第5話 HAASD(# ** &&& '''' """"")
ヤマダたちはまだファミレスにいる。ドリンクバーのドリンクを飲みながら話を続けている。
新人が揃えたほうが良い物を、キタザワが教えてくれることになった。残金700ゴールドなら大丈夫だと言っていた。
早々に詰んでバイトするはめにならずに良かった。
それと、どこかで宿も探さなければならない。
「ホテルいくらくらいなんですか?」
「ピンキリだけど、一泊で60ゴールドくらいから。スターターセットに付いてくるクーポンを使った方がいいよ」
クドウが何か心配のようだ。
「スターターセットって?あまり使えない物まで入ってたりしません?」
(クドウ、なんかのスターターセットで痛い目にでもあったのか?)
「デザイン素材と割引クーポンだよ。普通は使うことになるだろうから損はしない」
ヤマダも質問する。
「それより、スタイル決めずに色々と揃えても無駄にならんの?俺らの買った剣、下手すりゃ使わんだろ」
ちなみに、武器等は必要ないときは隠せる。異空間の収納があって、いつでも出し入れ出来る感じ。
ヤマダたちは、キタザワに会ってすぐに教えられて以降、剣は収納に入れっぱなしだ。
「君らまだエフェクトや効果音を持ってないだろ?まずは、新人にとってコスパの良いデザイン素材を揃えるということだよ」
クドウが気づいた。
「あ!そうか!優先されるのは武器や道具じゃない」
ヤマダが最初の頃を思い出す。
「そうか、俺らゴブリンとやったとき、単に剣で切っただけだった。あれに、エフェクトと効果音を付けるだけでも違うのか」
「うん、新品の武器には、演出が付いてないからね。知識ないなら、中古を買ったほうが良い」
ヤマダが思い出した。
「武器屋で中古のほうが高かったのは、何年式とかで価値ついたヴィンテージだと思ってたわ。ここ中古のほうが高いのか」
「君らの世界、新品を買うほうが基本なのかな?中古で経験を積んでからじゃないと、新品に良い演出つけるのは厳しいと思うよ」
クドウが問いかける。
「えっと、それだと、まずはスターターセットを買って、中古ショップ巡りが基本?」
「そういうこと。自分に合いそうな武器、技や魔法の中古を探すほうが効率が良い。そして、エフェクトや効果音の素材によって、必要に応じてカスタマイズしていく。あ、そうだ……」
キタザワが話を続ける。
「前にも言ったように、デザイン素材は、バトルの勝利報酬でも入手できるけど、それなりのオーディエンスポイントがないと貰えないよ」
ヤマダが何かに気づいた。
「素材はポイントがないと貰えない?ゴールドも視聴されないと貰えないんだよな。それじゃつまり…」
クドウは少し考えてから言った。
「キツいね。エクスカリバーで無双しても、素材すら入手できないとなると。ゴールド不足になったら、バイトしながら、手持ちの素材で構成を考えるしか…」
ヤマダたちは概ね理解してきた。
一応、エクスカリバーを活かす方法は考えられる。
例えば、HPを最大値にして、漫才でも披露しながら耐え続けてから一撃で倒す。
しかし、たぶんダメだろう。この世界で求められているのは、バトル演出だ。
漫才やマジックショーのみというのは、革新的なやり方かもしれないが、おそらく認知される前にゴールド不足で詰む。
需要がありそうなのは、エフェクトや効果音を活かしたネタを続けてから、エクスカリバーか。
だが、それはプリンセス⭐モニカのパフォーマンスみたいなものだ。結局コストがかかる。
ヤマダがキタザワに問いかける。
「とにかく、デザイン素材の手持ちを増やさないとな。キタザワさん、素材はエフェクトと効果音と、あとなにがある?」
「既に観たように、文字フォント、ボイス、音楽とか…。人気ある声優やミュージシャンを使うと凄く高いよ」
クドウが尋ねる。
「技を説明するテキストとか、エフェクトで表示するテキスト。内容のほうは素材なしでも変えられるんですよね?要は見た目のフォント指定に素材が要る」
「そういうこと。ボイスもそうだね。テキストに合わせて喋る。微調整はデザインショップで出来る。音楽は…既存の音楽の権利を買うの。これで解るかな?」
「うん、なんとなく解りました。自分で声をあてるとか、自作の音楽なら素材は要らないんですよね?」
「そういうこと。勿論それなら無料だね。あ、そうだ…。素材なしでの微調整。
エクスカリバーの攻撃力を1にするとかは簡単。ただ、あれは必殺の効果ついてるから、1にしても意味ないと思うけど。
ちなみに新品は最大値で販売されている」
(必殺?当てたら即死ってこと?更に初期値500万とか意味わかんねえな、エクスカリバー)
ヤマダたちは、デザイン素材の種類を知るために、先に素材ショップに行くことになった。
「この店は、スタンダードなエフェクトと効果音、フィルターなんかが大体揃ってる。フィルターは半透明とかやりたいときね」
「へえー、略してルタオさんにも聞いてたけど、思ってた以上に色々あるんですね」
店内の様子を見ていると、キタザワが知り合いを見つけたようだ。
「あれ?&&&(トリプルアンパサンド)サトウじゃねえか?」
「炎のキタザワ、久しぶりじゃん。こんなところで会うとは」
「俺は新人に色々と教えてるんだよ。そっち連れがいないみたいだけど、お前、この店で買うもんあんの?」
「俺のコンボ技にHAASDあるじゃんよ。それの''''(クアドラプル・シングルクォーテーション)と"""""(クインティプル・ダブルクォーテーション)にさ…」
「ああ、&&&(トリプルアンパサンド)から繋げるやつな」
(お前ら、なに話してんの?)
「そこにあえて、回転エフェクトを使おうと思ってんのよ。文字を回転させながら、大きくしようかと。実は俺、あんま持ってないのよ、それ系」
「あそこで回転は少ししつこくね?ラストのHAASDの表示だけ凝ればいいじゃん」
「まあスタンダードな効果は安いしさ。色々と試してみるよ」
&&&サトウは「ちょっとテストしてくんわ」と言って離れていった。
キタザワが説明する。
「ああすまん、略してルタオが使ってたけど、吹き出しに文字を出すやつあるだろ。ああいうのを回転させることも出来るよ。あと、買う前にあっちの部屋で試すことが出来る」
(俺が聞きたいのは、そこじゃねえよ!)
クドウが質問する。
「&&&(トリプルアンパサンド)の前は何なんですか?5連コンボですよね?」
「良く5連だと分かったね。#(シングルハッシュマーク)から**(ダブルアスタリスク)で&&&(トリプルアンパサンド)だよ」
「つまりは、# ** &&& '''' """""ですね。どんな感じなんだろ」
(クドウ、気づいてねえのか!?シングルとダブル2回も出てくんぞ!そもそも、クアドラプル・シングルってなんだよ!あとキタザワ、5連は分かるわ!)
クドウの提案で、ヤマダたちは、&&&サトウの動画を観ることにした。
◇
『IT'S SHOWTIME!』
相手はドラゴン。
&&&サトウのコスチュームは和服で武器は筆だった。相手に文字や記号を書いて攻撃するスタイル。
買物中なのでフィニッシュまで早送り。
「アンパサン道ライティング5段!HAASD!」
『&&&サトウの究極奥義。魔王クラスすら即死させるほどのダメージを与えられるが、途中で書き損じたらダメージはゼロになってしまう。』
相手を気絶状態にしてから発動させて、#を1回、*を2回、&を3回、'を4回、"を5回。
例えば、&&&を成功させたときは「&&&」の文字エフェクトが出る。
そして最後に「HAASD」の文字エフェクトが出てドラゴンを倒した。
◇
(画数でいうと5連撃じゃねえし!どうしてもHAASDで決めたいなら、そっち書けよ!)
「観ての通り、あいつは派手系じゃないよ。スタイリッシュ系」
(あの戦い方、スタイリッシュなの?)