第十六借 扉の奥
マリィはその後も喚き続けた。
「お前はもう終わりだ。」
「終わり?この私が?ハッ…ユーリとか言ったかしらね?あなたそこのクソ奴隷に話しかけた時とだいぶ態度が違うわね?カッコつけてんじゃないわよ!」
「俺はお前以上のクズを知ってる。そいつの本性を知って以来、お前達のような奴には手加減しないことにした。」
マリィは余裕そうな表情を崩した。
「ハ…ハイドはどこにいるのよ!」
「ハイド…?」
聞いたことのない名前に俺は警戒をした。
俺がハイドのことを知らないことに気づいたダーズがルーナを抱えながら話し始めた。
「ハイドというのは、この家の執事です。執事でありながら俺たち兵士のような力があり、とても危険です。正直ここに彼がいなくてよかった。」
「どいつもこいつもグズね!ハイドはどこなの?!」
マリィは兵士に掴みかかった。
「すみません分かりません…用事があるとかで…」
「クビよクビ!どいつもこいつもクビ!」
マリィが兵士を蹴ろうとした、その時だった
書斎の重たい扉が“ギイィ“と音を立てて開いた。
扉が開くとそこには銀髪の男がいた。
「ハイド!やっと来たわね?さっさとコイツらを…」
(まずい!こんなタイミングで…みんなを逃がしてからスキルを使おう…)
俺が合図を出そうとした時、ハイドが口を開いた。
「旦那様と奥様がご到着されました。」
「は?」
マリィは困惑した顔で硬直した。
“コツコツコツ”と靴の音が開いた扉の奥から聞こえた。
「お…お父様にお母様!」
マリィは一歩前に出て早口で話し始めた。
「こ…コイツらが私に歯向かって…!」
扉の奥からは、いかにも貴族らしい服装をした身長の高い男と、褐色肌に白髪で長髪の高身長の女性が歩いてきた。
「お父様!コイツらを…」
そういうとお父様と呼ばれる男は胸元から銃を取り出した。
「あんたらなんてもう終わりよ!」
(クソ…逃げ道がない!)
ダーズと俺は仲間を庇うようにして手を広げた。
ーバァァァンー
銃声が部屋中に響いた。
俺が目を開くとそこには頭部から血を流して倒れているマリィの姿があった。
「…え?」
「ふん…片付けておけ。ハイド。」
「承知いたしました。旦那様」
ダーズと俺は、その予想外の光景をちびっ子達に見せないようにした。
男は俺とフランを順番に見た。
「君たち、着いてきてくれ」
そういうとマリィの父親と母親らしき二人は部屋の外へ歩き出した。
「皆様。足元にお気をつけください。」
ハイドは兵士の首を折りながらそう言った。
俺は未だ状況が完全に読めない中、ダーズに俺とフラン以外を他の仲間のいる安全な場所へ逃がすよう言い、見送った後二人について行った。