小話2
* 夜 会 2 * ―誰の所為―
薄青色の月明かりに照らされ、二人の身体が揺れている。遠くに聞こえる楽の調べに合わせ、優雅にステップを踏んでいるのはこの国の皇太子夫妻だ。
「フイイは何処に行ったのかしら。踊りましょうと約束していたのに」
「アイツはどちらかと言えばご婦人方にもてるから、アヤより年配の方に行ったのかな」
「フイイは約束を破る男性ではないです。きっと何かあったのだわ。
ドュー、わたし着替えて舞踏会へ戻りたい」
「合うドレスがないのだろう。諦めなさい」
「いいえドレスは沢山あるの、わたしが恥ずかしいのを少し我慢すれば大丈夫。
アザレア達が言っていたわ。女性は丸い膨らみで男性を悩殺するのだから、胸は少々はみ出る位で丁度好いんですって。
だから今あるドレスでも十分よ。ドューお願い。」
「駄目だ。それは下位の令嬢たちの振る舞いであって、皇太子妃が胸を強調して出歩いては、示しがつかないだろう。風紀が乱れる」
ドュランのもっともな言葉に納得して、アヤカーナはコクンと頷き目の前の肩に頭を預ける。
やはりドレスの胸がすぐにきつくなるのは、風紀上良くないのだ。
「ドューくすぐったい…あんっ」
いつの間にか露わになっていた薄桃色の蕾を、口にしようとしているドュランの鼻先からかすめ取る。
「駄目よ。胸には触らないで、それに口に含むのも禁止」
アヤカーナは白い膨らみを元に戻そうと必死になる。
その姿が男心を刺激しドュランの下半身が反応する。
そんな男の生理を露知らずか、アヤカーナは持論を展開し始める。
「本来、女性の胸は赤ちゃんの為にあるのよ。
それに女官長に聴いたの、胸って男性に揉まれると大きくなるんですって。私はこれ以上胸が大きくなるのは嫌。だからドューも協力してね。」
本当は、誰の所為でこんなに胸が大きくなったのかと責めたいところだが、そこは胸の奥に押しやり胸を張る。
ドュランは毅然と微笑む妻の顔を呆然と見つめる。
「…… 」
何故話がこうなるのか、釈然としない。天を仰ぎ、ゆっくり息を一つ継ぐといつもの事だと諦める。
ふーん、胸は触るな、か。まっ仕方ない…。
‘触って’って懇願されるまで責めるのも一興だな。
「アヤがそう言うのなら、もちろん協力するよ」
言って夫は妖しく微笑む
妻は優しい夫に感謝を込めて告げる。
「ドュー大好き。愛してる」
「あぁ俺も愛してる」
アヤにとって長い夜が始まる。
おしまい