15 下水道の子どもたち
◇◇◇
「離せよっ!俺はこんな所来たくなかったんだっ!」
大きく払い除けた手で食堂のテーブルの上に置いてあったグラスが落ち、けたたましい音とともに割れて砕け散る。
「クソっ!お前ら絶対に許さないからなっ!」
ドアを開けた瞬間飛び込んできた、目の前の光景に固まる子どもたち。怖いのか、ミアがわたくしの手をぎゅっと握りしめます。
「アレン。落ち着いて」
「うるせえ!俺に指図するんじゃねぇよっ!」
暴れる男の子を必死で宥める先生たち。ふむ。見たところ新入りのようですわね。
「取り込んでいる所悪いわね。今日は子どもたちと一緒に施設の見学に来たわ」
「あ、アデリーナ様。申し訳ございません。私たちの指導が行き届かず……すぐに落ち着かせますから」
ぺこぺこと頭を下げる先生方。わたくしはそれを手を挙げて軽く制します。
「いえ、突然訪問したこちらの落ち度ですわ。気になさらないで。見たところ、そちらの子は施設に来たばかりのようね」
「は、はい。先日盗みをして憲兵に捕まった子なんですが、親も住む家もないと言うことで、こちらの施設で保護することになりました。でも、施設に着いてから突然暴れ出して……食事にも手を付けないし、着替えも入浴も拒否していて……」
「保護だと!これは誘拐だっ!勝手に連れてこられて迷惑なんだよっ!俺を元の場所に戻せよっ!」
見たところ、アレンは12歳位かしら。まだ、保護が必要な年齢ですわね。痩せた手足に、あちこち痣の残る体。これまで苦労してきたことが分かりますわ。施設に入れば、少なくとも寝食は保障されるのに、これほど抵抗するということは……。
「あ、あのっ!」
エマが一歩前に出ました。
「あなた、もしかして、弟妹がいるんじゃないの?」
エマの言葉にビクリと体を震わせるアレン。
「……何だよテメェ……」
低く呟くと、エマをぎりっと睨みつけてますわ。けれどエマは真っ直ぐアレンの目を見て一歩も引かない様子。
「間違ってたら謝るけど。守らなきゃいけない子がいて、その子のことが心配でここを出たいんじゃないの?」
エマの問いに黙り込むアレン。
「アレン、そうなの?まだ、保護されてない子がいるの?」
先生の問いかけにアレンは歯を食いしばる。
「そうだよ!俺がいないとあいつらが野垂れ死んじまうんだよ!だから俺をここから出してくれ!」
「場所を教えてくれれば、すぐに保護するわ」
「駄目なんだよ!いつも俺が帰るまで隠れてろって言ってるから、あいつら出てこないんだよ!」
「その子たちは、どこに隠れてるの?」
「……下水道の中……」
「……王都の下水道は確かに入り組んでますわね。その子たちと別れて、今日で何日目?」
「もう3日だよ!ちくしょう!」
「分かったわ。──すぐに王都の憲兵隊に連絡を。アレン、行くわよ!」
「え、行くって……」
「あなたじゃなきゃ、居場所が分からないんでしょう?今すぐ案内しなさい!」
「わ、わかった!」
「わたしくしは、アレンと一緒に子どもたちを探してきますわ。あなたたちはどうする?」
「リナはミアをお願い。絶対に邪魔しないので、私は一緒に連れて行ってください!」
「分かったわ。では、行くわよ」
下水道に3日……王都の夜はまだ冷え込む。幼い子どもたちだけで、飲まず食わずでいるとしたら……事態は一刻を争いますわ。




