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水音の周波数

作者: 秋桜星華

夏のホラー参加作品。

「――おたよりありがとうございました。それでは、ここで音楽です。ところによっては気象情報です」


 言い終えると同時に、音楽の音量を上げる。


「ふぅー」


 ペットボトルのふたを開け、中の水を喉へ流し込む。


 酷使された喉に水分が沁みた。


 視線を上げると、時計の針が3時を指していた。


 とはいっても窓の外は暗い。


 深夜3時なのである。


 私は動画配信を始めて間もない、俗にいう新人Tuberである。


 再生数が少なかった私のチャンネルを救ってくれたのが、この”本格派”ラジオ配信だった。


 もちろん気象情報はどこでも流れていない。


 ――今、私のラジオを誰が聞いてくれているのだろうか。


 ふとそんなことを考える。


 視聴者は表示される。今は、”564人”だ。


 でも、どうしても孤独だ。


 コメントはある。でも誰も笑っていない。


 世界が私一人のような。


 音楽が終盤へと向かった。今のうちに次のおたよりを用意しておこうかな。


「このラジオは、新人Tuber、於彼(オカ)流灯(ルト)がお送りしています。今の曲は、ショパンの雨だれの前奏曲(プレリュード)でした」


 少し雑談でも挟もうか。


 スマホの天気予報を眺めて口を開いた。


「明日、というか今日はこのラジオの可聴範囲のほとんどが雨予報ですね。雨って、すこし不気味じゃないですか?」


 ザザッ……ザザッ……


 ヘッドホンに雑音が入る。まるで集中したいときの雨の音のように。いつものことだが、今日は頻度が多い。


「あれぇー?回線が悪いのかな」


≪そんなことないですよ≫


≪むしろ今日めっちゃ調子いいですね≫


 コメント欄は私と反対の意見で埋まっていく。


 まぁそんなこともあるかと思い、この話題は終わった。


「では、次のおたよりです!ラジオネーム”laer(えるえーいーあーる)”さん……ラエルさんかな?」


≪たぶんラエル≫


≪ラエルだと思う≫


≪変わった名前だな≫


「”私の家のお風呂が最近おかしいんです。ある日の午前3時、ちょうど流灯さんのラジオを聞いているころ、風呂のほうからちょろちょろっていう水の音が聞こえてきたんです”」


≪おぉ、ホラーか≫


≪風呂、か……≫


≪水は、とめられないよ≫


「”私は怖くなって、風呂場まで見に行きました。すると、確実に栓を抜き、空だったはずの浴槽が満杯になっていたのです”」


≪怖い……?≫


≪水道料金大丈夫か?≫


≪うわっ最悪……≫


「”その水に触れるとまるで記憶が溶けていくようでした。それから、毎日風呂に水がたまるようになりました。おそらく、今も……”」


≪おぉ……≫


≪ボケたか?自分でためてるんじゃない?≫


≪心配だな……財布が≫


「ホラー投稿ありがとう!コメント欄で水道料金心配している人がいっぱいいたけど大丈夫かな?――それじゃあ、つぎのおたより!」


 そしてその手紙を片付ける時、気づいてしまった……紙の隅にかかれている、「次はお前らだ」の文字に。



 ◇ ◇ ◇


「もう3時半だね~!そろそろ流灯は寝ます。それでは、また次の放送で~」


 配信を切り、後ろのベッドへダイブする。


 窓にはいつの間にか、大きな雨粒が打ちつけていた。


 ふと机の上を見る。


 そこには、確かに飲んだはずのペットボトルの水が満杯になっていた。


 その水は、飲料水よりも輝いて見えた。


 何かに操られるようにして私はふたを開け、その水を口に含んだ。


 ――あぁ、私は



 ◇ ◇ ◇



「あれ、こんなコメント来てたっけな」


 前日のラジオのアーカイブを聞いていた時、私は見覚えのないコメントを見つけた。


≪おたより読んでくれてありがとう!≫


≪水、きれいでしょ?≫


≪次は、そっちの番。≫


 そして。


≪画面の前の、あなた≫


 昨日からの雨は、より勢いを増していた。


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― 新着の感想 ―
リスナーたちのコメントの中に水道料金を気にする声が多くて、「確かに、そっち方面の怖さもあるよなぁ…」と思わず納得してしまいました。 思わず入りたくなったり飲みたくなる水が勝手に溜まるのもミステリアスで…
つまり、水道料金は掛からない! 素晴らしい!
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