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エネルギヤ  作者: 四月
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スケアクロウ

 髭がある人とキスするとチクチクするのって本当なんだな、と思った。


 唇を離すと目の前の彼は嬉しそうに笑っていた。1分前、隣に座っていた彼に肩を抱かれるまで、彼がそんなつもりでいたことに気が付かなかった。彼の車、後部座席。すまし顔の運転代行業者の男の人が今のキスに気が付いたのかどうか気がかりで仕方なかった。けれど彼はそんなこと気にも留めないといった様子でもう一度唇を寄せてきた。

 お酒の匂いがした。わたしは21歳にもなって案外純情で、2人でお酒を飲んだのは初めてなのにもうキスなんてと驚いた。そもそもスーツ姿の彼は自分より13も年が上で、自分がそんな対象に入っているなんて思いもしなかった。

 心底意外に思っているはずなのに、肩を抱かれたときも、わたしが拒否しないかどうか探りながら彼の顔が近づいてきたときも、拒む気にならなかった自分に一番驚いていた。


 どうしてあの時わたしは拒否しなかったんだろう。あの瞬間まで彼とそんなことになるなんて思いもよらなかったはずなのに。ああもしかしてそれが運命とかいうやつなのかしら。だってあの時拒否しなかったから、わたしは今こんなに彼を想って生きている。

 運命なんて、吐き気がするほど陳腐なもの、信じたことなかったけれど。

 彼となら信じてみたいと思った。馬鹿にしてくれても、笑い飛ばしてくれてもいい。

わたしは、彼と出会ったことを、運命だと思っている。

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