第2話 アブソリュート・グランドフィナーレ・フェニックス
ヤマダとクドウは、炎のキタザワから酒場に誘われた。
街中には喫茶店もあるが、酒場でもジュースくらいは飲めるらしい。
「なんか悪かったな。ここんとこ、たまに異世界人が紛れ込むとは聞いていたんだけど、俺は初めて会ったもんだから…。俺が奢るから、好きな飲み物とツマミを選んでいいよ」
メニューは、ホログラム画面で表示された。
選べるのは例えば、オレンジジュース、リンゴジュース、ポテトチップス、ポップコーン…。
こちらの世界と変わらない物だらけだ。勿論、聞き覚えのないメニューもあった。
ヤマダは一瞬だけ不思議に思った。
(そもそも、みんな日本語を話しているし、文字も変わらないんだよな…。いや、気にしたら負けだ)
なぜ負けなのかはともかく、気にしないことにした。クドウもさして結論が変わらないのか、特に何も指摘しない。
ヤマダとクドウは、余計なこと?は気にせずに、好きなジュースとポップコーンを頼んだ。
ヤマダは、炎のキタザワに問いかけた。
「あんた、義務教育って言ってたけど、どこかに学校があるのか?」
「学校で勉強しても良いと思うけど、学費かかるからな。700ゴールドだとまるで足りないし。あ、略してキタザワと呼んでくれて構わんよ」
(義務なのに?いや、気にしたら負けだ…。待て、略してキタザワ?)
話を続けるキタザワ。
「とにかく何かとゴールドは必要になる。戦闘して稼ぐのが手っ取り早い。とりあえず、縁が出来たついでに、俺がバトルするところを見せようか?」
それより先に、という感じで、クドウが疑問を投げかけた。勿論、ポップコーンの味や量のことではない。
「ちょっとごめん。HPはヒットポイント、つまり体力だよね?ゼロになるとどうなるの?」
(やはり、なにも指定しないと塩味が基本か。そうだ、たぶん海あるよな?)
キタザワが答える。
「すまん、そこ気になるのか。バトルが即終了して、敗北扱いになるだけだよ」
さすがにヤマダが突っ込んだ。
「いや、気になるだろ。死んだりしねぇの?ペナルティとかは?えっと、ゴールド半分にされたりとか…」
「ないよ。そのバトルを継続出来なくなるのがデメリットだね。それと…、バトル終わると完全回復する」
(ぬるっ!マジで?あんた騙してね?)
クドウがとっとと結論を出した。
「なんか結局チュートリアルみたいだけど、とりあえず見てみようか?」
(クドウ、そんなにチュートリアルはイヤなん?そういや、バター醤油味もあったな)
三人で案内板のほうに向かった。キタザワは、ドラゴンの丘という場所を指差した。
「ドラゴンにしようか。君らも最初はここがいいと思う。相手のHP多いし、攻撃も激しいから、やり方を覚えやすいよ」
突っ込むヤマダ。
「ドラゴン?平均HP10万?あんた、そんな強いの?俺ら着いてったら死ぬだろ」
「いや、死なないって言ったろ。それと、強いとかじゃなくて派手系だしさ。まあ近くで見ていてくれ」
クドウが手を上げた。当然まだ疑問があるようだ。
「キタザワさん、痛いとかないの?それとトイレ近くにあります?」
(そりゃそうだ、いい質問だ、クドウ)
「痛いとか熱いとかはあるけど……。そこは慣れかなあ。君らの世界の感覚が分からんし。あ、トイレそっち」
クドウはトイレに行った。たぶん普通の水洗トイレだろう。
「やっぱ怖いって。そりゃ俺らHP100だから、すぐ終わるけども」
キタザワが何かに気づいてくれた。もちろんトイレの件ではない。
「ああそっか。なにもしないとHP100だったかな。そりゃドラゴンのデコピンでもやられる。あとで増やそう」
(デコピン?何?えっと、あと…)
クドウが戻ってきたので、とにかく出発することにした。
「ちなみに徒歩2分だから。着いてきて」
(2分でドラゴンいるの?マジ?)
(ドラゴン、でか!)
『IT'S SHOWTIME!』
バトルが始まった。キタザワの説明だと、バトルするつもりで近づかないと何も起こらないそうだ。
ヤマダとクドウは、少し遠くからバトルを観戦している。
キタザワから、ホログラムの共有画面を出して観戦する方法を教わっていた。
空中に映画のスクリーンを出したと言ったほうが解りやすいかもしれない。画面のサイズや視点は、画面を出した者が自由に変えられる。
スポットライトの範囲内、バトルフィールドと言うべきか、そこには参加者以外でも入れる。
バトルの参加を希望した者以外は、ダメージを受けることはない。もちろん攻撃することも出来ない。
要するに、バトルフィールド内でも観戦は可能だが、ヤマダとクドウは、共有画面で観戦することにした。
酒場で買ったポップコーンとジュースを持ってきている。持ちやすいよう、酒場で無料のトレーが貰えた。映画館でポップコーン買うと渡されるあれみたいなやつだ。手拭きも付いている。
キタザワが相手に選んだのは、グリーンドラゴン。西洋風の四つ足で立つタイプ。翼もあるため、おそらく飛べる。
「いくぜ!イフリート・ブースト!」
『身体を炎で包み強化する精霊術。攻撃力と防御力が大幅に増加する。』
ヤマダがクドウに話しかける。
「なんだろ、この声?ナレーション?」
「画面に文字も見えるんだけど…。技の解説みたいなの」
「あ、ああ、俺にも見えてる…。詳細も見れるぽいな」
キタザワは、炎のオーラを身に纏ったような状態になっている。効果は持続するようだ。
「まずは目眩ましで動きを止める!イグニッション・ショット!」
『小さい火球を連発する攻撃技。拡散弾で一発あたりの威力は弱いが、命中させやすい。』
「イフリート・スウィープ!」
『広範囲を炎でなぎ払う攻撃技……』
戦闘が続いている。どうも技名は叫ばないとならないようだ。
ヤマダは少し飽きたのか、画面から目をそらして、周囲を確認していた。
「バトルフィールドの外、全てが暗くなるわけじゃないんだな。当然か。それほど広範囲に暗くなってないな」
「あ!いま、ドラゴンのブレス、直撃だよね。それと、イフリート・ブーストの効果が弱くなってる?」
「またブーストしねえのかよ、キタザワ。エネルギー切れか?やべえ!」
キタザワは、ドラゴンの直接攻撃を食らって、吹っ飛ばされた。
「ぐはぁ!」
画面に表示されている、キタザワのライフゲージが赤く点滅していた。
「おいおい、キタザワ負けそうなんだけど…。あんま手本なってないだろ、これじゃ」
キタザワが奮闘している。なにか大技を放つつもりに見える。
「今ならいける!アブソ…。なにい!!」
突然ドラゴンが羽ばたいて空を飛び、キタザワから距離を取った。
「ち!甘く見すぎたか。あの位置だと届かん。なんとか撃ち落とすしか…。当たってくれ!エクスプロージョン・メテオストライク!」
『空中から燃えた隕石を降らして大ダメージを与える魔法攻撃。攻撃前後の隙が大きく、使用者の消耗も激しいのが難点だ。』
クドウが叫んだ。
「当たった!すげえ、なにあれ。ドラゴンが落ちてくぞ」
「そこだ!アブソリュゥート……、グランドフィナーレ・フェニックス!!!」
『炎のキタザワは、自身が追い込まれたときにのみ、自身に封印された不死鳥の力を解き放ち、超必殺技であるAGFを発動することが出来る。』
ドラゴンを倒したキタザワが、ヤマダたちのほうにやってきた。
「俺は派手系でやってるから、こんな感じで、ピンチに追い込まれてから、大技で逆転が基本かな」
理解に苦しんでいるヤマダ。
「な、ナンダッテ?」