18 備えあれば憂いなし
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キラキラと眩い輝きを放つ金貨を、わざとらしく袋からじゃらりと取り出してみせる。食い入るように金貨を見つめる女。
銅貨1枚で大きなパンがひとつ買える。銀貨1枚は、銅貨100枚の価値。金貨1枚は銀貨100枚分の価値ですわ。そして、袋の中の金貨はゆうに100枚はありますわね。
「あなたの組織のボスに、話を通して頂戴。上客がいるってね?」
「……なんのことだか」
チラリと憲兵隊員を見る女。けれども、憲兵隊の皆さんはくるりと後ろを向いてしまいましたわ。まるで、何も見ていないとでもいうように。
肩を竦めて見せると、女は面白そうに笑い出しましたわ。
「フフ、アハハハ!お嬢ちゃん、どうやらあんた、ただ者じゃないようだね。面白い。教えて上げるよ。けど、私をあいつらの仲間だなんて、冗談でもやめとくれ。私はね、どんなに落ちぶれてたって、子どもを食い物にする奴なんて大嫌いなのさっ!」
やっぱりね。憲兵隊員がいるのに、わざとらしく絡んできたのは、この辺りを牛耳っている組織のボスに睨まれない程度に、情報を渡してくれたのですわね。
「あなた、お名前は?」
「よしとくれ。名乗るほどのもんじゃないよ」
「わたくしの名前は、アデリーナ……」
「おっと、その先は聞かないでおくよ。私のことは、そうさね、ビビとでも呼んでおくれ」
「分かりましたわ。では、ビビさん、これをボスの所に届けてくださる?」
ポンっと金貨の袋を渡すと、ビビは目を白黒させましたわ。
「ちょ、ちょっと!冗談じゃないよ!こんな大金持ってるだけで他の誰かに殺されちまう!これ1枚で十分さっ!」
ササッと周囲を見渡すと、1枚だけ金貨を抜き取り、慌てて袋を返すビビ。
「さっさとしまいな!物騒な子だね!いいかい?二度とここにそんな大金持ってくるんじゃないよっ!」
わたくしは素直に頷きました。
「あなた、本当にいい人ですのね」
「試すのはやめとくれ!全く、可愛くないお嬢ちゃんだね」
ぶつぶつと文句を言うビビの姿に、アレンがポカンと口をあけて見入ってますわ。
「この街にも、あなたたち兄弟の事を心配してた人はいたのですわ。分かりにくいだけで。これから先は、わたくしに任せてくれるかしら。必ずあなたの弟妹を連れて帰ってくるわ」
こくんと頷くアレン。
「お願い、します……俺、何でもするから。あいつらが帰ってくるなら、俺、一生働いて返すから」
ポンポンとアレンの頭を撫でると、エマとアレンを孤児院の先生と憲兵隊の皆さんに託します。
「わたくしが戻るまで、この子たちをお願いできるかしら?」
「は、はいっ!」
エマとアレンは、素直に先生のもとに。けれど、
「まさか、お一人で向かうおつもりですか!?危険すぎます!」
憲兵隊員の皆さんには全力で止められてしまいましたわ。
「安心なさって。護衛も一緒ですから」
サッと手を振ると、目の前に現れるフローレンス家護衛隊の者たち。
その数ざっと30 名。一人一人が、フローレンス家の後継者であるわたくしを守るため、厳しい訓練を積んできた手練れですわ。
「いつの間に……」
にっこり微笑むわたくし。
「人生何があるか分かりませんもの。備えあれば憂いなしですわ」




