第二借 追放スキル
「あら、いい顔じゃない」
「でも信仰ってどうすれば」
イヴさんは不敵に笑い、話し始めた。
「神への信仰とは少し違うの。
悪魔への信仰っていうのはね、スキルを使うこと。」
「スキル?魔法ですか?」
「似てるけど少し違うの。
スキルっていうのは人の経験に沿って発現するものな の。だから、一部の人にしか使えない魔法とでも思っ ておいて。」
(僕の経験…そんな特殊なことなんて経験したか?)
イヴさんは不思議そうな顔をした。
「したじゃない。追放されるって経験を」
僕は驚いた。『魔王を倒した』だの『孤児だった』だの、そこらへんの経験を言われると思ったからだ。
「追放?それがどんなスキルに…」
「あら、気づいていないの?あなたのその憎悪や嫌悪、復讐心に。スキルっていうのはそう言った強い願いや思いに反応するの」
「僕は憎悪なんて…」
「あらそう。じゃあ見せてあげる」
イヴさんがそう言った瞬間僕の脳内には、様々な場面が流れてきた。
《勇者達が俺がいなくなり、宴をしている場面》
《ヒーラーが“僕を拷問した“とシスターに話す場面》
《シスターがそれを嘲笑う場面》
《司祭が良い玩具でしょう?と聞く場面》
「どう?これを見ても憎悪はない?」
イヴさんは俺に問いかけた。
「イ…憎い…憎い!あいつらが憎い!」
自分の中に制御しようのない怒りや憎悪が湧いてきた。あいつらを殺してやりたい。ズタズタにして、辱めて、社会的にも心理的にも殺してやりたい。
「その憎悪があなたの本性よ」
「イヴさん…」
「イヴでいいわよ。ユーリ」
「イヴ、俺にスキルを!」
「ええ、喜んで」
《人魔信仰の契り》
俺の体に強い魔力が流れ込んだのが伝わってきた。
脳裏に浮かんできたのは、憎くてたまらないあいつらの顔。俺はこのスキルでアイツらに借りを返す。
「ユーリ。今どんな気分?」
「最高の気分だよ。いますぐにでもアイツらに復讐したいが、まだだ。もっと強くならなきゃいけない」
「自我も残ってるようでよかったわ」
なんか今サラッと怖いことを言った気がしたが、聞き流すことにした。(賢明な判断)
「まずは扱い方に慣れることね」
「何をすれば良い?」
「そうねぇ、王国内で1番辺鄙な村にでも行ってもらおうかしら」
「辺鄙な村…シュタイン村か?」
言っては悪いがおそらくあの村が1番辺鄙だろう。発展を遂げているこの王国の中で、難民や孤児が一際多い村だ。行ったことはないが、噂から想像ができる。
「ここからどのくらいかかるの?」
「馬車だと2日以上はかかるな」
「んー。まあ旅の最初だし特別よ?」
イヴはそういうと俺に転送魔法をかけた。