16 いないほうがマシ
◇◇◇
迷路のように入り組んだ下水道の中を、灯りを手にひたすら進むわたくし達。王都の下水道は広く、地方に比べればまだ、比較的管理が行き届いているものの、淀んだ空気や臭いは耐え難いものですわ。
「本当に、こんな場所に子どもたちが?」
「うっ、気分が……」
大人でも音を上げる劣悪な環境。気丈に付いてきたエマも、言葉にはしなくともさすがにきつそうですわ。
「エマ、無理せず引き返してもいいのよ?」
「……私は、大丈夫です。それよりも、あなた、いつからここで生活してたの?」
「さあな」
アレンのぶっきらぼうな答えにムッとするエマ。
「……弟や妹もいるのに、どうして孤児院に行かなかったのよ。あそこの孤児院だったら、こんなところにいるよりよっぽどマシだったのに」
どうやら今回の視察で、エマの王都の孤児院に対する評価は上がったようですわね。けれど、
「……俺たちは孤児じゃねぇからな。親がいる子どもは孤児院には入れてもらえねぇんだよ。いないほうがマシな親でもな」
親という存在をバッサリと切り捨てたアレンの言葉に、言いかけた言葉を飲み込むエマ。とても、賢い子ですわね。黙り込むアレン。エマもそれ以来押し黙ってしまい、いっそう気まずい雰囲気に。アレンにはアレンなりの理由がありますわよね。どんな親か気になるところですけど。
カツンカツンと、響く靴音。昼間でもなお深い、闇の世界。こんな所に小さな子どもたちだけでいるなんて、どんなに心細いことだろう。
一刻も早く見つけてあげたい。そう思っていたのだけど。
「嘘だろ……なんでいないんだよ!」
アレンたちが寝床にしていたという空間は、すでにもぬけの殻でした。ボロボロになった毛布と片方だけの靴が脱ぎ捨てられたまま。
「今までに、弟たちだけで、どこかに行くことはあった?」
フルフルと首を振るアレン。
「この下水道に、ほかにもどこか、子どもたちが隠れそうな場所に、心当たりはあるかしら?」
わたくし達と一緒に来た孤児院の職員や、憲兵隊の方も、首を振るばかり。
「困りましたわね。引き続き下水道を捜索するチームと、街なかを探すチームに別れて捜索を続けましょうか?」
「そうですね。では早速……」
「あの!」
そのときエマが声を上げましたわ。
「あの、小さい子だけで、そんなに遠くに行ってないと思います。ここからそう遠くない、普段から良く知ってる場所にいるんじゃないかな」
頷く憲兵隊員。
「それもそうだな。君、この場所以外に弟たちが行きそうな場所に心当たりはないか?」
アレンはハッとした顔をして、
「まさか、あいつら家に帰ったんじゃ……クソっ最悪だっ!」
言うなり、駆け出すアレン。
わたくし達は頷き合うと、アレンの後ろを見失わないように追いかけることにしました。
来たときとは別の出口から下水道を脱出し、王都のとある場所に出たわたくし達。そこは、あまり上品ではない、飲み屋や宿屋などが軒を連ねる場所でしたわ。
客を引く女たちの甘い声、昼間から酒瓶を抱え、酔い潰れた男たち。明らかにおかしな格好をしたわたくし達を値踏みするように、無遠慮な視線がいくつも通り過ぎていきます。
「おい、あの男たち、憲兵隊員じゃないか?」
「あの変な格好した娘はなんだ?」
「っアデリーナ様……ここは、レディーが来るような場所では……」
憲兵隊員の言葉に、溜息を漏らすわたくし。確かに、こんな所他のご令嬢がいらしたら、卒倒してしまいそうですわよね。
けれども、
「今更ですわ。さっきまでいた下水道よりマシでしょう?」
まさか貴族令嬢がこんなところにいるとは、誰も思わないでしょうし。噂になったらなったで、揉み消せば済む話ですわ。




