第一借 信仰を返す
イヴ?昔聞いたことがある。神とも魔物とも呼ばれている存在。仮にそうだとしたら、何故僕の前に?
「何故僕の前にって顔してるわね」
「えっあっ…」
そんなに顔に出ていたんだろうか。恥ずかしい
「あら、さっきまでの威勢はどこに行ったのかしら」
「先程はすみません」
「あら、どうして謝るの?あなたは何も悪くないじゃない。自分の意見を言うって素晴らしいことだと思うわよ、私は」
「素敵ですね」
思わず口に出てしまった。僕にもそのくらいはっきり言える力があればこうはならなかっただろう。
「はあ…」
「?!すみません不快にさせましたか?」
「あんた自分を卑下すんのやめなさい」
自分を卑下?僕はただ事実を言っただけなのに
「はい、すみません」
「あんた、人生楽しい?」
急に何を言い出すんだこの人は。まだ出会ったばかりだからか、この人のリズムがわからない
「まあ、それなりには」
「あら、私に嘘をつくなんて大した度胸じゃない」
「嘘なんかじゃ…」
「あらそう?」
そういうとイヴさんは僕の鼻先にスラッとした綺麗な指先を当ててこう唱えた
《強制尋問魔法》
「もう一度聞くわ。あなた人生楽しい?」
同じ答えを言うつもりだった。だが、口は言うことを聞かなかった。
「んな訳ないだろ?僕の何を知っていてそんな質問してるのか知らないが、今まで信頼をおいて人生の全てをかけた場所から追放され、金も待たず住む場所もなくしてるんだぞ?そんなやつに向かってよく“人生楽しい?”なんて聞けるな?!」
僕は何を言ってるんだ?止まれ!心で考えれば考える程、悪口が出てくる。
「それが本当の貴方よ」
本当の僕?そんな訳ない。こんなこと思ってはいけないんだ。
「僕は神に従う清い聖職者です。たとえどんな事があろうと善の心を…」
「だったら信仰をやめなさい」
信仰をやめる?どうして?
「申し訳ありません。僕の得意な魔法、崇拝魔法は誰かを崇拝していなければ使えません」
「だったら私を崇拝すれば良いじゃない」
イヴさんを崇拝?どう言う事だ?
「私と言う“悪魔”を崇拝しなさい」
あ、悪魔?!悪魔ってあの伝説上の?
「悪魔って、あの魔物の上位種と呼ばれる?」
「ええ、私は女悪魔イヴ。神なんかよりもよっぽど貴方に力を与えられるわ。私の力には縛りがないの」
縛りがない?自分の好きにできる?そんなの、そんなのって…
「最高じゃないか」
俺の神への信仰は返された