ぬくもりの香りのあの子①
● 12月22日 土曜日
今日は陽介に渡すクリスマスプレゼントを買いに行く。何にしようか。香水にしようかとも思ったけど、ちょっと別の物を渡したい気持ちもある。適当なアクセサリーショップを巡ってみようか。
価格帯がちょうど良さそうなお店に入る。いろいろな商品を見ていてもピンとくる物が無い。
「どういった商品をお探しですか?」
店員さんに話しかけられた。
「彼氏へのクリスマスプレゼントを探してまして」
「それでしたらこちらの商品などいかがでしょう」
シルバーのピアスを進められる。うーん。あの子はどこにもピアスの穴を開けていないからなぁ。
その後に説明してもらった商品にも良いと思えるものが無かった。
「すみません、他のお店を周って戻ってきますね」
思ってたよりもお店に長くいてしまった。少し休憩したいからカフェに行こう。
クリームの乗った甘いストロベリーラテを飲んで一休みしながら考える。
本当にどうしようかな。クリスマスプレゼントだから気合が入りすぎている自覚はある。でも、仕方が無いよ。陽介は何を渡しても全力で喜んでくれる。だからこそ、魂を込めた最高の物を送りたい。
隣の席に私と同い年くらいのカップルが座っているカップルの会話が聞こえてきた。
「ねえ、どんなデザインの指輪にする?」
「そうだな、せっかくならペアリングが良いよな」
「えへへ、なんだか恥ずかしい気もするけどペアリングが良いよね。一緒に居れない時でもあなたのが近くにいてくれる気がしそうだもんね」
「そうだね。それに、ペアリングを付けてたら君にちょっかいかける男も減りそうだしね。」
隣のカップルのイチャイチャした会話を聞いている私が胸焼けしてきた。
「じゃあ、今から買いに行こうよ。早くあなたとの愛を形にしたリングをこの指に付けたいな」
「ごめんね、俺が仕事を休めればクリスマスの日に渡せたんだけどね」
「働いてるんだから学生の頃みたいに自由に遊べないのは仕方ないよ。私はあなたと遊べて嬉しいんだから気にしないでよ」
そういってカップルは去っていった。
ペアリングも良いかもしれない。いや、付き合い始めてまだ1週間も経っていない私たちにペアリングは早い。それでも、アクセサリーとかの日常生活で身につけておける物で陽介が私の事を想ってくれそうな物にしよう。
安直だけどスマホで『雪』がモチーフになっているアクセサリーを売っているお店を調べてみる。少し恥ずかしいけど、自分の名前を由来にした物を持っていてもらいたい。
ネットで調べてみるとモチーフが『雪』のアクセサリーは思っていたよりも種類があった。それでも、男性向けの物がとにかく少ない。一応、写真で見るだけじゃ分からないからお店に行ってみるか。
いつの間にかクリームがドロドロに溶け切ってしまったストロベリーラテを飲み干してお店に向かう。
1店舗目は陽介が着けるには派手すぎる物だった。2店舗目は商品が売り切れていてクリスマスまでに用意できない物だった。3店舗目は1店舗目と同じ理由で買わなかった。
カフェで目星を付けておいたお店も次で最後になる。『雪』をモチーフにしているアクセサリーを選ぼうとしている時点で間違っているかもしれない。それでも、全部のお店を周るまでは諦めらめ切れない。
候補に挙げた最後のお店に入る。目当ての商品を探して店内を歩いていると店員さんに話しかけられる。
「どのような商品をお探しでしょうか?」
「この『雪』をモチーフにしたメンズ向けのネックレスを探してるんですけど……」
カフェで探した時に保存しておいた写真を見せる。
「この商品でしたらこちらです」
探していたものがあって良かった。店員さんに付いて行くと小さな雪の結晶をモチーフにした私が思っていた通りのネックレスが置かれていた。それに、一目見てわかった。陽介に渡すクリスマスプレゼントはこれしかない。
「恋人さんへのプレゼントですか?」
ネックレスに心を奪われていると、ふと店員さんから質問された。
「そうなんです。私の名前が雪なので『雪』のデザインが取り入れられているアクセサリーを彼氏に渡したくて」
浮かれていたのか言わなくて良いことまで店員さんに話してしまった。
「良いですね。そうやって彼氏さんに想いを込めた物を送りたいと思うお客さんの気持ちが素敵だと思いますよ」
私が客だから私の気分が良くなるようなお世辞を言ってくれているとわかっている。でも、やっぱり浮かれてしまう。
「これにしようと思います」
「かしこまりました」
そのままこのネックレスを買うことにした。
「お買い上げありがとうございました。お客様が真剣に悩んで選んだプレゼントですから彼氏さんもきっと喜んでくれると思いますよ」
店員さんが優しい笑顔で私を応援して安心させてくれる。
「ありがとうございます」
ルンルンな気分で帰宅して私の部屋の角に置いてある雑貨棚に隠しておいた。
● 12月24日 金曜日
今日は陽介とデートして過ごす。基本的に陽介の家で過ごす予定だけど少しはクリスマスの恋人らしい事もしてみたいので今は街中のイルミネーションを陽介と見に来ている。
普段から人の多い通りでも今日は特に人が多く、中々自由に歩けない。周りには恋人たちで溢れていて私たちも浮かれた空気に充てられてくっついて歩いている。
「きっと、私たちもこの景色に馴染んでいるんだよね」
イルミネーションの光に照らされているいろんな形のカップルを観ていると陽介が語りだす。
「そうですね。僕達が観ているこの景色に映る人たちと一体化しているような感じがします。道行く人はみんな浮かれて特別な気分に浸っているのに他の人から見ると景色にしかならない。それでも、僕らを含めて1人1人が輝いて見えるから綺麗な景色に観える。そう思うと不思議な気持ちになってきます」
「なんだか酔ってる時みたいな事を言うね」
「クリスマスイブの空気に酔ってるかもしれません」
聞いてる私も空気に酔っているのがわかる。だって、ポエムの様な陽介の言葉が素敵だなと思ってしまったから。
イルミネーションを一通り見終わって充分に外の世界のクリスマス気分を味わったので私の家に向かう。
2人共お腹が梳いているので早速、用意しておいた夕ご飯を温める。メニューはビーフシチュー、ローストビーフ、フライドポテト。軽くお腹に溜まるくらいの量だけしか作れなかった。
これには理由がある。冷蔵庫から2人で食べるには大きすぎるクリスマスケーキを持っていくと陽介が少し引き攣った表情を浮かべる。
「これって、何号サイズのケーキなんですか?」
「5号だね」
「あのね……ケーキ屋さんでテンションが上がっちゃったんだ。陽介といられるクリスマスイブが楽しみだったし。それに、お店の中だと小さく見えて私も陽介もご飯をいっぱい食べれるからこの大きさでも大丈夫だと思っちゃったんだ」
こうなってしまった理由を洗いざらい白状する。だって、仕方ないじゃないよ。あんなに可愛らしくて美味しそうなケーキを陽介といっぱい食べられると思うとワクワクが抑えきれなくて欲張ってしまったんだ。
結局、ケーキは食べきることが出来ずに冷蔵庫の中で一旦眠っていてもらうことにした。調子に乗ってごめんなさい。必ず食べきるから許してね。
夕ご飯とケーキをたらふく食べたからお腹が苦しい。
お腹を叩いてポコポコと音を鳴らしながら話していると今日は陽介と飲むためのお酒を用意していた事を思い出す。
「今更だけど一緒に飲もうよ。良いよね」
「僕は一応、未成年ですよ。そんな僕にお酒を進めたらダメじゃないですか?」
「良いの良いの。今日くらいは飲んで楽しもうよ」
そう、今日は恋人と過ごすクリスマスイブ。未成年飲酒くらいどうだって良い。
こうしてお酒を飲み始めた。
陽介に甘えていたような気がするけど何も分からない。
私の記憶はここで途切れている。
※20歳未満の者の飲酒は法律で禁止されています。




