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クラーク軌道のプリンセス  作者: 学倉十吾
一番強く表現してみせて、キミができるなかで――と彼女がぼくに迫った。
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 それから見たいくつもの出来事、時に恐ろしく時に素晴らしい、信じがたい光景の数々、

 それら全てに圧倒され、一佐の意識はオーバーフロー寸前だった。

 無重力を御する巨大な身体を纏ったアーチルデットとともに固体惑星の眠い大気を越え、地球の重力圏に広がる海原を、気の遠くなるような速度で渡ってゆく。

 〈クラーク軌道の姫君(プリンセス)〉号の元へと辿り着くのに、果たしてどれほどの時間を要したのかももはや実感がない。速度や時間の概念が、大きく覆されるほどの、圧倒的体験。

 静止軌道にひっそりと取り残された〈姫君〉は、既に満身創痍の様相だった。無数に爆煙を上げる星間航海船の姿。その外周にたかる羽虫のように、骨組みだけの奇妙な円環状の物体が軍勢をなし、光の矢を撃ち込み続けている。その度に〈姫君〉は機体から破片と塵とを撒き散らしてゆく。凄惨な光景だった。

 彼が立ち会ったそれは、例えばゲームで見た宇宙戦争などとは全く質の異なるものだ。無重力下に投げ出され続ける物体同士が、互いの位置を適切な場所へと運ばせるために労力を割き、物理法則が無粋な邪魔をしなさそうなあらゆる手段を駆使して、ただ音もなく傷つけ合う挑戦を繰り返していた。機体が受ける振動ばかりが、彼女の内にたゆたうアクアリウム越しに届いていた。これは冷たく、ときに静謐で、そしてひたすらに無機質な戦争。ただ重力だけが平等に、そして乱暴なまでに牙を剥いていた。

 それからどうやったのか、アーチルデットとミィヤが何か叫び、即時プランを練って、

 彼女らの母艦を沈めようと射続ける〈基金〉の無慈悲な輪っかたちを鬼神のごとく追い立てて、機首から迸る光学兵器で一機ずつ断ち切り、あるいは融解させていった。

 田端が関わっていたという衛星・クラウドナインが果たしてどこに消えたのか、この状況では確認できそうもなかった。真っ先に撃墜された可能性も考慮すべきだったのかもしれない。

 アーチルデットたちの様子がおかしいのに気づいたのは、彼が体験した短い航海の、終幕間近のことだ。

 その身から数多の塵を削り出し、無重力下に赤く燃え始める〈姫君〉の巨躯。地球の青い大気が眼下に迫り、ようやくして全てが重力圏に絡め取られていたのだと知る。

 ミィヤが取り乱したように喚き続けるのを、一佐はただ傍で聞くことしかできなかった。

 アーチルデットは、ただ呪った。ママが、ママが裏切りやがった、あの売女(ビッチ)、〈姫君〉もろとも地球をファックする気だ。そう口汚く罵った。


『――――ぁぁあんのっ糞〈母性のプロトコル(ババア)〉ァァァァァァァッッッ――――!!!!』


 憤りと侮蔑と呪詛の声を張り上げ、地球へと落下してゆく炎の塊と化した星間航海船目がけてアーチルデットが突撃した。


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