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杜の都で待つ人は  作者: はる姫
第四章
31/32

お詫びと小話1

更新が滞り申し訳ありません。


私の住処は、この小説の題名からも推測されますよう、「杜の都仙台」すなわち宮城県です。しかし、仙台市街ではなく、悲しいことに沿岸部です。


昨年の東日本大震災で、家、親も失いました。

もちろんPCなど一切残っておらず、この作品の続きの下書きも全て無くなりました。

やっと、ここへも何とか今日、ログイン出来た次第です。


まだこの作品も読み返していませんが、ゆっくりと読み返し、どのように展開しようとしていたか思い出そうと思います。中途半端で申し訳ありませんが、拍手で公開していた小話が何とか残っていたので、こちらにアップさせて下さい。

楽しんで頂けたら嬉しいです。 

既読の方は、ごめんなさい。

はる姫 H24.4.18

                  * 夜  会 *

 

 宮殿の大広間、煌煌と燃える蝋燭を幾重にも立てた水晶のシャンデリアの下で、華やかに着飾った王候貴族たちが笑いざわめいている。その中を絹のレースに包まれた可憐な少女が、一人の貴公子を尋ね回っていた。

「タンギュー、フイイを知らないですか?」

 慣れ親しんだ愛らしい声に呼ばれ、タンギューは振り返る。瞬間、彼は笑ったまま硬直した。

「…アヤ様、あ、あの…」

 タンギューは、アヤカーナの白い胸元から目が離せなかった。深く開いた襟元から乳白色の乳房がいまにもこぼれ出そうだ。

 儚げな美貌に細い腰、そこへ不釣り合いに豊満な胸という組み合わせ、これ以上男の欲望を刺激するものは考えられない。

 このドレスはマズイ!ここにいる男は全員、不埒な考えを浮かべているぞ。

 タンギューは理性と自制心を総動員し、そそられる胸元から無理やり視線を引き剥がす。そして会場の男達の目から彼女を隠すように、身体の位置を移動した。

「誰かにフイイを探しに行かせますので、奥の間で私と少しご歓談頂けませんか」

 差し出されたタンギューの腕に首を振り、アヤカーナは一歩退く。

「いいえ、自分で探します。探索は楽しいのですもの」

 彼の背中を嫌な汗が伝う。

「フイイにどのような用が…。というよりドューは、殿下はどちらに!」

「ドューは、とても綺麗な女性とダンスを始めてしまいました」

 ドューの奴、むくれて的外れな作戦に走ったな。おおかた、アヤ様に嫉妬でもさせようとしたのだろう。とにかく、艶めく皇太子妃をこの大広間に野放しにしてはおけない。

「では、ダンスのお相手をお願いいたします」

 百戦錬磨の笑顔と優雅な物腰で、パーレス宮廷一と謳われる貴公子は美少女へ乞う。

「…ごめんなさい、今は駄目。

 最初はフイイと踊るの。次がドュー。そして次がダズン。隊長はその次でも良いですか」

「……もちろんでございます。その代わり、私にフイイ探索のお伴をお許し下さい」

「それも駄目。だってフイイはドューとタンギューが近くにいると、とても緊張して可哀相なのですもの。

 それに…、大きな声では言えないけど、アザレアのこともあまり得意ではないのですって」

「それでは、扇をお持ち下さいっ! 淑女は大きな扇を広げて、胸元を隠すように行動なさるのが宮廷の流行りです」

 アヤカーナは目を丸くして、くすくす笑い出す。

「あら、タンギューもドューと同じに、時代遅れな事をおっしゃるのね。

 今は扇子をこう胸元に忍ばせておいて、ここぞという時にゆっくり引き出して胸元を扇ぐのよ」

 そう言って、彼女は小さな手を胸の谷間に入れようとする。

 タンギューは頭を抱え、ドュランの姿を探す。なんでこんなドレス姿の妃を舞踏会へ連れて来たんだ、バカ皇子め!!

 ふと横を見れば、頬を真っ赤にした給仕が立ち竦んでおり、その視線はアヤカーナに釘付けだった。彼が手にした盆にはゴブレットが乗っている。

 タンギューの瞳が怪しい光を放つ。クソッこの際何でもやってやる。給仕の盆からゴブレットを紳士らしからぬ動作で取り上げ、アヤカーナへと差し出した。

「アヤ様、どうぞ咽を潤してから、フイイを探しにいらして下さい」

 タンギューの大声で我に返った給仕は、慌てふためきその場を去って行く。そのタイミングを見計らったように、タンギューはアヤカーナの方へ身体をよろめかせ、器の中の赤黒いワインを存分に溢す。

「おっとっ…とっ!」

 きゃっ!アヤカーナの小さな悲鳴と共に、クリーム色のドレスに赤いシミが広がってゆく。タンギューはほっと安堵の息を吐く。

「私としたことが、申し訳ありません。

 すぐにお召しかえを」

 ドレスとタンギューの顔を交互に見比べる灰色の円らな瞳に、みるみる涙が溜っていく。タンギューは胸を締め付けられるような自己憐憫に囚われ、思わず彼女を胸にかき抱こうと手を出した時だった。

 ドュランがアヤカーナに飛びつき、タンギューの手の届かない処へと彼女を攫って行った。

 ドュランは優しく言葉を掛けながら、彼女を腕の中に抱きしめる。

「大丈夫だ。

 だが仕方ない。今宵のダンスは諦めよう」

 アヤカーナは震えながら頷いて、ドュランの強い腕に縋るように身を寄せ、嗚咽を漏らす。

「部屋で俺と踊ろう。フイイは待っててくれるから。なっ」

 こくんと首を振り、袖をぎゅっと掴んでくるアヤカーナのいたいけない仕草が、ドュランの想いをかきたてる。タンギューの奴め、アヤを泣かせるなんて余計なことを。

 ドュランが視線でタンギューを呪っているのが分かる。

 オレはお前の為にやったんだぞ。なぜ恨まれるんだ。



「‘フイイが見当たらなくて、すぐに殿下の許へ戻る’という筋書きでしたのに。

 おバカ隊長、やってくれるわねー。」

 背後から一番聴きたくない女の声がする。

「おいアザレア、私は間違ったことをしたとは思わない。

 あんなドレスを着せるお前達が悪い。普通の男は我慢できないぞ」

「貴方の基準で判断しないで。

 アヤ様は成長期の所為か、最近すぐに胸がきつくなるのよ。

 今日のドレスもあれがやっとの一枚だったのに。今晩はもう着るドレスがないわ。

 とても楽しみにしていらした舞踏会で、不憫よねぇ」

 アザレアの棘のある皮肉がタンギューの心臓に突き刺さる。

 ハンスイとケイトも一様に頷き、顔を曇らせ彼を責め立てる。

「そうですわ。フイイと約束したダンスを踊るって、朝からそれはそれは…」

「そもそも由緒ある大貴族様が、皇太子妃殿下のドレスにワインをおかけになるなんて…」


 タンギューは居た堪れず、憮然とコンブフェールを呼びつける。

「ところでコンブ、フイイは何処に行った」

「はっ、殿下が縛ってリネン室に転がしております」

 タンギューは口を開けたまま呆然と固まる。

 コンブフェールはここぞとばかりに上司の耳に囁く。

「次は隊長もリネン室送りですね」


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