17 救われない世界
◇◇◇
「あら、あんたアレンじゃない。久しぶりねぇ」
家まで急ぐ中、客引きの女たちの一人に、呼び止められるアレン。
「チッ……」
アレンは女を一瞥すると、そのまま通り過ぎようとしましたわ。どうやら、親しい仲では無さそうですわね。
「相変わらず可愛くないわねぇ。知ってるわよ?あんた捕まってたんだって?平気な顔して外を歩いている所を見ると、どうやら上手く見逃して貰えたみたいだけどさ。罪を見逃して貰う代わりに、何か良いネタでも売ったのかい?」
女はチラリと憲兵隊に視線を送る。
「うるさい。これ以上俺に話しかけるんじゃねぇよ」
イライラとした口調で答えるアレン。けれど、
「あーあ、私にそんな口の利き方していいのかい。せっかくお前の弟妹たちの様子を教えて上げようと思ったのにさ」
女の言葉に目を剥くアレン。
「……はっ?」
「家に帰るつもりだろ?残念ながらあんたのろくでなしの父親はもういないよ。借金のかたに、家と子どもたちを売っ払ってトンズラしたからね。今頃どっかの安宿で、上機嫌で酒でもかっくらってんじゃない?子どもを売ったお金でね!」
「嘘だっ!」
「嘘なもんか。クソ生意気なお前と違って、リンもジョシュも大人しくて可愛い顔してるからね。金持ちの変態野郎に高値で売れそうだってそりゃあ上機嫌で……」
「黙れ!!!」
女に殴りカかかろうとするアレンを、憲兵隊員が慌てて抑え込む。
「こらっ!暴れるな!」
「クソっ!クソっ!だから逃げたのに!あいつが、俺達を捨てる前に、俺達が捨ててやったのにっ!」
泣き喚くアレンを、途方にくれた様子で見つめる憲兵隊員と孤児院の先生たち。
我がエール王国では、奴隷制度は禁止されてますわ。けれど、子どもの就労は禁止されていないため、子どもが親の仕事を手伝ったり、住み込みで働いたりすることもありますの。いい雇い主に恵まれたらいいけれど、中には奉公先で虐待されたり、乱暴されたりすることも。けれど、一度その家の中に入ってしまうと、そうした子どもたちを見つけるのはとても困難ですわ。だからこそ、アレンは家から逃げ出したんですわね。弟と妹を守るために。
アレンの様子を見て、何も言えず、うつむくエマ。誰にもどうにもできない、この最悪の状態で。
わたくしがいることを忘れてもらっては困りますわ。
アレンの様子を意地悪そうな顔で面白そうに眺める客引きの女に、そっと微笑みかけるわたくし。
「ねぇあなた、ずいぶんこの辺りに詳しいようですわね」
「なんだいあんた」
作業着姿のわたくしを、上から下まで値踏みしたあと、ふふんと勝ち誇ったような顔を向けてきましたわ。
「ずいぶんお高くとまった喋り方だけど、その作業着、孤児院のものだね?ドブさらいの仕事でもしてるのかい?」
「まあ、確かに先ほどまで下水道にいましたわね」
「気の毒だねぇ。せっかく女に生まれたんだから、もっと楽に稼げる仕事もあるっていうのに。なんなら私が紹介してやろうか?」
ニタリと笑う女に、わたくしも満面の笑みで応えますわ。
「ええ。そうですわね。ぜひ、紹介していただきたいですわ。アレンの弟達を買ったその、変態オヤジとやらを」
わたくしは女の目の前に、金貨のたっぷり詰まった袋を見せつけます。
「わたくし、より高値で買ってあげてもよろしくてよ?」




