双頭の竜印、リィンとウイッシュの探し物屋開業します(短編版)
ドラゴンランド。
竜の形をした大地と、天界と人界、冥界と妖界で成り立っている世界。
小競り合いを繰り返しながらも、決して他の界を壊すまでには至らない。
天界は不介入を是としているが、リィンは人界で同胞の天界人が襲われているという報告を受けて、救済のために降りてきた。
が、喰われたのか逃げおおせたのか、護るべき天界人はおらずリィンは千を超す冥界の悪鬼や幽鬼、妄鬼に囲まれて闘う羽目になった。
天界一の闘士とはいえ、多勢に無勢。
羽をもがれて力の源を喪った彼女はなすすべもなく、冥界に沈んだ。
永劫にも思える時間、冥界を彷徨い歩いた彼女を救い出してくれたのは魂の友である竜のリンカだった。
天界に還るには天界人と竜が力を合わせる必要があるが、羽を悪鬼どもに喰われたリィンには未来永劫叶わない。
妖界は冥界寄りで、リィンたちは人界で生きるより仕方なかった。
自分が探しているのものがなにかわからない。見つけられない飢餓感がリィンを苛むが、リンカは彼女を奮い立たせようと探し物屋を開業させた。
「めんどくせぇぇぇ」
リィンはリンカに尻を叩かれながらも日々をこなすうち、自分に向けられる人々の感謝や幸せな表情に、徐々に笑顔を取り戻していく。
ある日、天界長であるゴールディーズが彼女の許を訪れて冥界行きを命じる。
抗うリィンに、ゴールディーズは彼女の真名を呼ばわる。
「リィンギル」
リィンは震えながら、天界にいたときの装具と魔力増幅装置であるジーメル石を手に取るのだった。
魂魄と鬼しか棲んでない冥界に入るには、コツがある。
死にゆく生者から離れていく魂を迎えるため、冥界への道が開くのだ。
リィンは命の火を消そうとしている生者をみつけた。彼女とリンカは肉体を離れた魂魄のあとをくだっていく。
あたりは悲鳴と怨嗟で満ちている闇に覆われていたが、リィンは魅入られたように先へと進む。
唐突にリィンは立ち止まった。
鬼火に照らされて樹木に取り込まれているモノから目が離せない。
……生き物かすら定かではないが、リィンはこれが自分の探していた物だと直感する。
静かに歩みより、樹木からモノを切り離そうと試みる。が、枝から落ちてきた鬼に、リンカが悲鳴をあげる。
途端、冥界が二人を凝視し、鬼たちが押し寄せる。
リィンが必死に掘り出してモノの全身に絡まりつく髭根を引きちぎると、ようやく彼女の腕の中に落ちてきた。竜形になったリンカが二人を背に乗せた。
人界への飛翔中、羽のある鬼どもが追い縋ってくる。
リィンはジーメル石で魔力を強化した大刀に聖句をのせて祓い、リンカは息吹で焼き尽くす。
キリがない。
リンカが力尽きようとしたとき、モノから弓矢を寄越せとの声がかかる。
ジーメル石をリィンが渡すと、モノは聖句をとなえ光の弓を出現させた。破邪矢をつがえ、鬼どもに放つ。
轟音と光の奔流に闇は吹き払われ、人界への脱出孔が開いた。
なんとか人界にたどり着いた二人と一頭。
モノはなけなしの力を使い切ったのか、ぐったりとして動かない。
リィンは自分のエナジィを分け与えてやるべく唇を合わせた。
どんどん流れてゆく量に慌てて飛びのこうにも、モノの手が彼女の後頭部をがっつり掴んでいて離れられない。
今度は、エナジィが逆流してきた。モノの豊かな乳房が硬く平らになっていくにつれてリィンの胸が丸みを帯びてくる。
リィンからごつごつした筋肉が消えていくにつれ、モノの骨格がしっかりして肉をまとった。
二人が夢中でエナジィを与えあううち、リィンは女に戻っていく。
モノ……彼も、どこから見ても男にしか見えない。
体中にまとわりついていた髭根は髪やヒゲ、体毛になった。ひび割れた肌は人のなめらかさや温かみを取り戻していた。
二人はもとの姿になった己を見つめ、互いを見つめた。やがて、二人の間を阻んでいた空間がせばまったとき、ボコリと不吉な音とともに地面が割れて冥界の鬼たちが飛び出てくる。
ジーメル石はあと一つ。
男がリィンを背後から抱きしめて、大刀を握る彼女の手に己の手を重ねた。
「二人の力を合わせるぞ」
リィンと男は祝福浄化の聖句を唱える。
光の粒が降臨し、シャンシャンと鈴の音があたりを満たす。
静まったときには、鬼たちは滅していた。
二人が再びみつめあったところで別の竜が降りてくる。
リィンとリンカは警戒するが男は親友との再会を喜んだ。
男はウイッシュと名乗る。これからどうする。離れがたくなった二人と二頭は、探し物屋稼業を共に商うことになり、賑やかに暮らしましたとさ。
めでたし、めでた……し?
『羽をもがれて、探し物屋稼業をはじめました』というタイトルで短編として投稿していた作品がベースです。
(※現在は長編化作業の為、検索除外中)