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まずは退職の口実

お目に止めて下さりありがとうございます。


 夏の初めに、十年以上務めた会社を退職しました。


 社会人になって三社め、勤続年数で言うと二番めに長い会社でした。

 アルバイトで入社後、割とすぐに正社員に引き上げてくれた有難い会社で、お陰様で古参の方々から苛めみたいな目にも遭わされたけども最終的には悪くない関係を築けていた(と思う)し、同僚やパートさんたちとは楽しくやれたし、上司とも取引先とも、まあまあ上手くやれていたんじゃなかろうか。


 仕事はね、大変だったけど面白かった。適性があったらしいです。それはね、辛いことは日々雑多にあったし、たまにエラい目に遭ったけれども、だからこそひと山超えた時の達成感と解放感もまたひとしお。帰宅後の酒がめちゃくちゃ旨かったもんです。


 年齢的に見れば給与は高くなかったけど食うに困るほどでもなく、休日数は基準ギリギリ有給もほぼ取れないし賞与は書類の上にのみ存在するという会社ではあったけど、職種的には珍しくない、というか多分だけど業界内ではマシな部類だったんだと今は思う。ちっちぇー会社だったしね。好待遇な方でした。


 なんだけども。


 仕事終わんねえな。パートさんは帰さないとな。新人ちゃんもだな。また残業だな。ここんとこずっとだな。ちょっと辛くなってきたかな。まだ頑張れるかな。持ち帰ってやろうかな。夜中までかかるの辛いから次の休みに家でやろうかな。おお丸一日かかって休み潰れたやんかテレワーク扱いにしてくんねえかな。駄目ですかそうですか。畜生ねみーなまた始発出勤かよ。今日も休憩取れなかったな。おおお何だ突然上司がぶん投げてきたぞ今は止めろ? ええハイ無理っす。だから無理だって。無理だっつってるだろうが! 判ったよやりゃ良いんだなこの野郎カネ(手当)くらい出せよ! あーこうやってやっちゃうからまた次が来るんだよって言ってたらホントに投げてきやがった! 俺は機械じゃねえんだぞ!!


 みたいなことを六年ちょっとくらいかなあ、やってたら、体がおかしなことになりまして。


 始めはね、お約束で胃でした。慢性胃炎。忘れもしない六年前の年の瀬の早朝、動けないくらいの胃痛で出社できなくなって同僚に大迷惑を掛け、年明けに胃カメラ飲んだら、アッチコッチ出血してるからストレス避けて安静にねー、って言われましても。いや在宅介護もしてますし。とりあえず胃薬いっぱい出してください。痛みが治まらなかったらまた来ます。お世話になりましたー。


 次は歯でした。大昔に治療した歯根が炎症起こして大惨事。胃薬とロキソニンをがぶ飲みしつつ治療を受け、ああ終わったと思った半年後、今度は婦人科系の持病が悪化して手術せにゃならんとか何なん。しかも開腹でなきゃ取れませんと言われて、人生初の入院(しかも十日もだった)と自宅療養三週間。独居で自宅療養ってなかなかでしたが、いやぁ在宅介護が終了していて本当に良かったと思いました。マジで。ほぼ寝たきりの人の世話なんか到底できませんよハラ切ったあとで。


 で、ヨロヨロ復職した翌月が超繁忙期で、縫った腹は痛いし、当時の自宅と職場はそこそこ離れてたんで満員電車もツラいし仕事は増えてく一方だしで、あの頃居たパートさんたちが凄い労わってくれたので何とかなってましたが、まああんまり思い出したくない日々ではあります。いまやれと言われても絶対もう無理。そのくらいにはきつかった。


 余談ですが、本当にヤバかった二日間、居候させてくれた姉には感謝しかありません。姉の自宅から職場まで、タクシーで通える距離だったのはほんとーーーーに助かった。ありがとうあねー。あねーも繁忙期だったのに世話掛けて済まんかった。こんなとこに妹が書き散らかしてるなんて絶対知る筈がないけど、改めて御礼をば申し上げる。多謝。


 閑話休題。

 まあそんなこんなで修羅場は乗り越えたんだけれども、そこからまた粛々と胃がおかしくなってきて、なんとなーく睡眠障害っぽいような気もするんだけど、病は気から・認めたら負けで仕事してたんですが。


 体というのは正直なもので、最後の一年半は正にハイライトでした。


 一年足らずの間に入院三回手術四回。毎月毎月くっっそ混んでる大学病院に通って経過観察を受けなきゃならなくなった上に、年末の超繁忙期の寸前に全く別口の検査を受けたら、癌かも知れないです再検査して駄目だったら年明けに精密検査でーすとか、いやもう本当に勘弁してくれよと。


 結果的には癌ではなかったし、癌に進行する可能性もだいぶ低いそうで、それは非常に有難いんですけれども経過観察は絶対に必要なんだそうで、またひとつ通うクリニックが増えました。やっと一か所減ったところだったのに。三歩進んで二歩下がってる。三百六十五歩のマーチか。


 それでも癌疑惑は疑惑で済んだから良いんですが。


 大学病院で経過観察中の病気の方、こいつが寛解まで数年掛かるし再発するし再発したら手術だし都度おカネがじゃぶじゃぶ出て行くしで散々なんですが、命には関わらないので気長かつ気に病まずに付き合うしかない、もうそれは仕方ないとしても、気色悪いのは発症するには年齢が若いことと、医者にも発症の原因が判らんと言われたことでして。


 真顔で何でなっちゃったんだろうねと言われたんですが、いや医者のあんたに判んなかったら俺には一生判んねえよと。とにかく血圧が上がると絶対に再発するからコントロールしろとのことなのですが、そもそもオバチャン血圧は高くないんだけどその場合どうしたら良いですかね。


 とりあえず痩せとけば間違いないと言う事なんですが、あのねそれが一番難しいから。


 変な時間に変なモノ喰ってるから。酒は断てても砂糖は断てないのよ。


 酒はね、一時、パートナーが引くほど呑んでたんだけど、きっぱり止めました。何にも予定を入れない休みの日に昼酒しながらネッ〇フリックスとか超絶楽しかったけど、あれ歯止め掛ける人が居ないと延々と深夜まで呑み続けることになるからね、流石にヤバいと思って。難しいかと思いきや、案外と簡単にアルコールは止められたんだけれども、スイーツはどうやっても絶てないのよねえ。


 買わなきゃ良い、確かにそうなんですが、それが出来れば苦労は無くて、コンビニスイーツはそりゃコンビニに行かなきゃ良いだけですが、日々の食料品を買うスーパーだのドラッグストアだの、行かない訳には参りません。


 牛乳を買いにいくとさあ、大抵、近くにあるんですよねえ、スイーツの冷蔵ケース。

 あと、一番良く行くスーパーがね、レジの手前が菓子売り場なの。たまにお得な日があるの。レジに並ぶと絶対に目に入るの。そんでいつもはお高いチョコが安くなってたりしようものなら。


 むしゃくしゃしてると素通り出来ないんですよどーうやっても。


 あとこれは自分でもどうかと思うところですが、スーパーの誘惑に打ち勝って帰宅してもですね、オバチャン自分で作れるんだよね自宅にあるモノで。クッキーとかプリンくらいなら。あとレンジで蒸しパンね。あれ簡単で美味いのよ。米粉小麦粉は言うに及ばず、ココアパウダーもインスタントコーヒーも普通に買い置きがあるし、砂糖も蜂蜜もあるしさ。卵も。重曹もある、食える奴が。そしたらほら、混ぜてチンって。


 ……という意志薄弱なくせに欲望に忠実で変なところで諦めない人間に、ダイエット(正しい食生活)なんざ一生ムリなわけです。(運動して痩せろと言うのはちょっと別の話になるので置いときます。そういう道があるのは判っている。可能か不可能かはさて置くが)

 

 そうなると、今度はむしゃくしゃを避ける方向で考えますよね。だいたい、むしゃくしゃしてるとスイーツじゃなくても変なモノ食べたくなりますからね。変な量とか。


 つまり要はストレスなんじゃね、と。ストレス避ければ良いんじゃね、と。


 ヒトの血圧がストレスで上昇するのは、広く知られた話です。


 我が身を振り返るに、慢性胃炎。数年越し、健康診断で毎回律儀に引っ掛かるアレもそういう事ですもんね。

 そういえば三年くらい前に一週間ほど頭痛が治まらなくて近所の頭痛外来に行ったんですが、その時に上が百九十とかいう未だかつて見た事もないハイスコアを叩きだしたことがありまして、あの時もストレスを緩和するためには云々みたいな話をされたんでした。

 肘から手首まで突っ張らかって、痛みでどーにもならなくなって訪ねた整形外科で、あんたの躰は鉄板か!と呆れられたこともある。筋肉剥がしの注射はしてくれたけれども後日リハビリ室に連行され、ぼくチカラそんなに入れてませんと半笑いで言う療法士のニーサンの施術にぎゃーぎゃー七転八倒し、終わった時にはマジ涙目になってたのも記憶に新しい処です。……あれは非常に恥ずかしかった。めちゃくちゃ痛かったのは本当だけども泣くことはないよね。良い大人がね。


 そうだ。


 寝つきが悪いのも夜中に飛び起きるのも馬鹿喰いした数日後にぱったりモノが喉を通らなくなるのも胃が痛いのも数年経ってるのにハラの縫い目が未だに痛むのも下肢静脈瘤で血管一本潰したのも仰天レヴェルの不正出血でびびったのも眼底出血もそれで網膜やっちゃって一生元通り見えなくなったのも浮腫が再発するたび飽くまで当社比ですがウルトラ高価い注射を眼球に直接打たなきゃならなくなったのも、全部、仕事のストレスかも!!!


 ―――ということに心の底から思い至ったので、仕事を辞めることにしたわけです。

 カネで健康は贖えませんからね。従業員が病んでも、会社は何にもしてくれません。エクスペンダブルです。だからね、健康大事。健康一番。




 以上、長々と申し上げましたが、何をこんなに言い訳してるかと言うと、こんなに心安らかなクリスマスなんて何年振りかと思うと浮かれぽんちで家じゅうサンタとか飾りそうな勢いなんだけど、かつての同僚たちの事を思うと胸が痛むと言うか心苦しいと言うか曰く言い難い罪悪感みたいなものが湧いてくるんで。

 あとは先日、自己の現状を分析するというセミナーを受ける機会があり、ごく気軽に挑んだ結果、今の己のとんだノーストレスかつ傍若無人な生活っぷりが赤裸々も良い処に暴露されたため、その生活を支えてくれているパートナーに対して大変に後ろめたくなってきており、勿論、家事はほぼ一手に引き受けてはいるんですけれども在職中とは比べモノにならないゆとり生活であるもので何かちょっとこう。


 ただ、わたくしの持病の再発の引き金がストレスであることは実証されたように思います。


 何故なら、繁忙期を超える度に再発していたものがおさまったから。

 そもそもの発病は勿論のこと、去年の年末然り。退職を決意した春先然り。神経を酷使する生活の後は必ず検査結果が芳しくない。

 実感したのは、辞める寸前でした。春から夏にかけてが出鱈目な忙しさだったのですが、お陰様で半年間抑え込んでいたものが見事再発。退職後に手術を受けました。退職後の入院治療費は痛かった。

 まあ懐事情はさておき、この時点で既に似非専業主婦生活に突入してストレスフリーを満喫していたせいでしょうね、以来ピタリと再発の兆しがありません。自宅の血圧計で計るに綺麗に安定した数値も出ますので、多分ですが来月の検査もクリア出来るんじゃないかなあ。最近、頭痛もしないし夜も飛び起きなくなってるし、このまま無事に年を越したいところです。


 ビバ健康! ストレスフリー!!


 ―――という取ってつけたような一文を以て、今回の口実、退職に関する件は終了とさせて頂きます。

 最後までオバチャンのダラダラにお付き合い下さいまして誠にありがとうございました。


 それでは似非専業主婦、晩御飯の仕度に掛かるとしましょう。

 我が家は今夜は生姜焼きですので、これよりキャベツ半玉を千切りします。中年ふたりで一回に消費する量じゃございませんが、野菜喰いなのよ相方が。

 スライサーではなく手切りする。無心になれてなかなか良い。好きな作業です。


 

最後までお付き合い下さいましてありがとうございました。

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