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04 はじめの町

 


 彼らの住んでいた村から、『深淵の玄き森』へは、馬車なども乗り継いで、10日ほどかかります。

 馬車の中のふたりは注目の的でした。


 黒いヴェールを被った、白い少女の意味は、誰もが知るところです。


 見ているのは、ネコだけではありません。

 キツネも、クマも、サルもオオカミでさえも、この習慣を知っていたので、誰も弱々しい、か弱いネコの少女を、からかったりなどしませんでした。


 かわりに、遠巻きに見るものもありました。

 イヌも、ウシもトリも、ヒツジも彼女に近づいたりはしません。

 そばにいるのは、いつも、茶斑のキリリとした顔の、ネコの少年です。


 彼は、彼女の手を握って、たわいのない話をしていました。

 それに対してコロコロと笑う、彼女の姿に、みんな首をかしげています。



 白い体毛に赤い瞳を持つものは、老若男女、どんな動物でも、『深淵の魔女』と呼ばれます。


 見つかれば、赤子であれば成体になってから、成体であれば、直ちに死装束を着せられて『深淵の玄き森』に送られます。


 そして、そこから一生出てきません。

 彼ら彼女らは、『森』で過ごし、死に、葬られます。


 乗り合い馬車で、白い彼女の隣に座る少年は、もちろんそれを知っているはず。

 あれだけ、親しげに話すのだから、送り出すために宛がわれた者ではなく、元からの知り合いだったのだろうと誰の目にも映ります。


 そこまで考えた者は、ああ、と感づくようでした。


 彼女の最後の旅が、辛くならないようにと、振る舞っているのかと。


 年頃の男女、もしかしたら想い合うふたりなのかもしれないと思うと、乗り合った者は皆、たちまち、胸が締め付けられ、二匹を応援したくなりました。


 次の町についたとき、少年は乗り合った人々に、あの食事処が旨い、宿ならあそこがいい、時間があれば、町のここを見に行けと、あれこれ教えられ、面食らっていました。


 彼は、それに対して慌てて説明しています。


「僕らは『深淵の魔女』に会いに行くだけです。彼女が『魔女』ではないと証明してもらうために」


 人々は顔を見合わせました。

 少女をよく見てみると、赤いと思っていた瞳は、光の具合により茶にも見えて、ああ、と納得したのです。


「どちらかわからないなんて、災難なことだねぇ!」

「かわいそうに! きっと、違うといいね」


 そう話している間に、何者かが、人々の間に割り込んできました。


「なにが災難だ! うちの村の方が、ずっと災難だ!」


 アライグマの男は、囲まれている少年少女の前に、転がり出て、腕を広げ、突然の主張を開始しました。


「うちの町には、大きな美しい池があったんだ。それが三日前から、どんどん水嵩がなくなり、今日、すっかり水がなくなってしまった。他の村には、そんな様子はないのに。こんなことは今までにない! これからどうすればいいんだ!」


 人々は顔を見合わせ、憐れな男を見ました。

 アライグマに、豊かな水がどれだけ必要か、みんなが知っていたからです。

 ネコのふたりも、困惑したお互いの顔を見て、そして、ハッとしました。


「そうだ、『魔女』に聞いてみよう」

「『深淵の魔女』の不思議な力なら、何かわかるんじゃないかしら?」


 怪訝な顔で二匹を見る、アライグマ。

 それを、二人は笑って見返します。


 どうせ、二匹は『深淵の玄き森』へ行くのです。

 会えたらきっと、必ず聞くと、アライグマの男の手を握りました。

 困惑したのは、アライグマの男です。


「何を考えている。お前が魔女なんだろう」

「私は、魔女ではないの。でも、本物の魔女なら、何かわかるのではないのかしら」


 いいや、きっと絶望しかない。


 そう言って、男はふたりの手を振り落として去っていきました。


ここまでが、『倉庫』で発表したぶんになります。


続きは、またあした。

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