第15話 VRファンタジーランド事件
悩みましたが、コメディではない閑話レベルの2話を挟みます。舞台は現代。この15話と16話は読まなくても問題ありません。
17話で異世界コメディに戻ります。
ここは我々がいる世界。現代の日本。老舗の定食屋のようだ。
テレビが置いてあり、ワイドショーのようなテレビ番組が写し出されていた。
「先日のVRファンタジーランド行きのバスの横転事故についてですが、郷田巨人さん、生川新生さんの2名が行方不明となったまま、未だに発見されておりません」
「幸いというか、乗員乗客に重症者と死者はいなかったわけですが……」
「はい、当番組の取材によると、乗員乗客のいずれも、彼らが何時いなくなったのかの記憶がないと……とても不思議な事件です」
「本日は、月刊オカルト情報誌『アトランティス』編集部より、円野さんにお越し頂いております」
「円野さん、これは時空の歪みが発生したとのことですが……」
そこで食事をしていた中年の男が、会計を済ませて席を立った。
◇
同日の昼過ぎ頃、ここはバスの事故現場。既に事故の後処理は終わっており、立ち入り禁止のような制限はない。
そこで、一人の20代くらいの男が付近を調べていた。
(ここか……。やはり時空の歪みを感じるな……。VRファンタジーランド周辺で行方不明になったのは、これで3組目か?やはり原因はあのテーマパークとしか……)
その男を、少し遠くから別の中年の男が見ていた。
「あの男、記者か?どこかで見た覚えが……」
「工藤さん、やはり何も痕跡は見つかっていません」
「なあ、林田。あの男、どこかで……」
「ああ、行方不明になっていた、石野だったかな?に似ていますね」
工藤は刑事だった。警察署に戻った工藤は、パソコンで調べ物を始めた。
「石野嵐太23歳。16歳の頃、約7年前に突然行方不明になり、21歳の頃、つまり2年前に突然発見されている?本人はその期間の記憶がないと……」
石野に関する情報をインターネットで検索する工藤。
「どれも記憶喪失の扱い……。うん?『アトランティス』の記事だと違うな……次元統合?」
◇
次の日の朝方、工藤は石野の自宅の近くで張り込みをしていた。
「出てきたか……」
工藤は石野に近づいて声をかけた。警察手帳を見せる。
「すまない、怪しい者ではない。石野嵐太さんだね?署まで同行してくれないか?別に犯罪等を疑っている訳ではない。最近の行方不明事件について話を聞きたいだけだ」
「警察?任意同行?今日は休みだし、別に構いませんが……」
◇
警察署の取調室。工藤と石野が話をしている。
「既に言ったように、何かを疑っている訳ではないから……。君が行方不明になった事件について聞きたい」
工藤の印象では、石野はとても大人びた感じというか、どことなく達観しているように思えた。
「構いませんよ。誰も信じてくれないと思ったので、話をしたのは『アトランティス』の円野さんくらいか。最近テレビにも呼ばれているみたいですが、真面目に聞いてる人いるんだか……。似たような話で良いのなら……」
「聞かせてくれ。なんでも良いから情報が欲しい」
「工藤刑事、と言いましたよね。聞きたい理由は想像が付きます。話す代わりと言ってはなんですが、VRファンタジーランド関連、類似の行方不明事件に関して、今後も情報交換して貰えますか?あと敬語は苦手というか、話が長くなるので……」
工藤が頷いた。
「気を遣わなくて良い。あと、行方不明事件に関する情報交換に関しては約束しよう」
石野が話を始めた。
「先に話しておきたいことがあります。ややこしくなるのは嫌なので、必要以上に質問はしないで欲しい。工藤さん、フィクションは見ますよね?」
「映画やアニメ、小説や漫画。そりゃ私だって観たり読んだりするよ」
「僕は、生きるためだけなら、虚構を創作、創造する必要はないと思っています。
おそらく、人は死を認識したときから、それを怖れるがために未来を想像、想定するようになった。予定を立てるようになったと言うべきか。ここまでは解ります。
しかし……。例えば動物達は、仮にスケジュールを気にすることはあったとしても、生存に必要なことしかしていないような気がする。おそらく、生活に必要ない住処や獣道は作らない。
どうも人間の想像力は行きすぎている気がしませんか?」
「うーん……。人間は不要と思われる建物や道路……ここまでは欲のためのような気がするが……。芸術作品やフィクションに必要性があるかという話か?」
「脳の大きさとか、そういう話でもない気がするんですよね。別に人間を特別視したいわけではないんですけど、何か目的がある気がします」
「フィクションについては、教訓を残すためとか……、自分の考えを主張するため、で説明は付かないかね?」
「他者よりも優位に立つため、未知の危機を想定するため、などですかね。しかし、不老不死、タイムスリップ、気に入らない人間を一瞬で消す。世界中の人間の記憶を書き換えるとかも想像できる。種の生存のために必要ですかね?」
「確かに必要ないことも想像できる気がするな」
前置きが長いが、工藤は石野の話を真剣に聞いていた。石野が何処かで、非現実的な話を始めることは想像がついている。
石野がこれからする話に、何かしらの関係があるのだろう。
「本題を話します。おそらく行方不明になった彼らは、向こうの世界にいる」
「向こうの世界?君が『アトランティス』の記事で語っていた別世界か」
「ええ、僕が行っていた世界です。そこは、この世界の未来かもしれないし、完全な異世界かもしれない。なんと表現するべきか……。
世界の仕組みなんて誰にも解りはしません。クロノス時間、絶対時間があって、必ず過去から未来に流れているとは限らない。スポットライト理論でも多元宇宙論でも構いませんが、同時に複数の世界があることに問題はない。
仮にアカシックレコードのデータから世界が創られるとして、データを展開するときのフィルター、関数のパラメーターを変えると言うか……。それなら、多少は似通った世界が他にあってもおかしくはない。
それどころか、僕と工藤さんの認識している世界が同じである保証なんてどこにもない。僕らの認識機能がフィルターを備えていて、世界を展開しているのだとしたら……。僕の認識では人物Aが死んでいて、工藤さんの認識では人物Aが生きていても問題ない。
おそらく、タイムパラドックスなんて、どうとでもなる」
工藤は、石野が異世界または未来に行って帰ってきたと主張したいことは理解している。
しかし、ここまで話を長くする必要があるのだろうか。話を信用されないと思っているからかもしれないが。
石野が話を続ける。
「仮に、僕らが今いる世界を基準として、時間が連続して繋がっているのなら、僕が行った場所は過去ではないと思います。日本語が普通に通じて、この世界にあるものが大概は存在していた。そして、技術は遥かに進歩していました」
工藤はなんとなく理解した。
「君が言いたいのは、そこは未来のように思えるが、にわかには信じがたい世界だったと?」
石野は頷いてから言った。
「今から向こうの世界の成り立ち、歴史について話します」
鳥や魚や昆虫は、人間とまるで違った感じで世界を認識していると思います。例えば、モンハナシャコは赤外線や紫外線も認識できるとされています。
そして、同じ人間でも認知機能に差があります。文字を色や音と共に認識したりする共感覚。映画『メッセージ』に出てくる「サピア・ウォーフ」仮説の事例。『ケーキの切れない非行少年たち』に出てくる認知機能の歪み等。それらは少数派だから異常ですかね?
多数の人間が認識できているモノが真実なのか?数式等で証明できれば真実なのか?
そんなことない気がします。生活に便利だから正解としているだけではないかと。




