6 とんでもない悪女?
◇◇◇
「お母様はどうしてお父様と結婚なさったの?」
わたくし、夕食の席でお母様に聞いてみることにしましたの。
「あらまぁ。急にどうしたの?」
「わたくしも結婚するにあたって、両親の馴れ初めを聞きたくなったのですわ」
「まぁ、そうね。話してもいいかしら?」
「君がいいなら、構わないよ」
そう言えば聞いたことありませんでしたよね。
「実は私ね、お父様の婚約者からお父様を奪ったとんでもない悪女だったのよ」
危うく口からステーキが飛び出すところでしたわ。
「あ、悪女?お母様が!?」
「そうよ〜。そのころフローレンス家は子爵家になったばかりで。お祖父様はお父様に高位貴族のご令嬢と結婚させて、箔をつけようとしてらしたの。お母様はしがない男爵家の娘でしょう?婚約者候補にすらなっていなかったわ」
「そ、そうでしたのね……」
なんだかとんでもないカミングアウトをされてしまいましたわ。
「けれど、お母様はお父様のことが大好きだったの。お父様とお母様は貴族学園で初めて出会ったのだけど、一緒に役員をしていたとき、いつも優しく教えてくれて、頼りになる先輩だったの。それにほら、お父様ったらとんでもなくイケメンでしょう?お母様、昔からイケメンには目がないの」
うっとりとお父様を見つめるお母様は、今だに恋する乙女のようですわ。この年になっても夫に恋していられるなんて、女として幸せですわね。
「ふふふ。実はお父様もお母様のことが大好きでね。お母様ともっと仲良くなりたくて、生徒会に推薦したんだ」
「まぁ、そうだったんですの!知りませんでしたわ」
「……ちなみに、お父様の婚約者だった方はどうされたんですの?」
「お父様と親しくなって、最初は泥棒猫、とか言われて酷い嫌がらせを受けてたんだけど、そのうち無視されるようになってしまって。いつの間にか婚約が無かったことになってましたよね?あれからあの方、どうなさったのかしら」
お母様の言葉にふいっと視線を逸らすお父様。絶対なんかやりやがりましたわ。
ま、まぁ、おっとりしたお母様とそんなお母様を溺愛しているお父様が略奪婚なのは意外ですけれど、夫婦の馴れ初めにも色々ありますのね。
けれど、
「お二人は恋愛結婚ですのに、わたくしは好きでもない男に嫁ぐことになるんですのね」
思わずポツリと呟いた言葉が、食卓に重く響いてしまいましたわ。
困った顔でお父さまを見つめるお母様。こんなこと言っても困らせてしまうだけですものね。
「冗談ですわ。どなたに嫁いでも、わたくしは平気ですわ」
だって、わたくしにはお金がありますもの。いざとなったら、なんだってできますわ。
「アデリーナ。本当に無理だと思ったら、いつでも帰っておいで。ここはいつだって君の家だよ」
「そうよ。可愛いリーナ。旦那様のことを愛せなかったら、帰ってらっしゃいな。あなたを愛さない人は、いないと思うけどね」
「ありがとう。お父様、お母様」
その日わたくしは、ケインとの婚約を正式に結ぶことに同意したのですわ。




