7 正しいお金の使い方
◇◇◇
ケインと婚約を結んだわたくしは、結婚までの間も、公爵家で過ごすことになります。いわゆる花嫁修業ですわね。
普通はお義母様に、その家の女主人の心得などを伝授されるのでしょうけど、あいにくケインのご両親はすでに他界しております。まぁ、主に財産の管理や使用人の管理が、女主人の仕事と思って差し支えありませんわね。
今まではケインが一人で公爵家を切り盛りしていたみたいですけれど、このわたくしが来たからには、しっかりルミエール公爵家を立ち直らせてみせますわ!
ちなみにわたくし個人の財産は、結婚してからもわたくし個人のものとして扱われますわ。
妻の持参金は、自分のドレス代や宝飾品なんかに使うこともありますけれど、それらは普通夫から妻に贈ることが多いため、ほとんど使うことはありませんわ。実子のために遺すことが多いですわね。
ただまぁ、夫が明らかに貧乏な場合、妻の持参金を夫の事業なんかに投資する場合もありますけど。
正直、妻の財産を当てにするような夫は、貴族の恥と言われてますわ。下級貴族が生活のために裕福な商人の娘と結婚する、なんてパターンですわね。
わたくしの場合、お金目当てと割り切ってわたくしの財産を使うべきなのか、夫の矜持を守るために、夫の稼ぎだけで生活するべきなのか、迷うところですわね。
まずは、この家に本当に資産が無いのか、調べなければなりませんわ。わたくしのお金を使うかどうかは、その結果次第ですわね……。
とは言え、今困窮している子どもたちを放置するわけには参りませんわ。
文化的で健康的な最低限度の生活は保障されるべきですわっ!
と言うことで、生活をする上で、最低限度の環境を整えるためのお金は出す。
けれども、必要以上の出費をするつもりはございませんし、これは言わば貸しですわ。
わたくしの財産から出したお金は、必ず、補填していただきます!
「と言うことでよろしくて?よければこの書類にサインを」
婚前契約書を片手に迫るわたくしを、ベッドの上から呆気に取られたように見つめるケイン。
「もし、ケイン様から要望があれば、今のうちに仰って。検討いたしますわ」
「いや、いい。その内容でサインしよう」
書類を受け取り満足そうに微笑むわたくしを見て、腹を押さえて笑いを堪えるケイン。
「……なにか?」
「いや、てっきり断られると思っていたからな」
「王命ですもの。断ることなんてできませんわ」
「いや、フローレンス子爵が本気を出せば、兄上だって無理強いはできない」
お父様、陛下の弱みでも握ってるのかしら。ありえますわね。
「まぁ、わたくしが嫌になったらいつでも実家に戻っていいとは、言われてますわ」
「……そうか」
「精々わたくしに愛想を尽かされないように、頑張ってくださいませ」
フンッと顔を背けると、またクスクスと笑うケイン。この方、意外と笑上戸ですわね。




