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杜の都で待つ人は  作者: はる姫
第二章
16/32

8


「顔色も薔薇のようにお戻りなって、安心ですわ」

 

 あれから六日が経ち、アヤカーナはやっとベッドを離れることが出来た。首の痣も薄っすら黄色い程度となり、喜んで包帯を外してもらったのに、喉元が‘すーすー’して心許ない。

 首に手を遣りながらアヤカーナは、臥せっていた時も傍に居てくれたアザレアに礼を言う。

「色々心配を掛けました、アザレア。もうすっかり大丈夫です。」

 アヤカーナ自身は二日ほど前から、ベッドを出たくて仕様がなかったのだが、御殿医がなかなか首を縦に振ってくれず、今日になってしまっていた。


「まっ、これに懲りて、黙って宮殿を抜け出すのは止めていただけますわね」

 にっこりと眼を細めたアザレアの顔が怖い。四方からの突き刺さるケイトや控えている女官達の同意の視線も痛い。

「ごめんなさい」

 アヤカーナは己の犯した行為の結果に対して改めて猛省し、アザレアに叱られるのを覚悟する。

 アザレアは、苦言を呈すつもりだったが、椅子の上で殊勝に身を竦めているアヤカーナに、熱で苦悶していた姿が重なり躊躇われる。

 溜息をついて、猶予を与えることにする。

「殿下が心配して、大事をとるようにと、起き上がることを許可なさらなかったのですから、一番反省すべき方は、かなり応えておられるのでしょう。

 今回はそれで、よしと致しますわ。」

 アザレアの言葉にアヤカーナの顔が輝く。

 ここ数日ドュランは忙しいらしく、アヤカーナの部屋に顔を出すだけで、満足に口を利いていなかった。叱られずに済んだことより、ドュランが自分を心配してくれていた事を知った方が嬉しい。

「ありがとう。アザレア」

 薔薇のように微笑(わら)うアヤカーナに、アザレアはまた溜息が出る。叱責しなかった事を感謝されているのか、ドュランを出したことに感謝されているのか分からなかったが、もし言い訳を返したら説教してやる、と内心手薬煉引いて待っていた気持ちまで、削がれてしまったことには間違いない。

 敵わない、と自嘲をこぼす。

「さて、あちらもお待ちしているはず、久しぶりに殿下の執務室に参りましょう」

 はい、と元気よく立ち上がるアヤカーナの姿を、部屋に居た皆が微笑ましく見守っていた。




***********************************




 「アヤカーナ、この御菓子をどうぞ。私が焼きましたのよ」

 ドュランの執務室で、アヤカーナに焼き菓子を差し出すのはフォンティーヌだった。

「ありがとうございます」

 微笑(わら)ってそれを受け取るが、アヤカーナは自分がちゃんと微笑(わら)えているのか確かめたいと思う。

 

 アザレアと共に、ドュランの執務室を訪れたところ、いつものアヤカーナの席には、フォンティーヌが座っていた。ドュランもダズンもアヤカーナの回復を喜び、笑顔で迎えてくれたが、アヤカーナは咲いていた花が、急に(しぼ)んでいくような思いに駆られる。


 顔色が変わったアヤカーナを見て、タンギューとアザレアが部屋へ戻ろうか、と訊いて来たが、アヤカーナは首を振りドュランたちの和へ加わった。


 その場の女主人はフォンティーヌだった。主人が病み上がりということで、侍女であるアザレアも同席し、タンギューはアヤカーナの護衛という役職柄、いつも通り室の隅に控えている。

 フォンティーヌは甲斐甲斐しく順にお茶と菓子を勧めながら、最後にタンギューの方へ向く。

「タンギュー、こちらにいらして。

 一緒にお味見をお願い。そんな隅っこに居るなんて、らしくなくてよ。」

 にこやかに声を掛け、はっとしてアヤカーナを見る。 

「もしかして、(あるじ)のご命令だったのかしら」

 首を横に振り、アヤカーナは気が利かなかったと、慌ててタンギューを振り返る。

「こちらで、ご一緒にお茶を致しましょう。」

 言って、空いた席がない事に気付き、急いで付け加える。

「直ぐに席をご用意いたしますね」

 フォンティーヌがアヤカーナの言葉に被せるように、タンギューへ手招きをする。

「席は空いていてよ」

 どこに空いた席が?ときょとんとしているアヤカーナの前で、フォンティーヌは(おもむろ)に立ち上がると、慣れた動作で隣のドュランの膝の上に腰を下ろした。

 アヤカーナはあまりのことに唖然とする。ダズンとアザレアは同時に息を呑む。

 当事者であるドュランは、従妹の不意の行動に動じることなく冷静だった。

「降りろフォン」

「まぁドューどうして、いつもはそんなこと言わないのに」

 降ろされまいと身をくねらすフォンティーヌの腰を掴み、ドュランは降ろそうとする。

 眼を見開いたままのアヤカーナの隣で、アザレアは聴こえるよう鼻で笑う。

「フォンティーヌさま。タンギュー隊長は、御自分で椅子を運んでお座りですよ」

「あら」

 ぴたりとフォンティーヌの動作が止まり、いつの間にか近くに座っていたタンギューを確認する。自分で戻れるわ、とドュランに無理やり戻される前に、優雅に席を移り、アヤカーナへ済まなそうに微笑む。

「アヤカーナ、見苦しかったらごめんなさいね。

 私とドューは兄妹みたいに育ちましたの。以前は臣下の前でも膝に乗せてもらっていたので、つい」

 そう言って無邪気な笑顔を向けてくるフォンティーヌに対し、アヤカーナは戸惑うだけで、何も返すことが出来なかった。

 そして、次から次へとフォンティーヌの口から紡ぎ出される昔の思い出話に、皆が相槌を打つ。そんな中、アヤカーナだけが思い出を共有することは無く、必死に笑顔を取り繕い、彼女の話に耳を傾ける振りをする。

 涙ぐましい努力をして聴いた話しの締めくくりは『私とドュランは、お似合いの二人と言われていたのよ』だった。言って片目を瞬かせたフォンティーヌの、誇張するでもない淡々とした口調が、話しの真実味を告げている。

 アヤカーナの頭の中ではマリユスの言葉が思い出され、渦を巻く。

“皆が認める皇太子殿下の恋人は赤毛の令嬢”

 腹の奥に、どろどろとした暗いものが蠢き、今まで無視していた思いを上へと押し上げる。私は邪魔者なのだろうか…。


「アヤ、身体の調子はどうだ」

 ドュランが気遣うように甘く優しい声で訊ねる。

 アヤカーナは、ドュランが唐突に話しを変えたように感じ、何か不都合があるのかと勘ぐらずにはいられない。彼の甘く優しい声の響きまでは届かなかった。

 ドュランの顔を見る事が出来ず、膝の上で拳を固く握り、俯く。

「少し、お疲れのご様子です」

 アザレアが代わって、硬い声で答えてくれた。

「アヤカーナ様、とても心配致しました。

 大切な御身、お大事になさって下さい。」

「ダズンの言うとおりです、ご無理はなさらないで下さい」

 ダズン、タンギューの心から労わる声に、アヤカーナの拳が緩む。

「ありがとうございます」

 顔を上げ、ふわりと微笑む。いつものアヤカーナの笑顔が見れて、安堵の空気が一同を包む。


「アーヤ、舞踏会から熱をお出しになられたのですか。」

 突然のフォンティーヌの‘アーヤ’という呼びかけに、アヤカーナは眉を上げる。

「翌日から調子を崩しておりました。フォンティーヌ」

「私のことはフォンとお呼びになって、仲良く致しましょうよ。

 私はアーヤと呼ばせていただくわね。

 それとも‘わたしのアーヤ’と呼ばれたほうが良いのかしら」

 くっくっと忍び笑いを漏らしているフォンティーヌに、アヤカーナは当惑する。


「フォンは、アヤの従兄殿(いとこどの)を知っているのか」

 ドュランの低い声に、フォンティーヌが驚く。

「いっ、いいえ! ぶ、舞踏場で相手の男性から、そう呼ばれていたのを耳にしただけです。

 あの男性、従兄でいらしたのね!

 ド、ドューは知っているのかと心配したのですが、知っているならば、何も問題はございませんわ」

 そう言って、カチャカチャと音を立てて茶器を口に運ぶ姿が、フォンティーヌの動揺を表していた。

「よく踊っているカップルの会話が聴こえますこと。

 余程耳が良いか、下品にもそのカップルに付きまとうとか、ですわね。

 宜しければ、私に耳が良くなる方法をご伝授下さい、フォンティーヌ様」

 アザレアの応酬に、今度はドュランとダズン、タンギューが揃って息を呑む。


 アザレアの斜に構えた態度に、フォンティーヌはみるみる顔を赤く染め、臨戦態勢を敷こうとした途端だった。  

 「殿下、本宮より、至急の閣議へのご出席要請です

 直ちにお出まし願います」

 扉の向こうから、近侍の声が響いた。


 ドュランはダズンと顔を見合わせ、珍しいな、と呟く。そして、アヤカーナに笑顔を向け、ダズンを連れ執務室を去っていった。

 残ったアザレアとタンギューは、フォンティーヌが小さく安堵の息を吐いたのを、見逃さなかった。

 

 

 

 

活動報告で書いたとおり、まだ風邪が治りませんゥゎ━。゜(゜PД`q*゜)゜。━ン!

鼻水がつまって、出てこない。喉もおかしいし(▼皿▼メ)ノ

 しかし、調子が悪いときは、重なるもので、一年ちょっと使用のヴィトンのバッグのファスナーの付け根が崩壊しましたΣ(゜Д゜;≡;゜д゜)

こんなに簡単に壊れるものなのかと憤り、二時間半かけて、直営店まで行ってきましたよo(=`・ε・´=)oブーッブーッ!!(身体の具合悪いのにさっ)

 結論、只で直してくれるけど、新品と交換はダメだって(当然か)。

ヴィトン側の縫製の不具合を認めているくせにねっ。

まっそんな一日でした。

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