03 旅立ちの約束
旅立ちの日、当日。
少女は、黒く薄いヴェールをつけていました。
もしもこれが、白いヴェールであれば、手をとる隣の少年の花嫁であるのだろう、そういう姿です。
けれども、これは死出の旅に出るための、装いなのでした。
比喩でなく、死装束です。
男は白い正装に黒い帽子を、女は黒いヴェールと白いドレスを。それが、この辺りのネコの冥府へ送られる姿でした。
流石に少女の着るのは、動きの削がれない、アイボリーのワンピースですが、しかしその、白い体毛が正にドレスのようで、彼女を愛する人たちに、悲壮感を与えたようです。
これは、『深淵の玄き森』に向かう『魔女』がする姿なのです。
いつからか、彼ら彼女らは、死装束を纏って、その森へと行くようになりました。
帰ってこないから、でしょう。
『魔女』は、その森から、故郷へ帰ることはできません。
彼女もきっと、一生を『森』で過ごすのです。故に、彼女の両親も、彼女を知る近所の人々も、涙に暮れています。
彼女をよく知り、泣かないでいるのは、彼女の隣で手をとる少年だけでした。
彼はその手を、ぎゅ、と握りしめると、こう言いました。
「大丈夫。僕らは必ず、ふたりでここに戻ってくるよ」
少女は、その言葉に白く尖った耳をピンとさせて、尻尾を軽く揺らしました。
少年は、動きやすく、汚れてもよい丈夫な服を着て、腰には帯剣し、背には二匹が半月、旅をするための旅道具を詰め込んだ鞄を背負っていました。少女は、お揃いの鞄を背負い、けれども、その中身は少年よりずっと軽くなっています。
潤んだ瞳から涙を落とさぬように、ふたりはまっすぐに前を見つめました。
「大丈夫」
「大丈夫」
二匹は、決意と覚悟と誓いを込めて、そう言い合いました。
必ず、『深淵の魔女』に会い、そして帰ってくる。
そのための、ふたりきりの旅が始まったのです。




