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恋人になったからといって焦ってはいけません

居酒屋行ったらマンボウのお刺身ってあったんですよ

美味しかったんですよ・・・

まさかその一週間後急性腸炎で入院するとは思いませんでした

ということで作者はメリークルシミマスでした

マンボウは関係ないと思うんですけど!


食べ物気をつけよう・・・ね?


まぁ、冷やしトマトにお砂糖が意外と美味しかった


関係ないけどキルミーベイべーが面白い

4コマ漫画っていいですよね!

あ、ただの宣伝です


エウナ

吸血鬼 吸血鬼である必要性とか考えたら負け 基本打撃 学習?しないさ!


魔法使い 以外と魔法を使わない魔法使い 何度も言いますが告白はしてないから!


アリス・イン・ワンダーランド

魔術師 便利屋さんですが・・・地味? もっぱら召喚とか火とか 2代目


ミツキ

クラゲ いいよね! 来年こそ水族館に行こう 人だったりクラゲだったり 刀


魔術師=魔法を使う人

 赤いコートを着ている少女が、親の敵の如くガラスケースを睨みつけている。ケースの中には色とりどりの魔の産物。別名をケーキ。クリスマスに一人で食べるとそのあまりの美味しさに思わず涙が出そうになるアレである。大変おいしゅういただきますが、作者はぼっちじゃないです。そう思っていたのに、急性腸炎でそれどころじゃなくなったよ畜生!今年は入院クリスマス・・・。


「うむむ・・・何にしましょうか・・・」


 悩みに連動するかのように、少女の狐耳がひょこひょこと揺れる。もうすぐ閉店とも言える店内、お客と呼べそうなのは少女ともう一匹。・・・単に他の客が近寄らないだけとも言える。現に店内へと突入した何人かの勇者たちは、赤いコートに巫女服とひょこひよこと揺れる耳、そして隣でふわふわと浮いているクラゲを見ると、愛想笑いを貼り付けて回れ右を始める。


「ミツキはチョコとイチゴどっちがいいですか?」

「・・・」

「ふむぅ・・・フルーツストでしたか」


 少女は頭の隣に浮いているクラゲ、ミツキに話しかけると再びショーケースへと視線を戻す。この時間の担当となった哀れな店員はクリスマス期間に突如現れた、異形のお客に涙を流している。


「おねーさんおねーさん、お勧めは何ですかー?」

「へ・・・は、はい!」

 それでも、お勧めを聞かれれば答えなければいけないのは店員としての性か・・・。早く買って帰って欲しいという狙いはあるとしても。


「ふむぅ、どーしよっかなー」


 だがしかし、お勧めが簡単に聞き入れられるとは限らず、またケースへ目を向ける少女。店員に幸あれ。


「エウナさんは何が好きかなー」



□ □ □ □



「どうしました?」


 一歩も動けないまま数分が過ぎ、時間だけがじりじりと私を急かしている予感がする。それでも、何とか振り上げた右手は空を切り、空しくテーブルの上へと落下する。まさか・・・そんな・・・!


「・・・エウナさん?其処まで開くのが嫌ですか?」


 呆れた顔でアリスが言った。目の前には「たのしいまどうしょⅠ」と書かれた本。だ、だってコレ、Ⅰって事はⅡもあるんでしょう?それどころかⅡだけならまだいいけれど、Ⅲもある可能性がある!


「はぁ・・・きょーも本は使わずに行きますか?」

「はーい」


 かくして忌々しい本はテーブルの隅へと追いやられ、代わりに湯気を上げている紅茶が置かれることになった。アリスの視線が多少痛いけれど、時には些細なことを気にしない器量も大事だって幽霊が言ってた。


「それじゃ、今日は魔術師の弱点についてです」

「弱点?」


 魔術師の弱点って言うと・・・打撃戦とか肉体言語とか?魔法が使えないなら、殴ればいいじゃない。とそんなに偉くない人も言ったらしいし。ちなみに件の人物は数日後、人は・・・誰かになれる!という言葉を残して謎の失踪をしたとか何とか。

 そんな馬鹿なことを考えていると、アリスはうむうむと頷いて進めた。


「基本的に・・・というか理屈的には魔法で出来ないことはありません。理屈上・・・というより極論では、神殺しでも転生でも何でも出来るのが魔法です。ですが、そんな魔法にも弱点があります」

「ふむ?」


 聞いてるだけなら何でも出来る訳だから、穴は無い。呪わば穴二つって言うのは弱点にならないでしょうし。神殺しをする意味があるのかはわからないけど。


「まず1つ目として、素質が大きく関わるので安定感がありません。人それぞれで向き不向きがあるので、同じ事をしても結果にばらつきが出ます。

 2つ目として、使う魔法によっては媒介が必要となること。簡単に言えば、水が無いのに水を扱う魔法は使えないですし、土が無いのに土を使う魔法は使えません。まぁ、扱う上での条件ですね。

 最後に、奇襲にとても弱いこと」

「・・・普通、奇襲に強い奴なんてほぼ居ないと思うのだけど?」


 突然襲われるのと正面から堂々と襲われるの、どっちが楽かなんて言うまでも無い。


「そうですね。ですが、魔術師の場合は特に弱いんです。さっき魔法には条件が必要だって言いましたよね?つまり、魔法を扱う側はそれなりの準備をする必要があるんです。なので奇襲されると、準備不足のまま戦うことになるので不利になります。もちろん、魔術師側もある程度の対策はしてますが・・・事前に仕込んでいるもの程度しか使えないので、奇襲された側は相当きつい戦いになります」

「ちょ、ちょっと待って、仕込んでるものって何?」


 記憶違いじゃなければ初耳なんだけど・・・あれ?もしかして説明されてた?


「ああ、ソレはまだお話してませんでしたね・・・コレは実際に見た方が早いですかー」


 私が密かに安堵している中、彼女は何処か嬉しそうに言うと服のポケットをごそごそと漁り始めた。


「さてさて、種も仕掛けも無いことを確認してください。いやまぁ、実際に種も仕掛けも無かったら元も子もないので、きちんとあるんですが」


 そして渡されたのは折りたたまれた真っ白い長方形の紙。大きさは手のひらくらい。折ってあるとしても、そこまで大きい紙じゃない。広げてみるとただ一文字、火とだけ書いてある。なるほど、種も仕掛けもありそうね。

 そんなに見るものも無いし、ある程度見てからアリスへと返すと、彼女は悪戯をするような顔で笑っている。


「・・・コレが何?」

「よーく見ててくださいねー」


 そして、彼女は人差し指と中指の間に紙を挟むと、少しだけ目を細めた。

 次の瞬間、ボウッと紙から火柱が昇って部屋の中を一瞬だけ明るくすると、燃え尽きた。ついでに、前のめりになって見てた私の腰も抜けそうになる。気合で堪えたけど。


「コレが仕込みです。つまり手品みたいなものですね。エウナさんだって、やり方さえわかれば似たことは出来ますよ」

「へ、へぇ・・・そ、それは素敵ね」

「はい!ということでエウナさんに実践して貰いましょー」


 アリスは再び懐から紙を出しながら楽しそうに言ってくる。

 ・・・え?


「私が?やるの?今のを?」

「エウナさんが、やるんです、今のを」

「じょ、冗談よね?」

「冗談じゃないです」


 いや、だって天井とか焦げてるし。もし失敗したら火達磨でリアルファイアーマンじゃない?マンじゃないけど。


「まぁまぁ、きちんと教えてあげますから」


 そ、そんな嬉しそうな顔で言われても説得力無いですアリスさん。


「しっかり持ってくださいね。落としたら大変なことになりますから」

「え、ええ・・・」


 恐る恐る紙を指の間に挟む。と、突然燃え上がったりしないわよね?


「それじゃ、目を閉じてください」

「め、目を閉じるの?」

「はい、そのほうがやりやすいので」


 目を閉じると、当然ながら真っ暗闇が出迎えてくれる。もし、やりやすい、の意味が違ってたら刺されそう。


「私の声だけを聞いてください・・・いいですね?あなたの前には1枚の紙が見えます」


 暗闇の中、懐かしさを感じる声が聞こえる。そして、先ほどまで目の前にあった白い紙が見えた。


「その紙は最初は何の変哲も無いですが、意識を集中させると段々と燃え上がってきます・・・」


 声が聞こえてくると、パチパチと紙が燃え上がっていく。


「はい、目を開けてください」

「・・・コレは」


 言われた通りに目を開けると、白い紙がパチパチと燃えているのが見える。と、いうか。先のほうでパチパチと燃える火は段々と下へと下りて、私の指を焦がそうと迫ってくる。



「熱!ちょっと!コレ熱いんだけど!」

「当然じゃないですか、燃えてるんですからー」

「いやそうじゃなくて!火!火どうやって消すの!?」

「普通に離してください」


 言われたとおりに離すと、アリスが落ちていく紙を摘んで灰にした。


「きちんとできましたね」

「・・・」


 こいつ・・・。

 楽しそうな顔のアリスを視線で呪うべく睨む。


「そんな怖い顔しないでください。コレが仕込みです。事前に準備をしておいて、必要なときに発動するんですね。見ての通り、一度きりしか使えません」

「事前に言ってくれればよかったのに・・・」


 この恨み・・・晴らさずにいるべきか・・・。


「ま、まぁ今日はここまでにしておきましょう。私も結構忙しい身ですからね」


 尚も恨みの視線を送り続けていると、彼女はそそくさとソファから離れて、奥にある作業机へと向かった。

 しばらくの間、ごそごそと何かしているアリスのことを睨んでいたけど、その細い肩を見ていたらふと名案が浮かんだので立ち上がる。抜き足差し足、忍び足・・・。


「・・・?エウナさんどうかしました・・・ひゃうっ!?やっやめ・・・」

「ふっふっふー、良いではないか良いではないかー」

「んっ・・・エウナさんなんでそんな上手・・・ひぅっ」

「こんなに硬くして・・・気持ちいいんでしょう?」


 もみもみとアリスの肩を優しく揉むと、嬌声を堪えるかの様に唇を噛み始めた。よろしい、ならばその根性、私が砕いて見せよう。それにしても硬い・・・頑固親父の頭くらい硬い。疲れてるのかしらね?


「・・・んっ・・・ひっ・・・」


 時折堪えられないような声が部屋に響く。何だろう・・・ものすごい背徳感がある・・・。ま、まぁ疾しいことはしてないし、大丈夫よね?・・・ね!?

 そのとき、部屋の中で何かが割れる音がして、部屋の空気が凍りついた。音のほうを見れば、砕けたカップにお盆、赤いコートと巫女服の裾。

 ゆっくりと視線を上げれば、凹凸が少ない自己主張の無い身体。身体の上の頭には半笑いのままで光を失った瞳が二つ。あらやだ、めっさ怖い。


「ちょっ・・・ちょっとまっ・・・!」


 彼女は私と目があった瞬間身を翻し、ドアを閉めた。部屋の中で無情にも入り口が閉じる音が響く。


「えーと・・・追った方がいいんじゃないですか?」

「そ、そうよね!」


 凍りついた時間がアリスの言葉で溶かされたので、慌ててドアまで駆け寄る。そのまま間髪入れずにノブに手を掛けると・・・。

 私の手がドアの中に沈み込んだ。


「え?」


 そのまま、ずぶずぶと手首辺りまで飲まれていく。包まれている右手は何処か生暖かく、異物を押し返そうと力を込めてくる。まるで、肉の塊に手を無理やり突っ込んでいる様な感覚。

 やがて、それも限界を迎えてたのか・・私の右手がはじけた。

 何が起こったのかわからない間に弾け飛んだ肉片はべしゃっ、と音を立てて私のドレスと床を赤く色付ける。


「封印術・・・ですか」


 ポツリとアリスが呟く声が聞こえる。・・・封印術?

 とりあえず右手の事は置いておいて聞くことにする。


「封印術?結界じゃなくて?」

「大まかには一緒ですが、厳密には違うらしいです。結界は中のモノを守るためのもの、封印は中のモノを出さないためのもの」

「・・・?一緒じゃないの?」

「んーと・・・私も伝聞とか本で読んだ程度なので、詳しいことはわからないんです。違いは・・・試してみたほうが早いですか」


 そう言うと、アリスの近くに火球が1つ浮かんだ。


「離れててください」


 言われたとおりに離れると、火球が一直線にドアへと突っ込んだ。けれど、そのまま爆発するものかと思った火球はずぶずぶと飲み込まれると、そのまま跳ね返って窓のほうへと向かっていき、そこでまた飲み込まれる。

 何度も何度も、爆発することもなく火球は速度だけを上げてドアと窓の間の往復を続ける。


「今はある程度広いところだから何の被害も無いですが、もしも狭かったら・・・自爆することになりますね」


 往復を続けていた火球は、突如見えない壁に包まれた様にして爆発する。四角い炎が宙に浮く。今のが結界か。


「・・・そうですね、付け加えるなら、結界は中のモノを守るのが目的で、外からも中からも攻撃に強いです。ですが、封印は中にあるモノに何があっても、中にあるもモノがどうなっても出さないことが目的みたいです」

「対処法は?」


 一応聞いてみると、ふるふると首を横に振った。


「外からなら簡単に壊せるらしいんですけど・・・さっきの様子を見た感じだと中からじゃ・・・」

「そう・・・」

「それにしても・・・」


 封印術なんてとうの昔に廃れて無くなったはずなんですけどねー?

 アリスは不思議そうに首をかしげながらドアを眺めている。

 弾けた肉片は元に戻ることも、灰となることもせずにその場で蠢いている。そのせいか、右手の治りがやけに遅い。どうなっても出さない・・・か。



□ □ □ □



「ごほっげほっ・・・」


 部屋の中で肉が飛び散る音がすると、少女は蹲って激しく咳をした。咳が収まった後も、身体はふらふらと落ち着かず呼吸は荒い。


「ユ・・・メ・・・?」


 少女は誰も居ない廊下で不思議そうに呟くと、ふらふらと外へと出て行く。今、彼女を追うものは何も居ない。



□ □ □ □



「そういえばさ」

「んー?何ですか?」


 正直何もすることが無いので、ドアへと消しゴムを放り投げるとソファにうな垂れる。ドアは消しゴムで少しへこむと、そのまま飲み込んで数秒前まで消しゴムだった何かを吐き出した。

 こちらから何もしない限り害は無いようだし、かといって出れるわけでもない。そもそも片手はまだ治ってない。つまり話すくらいしかすることが無い。


「今日は媒介?だかの話だったじゃない?」

「はい、そうですけど?」

「ふと思い出したんだけど、さっきあなた媒介どころか何も無い場所から火出してたわよね?」

「ああ、ソレですか。何事にも例外あり、ですよ」


 アリスはくすりと笑うと片手を動かす。すると何も無い空間から出てくる火の玉。


「媒介の概念は高位の魔術師までいくと無視出来るんですよ。まぁー、さすがに水も無い場所で水を出したりするのは無理らしいですが・・・少しの水で大量の水にすることは可能らしいです。まぁ、私は簡単に出来ますけど意外と出来る人は居ないんですよ?」

「ふーん・・・ソレはまた便利な」


 それにしても高位の魔術師ねー・・・。

 お手玉の様にして火の玉で遊んでいるアリスを眺める。見た目は子供、中身は知らない。どう見てもそんなすごい人には見えない。というか、他の比較対象があの子しか居ない。

 アレはアレで魔法使ってるところほとんど見たこと無いのよねー。


「・・・不信な目ですね。コレでもその道では有名な魔術師なんですよ?」

「有名なの?」

「はい!」

「この前プリン食べられたと思って怒ってたのに?」

「・・・はい」

「実はそのプリンは自分で食べてたのを忘れただけだった事に後で気付いて平謝りしたのに?」

「はい・・・」

「それでも食べたくて楓とミツキから半分ずつ貰ってたのに?」

「そういえば、あの時エウナさんだけはくれませんでしたね」

「・・・トコロデ今何時カシラネー」


 風向きが怪しかったので、強引に切り上げて立ち上がる。風を読め、と誰かが言っていた。背中に感じる白い視線を気のせいだと割り切って振り子時計へと向かうと、ソレは物言わぬ沈黙を保っている。


「・・・止まってますか?」

「・・・止まってるわね」


 カチコチと安らぎの時間を告げてくれる癒しアイテムは、冷たい現実を突きつけてくる。一応振り子を揺らしてみるも、中で何かが壊れてるのか効果なし。


「そういえば、伝説に時の魔術師って呼ばれてた人が居たんですよ。あ、エウナさん立ったならストーブ強めてください」

「へぇ・・・伝説にねぇ・・・。寒いの?」


 中、となっているストーブのスイッチを見ながら答える。スイッチは弱中強の他、何故か最強やら凶とか最凶とかある。ドレにすれば良いんだろう。

 少し考えた結果、最凶辺りに合わせてみると、すごい音を立てて赤くなり始めた。


「上げたわよ」

「ありがとうございます。何でも何時まで経っても姿かたちが変わらなく、自分を殺せたら願いを叶えるとかのたまって歩いていたとか。歳も考えずに不思議な世界に迷い込んだ旅人、とか名乗っていたから・・・通り名はアリス・イン・ワンダーランド。そのせいで変な伝説も出来ました」

「・・・あなたと一緒じゃない」

「私が二代目を襲名する事になったんです・・・哀しい事に・・・」

「ソレは・・・ご愁傷様」


 襲名すると何が変わるのか判らないけど、色々苦労でもあるんでしょう。たぶん・・・。


「それでこれからが本題なんですが・・・なんとその人、赤いコートを着て魔法使いと名乗っていたとか」


 赤いコートで魔法使いねー・・・赤いコートに魔法使い・・・。あれおかしいわね。身近な奴に心当たりが一人居るんだけれど。


「・・・冗談でしょう?」

「・・・伝説です」

「ま、まぁ深く考えないほうがいいわね。ところでその話、まるで後付みた「それ以上いけない」」


 真剣な顔のアリスが私の言葉を遮ったので黙る。


「あ、そういえば知ってますか?桜なんかの木にも花言葉ってあるんですよ」

「そうなの?」


 アレは・・・一応花って呼べるの?


「はい、桜なら優れた美人や純潔。松なら不老長寿や同情何かになります」

「へー・・・」


 相変わらず変なことは知ってるのね。ところで、松の花って何。


「あ、それなら楓にも花言葉ってあるの?」

「ありますよー。それは確か・・・」


 どさり、と何かの倒れる音がした。


「・・・アリス!?」

「あ・・・れ?」


 不思議そうにしている彼女を抱きかかえると、身体はとても冷たい。どこかで感じた冷たさ。


『ずっと、殺したいと思っていたんですよ』


 その場に私は居なかったはずなのに、あの子の声が聴こえてくる。今のは・・・?いや、今はそんなことより・・・。

 そうね、何もしなければ害は無い、あの子に限ってそんな甘い事があるわけ無いか。


「エウ・・・ナ・・・さん?」


 ソファにアリスを寝かせると、ドアの前へと立つ。

 覚悟を決めて右拳を叩き込むと、めり込むような手ごたえ。弾かれる前にすぐに肩を回転させて同じ場所へ左手を叩き込む。

 ひたすら、ただ速度と威力だけを求めてドアへと拳を叩き込む。骨が折れては繋がる感覚が、何処か懐かしい。

 拳を叩き込む。

 血が飛び散った。

 構わず叩き込む。

 骨が砕けた。

 気にせずに殴る。

 肉が弾ける。

 けれども効果はあるのか、片手が完全にダメになってきた辺りで手ごたえが硬くなってくる。伸びていたゴムが段々と弾力をなくしていく手ごたえ。時間が経った肉が、硬くなっていく感覚。後・・・少しだけど・・・きついか。


「・・・エウ・・・ナさん・・・代わ・・・ります」


 骨がむき出しになり、手がグニャグニャになってきた辺りで後ろから声が聞こえてきた。そして私の隣に並ぶ竜。


「平気?」

「一人だけ・・・寝てるわけにも・・・行かない・・・ですから」

「そう・・・それじゃお願い」

「そんなに・・・持たないと・・・思いますが」


 私の代わりに連打を始める竜を見ながらドアから離れた。ドアの前の床と私のドレスは元が何色だったのかわからないくらいに赤黒く染め上がっている。

 手の治りが遅い・・・でも、それよりも・・・アリスがどれだけ持つか。

 ソファに横たわったままでいるアリスを見ると、もうあまり動けない様子。・・・もう、持たないか。

 ドアのほうでバキッと何かの砕ける音がする。


「ありがと、もう行くわ」

「だけど・・・」


 両手は完治どころか何とか形を保っている程度で、コレで殴るのは無理といったところ。だけど・・・。


「平気よ」


 ドアから出来る限り距離を取る。あの子が何を考えているのかわからないけれど、ソレも含めて強引に壊す。


「なんとしても、ココから出てあいつを殴らないといけないしね」


 少しだけ笑うと、頭の上のお面の位置を調整して、誰も殴るものがいなくなったドア目指して走り出す。

 短い距離で出来る限りの加速をしながら身体を捻る。遠い過去に思い出すのは、人の力だけで強引に結界破りをしようとした誰かの姿。あの時は跳んでいたけれど、さすがにそこまでの距離はない。

 そのまま回転力と速度を乗せて足を叩き込むと、今までにない感覚。空間と一緒に自身の肉を無理やり引き裂いていく幻覚さえ覚える。

 やがて、驚くほどあっさりと。

 とても簡単にドアは吹き飛んだ。


「開い・・・た?」


 部屋の中の冷気が外へと漏れていく感覚。ひんやりとした、静かな廊下が日常へと戻ってきたのを告げているみたい。思わず感動を噛み締たくなるけれど、ソレよりも何よりも、まずはアリスをどうにかしないと・・・。

 慌てて部屋の中へと戻ってアリスを抱きかかえると、2階の彼女の部屋まで運ぶ。

 ベットに寝かせて毛布を掛けた後、ストーブの火を全開にすると、何か温かいものでも持って来ようと立ち上がる。彼女の冷たい身体は生気を感じず、ぐったりとしている。

 その白い服は自身の血で赤く染まっていて・・・瞳を閉じたまま浅い呼吸を繰り返す。


『「エウナさん・・・ごめんなさい」』


 聴こえてきた声は幻聴か、それとも現実か。

 どちらにしても、私はあの時と同じ様に軽く頭を振ると部屋から出た。

 頭が・・・痛い。



□ □ □ □



 誰も居ない屋敷のテラスで、赤いコートを着た少女が誰かを待つようにして蹲っている。やがて、そんな少女を包み込むようにして、空からぽつぽつと雪が降ってきた。


「・・・氷華ちゃん?」


 少女は冷たくない雪に気付くと、少しだけ顔を上げて問いかけ、激しく嘔吐する。


「目を閉じて、耳を塞いで・・・知ろうとしなければずっと変わらないのに・・・」


 嘔吐が納まると、少女はポツリと呟くと、まるで温もりを求めるようにコートの中へと顔を埋めた。


「世知辛い世の中・・・」


□ □ □ □



 とりあえず何か温かいものでも淹れようと、頭痛を堪えつつ台所へと行けば、こぽこぽと音が聞こえてきた。中を覗き込むと水色の髪がサラサラと揺れている。


「ミツキ?」


 コンロに向かって何かをしている様子のミツキへと声を掛けると、私に気付いたのか少しだけ振り向いて・・・何故か視線を戻す。・・・何?私嫌われることでもした?

 密かな哀しみを胸に秘めながらも、それでもココに来た理由を実行すべく彼女の隣に立つと、ピクッと肩が少しだけ動いた。

 コンロの上には火に掛けられた薬缶、テーブルには2つのカップ。コレは・・・?期待していいの?


「・・・もしかして何か作ってくれるの?」


 ココで『はっ!そんなわけ無いじゃないバーカ!』とか言ったら、2度とそんなことが言えないように蹴り潰して進ぜよう。

 けれどもそんな考えは無かったのか、ミツキは少しだけこくりと頷いたので、私の折れかけてる足1号の出番は無かった。まぁ・・・それならそれで。


「ついでで悪いんだけど、アリスの事もお願いできる?」


 コクコク。


「そう、ありがとね」


 頭を撫でると、撫でやすいように少しだけ頭を傾けるのが微笑ましい。

 気が向くまで撫でてから、ぽんっと手を置いて部屋から出ようとするけど、抵抗を感じたので立ち止まる。

 振り向くとミツキがドレスの裾を握り締めている。


「・・・何?」


 ふるふる、と首を振られても、私には何を言ってるのかわからないわね。ええ・・・本当に。


「何も無いのなら、行く場所があるんだけど?」

「っ・・・」

「・・・」


 無理に行こうとすると、抵抗が強くなる。

 ねぇ、手荒な真似はしたくないの・・・言わなくてもわかるでしょう?

 ミツキはそれでも何かを言おうとして、そして口を閉じる。部屋の中に薬缶のお湯の沸く音が響く。

 やがてパタパタと全身を探ると、メモ帳と鉛筆を取り出して何かを書き始めた。

 拘束からは逃れたのだけれど・・・無視して行くと泣かれそうなので黙って見守る。


『何しに行く?』

「平和についての意見交換でもしようかと」

『怒ってる?』

「あなたには怒ってないわよ」


 けど楓は・・・あの子は、アリスを殺そうとした。ソレは、冗談で済ますわけにはいかない。


『ダメ』

「・・・」


 さてさて・・・どうしよう。

 目の前にはぷくーっと膨らんだまま、断として動かぬ意志を告げているミツキさん。そこまでする恩でもあるのか。

 強引に振り切っていくのもいいけど、そうすると2階で寝ているAさん(仮名)が何処か遠い世界に逝ってしまう。

 かといって妥協するのは・・・どうだろう。アレ?別にそれでもいいんじゃないの?

 まぁ、妥協もいいか。


「わかった。わかったから行かせて、殺しに行くのは止めるから」


 殴るけど。


『ダメ』

「何で!」


 これ以上無い妥協案なのに他にどうしろと!?


『ケンカ ダメ』

「・・・」


 さてさて・・・どうしよう。

 目の前には少し涙目になっている頑固な水色クラゲ(人型)、正直そろそろ上で瀕死になっているAさん(仮名)の命が危険な気がする。ミツキの頑固でアリスの命が危ない!


「わかった、わかったからケンカしない。だから行かせて、ね?いい子だから」

『ダメ』

「他に何が言いたいのよ!」

『殴る ダメ』

「もうわかったから・・・行かせて」

『約束』

「はいはい、約束約束」


 こくこくと満足そうに頷くのを確認すると、台所から出て外へと歩き出す。何だか・・・興が削がれたというか、そういう気分じゃ無くなった・・・。

 知らない間に雪が降っていた様で、ちらちらと白い綿が当たっては消えていく。けど、冷たく感じないのは気のせい?

 どうしてか、彼女の位置がわかる気がするので、自身の勘に頼って空を飛ぶ。これが一心同体って奴ね!絶対違うと思うけど。

 やがて眼下に洋風の屋敷が見えてくる。もう誰も住んでいないのか、庭は雑草で埋め尽くされて、窓は割れて荒れ放題。

 そして、テラスには赤い影。


「ボクを、殺しに来てくれたんですか?」


 トンっと後ろに着地すると、見えてるのか、声を掛けられた。


「最初はそのつもりだったけど、謎のクラゲに涙目で止められたから無くなったわ」

「そうですか・・・」


 ソレは残念です、とポツリと呟くと立ち上がる。


「で、エウナさんは何をしにきたんですか?」

「話も聞かずに居なくなるお姫様が泣いてるんじゃないかと思ってね」

「そうですか」

「・・・」


 そう言うと何処か遠くのほうを見る楓。

 え・・・?会話終わり?


「そ、そういえばアリスは何とかなりそうよ」

「・・・」

「・・・」


 どうしよう・・・会話が・・・ない。私、ホントに何しに来たんだろ・・・?まさか本気で平和について話すわけにはいかないし。


「ねぇ、エウナさん?」

「ん、んー?」

「エウナさんは泣けますよね?」

「・・・?」


 どういう意味?


「まぁ、普通に泣けるんじゃない?」


 そんな機会早々ないからわからないけど。


「そう・・・ですか・・・」

「楓?」


 背を向けている彼女はどんな表情をしているのか、私にはわからないけど・・・泣いてるような気がした。


「ボクね、泣けないんですよ」

「・・・どういう意味?」

「表情が作れないって訳じゃないんです。喜怒哀楽は全部出来ます。けれども・・・どうしてか泣くのだけ出来ないんですよ」

「・・・」

「でもね、それでも、眠って起きると頬が乾いてる時があるんです。おかしいですよね。起きてるときはどんなに悲しくても泣けないのに、意識が無いときは泣けるだなんて。きっと、ボクは」


 あなたが死んでも泣くことは無い。

 そういうと彼女はくすくすと笑った。その姿は何処か寂しそうで、何処か悲しそう。

 だから私は少しでも距離を詰めようと、その背中へと近づく。・・・何が出来ると言うわけでもないのだけれど。


「っ!?」


 突然楓は振り向くと唇を押し付けてきた。柔らかい感触と一緒に、カツッと歯がぶつかった。


「・・・」

「・・・」


 無言でされるがままにされる。

 さてさて、何時振りだっけ?

 私がそんなことを考えている間に、彼女は離れると胸に顔を埋めた。


「・・・愛してます」


 キスと同じく、告白も突然だった。


「ボクは、あなたさえ笑ってくれるなら何があっても諦めないから・・・だから、ボクが居なくても、笑って居てくれますか?」

「・・・楓」


 無理している様な笑顔を浮かべている彼女の身体は少し震えていて、その震えを止めたくて無言で抱きしめる。もう震えることがないように、気持ちが伝わるように。


「正直、私がその約束を守れるかはわからない。けど・・・」


 私も愛してる。


「んっ・・・」


 二度目のキスは優しく、長かった。そして離れたときにぴくぴくと楓の耳が動いてるのに気付いた。気付いてしまった。


「・・・えへへ♪」


 ・・・アレ?れ、冷静になったら正式に告白するのって・・・は、始めてじゃない?

 自覚をすると起動する回路。頬へと上っていく熱。その場の雰囲気とはいえ、面と向かって言ったという羞恥心は絶え間なく生産されて私の腕に力を込めていく。


「にゃっ・・・!?」


 い、いや・・・これまでにも好きみたいな事言ったり、キスとかはしたことあるけど・・・愛してるとかは初?初めて?昨夜はお楽しみでしたね?


「ちょっ・・・エ、エウナさん・・・力・・・つよ・・・」


 何?これから毎日言わないといけないの?甘い生活?家族計画!?正直ソレはどうかと思うの!?で、でも一応言葉にしないと伝わらないというか・・・。


「もう・・・む・・・り・・・」


 ふと見ると、私の腕の中で楓がぐったりとしている。・・・羞恥死?この子にもそんなものがあったのね。

 ん・・・?これは大変!こんなチャン・・・いや、夜中に長時間居たから身体がひ、冷えたのよね!?

 うん、こっ告白っもしたのだし!そそそそうとなったら・・・早速べべベットに・・・。

 そう決めると楓を抱えて急いで帰路に着く。帰路に着こうと思った。帰路に着きたかった。


「エウナさんごめんなさい!でも、恋人同士になったからって、いきなりソレは早すぎると思うんです!」


 ・・・あれ?

 ここに居ないはずの誰かの声と一緒にゴンッという衝撃。私の身体は意志に反して人形の如く倒れこみ、飛び散る誰かの血。

 あ・・・楓・・・守らないと・・・。

 最後の力で楓の身体をしっかりと抱きしめた瞬間、首の上を冷たい線が走った感覚がして、私の首が飛んだ。


「ミ、ミツキさん!そ、そこまでしなくても」

「・・・」


 意識が閉じる前、そんな会話が聞こえてきた気がする。

はい、ぎりぎり年内間に合いました


へへ・・・ほぼ徹夜で仕上げたぜ


まぁ今年も終わるわけで、私が投稿してからとっくに1年が過ぎてるわけですが!

年内コメント数1という!

しかもそれ短編のときだしね!

連載開始からは実質0!

さすがに予想外でした


まぁ、読んでいただけてる様なのでありがたい限りです

これで閲覧数一桁連打とかいったら失踪してます

というより何度か失踪しようと考えてました

話もまだ折り返し地点と言うことで!


長くだらだら続きそうですが、春には終わる予定なので

お暇な方は来年もお付き合いください


一応告白しましたしイチャイチャすることになるのかなー?

次話は・・・こっちか別の方か悩み中


ではでは、お付き合い頂きありがとうございます

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