第十五借 兵士と奴隷
俺たちは、まだ残っている仲間を助けるために2階の書斎へ向かった。
書斎は、兵士の守っているマリィの部屋とは反対方向にあり、戦闘をせずに着くことができた。
俺は書斎につながる大きな扉を開けた。
書斎は円柱状になっていて、その場にいた全員の視線が扉の開閉音と同時に俺達に向けられた。
「僕の名前はユーリ。驚かせてすまない。みんなを助けに来たんだ!」
「た…たすけに?」
「ええ。助けに来たの」
「フラン?!」
本棚の掃除をしていた女の子がフランに向かって、慌てて走り出した。
「フラン…フラン!生きてる…生きてる!」
女の子はフランに抱きつきながら泣いた。
「安心してルーナ。私は生きてるわ。ここにいる」
フランはルーナを抱きしめた。
「ユーリさん、この子はルーナ。私の妹みたいな子なんです。ルーナ、この人はユーリ。みんなを助けに来てくれたのよ」
フランとルーナは、お互い姉妹のように思っているらしい。見ていて本当に仲が良いのが分かる。
二人が話していると、様子を伺っていた他の子達も近くに来てくれた。
「ぼくたちをたすけてくれるの?」
「ああ。一階にいた仲間はさっき助けてきたんだ、俺はみんなを助けたい!だから協力してくれ!」
「私はフランと合わせてくれたユーリお兄ちゃんを信じる!」
「僕も!もうハシゴから落とされたり、本を投げつけられるのはイヤだ!」
「「私も!/僕も!」」
「みんなありがとう!」
「あのね…ユーリお兄ちゃん」
「どうした?」
ルーナが不安そうな顔で俺の袖を掴んだ。
「私のパパがね…私のために兵隊になって…だから、パパも助けてほしいの。」
「兵隊のパパ…もしかして兵士に…!」
俺が言い終わる前に扉が勢い良く開いた。
目を向けるとそこには、兵士が立っていた。
その奥から怒りを含んだ声が聞こえた。
「逃げようとしたって無駄よ!そこから一歩でも動いてみなさい?兵士の槍一突きで処刑するわ!」
最悪のタイミングでマリィが来てしまった。
扉が閉まり、その前にはマリィ。退路を塞がれた。
(どうして気づけなかったんだ…!)
「この部屋にはね?私のお父様がつけた防音機能があるのよ?そんなことにも気づかないなんてあんたらもグズね?」
(防音機能?そんなレベルじゃない。長く冒険をした身だから分かる。結界だ。しかも高位の…)
俺は一歩前に出ながらフラン達を後ろへ隠した。
「俺の後ろに隠れてて。絶対に傷つかせないから」
「あんた!動いたら殺すって言ったでしょ?刺し殺しなさい!」
マリィは俺を指差して近くの兵士に命令をした。
だが、その兵士は動こうとはせず俺たちを見続けた。
「早く刺し殺しなさい、ダーズ!私の兵士なんだからあいつらを刺し殺…」
その兵士はマリィを拳で殴った。
「グフッッッ!」
「お嬢様…俺はあなたに兵士になれと言われた時、奴隷のままでいようとしました。」
「ダーズ…何言って…」
ダーズは俺たちにゆっくりと近づいてきた。
「ですが命令に逆らえば俺だけでなく、娘まで殺される。だから俺は兵士になった。」
「な…なにを」
「娘を傷つけろと命令するのなら…
俺はあなたに従わない!」
「パパ!」
ダーズは俺達の目の前まで来て、ルーナを守るようにして立った。ルーナの言いかけていた父親とはダーズのことなのだろう。ダーズは父親の目をしていた。
「ふざっ…ふざけるな!私から逃げられるとでも?私は権力も財産もあるのよ!奴隷風情が偉そうに口を聞くな!」
「確かに俺は追っ手を警戒してルーナと逃げることはなかった。だが今の俺は、父親として娘を殺そうとする者に立ち向かっているんだ!権力も財力も関係ない!」
ルーナ 娘
ダーズ 父