06 川辺にて
最後にふたりがやって来たのは、川辺。
この川を渡れば、『深淵の玄き森』に到着です。
ただ、川は深く幅があり、流れはそれほどではなくとも、対岸に渡るには船が必要でした。
茶斑の猫が辺りを見回すと、川の上手に桟橋があるのが見えました。
「あそこなら、船があるかもしれない」
二人揃っていってみれば、桟橋のそばには小さな小屋があり、そこには痩せこけたサルが一匹、ぼんやりと寝そべっているのでした。
「あの……」
ふたりが声をかけると、サルはのっそりと起き上がって、あくびをひとつ、しました。
「ああ……船かい?」
「はい、そうです。向こう岸まで渡りたいのですが」
「ああ、いいよ。代金は……茶色い君のぶんだけだね」
サルはふたりを見比べて、それから頷くと、壁にあったボロボロの料金表を、指差しました。
そこには、大型動物、中型動物、小型動物、魔女、の項目があり、それぞれに料金が書かれていましたが、魔女の項目は無料なのでした。
「彼女は魔女ではないのですが……」
「そうかい? じゃあ小型動物二匹ぶんだ」
サルはあっさり言い換えて、茶斑の猫から小型動物二匹ぶんの料金を受け取りました。
「さァ、じゃあ行こうか。久しぶりの仕事だ」
サルは、小屋を出ると、その隣へ行って、大きな布を引っ張ります。
その下から小型の船が出てきました。
「三匹なら、これで十分。川に浮かべるよ」
サルはそれをひょいと持ち上げて、川に浮かべると、櫂を使って桟橋に寄せます。
ふたりの猫が、そこに乗ると、サルも飛び乗って櫂を漕ぎ出しました。
船はゆっくりと対岸に向かいます。
「わぁ。あなたはずっと、ここにいるのですか?」
茶斑の猫は、船からの光景を珍しそうに見ながら、サルに尋ねました。彼女のほうは、水を怖がって、茶斑の猫にしがみついています。
サルはそれを半目で見ながら、問いに答えました。
「ああ、ここにいるよ。対岸にいるときには、桟橋近くの小屋に、呼び鈴があるから、それを使ってくれ」
「他には誰かいないんですか?」
そう問われて、サルは嫌そうに顔を歪めます。
「ああ、俺しかいねェよ。だァれも交代なんざしてくれねェ。チッ、俺も彼女が欲しいよ」
それを聞いた、ふたりは顔を見合わせます。
「『魔女』に聞いてみようかな?」
「これはさすがに『深淵の魔女』の不思議な力は関係なさそうだけど……」
サルはふたりを不審そうに見ました。
「なんの話だ?」
「『深淵の魔女』なら、貴方が休日をとる方法がわかるんじゃないかと思って」
それを聞いた、サルは大笑いです。
「アハハハ、見たろう? 小屋の中の俺を! この仕事はなァ、ずっと開店休業状態なんだよ。森に行く魔女とそれを送る付き添いだけを、延々と待ち続ける、そういう仕事なのさ。その他にやることといえば、船を磨くことくらいさ」
茶斑の猫は首をかしげます。
「でも、一人で待ち続けるのは、つまらなくないですか?」
サルは苦虫を噛み潰したような顔をしました。
「……チッ、余計な気を回すんじゃねぇ」
そうこうしているうちに、対岸です。
対岸には、来たほうと同じような小屋がたっていて、同じような桟橋に船を寄せました。
「さァさァ降りろ。それでもってさっさと森へいっちまえ」
「ありがとう。きっと、魔女に何か解決法を聞いてくるよ」
サルは茶斑の猫を呆れたように見ると、ひとつ、ため息をつきました。
「ハァァ。まァいい。何かいい方法があるならな」
ふたりは、しっかり頷くと、森へと向かいました。
サルはしっぽをひと振りすると、すぐに使えるように、船を桟橋にくくりつけました。




