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ぬくもりの香り  作者: noi
香りとの誓いまで
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1月1日 水曜日 願いの香り

 0時15分。雪と2人で近くの神社に初詣に来た。


「あんまり人いないね」


「そうですね。やっぱり朝になってから来る人が多そうですね」


「そうだろうねー。あ、まずはお参りに行こうね」


 2礼2拍手1礼 賽銭箱の隣に書かれている手順に従って願う。


 雪が何事も無く無事に1年を過ごせますように。雪も願い終わったらしい。


「次はおみくじだね。さあ、今年の運勢はどうなるかな」


 今年こそは大吉でありますように。


 そう願いを込めながらおみくじを引く。


「あっちで火が焚かれてるからあそこの明るい所でおみくじを開けようよ」


 パチパチと木の燃える音を聞きながら同時におみくじを開ける。


 結果は凶だった。


「わあ、私は大吉だったよ。陽介は?」


「僕は今年も凶でした……」


 雪が笑っている。


「はははっ。君はとことん運勢が悪いんだね」


「来年は大吉を引けるように今日から一日一善を意識して生活しようかな」


「そこまでしなくても良いんじゃないかな。別に凶だからと言って悪い事だけが書かれてる訳じゃないでしょ?」


 そうだけども何だか凶は居心地が悪い。


「じゃあ、陽介のおみくじだけくくって帰ろうか。あっっ」


 強めの風が吹いた時に雪が手を滑らせて大吉のおみくじが火の中に吸い込まれていってしまった。


 おみくじの薄く軽い紙が燃える火に触れた途端、じわっと燃え尽きた。


「こういう時ってどうするのが正解なんだろうね?」


「もう1回おみくじを引きに行きましょうか。おみくじって何回でも引いて良いらしいですから」


 雪が2度目のおみくじを引く。


「今回の運勢はどうでしたか?」


 雪からおみくじを無言で手渡された。


「凶……ですね」


「私も陽介と一緒に一日一善を意識して生きようかな。例えば、毎日陽介に匂いを嗅がせるとか」


「それ良いですね。雪に毎日会えるなら嬉しいですね。それに、雪も僕に会えてうれしいですもんね」


「そうだね。これで、来年は2人で大吉が引けるね」


 馬鹿みたいな事で笑いながら僕の家へ歩いて帰る。


「陽介は去年も凶だったんだよね。何か悪いことがあった?」


「特に何もありませんでしたね。昨日、自分の運勢を思い出したくらいですし。なんなら、めちゃくちゃ良い1年でしたね」


「そんなに良かったの?何があったのか私に教えてよ」


 隣を歩いている雪を見つめてみる。


「そんなに見つめてどうしたの?」


 何も言わずに見つめ続ける。僕が顔を見つめる理由が分かった様子の雪の顔が赤くなっていく。


「わかったから。恥ずかしいからあんまりじっと見ないでよ。お願いだから言葉で伝えてよ」


「去年は雪と出会えて雪と付き合えて雪と一緒に居られたので幸せだったので個人的には大吉でしたよ」


「ちょっと、声が大きいよ」


 雪が僕の耳元で囁く。


 思っていたよりも声が大きくなってしまっていたようで近くを歩いていた数人から冷やかしの目で見られている。恥ずかしい。


「すみません。テンションが上がってしまって……もう1回、声を抑えて言いますね」


「もう伝わったから大丈夫だよ。まったく、好きでいてくれるのは嬉しいけどもう少し落ち着こうね」


 新年早々に叱られてしまった。




 初詣を終えて僕の家に帰ってきた。


 2人でベットに入り込む。


「じゃあ、日の出を見に行くまでの間は寝てようか。絶対に寝坊しないように気をつけないと」


「僕のスマホでも目覚ましのアラームをかけておきますね」


「ありがとう。おやすみ」


「おやすみなさい」


 雪はすぐに眠っていった。


 頬をツンツンしてみたりしても起きる様子は無い。完全に寝ているようだ。雪に抱き着いて胸元の香りを堪能して肺を幸せで満たす。


 やっぱり好きな香りだ。どれだけ嗅いでも飽きることの無い香り。


 雪に包まれながら僕もいつの間にか眠っていた。




 「陽介、起きて。寝過ごしてしまっているよ」


 身体を揺さぶられながら起こされた。まだ、眠たいのに。スマホを確認してもまだ、朝の7時。今日は休日だから昼過ぎまで寝ていよう。


「ねえ、もう初日の出が見えてきてるんだよ。ほらっ外もぼんやりと明るくなってきているよ」


 その言葉を聞いた瞬間の飛び起きる。


 急いで外を見ると確かに東の空に若干の白い光が見える。


「寝すぎましたね。あれ?アラームをかけてたはずなのに」


「君は寝ながら無意識でアラームが鳴ったらすぐに止めていたよ。今はそんな事は良いから初日の出を見ようよ。もう、海の方へ行くのは無理だけどここからも見えるからさ」


 雪の言う通りだ。


「ベランダに出た方が見やすそうですね」


 窓を開けると冷たい空気が部屋の中に流れ込んでくる。


「寒いねー。もしかすると寝坊して良かったかもね」


 厚着してブランケットを羽織りながら雪が微笑んでいる。


「浜辺まで行ってたら凍えてたかもしれないですからね」


「そうだよねー。」


 雪の口元がニコニコとしている。どうしたんだろうか。


「そんなに笑ってどうしたんですか?」


「ん?ああ、楽しいなって思ってたんだよ。君と初詣に行ってこうやって初日の出を眺めて1年を始めることが出来て。今年はスタートから幸せで満ち溢れているなーって」


 雪は嬉しいことを言ってくれる。


「雪の1年を幸せで埋めれるように頑張りますね。来年もこうやって2人で過ごしたいですね」


「そうだね。私も君に楽しんでもらえるように頑張るよ。あ、そういえば、寝る前に私の香りを楽しんでくれていたよね。その上、抱き着いてきてくれちゃって」


 完全にバレていた。触れても反応が無いから寝ていると勘違いしていた。


「なんで反応してくれなかったんですか?」


「だって、君が可愛かったから仕方ないでしょ。私の身体を優しく触れてくれて香りを楽しんでくれて抱き着いてくれて」


 自分のしたことを1つ1つ挙げられると恥ずかしくなってしまう。


「すみません……あんまり言わないでください」


 顔が真っ赤になり熱くなっているのが分かる。


「嫌だね。辞めないよ。君が私の香りを嗅ぐに鼻息がかからないようにしてるよね。それに、抱き着く時もすごく優しく抱きしめてくれたりさ。私は君の優しさを感じられる好きなんだよ」


 僕は何と言ったら良いんだろう。あまりにも嬉しそうな顔で言ってくれるから言い返せないよ。


「あれ?あそこを歩いてるの衣緒いお楽斗らくと君じゃないかな?」


 雪が指で指している方向を見てみると人のいない道を確かに楽斗と衣緒さんが歩いていた。


 2人が手を繋いで仲良く歩いている。っと思っていたら衣緒さんが楽斗の頬にキスをしていた。なんで道路であんな事をしているんだろう。


「陽介、今の見た?」


「見ちゃいましたね」


「あの雰囲気は多分、衣緒が酔っぱらってるね。あの子は酔うと楽斗君に対してあんな感じになっちゃうんだよね」


「そうだったんですね。何となく友人のあんな場面を見ると気まずくなりますね」


「その気持ちは分かるよ」


 酔っぱらっている衣緒さんを支えながら歩いていき道を曲がっていった所で姿が見えなくなっていった。


「そろそろ良いかな」


 雪が小さく呟く。どうしたんだろうと思って雪の方を向くと僕の顔の目の前に雪の顔があった。突然の事で少しの間、思考が止まり雪の顔を見つめるだけで終わってしまった。


「えっ?」


 雪の顔が遠ざかっていく。顔を手で隠しているせいで表情が見えないけど耳が真っ赤っかになっているから想像がつく。


 雪が何をしようとしていたのかわかった。


「どうしてこのタイミングでキスしようとしたんですか?」


「えっと……衣緒と楽斗君を見てると羨ましくて我慢が出来なくなって……それでね」


「外なのに?」


「うん」


「雪、こっちを向いてください」


「……うん」


 完全に日が昇り、明るくなった寒空の下のベランダの上で唇を重ねる。


「もう、日が昇ってしまいましたね。もうひと眠りしますか」


「そうだね。起きたら買い物に行って暖かい物でも食べようよ」


「あ、それ良いですね。僕はトンコツ味の鍋が良いですね」


「2人で鍋を囲むのも良いね。まあ、そのあたりの事は起きてから考えようか」


 2人でベットに潜り込む。


「今回は私が陽介の香りを楽しませてもらうね」


 お互いを抱きしめるようにしていると雪が僕の胸元に頭を沈めてくる。


 これから2人で話していると自然と眠っていた。


 暖かく優しさのある香りで包んでくれる雪と出会えて良かった。

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