第十四借 銀食器
「俺はみんなを助けたい。でもみんなの協力が必要なんだ。」
「協力?」
「ああ。安全な場所へ避難してほしいんだ。頼りになるグレイっていう、ムキムキお兄ちゃんが守ってくれるから、安心してほしい。」
「ムキムキお兄ちゃん?!」
「そう!ムキムキお兄ちゃん!」
「ムキーっ」
グレイはその場で自慢のフィジカルを披露し、またも空気を和ませた。
「で、でもね…お嬢様を怒らせちゃうと怖いの。
間違えて名前を呼んだら叩かれるし
ミスをしたらちょーばつ房に入れられちゃうし
何人もそこで死んじゃったの」
「今だってこんなことさせられて…」
年長者らしき猫の獣人の女性が、持っていた銀食器を置いて両手の手のひらを広げた。
そこには血まみれになった指と、いくつものアザがあった。
「これは…」
「暇つぶしなんだそうです。あの人は銀食器を素手で拭いて傷だらけになった指を痛がる私たちを見て暇つぶしをするんです。」
「まだ続いてたの…」
アンバーは泣きそうになりながら、自分の手のひらを見つめた。
「銀食器は使われないんです。」
フランも手を見つめながら話し始めた。
「使われず観賞用として置かれている食器です。あの人の…マリィの気分で“汚れている”だの“磨きが甘い”だの理由をつけられて、さらに殴られるんです。」
それからフランは、俺とグレイにだけ聞こえるようにマリィのしてきた拷問の数々、死んでいった仲間のことを短く説明してくれた。
「フラン。話してくれてありがとう」
「いえ。私もこの場所に来て決意が固まったんです。私は死んでいった仲間の分も借りを返したいんです!」
「ああ。俺の仲間を傷つけ、殺し…苦しめたその借り…俺が返す!」
その場にいる全員に作戦を伝え終わると、ドアの向こうからうっすらと足音が聞こえてきた。
「!相棒…マリィが来る」
「分かった!それじゃあみんな計画通りに逃げてくれ!屋敷の方は俺に任せろ!」
「上にはまだ僕たちの友達も、兵士もいる…みんなを助け出して!おねがい!」
マリィにつけられた大きな傷のある小さな手で、強く俺の手を掴んだ。
「当たり前だ!全員救ってきてやる!」
「「がんばって!」」
「おう!」
合図とともに俺とフランは2階へ、グレイ達は窓から脱出した。
ーその後食堂ではー
「銀食器はきちんと拭いて…!」
食堂に着いたマリィは、奴隷を叩くために手に持っていた鞭を床に落とした。
「ど…奴隷がいない…どういうこと?!ハイド!」
「すみませんお嬢様。私にも分かりません」
「使えないグズね!クッソ…」
「申し訳ございません、お嬢様」
「早く探して!2階よ!2階!」
「了解しました」
マリィは置いてある食器を床や壁にに叩きつけた。
「潮時ですかね…」
不敵な笑みを浮かべる男が一人…