9 公爵家の子どもたち
◇◇◇
「お母さま!」
言うなり駆け寄ってくる、弾ける笑顔のミハエル。
「ミハエル、元気だったかしら?」
「はいっ!お母様が料理人さんと一緒に、沢山食べ物を送ってくださったおかげです!あの、メイドさんたちにもとても良くして貰っています」
「そう。良かったわ」
あれからすぐに、信頼のおける料理人を数名と、子爵家で働いていたメイドを十数人、庭師に使用人など、お屋敷の管理と子どもたちのお世話に必要最低限な人員を、子爵家から派遣しましたの。子どもたちのためにも、早急な対策が必要でしたからね。主治医の先生には、当面の間我が家と掛け持ちしていただくことになりましたわ。
「あの、紹介します。僕の弟と妹たちです」
子ども部屋の前にお行儀よく並んだ子どもたち。
「右から、ルカ、エリオ、ノア、レオン、トム、サム、エマ、リナ、ミアです。トムとサムは双子です」
男の子が7人、女の子が3人。髪の色も瞳の色も違う10人の子どもたち。これからわたくしは、この子たちの母親になるのですわね。そう思うと、なんだかくすぐったい気がしますわ。
「アデリーナよ。よろしくね」
にっこり微笑むと、緊張した顔でペコリとお辞儀をする子どもたち。
「お母様に自己紹介しようと思って、皆で考えたんです。順番に自己紹介しますね。まず、僕から行きます。名前はミハエル。12歳です。将来は公爵家の執事になりたくて、執事のジョセフさんに弟子入りしています。お父様やお母様のお役に立てるように頑張ります!」
ミハエルの自己紹介を真似するように、一人ずつ自己紹介してくれるみたいですわね。それにしても、ミハエルは12 歳でしたのね。もっと幼く見えましたわ。初対面のとき執事のような服装をしていたから気になってましたけど、執事に弟子入りしてたから、執事服を着てたんですのね。ふむふむ。
「ルカです。10歳です。僕は絵を描いたり楽器を演奏したりするのが得意です。将来は、画家か音楽家になりたいと思っています」
「エリオです。9歳です。僕は本を読むのが好きだから、沢山研究して、将来は学者になりたいです」
「ノアです。8 歳です。えっと、僕は手先が器用で、機械いじりが好きだから、将来は技術者になれたら良いなぁって思ってます」
「俺はレオン!7 歳!騎士になるのが夢!以上!」
「えっと、トムです。6歳です。僕は美味しい野菜や綺麗なお花を一杯育てて、将来は庭師になりたいの」
「僕はサム。6歳です。僕は馬が好きだから、馬のお世話をする仕事をしたいな」
「私はエマです。11 歳です。将来は孤児院で働きたいと思っています」
「私はリナよ。8 歳。甘いお菓子が大好き!将来はお菓子屋さんになるわ」
「ミアです。5歳です。この子はお友達のリリ。えっと、可愛いぬいぐるみ屋さんになりたいです」
「みんな、ちゃんと将来のことを考えてるのね。えらいわ」
「執事さんが教えてくれたんです。僕たちは養子だから、大人になったら何になりたいか、自分には何が向いているか、考えなきゃいけないって」
「そうね」
この国の貴族家では、財産の相続権があるのも、跡取りになれるのも実子のみ。だから、この子たちも大人になったら何らかの方法で自立する必要がありますの。家を出て自立するか、その家で働くか。
幼い頃から自分の資質を見極めて将来のために備えるのは、大切なことですわ。
けれども……
「将来を考えるのはとても大切なことよ。けれど、あなた達はまだ幼いわ。無限の可能性があるの。これから好きなことや嫌いなことが変わることもあるわ。沢山色んな経験をして、沢山学んで、自分が本当にやりたいことを見つけましょうね」
「はいっ!」
子どもたちのいい返事に、わたくしは大きく頷いてみせましたわ。
けれども、子どもたちが良い子すぎて、逆に心配なんですけれど。
普通はもっと、暴れん坊だったりわがままだったりする年頃の子どもたち。
過酷な環境で生きてきたことが、この子たちから子どもらしさを奪っているのだとしたら。
それは、親として見過ごせませんわね。




