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ファッション右翼

作者: 稀Jr.

その昔の昭和の頃に島田雅彦の「優しいサヨクのための嬉遊曲」という小説が話題になった。当時は大学紛争に出られた世代と大学紛争に遅れてしまった世代があって、左翼というブームにのれなかった学生とそうでなかった学生がいたのだ。今思えば、浅間山荘事件の後のことであるが、日本の中の団地妻がちょっとイケメン左翼小説家に憧れていたという事実があったりなかったりした頃である。左翼といっても "サヨク" ということでちょっとした思想ブームの走りとその終焉ということだろう。いまとなっては終わってしまった話でもあるので、おじいさん、それ昔何度も聞いたよ、という話なのかもしれない。聞いたことはないけど。


さて、そのインテリサヨクの後に登場したのが、ファッション右翼である。右翼と言うと、街宣車で軍歌をがなりたてている小うるさい迷惑な団体と思われている節があるが、事実そうである。昭和のころは、「あれ、見ちゃだめだよ」と母親が子供の目をふさぐくらいの存在であったりなかったりする。街中を騒音まみれにしているという点では、ちょっと暴走族...というか今でいえば珍走団みたいなものだが、ちょっと警察にお世話にならないのが違っている。ある意味、15 歳前後の暴走族が右翼団体に勧誘される場面もあるのだが、暴走族...じゃなかった珍走団の特攻服と右翼団体の服は非常によく似ているので、暴走族...じゃなかった珍走団の方々におきましては憧れの的であったかもしれない。よく知らんけど。


そんな由緒正しい右翼団体の街宣車の中で、ひときわファッション性を重視して、女子供に...じゃなくて若い女性にワーキャー言われていたのが、ファッション右翼である。

彼らは街宣車に横乗りになりつつ、パトカーにも敬意を払いつつ赤信号でも律儀に止まって交通ルールを守っていたのだ。

それは「バニラ、バニラ、バニラ~」を連呼する、バニラアイスのキッチンカー...じゃないと思うのだが、街宣車の上で「ニッポン、ニッポン、ニッポン~」と叫んでいたのだ。池袋の駅前にあるジュンク堂の前で。


「さて、皆様、日イヅルところの臣民の皆さま、おはようございます!」

「おはようございます!」

「みなさま、通勤お疲れ様でございます。本日もこの日本のために頑張りましょう!!」

「頑張りましょう!!」

「アメリカや中国では関税 100 % とか、貿易戦争が起こっていますが、我らニッポンはもっと和平的に安全に安心に貿易を行っていきます」

「行っていきまぁす!!」

「そうです。ニッポンは平和の国であり、世界の中心で先進国を維持しつつ、アジアのリーダーとして君臨していくのであります!!」

「君臨していくのであります!!」

「遅れた半導体の技術、80 兆円に及ぶ教主アメリカ国なぞなんその、トヨタとソニーがあれば大丈夫であります!!」

「大丈夫であります!!」

「株価はうなぎのぼり。戦後初めて 5 万円台を超え、たった 5 社による株価上昇にて日経株価を支えている状態です。これぞニッポン経済、皆様の株価が上がるよりも、なによりも数社における株価の上昇が重要なのであります!!」

「重要なのであります!!」

「円安が進んでいますが、輸出をしている企業であれば大丈夫です。円安ですから外国からの観光客もどんどんやってきます。インバウンド需要が盛んですから、ドルに対してもユーロに対しても安くなった円を使って、どんどん 10,000 円の海鮮丼やら、20,000 円の鰻重を食べに来て欲しいのであります!!」

「食べに来て欲しいのであります!!」


ここ明治節に至っては旭日大綬章を受ける平蔵氏も大々的に持ち上げるのであった。日頃の感謝込めて感謝感謝感謝の三連発である。淡路島の玉ねぎスープである。うまい、やすい、引っこ抜く、の三連発である。

それこそ、踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々、である。

国家と身を一体化して、国家のために尽くすことが美徳であり、反対派はださいのだ。いまさら、左翼として何かと体制に文句をつけるのは時代遅れである。いまこそ、権力とともにわれらは臣民としての使命を果たすときがきた。それは、AI を推進する国家戦略であり、いままでわが国が培ってきた漫画や映画などのエンターテイメントをクールジャパンとして輸出して、あまねくジャパン・カルチャーを広げないといけない。盆踊りも永代から続く伝統文化であり、縄文の頃から人々は農耕貴族文化をたしなんでいたのだ。石器で作った芸術品を後世に残すために、国家の走りを作り、帝を頂点として大陸の国や南の国を目標へと押し上げるために邁進してきたのである。八紘一宇の世界をここに。体制の世に体制のために人が集い、国家国民のために邁進するのです。


ほれ、ほれ、かっぽれ、かっぽれ。

「ニッポン、ニッポン、ニッポン~」


「はい、ありがとうございました。第1回思想オリンピックの先攻は、ファッション右翼の皆さまでした。みなさま、惜しみない拍手をお願い致します。ぱちぱちぱち。続きましては、対するポストサヨク主義の皆さま、どうぞ~!!!」


【完】


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