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ぬくもりの香り  作者: noi
香りとの出会いから
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11月16日 土曜日 心急く香り②

 先輩に連れられて着いたお店は『喫茶バレー』


 SNSか何かで聞いたことがある気がするお店だ。まあ、聞いたことがあるだけでどんな雰囲気の店内でどんな商品があるのかもしらないから新鮮さを感じる。


 カランカランと音を立てながら扉を開け、カフェ店内に入る。店外から見て煌びやかだと感じたイメージは変わらず、他のお客さんを見ても皆どこかきらきらとしている。そして、カップルで来店している人が多い。


 どこかソワソワチクチクとする居心地の悪さを感じながら松村まつむら先輩が呼んだ店員を待つ。


陽介ようすけ君、こっちだよ」


 松村先輩がボーっとしていた僕を呼ぶ。もう、店員さんが席に案内してくれるらしい。案内されるがままに席に座る。


「この雰囲気のお店で料理の量が多いんですか?」


 この店に入った時から浮かんでいた疑問を先輩に聞いてみる。


「そうなんだよ。結構めずらしいよね。でも、その物珍しさが人気のお店になった秘訣らしいよ」


「大食いの僕にとっては嬉しいことですね。先輩は何を頼みますか?」


「私はこれをずっと食べてみたくてね」


 そう言って先輩が指さしたメニューは『クリームココアパスタ』。大盛のココア味のパスタの上に生クリームとフルーツが乗った物だった。見るからにハイカロリーで写真越しでもその圧力を感じる。先輩が1人でこの料理を食べきれるのか?


「じゃあ、僕はこの和風きのこパスタにします」


 取り合えず、先輩が食べきれなくなった時のためにしょっぱめの味付けのパスタを選ぶ。このメニューもクリームが乗っていないだけで割とボリュームがあるけど僕なら食べきれる。


 しばらくして料理が運ばれてきた。先輩が食べきれるのか不安に思いながら食べ始める。美味い。一口食べるごとに食欲が増すような味、香り。このままでは先輩を無視してでも食べてしまいそうだから意識して食べる手を止めて先輩と会話する。


「このパスタめっちゃ美味しいです。先輩の方のパスタはどんな感じなんですか?」


 聞かなくても分かるくらい甘そうで見ているだけでも胃もたれしてしまいそうだ。


「甘いよ。甘すぎるほどではないけどパスタを食べて初めてこんなに甘いと思ったよ。でも、美味しい。不思議な感じだね。ほら、一口どうぞ。」


 松村先輩がパスタを分けてくれた。もちろん、フォークで食べさせてもらう訳では無い。自分のフォークで先輩の皿からパスタを取り分けて食べる。


「本当に不思議な味ですね。先輩をこのお店を前から知ってたんですよね」


「うん、このココアパスタがSNSでバズってて知ったんだよ。だけど、私の友達は小食で誘いづらくて、1人で来るにも少しハードル高くてね。今日来ることができて本当に嬉しいよ」


「僕も先輩に誘ってもらえてうれしいです」


 心からの本心を伝える。


「喜んでもらえて嬉しいよ。君も結構気合い入れてきてくれたようだしね。例えば、いままで見たことの無い新しい服を着ているし。その服、似合っているよ。他にも初めて君から漂って来る香水の香りとか」


 顔の火照りを感じる。ご飯を食べて身体が温まった訳では無い。僕の心を読まれ、先輩に全部バレていたことに対する恥ずかしさによるものだ。


 それと、先輩が僕のちょっとした普段との違いまで僕の事を見てくれていた事に対する喜びの感情も感じている。


「まあ、友達と遊びに行くときは僕もオシャレくらいしますよ」


 顔の火照りを隠しながら言い訳をしてみる。


「ほんとかなぁ。君の顔、少しづつ赤くなってきてるよ。正直に言ってくれた方が私は嬉しいかもね」

 

 もう取り繕うことも出来なさそうだ。


「じゃあ、正直に言いますよ。先輩と遊びに行けることが嬉しくて今日のために服を買い、香水を買いました。先輩との遊びを良いものにしたかったんで」


 僕の話を聞いている先輩はニヤニヤとしている。


「へー、そんなに楽しみにしてくれてたんだ。本当に誘ってよかったよ」


 先輩が笑顔でそんなことを言う。先輩の声の調子がいつもより軽い気がする。先輩の素の部分が見えてきた。先輩にこうして笑ってもらえるのなら、僕が恥ずかしい思いをすることくらいどうでもいいと思える。でも、少しくらいは言い返したい気持ちも湧いてきた。


「今日は先輩だって綺麗な服装してるじゃないですか。普段よりも可愛いですよ」


 少しばかり仕返しの気持ちでストレートに『可愛い』と言ってみる。


「本当に?個人的にこの服をとても気に入っているから嬉しいよ。それに、《《普段よりも》》ってことは君はいつも私のことを可愛いと思ってるのかな」


 この人はどうして自信満々にこんなこと言えるんだ?顔の良さ以外に自慢できる所なんて無い僕とは全く別の世界に生きているように感じる。しかし、その自分との違いに忌避感は感じない。むしろ、幸福感を感じる。この人の世界を感じ取れるこの感覚の虜になってしまった。


 会話が弾み、楽しい時間が流れる。気づけば自分のパスタを食べ終えていた。水を口に含みながら先輩のパスタを見ると残りはあと数口分だけだった。食べる速度も量も僕とほとんど変わらない松村先輩に少しあっけにとられる。


「先輩って割と大食いなんですね。正直、先輩は食べきれないかもしれないと思ってました」


「意外だったかな。高校の時も運動部でその頃からずっと食欲が収まらないんだ。そのせいで今でも運動しないといけないんだよ」


「大変そうですね。僕は高校の部活を引退してから全く運動しなくなっちゃいました」


 受験生としての1年からの大学生生活。部活にも入っていない僕は講義の無い日もダラダラと過ごすだけで運動なんてこれっぽっちもしていない。


「若いうちから不健康な生活はだめだよ。ただでさえ学生は不規則な生活してるんだから運動くらいはしないといけないよ」


「まずは、散歩でも初めて見ます。続くかはわかりませんけど」


「良い心がけだね。初める時はそのくらいの気持ちで良いんだよ」


 先輩がパスタを食べ終えた。


「次は服を買いに行こうか。ここの会計は私が出すよ」


「僕の分は僕が払いますよ」


「ここは先輩の顔を立てさせてよ。誘ったのは私で君は後輩なんだからさ」


 しぶしぶ納得して先輩に会計をしてもらった。


「今から行くところも私が行きたい服屋さんなんだけど本当に良かったの?」


「そうやって普段行かない場所へ行くのが面白いので大丈夫です」


 松村先輩の事を知ることが出来るのなら何だって楽しめる。


「わかったよ。君の楽しみを増やすためにも私の買う服を何着か選んで貰おうかな」


「それは結構面白そうですね」


 雑談しながらしばらく歩き続ける。そして、アパレルショップが多くテナントに入っている大型商業施設に入っていく。

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