10 ケインの事情
◇◇◇
「ケイン様の体調不良の原因は、怪我、ですの?」
子爵家から連れてきた主治医から、ケインの体について詳しい報告がありましたわ。
「はい。戦闘によるものと思われる切り傷や刺し傷、矢で射られた跡など、かなり広範囲に渡ってお体に傷があります。どの傷も一応塞がってはいますが、まだ怪我をしてから日が浅いこともあり、動かすと痛むでしょうね。更に、武器に塗布されていたと思われる、毒に侵された形跡もあります。身体が衰弱しきっておいでですので、ケイン様には当面の間休養が必要ですね」
「それほどとは。ケイン様はどこでそんな傷を……」
「現在ルミエール公爵領となっている辺境の一部に、隣国との軍事衝突や盗賊団との小競り合いが絶えない地域があるそうで。ケイン様はそこで、国境を守る騎士達と共に、第一線で戦ってこられたと伺っております。去年、隣国との大きな戦があり、かなりの被害が出たらしいので、恐らくそのときに負ったお怪我かと」
「そう言えば新聞で読みましたわ。戦いには勝利したものの、我が国からもずいぶん戦死者が出たのでしたわよね。まさかその戦いにケイン様が参加していたなんて……お父様、わたくしにはそんなことひと言も仰っていなかったのに。……ということは、ケイン様は、そのとき負った怪我のせいで騎士をお辞めになったのね……。ご苦労さま。引き続き治療をお願いできるかしら?必要ならば、食事療法の他に、リハビリや心理カウンセラーの準備もお願いするわ」
「かしこまりました」
主治医が一礼して出ていったあと、わたくしは領地からの報告書を手に取り、思わず溜息をついてしまいましたわ。
多くの仲間を失って、自分も怪我により騎士を続けることが出来なくなった。
「……とても、お辛いでしょうね」
ケインのどこか諦めたような目の原因が分かったような気がしますわ。彼は、本当の絶望を、味わってきたのですわね。そしてふと思いましたの。
「……もしかして、あの子たちは領地から連れてきたのかしら」
てっきり王都の貧民街かと思ってましたけど、満身創痍のケインが王都の貧民街でたまたま孤児を拾ったというのはおかしな話ですもの。
戦場となって荒れた領地の貧民街から、親を亡くした子どもたちを引き取ったのだとしたら、あの子たちをこのまま王都で育てることは、果たしてあの子たちが望むことなのかしら。
「……ミハエルに、詳しい話を聞いたほうが良さそうね」
◇◇◇
子どもたちに会いに行くと、ちょうど食堂でマナーについて勉強している所でしたわ。子どもたちに必要な教養を身につけさせるべく、家庭教師を雇ったんですが、今日は実際に食事をしつつ、テーブルマナーについて学んでいるみたいですわね。
小さい子どもたちは、ナイフとフォークの使い方が難しいらしく、悪戦苦闘していますけれど、ミハエルとエマはなかなか様になっていますわね。
邪魔にならないように少し離れた所から見守っていると、一番幼いミアがなんだかソワソワしていることに気が付きましたの。
先生の姿をチラリと見たあと、サッとポケットに食べかけのパンを隠すミア。
(こっそり小鳥にパン屑でもあげたいのかしら……)
わたくしも、裏庭に迷い込んできた猫に、こっそり餌をあげていたことがありましたわ。結局一度も触らせてくれませんでしたけど。
後でこっそり、何に餌をやるつもりなのか聞こうかしら、と思っていると、急にエマが立ち上がって、ミアの手を掴みましたの!
「ミア!泥棒みたいな真似はよしなさいって言ったでしょう!」
「ご、ごめんなさい、わたし、わたし……」




