第3話 アンリミテッド・スウィーツ・パラダイス
ドラゴンとのバトルを制したキタザワのリザルト情報は、他人からも確認できる。
クドウは、リザルト表示を見て納得したようだ。
「さっきのバトルは、ポイント152、視聴547回、フォロワー+3か。なるほど…。
キタザワさん、たとえば雷属性とか、そういうのは自由に選べるんですか?決めたら変えられない?」
(あ、あのクドウ君?なるほど?それと敬語なってますけど…)
「属性を選ぶ?えっと…。そういう概念はないんだ。使える技や魔法の種類は限定されないよ。
ただ、キャラ設定と言うのかな?普通はスタイルを決めたほうが、観客ウケがいい」
クドウとキタザワが会話を続ける。
「技や魔法はどうやって入手するんですか?」
「バトルの勝利報酬で素材を入手できることがあって、それを使ってデザインする。街にあるショップに依頼してね。
素材は売買もされているので、ゴールドさえあれば大概のことは出来るよ」
「派手な技とか強い技のほうが高いんですよね?入手が難しい?」
「そうとも限らない。まあ、派手な技は、エフェクトや効果音で高くなりやすいかな。技の効果、たとえば攻撃力とかは関係ない。えーと、そうだな……」
(エフェクトや効果音?どういうこと?)
キタザワは少し考え込んでから続けた。
「俺の場合、ピンチからのAGPをフォーマット化してるけど。条件設定なしでも同じ威力の技をデザインできる。素材や値段に差はない」
(あんた、何故に不利な設定にしたの?)
「でも、AGPみたいなのを使ったほうがウケますよね?リスクがあるからこそ映えるわけで」
「そういうこと。組み立てが重要だね。基本は解ったかな?詳しいことは、実際にやりながら覚えたほうがいい」
(そういうこと、ですか…)
「ヤマダ、要するに、うちらの世界でいうSNSの動画配信だよ。
リザルト画面のポイントは、正式にはオーディエンスポイントというらしい。要するに、いいね!だよ」
「早くそれ言えよ。なんとなくは想像してたけど。しかしよ、クドウ……」
「あら、久しぶりね。炎のキタザワ」
女子が会話中に割り込んできた。ヤマダからは16歳くらいに見える。もっと若いかもしれない。
「よう、プリンセス⭐(スター)モニカ!こんなところで会うとはな。お前はドラゴンとは戦わんだろ?誰かの観戦か?」
(スターも含まれるんだ…)
モニカとキタザワの会話が続く。
「観戦が目的で来たんじゃないわよ。ミスマッチ狙いでバトルしに来たの」
「まさか、プリティ系でドラゴンとやる気か?負け演出でフォロワー獲得を狙うつもりかよ?」
クドウがキタザワに質問する。
「負けたらオーディエンスポイントや報酬は無いんですよね?」
「ああ、フォロワーは増やせるかもしれないが、逆に減ることも多い。わざと負けることはオススメしないよ。特に派手系だと、負け演出はリスクが高い」
「プリティ系だと、強い技は使えないんですか?」
「いや、オーディエンスにウケるなら構わないんだけど。あいつ、強くて可愛いキャラにでも転向したのか?」
モニカは本気でドラゴンとやる気らしく、手頃なドラゴンを探しているようだ。
「もちろん観戦していいわよ。ちなみに公開設定にして告知済み。本番だからみんな見れるわ」
クドウがキタザワに尋ねる。
「非公開も出来るんですか?練習用?」
「ああ、君ら非公開だったろ。それで直接見に行ったんだよ。限定した人にしか観れない設定も出来るよ。
特別な理由がなければ、練習中も公開のほうが良いよ。君らみたいな新人が、試行錯誤する姿もウケが良い。発想の参考にもなるしね」
クドウが納得して、キタザワに問いかける。
「なるほど、それで最初はドラゴンでも良いんですね。HPは簡単に増やせるんですよね?」
「HPの調整は無料だよ。ほぼ無敵にも出来るけど、ただ増やせば良いわけじゃないのは、なんとなく解るよね?オーディエンスは、他人のステータスも確認出来るからね」
『IT'S SHOWTIME!』
モニカがバトルを開始した。参考のために、ヤマダたちは観戦することにした。
「さっきみたいな大きいドラゴンを選んだのか。レッドドラゴン?」
「よくもジジをやってくれたわね。許さないわよ、ドラゴンさん!」
クドウが画面を出して確認している。
(なるほど、動物の友達がやられた設定なのか)
「へーんっしん!ドキドキファッション!」
『プリンセス⭐モニカは、魔法のステッキで、様々なコーディネートを楽しむことが出来るよ。今回は、ちょっとミニスカのドキドキファッションだね。』
キタザワが、ヤマダたちに解説する。
「ああやって、まずはスタイリングから入るのが基本だよ」
「お願い!動物さんたち!アニマルチャーミング!」
『プリンセス⭐モニカは、カワイイ動物たちを召還して、一緒に戦うことが出来るんだよ。』
可愛らしい犬や猫、熊なんかが出てきた。確かに誰が見てもミスマッチだ。
ヤマダのポップコーンが尽きた。
(召喚魔法もあるのか。やってみたいかも。ちくしょー、Lサイズにしとけば良かったぜ。ハーフ&ハーフとかあんのかな?)
「ファンシー・ファンタジー・キャンディ!」
『素敵なキャンディをたくさん食べて強くなってね。動物さんたち。ファンファンキャンディと呼んでね。』
幸せそうに踊っている動物たちを見て、突っ込むヤマダ。
「サイズ感は変わってねえし。あいつらでダメージ与えるのはおかしいだろ。熊も普通じゃねえか」
動物たちが奮闘するが、案の定、次々とやられていった。
「えーん、やだよー。みんなー」
熊を抱き寄せて泣いているモニカ。
(てめえが呼んで、けしかけたんだろ!)
「みんな元気になって!プリンセス⭐スマイルキュア!」
『プリンセス⭐モニカの笑顔で動物さんが元気を取り戻したよ。』
(簡単に回復させてんじゃねえよ!)
「もう絶対に許さないからね!ドラゴンさん!これでも食べてなさい!メルヘンカップケーキ・ミステイク!」
『たまにケーキの材料を間違えちゃうんだ、てへぺろ。でもちゃんと、失敗作はすぐ分かるから大丈夫。仲間たちに食べさせることはないよ。』
モニカは、魔法のステッキを振って、カップケーキをドラゴンの口の中に無理やり放り込んだ。
驚いているキタザワとクドウ。
「ミステイク…だと?それでプリティを維持する作戦か!」
「毒入りみたいな感じ?でもそれで倒しちゃうと、イメージ悪くないですか?」
カップケーキを食べていたドラゴンが吐いた。腹を壊したわけでもなさそうだ。
キタザワが腕を組んで考えている。
「不味いだけ…なのか?しかし、それでどうする?」
「この隙に!究極美少女魔法!アンリミテーーッド・スウィーツ・パラダイス!!!」
『おいしいスウィーツが大量に降ってくる大技だよ。わー、おいしそー』
ドラゴンに向けて、色んな形のケーキやパフェやお菓子が降り注ぐ。なぜか形は崩れない。
そして、重さに耐えきれず潰れるドラゴン。
キタザワがクドウたちに解説する。
「形が崩れないみたいな不自然な設定は、デザインの追加料金がかかりやすいんだ。コストかなり掛けてると思う。あとアンリミテッドはネーミングだけで、無限ではないはず」
「もう動物たちをいじめちゃダメだよ、えい!」
ドラゴンは頭だけは埋もれていない。モニカはステッキで頭を叩いた。瀕死だったドラゴンが降参した。
「やったよ、みんなありがとー!グロリアス・アニマル・ダンシング!」
『動物たちの歓喜の躍りだよ!また森で一緒に遊ぼうね。』
(ここの連中、みんなマジでこんなことやってんの?)