ある国の代替わり事件
その国は、先日 王が、崩御したばかりだった。新たに即位したのは、王の第一子であった 王太子。この国に存在していた王子並びに王女は、全員で7人。次の世継ぎを指名すべき 王は、突然 死んでしまった為 色々な思惑が、飛び交うようになる。
「次の王は、やはり 王太子で決まりですかな?」
その一声に 意見は、いくつかに 分かれることになった。
「いや………陛下は、確実な指名をしたわけではない。それに 王太子はなど 名ばかりですからな?母君である 王妃は、既に無く 王太后に庇護されているだけの王子など………」
「そうだ………やはり ご側室の中でも 一番 通われていた 第4王子が、王になるべきでは?」
「ならば 財力のある 第3妃の産まれた 第2王子でしょう」
「だが 王の器で考えるのならば 聡明な第3王子ではないでしょうか?」
「女王の誕生も、よろしい と 思いますがねぇ?」
「確かに 第2王女は、統率力もありますから………問題は、ないでしょう」
その中には、自分の娘の産んだ 子供を、王にしたい という 甘い考えを持つ者もいて 様々な人々を巻き込んだ。王は、別に1人にだけ 寵を与えているわけでは、なかったので 側室達は、皆が皆 自分が愛されている と 思い込んでいた。貴族の間でも 様々な派閥に分かれ 互いに警戒し合っている。
「陛下が 最も愛していたのは、このあたくしよ?あたくしの息子が、次の王になるべきなのよ」
「いいえ?王は、寵がわたくしに集中していることを悟られない為 嫌々ながら 他の方の元に通っておられたの。本当に愛されていたのは、財力もある わたくしと我が王子のみ」
「まぁ 何を勘違いなさっているのかしら?陛下は、何度か 愚痴を零しておられたわ?貴女の存在が、目障りだと。ただ 実家の財力のこともあって どうにかできないか と 相談されたことがありますもの」その発言に 側室の1人は、顔を真っ赤にさせて 発言を発した 側室につかみ掛かる。
「おやめなさい 見苦しいですわ?王になるべき 王族の話し合いですのに こんな馬鹿馬鹿しい喧嘩。新たな王になるには、その素質がなければなりませんのに」
「素質ならば 我が娘もありますわ?女だからといって 差別は、してほしくありません」
「あら………貴女の王女様は、この前 公の場で 恥をかいたのではなかった?身分のない 使用人を陥れるつもりが、自分で罠に嵌ったと 噂になっているのよ?それのどこが 王の質があるのかしら?わたしの娘の方が、賢いわ?」
産まれた子供が 正妃を含めた 7人に各自いることが、厄介な要素だった。それも 正妃以外の全員が、我が子こそが 王に相応しい と 信じて 疑わないのだから。
そんな中 巻き込まれやすいのが、どこにも所属していない 中立的な立場だ。使用人達の間でも 派閥ができ 仕事に支障が出てきているのだから 迷惑極まりない。特に 王宮内で様々な来賓などと接する 女官達は、その傾向が強かった。女の争いは、後宮内だけではないのだ。
「あなたは、どの派閥に属しているの?もしも 第2王子派じゃないんなら 他をあたって頂戴?」
「そんな………仕事をこなさないといけないのに」
「だったら うちの派閥に入りなさいよ。勿論 家族も親戚も一緒にね?」
「ちょっと?勝手に 彼女を、仕事を餌に 誘いこまないで頂戴?卑怯じゃないの」
「そんなの知ったこっちゃないわ?自分で仕事を手に入れられないから 手をさし伸ばしてあげているだけなんだから。わたしは、彼女に慈悲を与えているのよ?」
「あ でも………平民は、いらないわ?いても 価値がないんだから。でも 面倒な仕事をしてくれるだけ 必要になるかもしれないわね?」
「ちょっと 勝手にうちの派閥の仕事をしないで頂戴?あなた 他のところに所属しているんでしょう?嫌がらせするなんて 最低じゃない」
「そんなのただの言いがかりだわ?それに 前に嫌がらせをしてきたのは、そっちじゃないの。お陰で こっちが、叱られてしまったんだから」
貴族の令嬢のほとんどが、王宮で礼儀作法の為に上がってきているので 必然として 世継ぎ争いは、派閥争いに発展しているのだ。同じ派閥の仕事しかさせない。けれど ほとんど動き回る 仕事をしているのは、立場の低い 下級貴族か商家出身の者達。仕事をもらうには、どこかの派閥に入らなければならなかった。しかも 親が、媚びている 貴族には、従わなければならず どんなに自分の考えがあっても それは、認められない。それが、上下関係なのだから。
中には、派閥に関係なく 自分で仕事を確保し 中立の立場を守っている 者もいたが それは、数が限られていた。なぜなら それが出来るのは、特殊な役職を持っている者達だけだったから。他は、ほとんど 集団で仕事をこなさなければならないのだ。それは、様々な階級を持つ者達の集まりであり 強い者が、弱い者を押しのけて 頂点に立つのだ。それが、欲に塗れた 人々の集まる場所なのだから。
貴族達は、お互い 様々な駒を使って 相手を落としいれようとした。中には、巻き込まれる者 数が多かったようだ。けれど 彼らは、自分の立場しか気にしていないのだから どうもしない。ただ 自分が不利になりそうになったら 自分よりも下の者を、身代わりにするのだ。そんな事が、ずっと 続けば 国は、荒れ果ててしまうだろう。現に 立場の低い者達は、限界が近づいているのだから。
中でも 多く 使われた駒が、身分の低い 女性だろう。溺れてしまえば どんな賢君でも、地に堕ちてしまうのだから。その標的として 狙われるのは、やはり 派閥を取り仕切る 貴族ではなく それを支える者。建物でたとえるのならば 柱を、1本取ってしまえば 壊れるのも、簡単なのだから。派閥の方も、貴族達の血縁者などを狙えば すぐ 崩れ去っていく。それも 貴族が、最も 信頼している者を、狙えば 確実だ。
それは、沈黙を守っていた 王太子派の貴族も、例外ではなく 少しでも 関わりがあれば 巻き込まれることは、必然となっていた。お互いに 弱点を探りあい 陥れていくのだ。立場が低ければ いつの間にか 姿を消していても 仕方がない。暗殺者や間者は、至る所に潜んでおり 緊迫した 空気が、続く。自分は、無関係だと思っていても 接点が、あるのならば 関係があると判断され 利用される。そんな事 当たり前となっていた。甘い言葉で 誘惑し 様々な情報を引き出すのだ。そして その内容は、相手を失脚させる為の材料となる。
中には、豪商などと手を組んで 多額の資金を集める 貴族もいた。派閥を取り仕切るには、地位と権力が、必要だと考えているのだろう。その為 貴族の下に付く 民は、重税を強いられていく。税を納められなければ 見栄えの良い 少女や少年を引き取り 自分の駒になれるよう 教育を施すのだ。中には、慰め者として 献上された子供も、いたらしい。それが 明らかに出来ないのは、相手の貴族が、自分の権力を振り翳し 更には、自分の血筋が、王位を継ぐ と 高々と宣言しているからだ。民達は、王宮の内情を知らされていないので 身近にいる 貴族の言葉を真実だと思うしかないのだから。
王の喪中の為 派手な夜会などは、控えられているが 相手を探る為 男は、会議………女は、茶会が、毎日のように 行われている。全ての行動・言動が、互いのボロを見つけ出す為の方法となっているのだ。そして 自分の駒を使い分け 相手を溺れさせ 最後には、その駒自体 殺す。万が一 自分の行いが、世間に漏れないように。貴族達は、彼らの犠牲など 何とも思っていないのだ。全ては、自分の所属する 派閥の王族が、王位に付く為 身分のない者の命を、犠牲にしても それは、名誉あることだと 感謝されると思っていたから。
貴族達の競り合いは、激しくなる一方で 王族同士の争いも、絶えなくなっていた。自分が、王位を継ぐと疑わず 相手をけなすのだ。自分こそが、王に相応しく 他は、その権利を持たない。財力の強さを見せ付ける者………寵愛の深さを叫ぶ者………聡明さ………王の器………魅力………統率力。皆が みんな………信じて疑わない。
色々と時間が掛かると思われていた この問題だが ある出来事から それは、迅速に解決した。それは、もう 目にも止まらないような速さでだ。
それは、王が崩御してから 初めて 他国の使者が、国を訪れていた話し合いの場。彼らには、第3者として 新たな王位を継ぐ 王族の選出について 意見を聞いている時だった。円卓上の机の上には、各自 貴族の提出した 財力や貢献と自分達が推薦する 王子・王女の情報などが、資料として 配られていた。
だが その中に 驚くべき 内容の文章が、紛れ込んでいた。何でも 秘書を務めていた 代理が、誤って 資料の中に入れてしまったらしい。それは、貴族達の不正の証拠の数々。中には、強く押されていた 王子や王女達の品位を疑われるような行動の数々が、言葉巧みに書き記されていたのだ。しかも それを裏付けるように 写真まで 添えられている。この場にいた 人々は、思わず 言葉を忘れてしまう。
「一体 どういう事だ?!このようなデタラメな文章は………ッ!私を、陥れる為に 誰かが、罠を………」
すぐに正気に戻ったのは、自分の行いに全く 罪悪感を持たない 不正を働いた 貴族達だった。けれど その資料を見る限り 彼らには、言い逃れが出来るはずがなかった。それだけ 長い年月も掛けて 不正を働いてきたようなのだから。王子や王女達は、既に 何も言えずにいた。おそらく ばれる筈が、ない と 思い込んでいたのに このような公の場で暴露されてしまい どうしようもないのだ。
「何をおっしゃられている?これは、明らかに そなたの家名が記されているではないか。それに 他の方々も………」
「違う………これは、誰かがわたしを失脚させる為に………」
「言い逃れは、出来そうにありませんぞ?」
「確かに 言い逃れは、出来ないでしょうな?あなた自身も 不正に手を染めているようですし」
「なッ!一体 どこから そのような情報が………あの女 しくじったのか」
「ほう あの女とは………一体?あなたは、何かと 事情がおありのようだ」
逃げ道を塞がれていく 貴族達。言い訳をすれば するほど 自分の過ちを、塗り重ねていくしかない。けれど それも 限界があった。崩れた 均等は、もう 直らないのだから。
その後 話し合いは、不正を働いていた 貴族を断罪する場となった。そして 必然的に 次の王位を継ぐのは、やはり 王の第一子であった 王太子となる。彼を支援する貴族は、ほとんど 不正に関与していなかったことが明らかになったからだ。異論を唱える者は、いたものの 王太子の聡明さは、明らかなものであり 王になる器を、十分に担っていた。それは、彼と話をした事のある 者ならば 承知のことだ。
そして 更に発覚した事 それは、国王の暗殺だった。王は、突然死ではなく 毒を盛られ 殺害されたことが、発覚したのだ。しかも それを行ったのは、欲に溺れた 貴族の放った 刺客。とにかく 王太子が、正式な指名を受ける前に と 実行されたらしい。これは、さすがに 衝撃的で 貴族達は、王の暗殺に関わりがないことを主張し それまでは、見下していた 相手に縋るようになる。
そして 更なる 調査が、進められ 王を毒殺した 刺客の女は、公爵家の次期当主の手によって 裁きが下された。何でも 王太子側につく 貴族を罠に嵌める 駒としても 働いていたらしい。
こうして 王位は、王太子が継ぎ 国は、安定していく。彼が 最初に実地したのは、不正を働いていた 貴族を罰すること。持っていた 領地は、半分以上 国へと返還され 爵位も、息子………むしくは、縁者に引き継がせるよう命じられ 王都に足を踏み入れることも禁止された。そして 不正に関わった と思われる 他の王子・王女達は、王位継承権を剥奪されることが決定。王子は、臣下へと降り 王女は、ただちに 降嫁が決定した。誰も 文句を言えるような立場ではない。それだけ 王になった 王太子の行動は、早く 正確なものだったのだから。それまで ずっと 公の場に出ることを拒んでいた 王太子の姿は、誰もが感嘆を漏らす。
王宮は、派閥を組んでいた 貴族関係者を一掃し 虐げられていた 中立者や新たに構成された 貴族達によって 使用人が、入れ替わる。役職も、王に信頼される 側近達が、就く。そして 大きく 波紋を呼んだのが、後宮の解散だろう。新たな主へ媚びようとしていた 前王の側室達は、全て 実家へと帰された。新たに 娘を差し出そうとする 貴族は、多かったが 王は、それを許さない。彼は、兼ねてより 婚約を交わしていた 令嬢を、正式な正妃として 国中に発表し 今後 一切 側室を娶らないことを宣言したのだから。
それは、父親の背中を見ていたからなのかもしれない。王妃でありながら 日陰で生涯を過ごし そのまま その生涯に幕を下ろした 母の姿を見ていたからなのかもしれない。女性達の醜い争いを、ずっと 目にしてきたからなのかもしれない。
こうして 代替わりに起きた 事件は、幕を下ろす。
※~※~※~※~
女は、楽しそうに 一連の出来事を、文章にまとめていた。
「おい………やっぱり うっかりじゃなくて わさとだろ」
その声に 女は、呆れ返ったように 苦笑する。
「あら 何の事でしょうか?わたしは、ただ 与えられた 職務を全うしたんですけど 色々と精神的にも、参ってきていたんですね?間違えて 表には、出すつもりのなかった あの方々の不正の証拠を暴露してしまいました。
でも 貴方だって 助かったのでは?何かと 危うい立場に立たされていたようですし。女性の色香に惑わされそうになっていたそうじゃありませんか。もしも 公にするのが遅ければ 確実 公爵家は、お取り潰しになっていたでしょうね?」
女の言葉に 男は、肩を落とした。けれど その顔は、怒っているわけではない。ただ 心が落ち着いていないだけなのだ、おそらく 少し経てば 元通り いつもの男になるだろう。
「それから おめでとうございます。宰相に任命されたそうですね?これからは、王になられた あの方の良き側近として 励んでください」
「何を言っている?君は、王宮の教育係だろう?これまでとどう違うんだ?」
男の言葉に 女は、溜息をつく。どこか 呆れ果ててしまっているらしい。
「今までが、特殊だったんです。王太子と言えど 陛下は、あまり 公の場に出られる方ではありませんでしたし あなたも。わたしだって 王太后様の口添えがあって 得た 仕事をこなしている者。
そんな身分もない 使用人が、追うとその側近の方と軽々と話せないのです」女は、丁寧な口調で 言う。
けれど 男は、その言葉が気に入らないらしい。だが すぐ いいことを思いついたような顔になった。その様子に 女は、嫌な予感がする。
「なら………お妃教育をするのなら?」
「はい?」
「だから お妃教育だ。これまで 色々な教育の勉強をしてきたんだから 問題ないだろう?礼儀作法については、問題ないだろうからな?
よし………陛下に 進言してこよう。あいつも、許可するはずだ」
歩き出す 男に 女は、焦りを隠せない。何とか 追いかけようとするが 左足が、邪魔で 追いつけない。勿論 男女の差もあるのだろうけれど。
そして 何とか 追いついた時は、既に遅く 王に満面の笑みで 王命を下されてしまった。
こうして 女は、正式な王宮の教育係として 名を馳せるようになる。