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杜の都で待つ人は  作者: はる姫
第三章
29/32

12

 

 アヤカーナはごくりと唾を飲み込み、知らぬ間に寝台に横たわっていたドュランを見詰める。

 一体、何時から居たのだろう…。

 暖炉に()べられた薪が、火の粉を星のように散らして崩れた。火が消えかけている。

「寒いな」

 ドュランは緩慢に起き上がると、暖炉へ近付き灰を掻き回して新しい薪を何本か投げ込んだ。

「アヤ、寝台へ戻れ」

 燃え上がった焔が彼の顔を紅色に照らしている。揺らめく焔の影がドュランの怒りを代弁しているかのようだった。

 アヤカーナは急ぎ早に寝台へ入ると、毛布を頭から被って目をぎゅっと瞑る。まるで判決を待つ罪人のような気分だった。

「寒くないか、風邪でもひいたら大変だ」

 あれ、怒っていない?

 思いがけない優しい言葉に、毛布から顔を覗かせる。

 こちらを覗き込んでいたドュランの指が、彼女の冷えた頬を軽く撫で、そのまま寝台へ腰を下ろした。

「何処へ行こうとしていた」

 来た! アヤカーナは口を噤み、目を泳がす。

 部屋から抜け出そうとした罪の意識から、謝罪の言葉が喉まで出掛かるが、どうしても言えなかった。

 逃げるようにまた頭から毛布を被り、だんまりを決め込む。

 静まりかえった寝室に、薪の爆ぜる音だけが通る。

 ドュランは天井を仰ぎ、大きな溜息を一つ()いた。

「…フォンがマリウス王子の従者に傷を負わせたようだが、その少年をアヤは知っているのか」

 丸い塊がぴくりと反応したが、一向に返事はない。彼の口から今度は小さな溜息が出た。

「フォンの様子がおかしかったので、フイイ達三名にフォンを見張らせていた。

 その報告が上がってきたのだが、フォンはマリユス王子の従者を(そそのか)して、アヤを拉致。口封じの為、その場で従者を刺したそうだな。アヤは見ていたのだろう。

 ガンシュ側へは謝意を表して来たよ」

 ドューが謝罪?

 そろりと毛布から顔を出し、慎重に言葉を選び訊ねる。

「セスは…セスにお咎めはないの。ドューはセスを捕まえない?」

 ドュランは笑う。俺が彼を捕まえると思っていたのか。

「捕まえない。大丈夫、彼は被害者だ」

 そして彼女が一番知りたいであろうことを続ける。

「騎士三名は、物陰からフォンの動向を伺っていた。

 彼らは、全く知らなかった壁の扉から、少年がアヤを伴い現れたときには驚愕したらしいぞ。

 フイイとコンブはアヤを追い、ダンは刺された少年を医師へ預け、タンギューの許へ報告に走った…」

 アヤカーナは話の続きを遮るように跳ね起き、ドュランの腕を掴む。

「それでセスは、セスは助かったのですか」

 ドュランは口元を引き締める。

「パーレスは傷を負った少年をガンシュへ引き渡した。…後は彼の生命力次第だろう。

 医師は浅い傷ではないと申していた。」

 アヤカーナはドュランの首にしがみついて感謝する。

「セスを見殺しにしないで…、捕まえないでくれてありがとう、ドュー」

 いくらフォンティーヌに(そそのか)されたといっても、パーレス皇族しか知らない通路を知った人間が赦されるはずがない。

 ドュランの優しさが堪らなく嬉しかった。そっと抱き返され、アヤカーナは力を抜いてその身を預ける。

 そして彼の首筋に顔を深く埋め呟く。

「私、マリユス従兄様(にいさま)に、会いたい。

 会ってお話ししたいことがあるの」

 やっと本音を漏らしたアヤカーナにドュランは安堵する。

「何を話すのか教えてくれ」

「フォンティーヌはマリユス従兄様(にいさま)が好きなんですって。

 従兄様(にいさま)の気持ちを確かめたいの。それに注意をしなきゃ」

「注意?アヤがマリユス王子へか?」

従兄様(にいさま)はとても優しくて、不用意に甘い言葉を囁き過ぎるの。

 あれでは女性が勘違いなさるわ。

 現にフォンティーヌは勘違いして私を憎んでいた…。

 今回の件は、従兄様(にいさま)が原因を作ったのよ。誰かが注意してあげなければ」

 ドュランは、己の頭に浮かぶマリユスの印象とは大分違う像に戸惑う。

 あの男、此処(パーレス)では取り澄まして、女が微笑んで挨拶しようがニコリともしないぞ。

 きっと、アヤカーナだけのマリユス王子()が存在しているのだろう。心の中で納得して苦笑する。

「ちゃんと彼には会わせてやるが、まずはその傷が癒えてからだ。

 怖かっただろう」

 労わるように抱き締められ、アヤカーナの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。昨日のことは、只々(ただただ)恐ろしかった。思い出すだけでも悪寒が走り、吐き気がする、出来ることなら記憶から消し去ってしまいたい。

 背中を撫でる大きな手がとても心地よい。その手で忘れさせて欲しかった。

「フォンが済まない事をした。許せ」

 アヤカーナの瞳が大きく開かれる。なぜドューがフォンティーヌの行為を謝るのだろう。まるでフォンティーヌはドューの大切な女性(ひと)みたい…。

 ドュランにフォンティーヌを庇って欲しくない!

 アヤカーナは、彼女に対して過剰な忌避感に支配される。

「フォンにはもう手出しさせな―」

 嫌だ。聴きたくない。

 身体に回された腕を振りほどくと、濡れた瞳でドュランを睨み付け、そっぽを向く。

 ドュランは突然の行動に驚き、声も出ない。

「―アヤ?」

 アヤカーナの心の奥で(たが)が外れた。

「嫌、絶対に許さない。

 フォンティーヌなんて大嫌い!」

 だって私は気付いているのですもの。

 そう、セスはもうこの世に居ないことを。

 あの時のセスを囲む血溜まり、そして夢の中のセス。それらの線の繋がる先は死だ。セスは死んでいる。

 己の欲望のままにセスを殺したフォンティーヌが憎い、許せない。アヤカーナは身内から発する憎悪の黒い吹き溜まりに身を囚われそうになる。

 セスの敵を討ちたい。ただそれだけなのに、セスがいけないと言う。復讐なんてアーヤには似合わない、許すのだ、と。

 そんな事、言われなくても分っている。私も反対の立場だったら、きっと同じ言葉を言うだろう。人を憎んでいては、幸せになれない。相手はこちらを不幸にしたくて罪を犯すのだ。憎しみを捨てなければ犯人に敗けると。

 セス、時間を頂戴、癒しの時を私に下さい。私は、貴方の死を必ず受け入れるから。

 でも、今はまだ無理…。

 アヤカーナは今の真情を吐露せずにはいられなかった。

「フォンティーヌなんか居なくなればいい。彼女の肩を持つドューも嫌い。」

 フォンに嫉妬しているのか? 

 ドュランは彼女の真意を知るべくもなく、にんまりと頬が緩むのを止められない。不謹慎かと思いながらも、両手で顔を覆い子供のように泣きじゃくる姿が、とても愛おしかった。

 華奢な身体を掬い上げ膝に乗せる。愛しい少女は抗うことなく広い胸に顔をすり寄せて来た。


「ドューは死なないでね…」

 アヤカーナの哀しげな呟きに、ドュランは目を見張る。そして心の奥で何かが弾けた。

 彼女はセスの死を分っている。

 その小さな背中を撫で下ろしながらドュランは何度も繰り返した。大丈夫だ、と。


「俺はアヤを置いてなど死なない」

 

 

 


活動報告にも載せているのですが↓


拍手、感想、問い合わせありがとうございます。

とても嬉しく、時には唸りながら(笑)拝読させて頂いております(^-^*)(..*)ペコリ


一週間ほど前、バレンタインデーが近いと思い、お気に男性キャラアンケートを拍手に

付けてみました。

結果はドュランに三票頂きました。それだけです(笑)

貴重な三票、ドュランに成り代わり感謝申し上げます゜ヽ(*´∀`)ノ♬♪♫ ♬♪♫♡


それと、拍手に置いてある小話についての質問にお応えいたします。

小話も一週間ほどまえに置きました。後にも先にも、今のところ小話はひとつだけです。

私の拍手画面はランダムに五種類あります。小話が出た方、興味があったら読んでみてくださいねღღღ(人´∀`)


まだ小話もアンケートも設置していますので、拍手を送って頂いた方は覗いて見てください

♡→ܫ←♡


2011.2.16 AM8:00

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