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4話

「鶫の家、か?」


「うん。この間は涼真君の家だったし」


 本来なら嬉しい提案でしかないのだが、今この状況で鶫と密室に二人っきりになるのは怖い。


「いいでしょ?」


 念を押すようにもう一度聞いてきた。


「わかったよ」


 それでもここで断ったらもっと恐ろしいことになると思い、行くことにした。


 辿り着いたのはアパート。


 鶫がカギを開け、家の中に入る。


「ささ入って入って」


 部屋の中に入る。鶫の家はワンルームだった。


「一人暮らしなんだね」


「色々あってね」


 廊下を抜けて部屋に入る。


 そこには俺の写真が大量に貼られている、なんてことは無く普通の女の子の部屋だった。


「じゃあそこに座って」


 指示したのはベッドの上。座布団とか机とか色々あるのになぜかそこが良いらしい。


 俺が座ると、その真横に鶫は座った。


「涼真君の考えていることは分かってるよ。昨日の事が知りたいんでしょ?」


「そうだね。あれはどういうことなの?」


「じゃあこれを見て」


 見せられたのは動画だった。


 それは、植木鉢に植えてある花とナイフを持った鶫という、なんだかアンバランスな光景だった。


 動画を再生すると、無言で植木鉢の花を引っこ抜き、切り刻み始めた。


 何の意図で?


 鶫を見るとただ笑っているだけ。


 そして数分が経ち、花はみじん切りにされてしまった。


 その後鶫は植木鉢に切り刻まれた花の8割ほどを乗せ、手を翳した。


 何の意図か分からなかったが、しばらく見てみるといつの間にか元に戻っていた。


 そして残してあった2割の方は完全に消えてなくなっていた。


「これで分かった?」


 何もかも分からなかったが、この動画を見せたということは……


「まさか、俺は蘇生された?」


「流石だね。涼真君。私は生き物を生き返らせることが出来るんだよ」


「つまり、あの時の死は現実で、鶫の力でなかったことにされたってことか」


 それが何を指すかと言うと。


 目の前にいる鶫という女の子は紛れもない殺人者であるわけで。


 でも実際には死んでいないし、傷すら存在しない。


 だから殺人者として扱うのも少し訳が違うわけで。


「そうだよ。だって君が悪いんだよ?私と付き合ってくれるんなら私を一番に見てくれないと」


「一番に見てるよ。だからこそこうやってここに来ているんだし、俺から告白したんだ」


 俺は少なくとも一番に鶫を置いていた。確かに瀬名や鏡花も大切にしているが、それは妹としてだ。


 恋愛対象として。人として最も優先順位が高いのは鶫だったのだ。


「ならどうして鏡花ちゃんにああいう態度をとるのかな?私が1番なんでしょ?」


「そりゃあ鏡花も大切だからだ。ここに関しては揺らぐことは無い」


 彼女は大切だが、彼女の為だけに全てを捨て去るのは話が違う。


 それは大切にすることでは無い。依存というのだ。


「ふーん……」


 鶫は何の躊躇も無く俺の体を刺した。刺された腹部が深紅に染まる。


「これでも?」


「ああ、これでもだ」


 痛みに耐えながら俺はそう宣言する。


「本当に意思が固いんだね」


「ああ。たとえ鶫でもそれは変わることは無い。そして殺されようとも」


 痛みが限界に近付いてきた。意識が飛んでしまいそうだ。


「人としてそれが正しい。だから揺らいではいけない」


 それを聞いた鶫は満面の笑みで俺を刺した。



「気づいた?」


 そして気が付くと俺は鶫に膝枕をされていた。


 腹にあった大きな傷も消え去り、痛みも無くなっていた。


「生き返らせたってわけか」


「そういうこと。殺さないと傷を治せないからね」


「よく分からないが、そういうルールなんだな」


「とりあえず涼真君の考えは分かったよ。流石涼真君だね」


「ありがとう」


「じゃあ最後に一つだけ質問いいかな?」


「何?」


「今、私は好き?」


「どういうこと?」


 真意がよく分からない。


「今さっき涼真君が話していた時、私が好きって言葉は全て過去形だったから。まるで今は違うみたいに」


 ナイフをちらつかせて鶫はそう聞いてきた。


「それ見せられたら一択しかなくなるから戻して」


 そう言ったら素直に片づけてくれた。


「そうだね。一つ言えることは付き合った当初程では無いかな。何もかも盲目で、鶫の全てが好きだとは言いきれない」


 鶫は少し悲しそうな顔をする。


「そりゃあ人を刺すことを許容するわけにはいかないよね。でも、鶫の事を好きなのは変わりないよ。何なら本当に俺の事を好いてくれていることに安心した」


「俺を殺すと言っても最終的に蘇生してくれるんだろうし、強すぎる照れ隠しだと思えば可愛いものだよ」


 世の一般的なヤンデレは刺したら刺しっぱなしだからな。


 それよりもちょっと痛いがアフターフォローもしっかりしているし怪我した時に直してくれそうな安心感がある。


「なら良いよ。嬉しいな!」


 そう言って鶫は俺に抱き着いてきた。


「でも、本当に浮気した時は分かっているよね?」


 耳元で俺にそう呟き、首筋に噛みついた。


「分かってるよ」


「あ、後付いちゃった。消すね」


 鶫は自然な流れでナイフを取り出し、こちらにやってきた。


「ちょっと待って大丈夫だから。ねえ?ね?」


 前言撤回。この人俺の死に対して何も思っていないよ。


 めちゃくちゃ痛いんだからな!


 どうにか生存ルートを確保できた。


 結局俺は痛みによる精神的ダメージを回復させるために今夜は泊まることになった。


「風呂使わせてくれてありがとう」


「良いよ。泊まることになったのは私のせいだから。風呂入ってくるね」


 鶫が風呂に行った。それは女の子の部屋に一人取り残されるのを意味する。


 かといって人の部屋を捜索するのは気が引ける。


 いくら彼女とはいえ、俺を刺してきた人とはいえ、自分ではない一個人だ。


 だからこそ人の私生活を覗き見て、勝手に舞い上がったり失望したりするのは良くないと思う。


 でも、本棚に鎮座しているアルバムが非常に気になる。


 もしかすると、あの鶫の幼少期が見られるかもしれない。


 鶫はさっき風呂に入ったばかり。出てくるまでに最低でも10分以上の猶予がある。


 大丈夫、バレない。バレたとしても土下座して許してもらおう。


 俺は勇気を振り絞りアルバムを手に取り、開いた。


 中身は、中学校の時のアルバムのようだ。見覚えの無い制服姿の鶫が映っていた。


 うちの制服はブレザーだけど、セーラー服も似合っていて非常に素晴らしい。


 相手が中学生だから可愛いという反応は少し犯罪的な香りが少しするが。


 現彼女だし、中学生だとしても2歳とか3歳しか歳変わらないから。20歳と23歳が付き合っていても犯罪性は無いじゃないか。


 俺は俺を正当化しつつ、次々に写真を見ていく。


 プリクラの写真だったり、遊園地での記念撮影だったりと、遊びまわっている時の写真が非常に多かった。


 逆に、学校で撮ったであろう写真が一枚も無く、どんな中学生活を歩んでいたのかが分からないのは少し惜しい。


 まあ学校にカメラとかの持ち込みが禁止されているだろうからな。仕方ないと言えば仕方ない。


 にしても、見た目はこの時点で完成されているんだな。


 初っ端の写真で中学校の制服を着ていたし、一緒に映っている人達が高校に居ないから中学生だと思いながら見ているが、これで今の鶫と言われても違和感がない。


 女子は一般的に成長が早いと言われているからそんなもんなのだろう。


「流石鶫だなあ」


「褒められて嬉しいなあ」


「え?」


 真横にニコニコしながら座っている鶫が居た。


「風呂は?もう少しかかるんじゃないの?」


「ちゃんと入ったけど。20分くらい」


 時計を見る。風呂から上がった時に見た時間から30分程経っていた。


 夢中になるあまり、つい時間を忘れてしまっていたようだった。


「本当だ……」


「女の子の秘密を勝手に見るのは感心しないかな」


「すいませんでした!」


 俺は予定通り、土下座を敢行した。


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