第四借 虐げられた者たち
(アンバー…さっきの獣人の少女のことか?)
「アンバー?」
俺が問いかけると、男はハッとして
「狐の耳を生やした、6歳くらいの女の子だ」
(どうやら正解らしい)
「おそらく俺のことだ。」
「やっぱりそうか!ちょっと着いてきてくれ!」
男は俺を急かすように、駆け足で俺をどこかへ案内し始めた。
「着いた。ここだ。」
そういうと男は今にも崩れそうな家の扉を開けて、中へ入っていった。俺も足元に気をつけながら後に続いて屋内に入った。
俺は目を疑った。そこには痩せコケた子供、片腕のない老人、目に包帯を巻いた女性など、ざっと数えて20人ほどが密集していた。
「すみません。驚かせてしまいましたか。旅の方。」
杖をついた老人が話し始めた。
「私はこの村の村長のルストンと申します。
私たちは虐げられてきた者なのです。」
「虐げられてきた者?」
「はい。獣人差別、異国民差別、魔法族差別など様々理由はありますが、他者に嫌われ、国に嫌われここに流れ着いた者達です。」
この国、ガラム王国は異様に境界が多いくせに差別が一般化している典型的な人間至上主義国だ。
「金持ちの奴らは俺らを奴隷としか見てない。ぶん殴ってやりたいが、村に何をされるかわからないんだ」
「あそこにいる目に包帯を巻いた彼女は、目をくり抜かれ、それを魔物に食わせる音を聞かされました」
聞いているだけで虫唾が走るような話をそえて、村長は村民の紹介をした。
「あなたが恵みを与えてくださった狐の獣人。あの子はアンバーと言います。つい先日まで地方貴族の奴隷でした。そこには、親の見えないところで奴隷を虐める貴族の娘がおり、アンバーはその標的でした。」
話を聞いていた大男は、拳を強く握り締め
「今までに何人も俺の村の仲間を虐殺した野郎だ。他にも奴隷をいたぶるのが好きな変態貴族はいるが、あいつは特にタチが悪い。」
と、教えてくれた。
「お願いがあるのです、旅の方。どうか子供達だけでもどこか安全な場所へ送り届けてはくれませんでしょうか。無理な願いなのは承知ですが、どうか…」
「俺は戦闘に詳しいわけじゃねえが、兄ちゃんが強いのはわかる。だから、頼む!」
村長と大男は深々と頭を下げた。
「何言ってんだよ村長さん。」
「旅の方…」
村長と大男は肩を落とした。
(俺はまだスキルの効果も使い方も知らない。強く見えるのはローブのせいだろう。だが、こいつらは俺と同じ虐げられ、“追放された”者たちだ。だったら…)
「俺の名前はユーリ。ユーリ=オレスティア。
虐げられ、追放されたお前達を、誰一人として見捨てることはない!」