコバナナが食べ終わって、手に持ってるたこ焼きが熱いのが原因だと思いたい。
「うりうり」
突付いて見るとぷしゅーとしぼんだ。突付かれるとしぼまないといけないルールでもあるの?
空気と一緒に怒りは萎んだのか、それとも気が済んだのか、また私の浴衣の裾を握って先導を行く。あっちで焼きイカを齧り、そっちでくじを引き、射的に輪投げ、りんご飴と忙しなく動き続けるミツキ。もう少しのんびりしてもいいと思うのだけれど。
ちょっと休憩とばかしに鳥井の下の階段に腰掛けてお汁粉を啜っていると、空が明るくなった。見上げると、ちらほらある雲の間に色とりどりな花火。
「・・・へぇ」
思わず声が漏れる。冬の花火というのも、これはこれで・・・。
ミツキも同意見なのか、暫らく階段の端っこに座ってぼーっと刹那に咲く花を眺める。咲いているのは一瞬なのに、見てる側はのんびりとしてるのが少し面白い。時間って、共有は出来ても共感は出来なさそう。
どのくらいそうしていたのか、夜空を彩っていた花は数を減らしていき、虚しさだけを残していった。
「・・・終わったわね」
ぽつりと呟くと、ぎゅっと手をつながれる。思わずミツキのほうを見ると、何処か哀しそうな目で首を振った。
「それじゃ、帰りましょうか」
最後に屋台で何かの花の種が入ってる植木鉢を一つ買うと、帰り道を歩く。私が無言なので、当然ながら会話は無し。
そういえば・・・。
ふと、夜空を見上げる。
あの子もあの花火、見たのかしら?
□ □ □ □
目の前では様々な花火が空を彩ってます。今だけは、普段空を見ない人たちも重い頭を上げてる事でしょう。なので、少しだけ休憩。
花火は少し苦手。
嫌でもあの人のことを思い出させるから。
私は色々に物から選択をして、そして今があります。私の隣に彼女が居ないとしても、それでも、一緒に居ることよりも生きていて欲しいと願えましたから。願うことしか・・・出来ませんから。
最後の花火も力尽き、夜空には静寂が帰ってきます。
それでも下の人たちはお祭りを楽しむでしょうし、そうしてもらわないとこちらも困ります。今夜は何人が行方不明になって、そして何人が死ぬんでしょうね。
それにしても、別に何をしていようが、目立たなければ判らなかったのに、悩ましいものです。
ではでは、お仕事を始めることにしましょう。
そういえば・・・。
ルカさん、寂しがってないかな・・・。
□ □ □ □
宿に着くと、ミツキはトコトコと何処かへと歩いて行った。方向的に・・・お風呂かな?
少しの寂しさを感じながらドアを開けると、楓はぼーっと外を見ていた。雰囲気がいつもと違う・・・?
「あ、お帰りなさい。どうでしたー?」
「ええ、色々楽しかったわよ」
「それはそれはー」
私に気付くと、にっこにこで両手を出された。・・・何?
「おみやげー」
ああ・・・それね。
「ちゃーんと用意してあるわよ」
「おおー」
プレゼント用に包装してあるソレを渡すと、さっそくバリバリと紙を破り始める。最初に猫耳帽子が出てきた。そして・・・あくまで私の気のせいであって欲しいけど、室内の気温が数度下がった。
「コレ・・・何?」
ポツリと呟く楓。そしてだんだんとその目から光が消えて・・・な、何が悪かったのかしらね?も、もしかして色?色なの!?とととにかくこれは拙い!
「そ、それだけじゃないのよ!ほら・・・」
「・・・」
慌てて猫耳帽子をどけると、指輪が出てくる。けれども、楓は指輪を見たままびくりとも動かない。ダ・・・ダメ?
そう思っていたけれど、溶けそうな顔で抱きついてきた。トンっと軽い衝撃を受けて転びかける。軽い血の香りが少しずつ理性を溶かしていく。
「付けてもいーい?」
「え、ええ・・・」
「えへへー♪」
楽しそうに左手の薬指に指輪を嵌めては、明かりにかざして見てる楓。薬指・・・って何だっけ?まぁその勢いで猫耳帽子も・・・。
「やー!」
「何で!」
何が嫌なのよ!色?やっぱり色なの!?ピンクは嫌だったの!?
「ちゅーしてくれたらかんがえるー」
「・・・」
少し悩んだ後、ちゅっと口づけする。数秒間だけ触れ合ってから、口を離すと、無言できゅっと抱きついてきたので、頭を撫でると狐耳がぴくぴくと動いた。・・・き、切り出し辛い。
「・・・じゅーでんちゅー」
そのまま、楓が満足するまで撫で続ける。
「・・・月が綺麗ですよ」
「・・・ええ、本当にね」
□ □ □ □
あの後、楓は帽子を被ると、用があるとかで何処かに出て行ったのでココにはいない。まぁあの子が何処かに行ってるのはいつものことだし、気にしなくてもいいわね。それに、私にはしなければならないことがある。
さて・・・どうしようか。
目の前には何かが入ってる弁当箱らしきもの。
別に食べなくてもいいんだけど、せっかく渡されたものだし、食べないでそのまま、というのは何だか目覚めが悪い。ほら、何処がダメだったのかとか、きちんと伝えないと進歩しないじゃない?まぁ、見た目その他全てが悪いのは明らかなんだけれど。
けれども、数分間悩んでわかったこともある。どうもこれは光に反応するらしい。だから今は真っ暗、別に見えないわけじゃないから平気だけど、見えないほうがいいってこともあるって言うのを今日知った。
花火でもあげているのか、窓から明かりが刺してきて少しだけ身構える。セーフだったのか、弁当箱は反応しない。
ソレらは当たりが暗くなると発行する気質らしく。弁当箱からは怪しげな緑色の光が溢れている。何本もあるソレは細長いきゅうりらしき見た目で、ぎょろぎょろと目玉が集まっては辺りを見渡している。あまりにも見つめていると、目が合うから極力見たくない。開けて気付いたけれど、付いてるのがフォーク。つまり・・・刺せと?コレを?
「・・・」
気合を入れるとフォークを握る。い、いくわよ!
ぶすっと緑色の郡に突き刺すと、何か薄皮を貫く手ごたえがする。まるで・・・いや、考えちゃダメよね。そちらの方を見ないようにして口付近まで運ぶと、一気に口の中へと放り込む。
ぷちぷちぷちっと何かを潰す歯ごたえと、どろりと生暖かい・・・液体。色々なものを想像しそうになるのを必死に我慢しながら、無心に租借をすると、段々と鉄の味がしてきた。
最後まで飲み込むと、安堵して弁当のほうを見る。
見て・・・しまった。
其処には、次はわが身かと目で訴えてる緑の・・・。
「喰えるかー!」
勢いよく弁当箱を鷲づかみにすると、窓から外へと投げる。宿の明かりに反応したピギャァァァァァァァという声が段々と遠のいていき、ぐちゃっという大変よろしくない音がすると、静かになった。
荒い息を整えながら部屋の電気をつけると、植木鉢がパリンと割れた。何かと思ってみてみると、其処にはちっちゃいミツキが倒れている。
「どうかしたの?」
問いかけてみるも、力なく腕を動かして、何かを訴えようとしている。
「ミツキ・・・?」
やがてその腕も動かなくなり、ぐったりと倒れて土に戻った。テーブルの上に広がる『ゴメンナサイ』の字。
ココに居るのは私だけ。そして・・・ミニミツキは何かを知らせるような仕草の後、目の前で消えた。
何か・・・何か私の知らないところで重大なことが起きてる気がする。
か、楓は!?
窓から半身を出して気配を探るも、何処に居るのかわからない。どうして・・・!?
言いようの無い不安に駈られて、窓から外へと飛び出す。チラチラと雪が降ってきた。真っ白じゃない、少しだけ赤みの入ったピンク色の雪。何故か、それが血が混じった雪に見える
誰でもいい・・・皆何処に居るの・・・?
□ □ □ □
ちらちらと雪が舞う中、当ても無く飛び続けていると、ただ気だけが焦ってくる。走った方が早いのだけれど、土地勘もわからないし、探すなら飛んだほうが早い。
雪は止むどころか、むしろ赤くなっていっている様に見える。
見下ろしても、誰も見つからない。祭りも終わったのか、人っ子一人居ない。
暫らく飛び回っていると、神社の境内に赤い何かがあることに気付いた。其処だけ、他と比べると異常とも言えるほど雪が積もっていて、その何かは人の形をしていた。黒く長い髪を広げたまま横たわる何かは、まるで人形のよう。もしかして・・・。
何かに近づけば近づくほど、嫌な予感が確信に近づいていき・・・その何かは、雪の上でぴくりと動かない楓だった。
「楓!」
走りよって抱きかかえるも、冷たい身体は人形の様に動かない。巫女服は赤黒く汚れていて、辺りには血の匂いが漂っている。嗅ぎなれた血の香り、信じたくはないけれど、楓の・・・。
辺りを見渡しても誰も居ない。原因を教えてくれる人も、手を差し出してくれる人も、こういう時、いつも傍に居てくれたミツキの姿も・・・無い。
とにかく、ココにいさせちゃいけないということだけはわかったので飛び立つ。
出来る限り、楓を風に曝させない様に背負って宿に向かっていると、夜空をふらふらと飛んでいる竜が見えた。どこかで見たことあるような竜は、不安定な飛行を繰り返して、落ちた。ちょっと・・・あれアリスのじゃないの!?
慌てて近寄ると、全身から粒子を漏らしながら消えていく竜が見える。そして、後にはお腹にナイフが刺さって、足や肩から血を流して浅い息をしているアリスの姿。
「ちょっと!アリス!?」
「・・・エウナ・・・さん・・・?無事で・・・よかっ・・・た・・・。申し訳ないんですが・・・ちょっと・・・連れてって・・・」
「わかったから喋らないで!」
苦しそうに微笑む彼女に言い放ってから、身体を抱きかかえると、アリスの指し示す場所を目指して飛び立つ。
私の知らないところで何が起きてるっていうのよ!
全てを知っていそうな楓は、目を閉じたまま動かない。
つい猟奇的に走っちゃうんだね
ちなみに裏話に解決編は無いですよ!何が起きたかくらいはさらりと書くかも
本当はバトルパートやら、閑話やらあったんですが・・・
積みました
このままだと何時まで経っても書けない!という危機を感じたので泣く泣くカット
結果として、意味わかんねー!内容になってしまいまして、本当に申し訳ございません
バトルパートは次話で出します、出してみせます
でも次話で保管したからってわかるとは限らないんだぜ!
本作品は他作品の子とかも普通に出てきたりします
別に知らなくてもいいですが、誰だこいつ?と思っても広く暖かい心で読んでいただけると幸いです
作者の体調不良とか、精神面の不安はありますが、時間は掛かっても書きます
というより、2週間ほど軽い咳が止まらないんですけど、誰か原因わかります・・・?
何かの病気?
次話は何時になるかわかりませんが、だらりとお待ち頂けたら幸いです
今回ほど長くはならないはず・・・というより、今回長すぎでしょう
何話分のネタ詰めたんだろう
とりあえず読み子さん書いて気分転換・・・
ではでは、少しでも楽しんでいただけたら幸いです