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01 かわいそうなネコ

 

 ふたりに目を止めたのは、この叫びを聞いたからです。


「そんな馬鹿なことが、あるはずがない!」


 筋骨隆々とした騎士たちに組伏せられた、濃淡のある茶色い斑模様のネコが、振り絞るような声で叫んでいました。

 腕は揃えて捕まれ、頭は地面に塗り付けられるように、身体ごと押さえつけられていて。後ろ足はなんとか抜け出ようと、もがいているのに、爪が地面を掻くだけに終わっています。


 わたくしは、なんとも惨めな様子と、彼の魂の叫びに、思わず引き込まれました。



 彼の数体高分前には、同じネコとは思えぬほど、鍛え上げられた肉体をした騎士たちが居並び、その中には、縄打たれて涙を浮かべる、小柄な白いネコの少女が震えていました。


 何が起きているのかと、調べてみれば、彼と彼女は、結婚を約束した、恋人同士であることが、まず、わかりました。



 ふたりは、幼い頃から近所で育ち、たまの喧嘩でさえ微笑ましく見られる仲で、彼女が大ケガをして、暫く外出もままならなかった時の事など、語り草になっているぐらいなのだとか。


 この界隈では仲睦まじいことで有名な恋人同士。それが渦中の二人、いや二匹なのです。



 集まっている、見物人によれば、この朝、二匹がいつものように、少女の家の前で待ち合わせていると、そこに十数匹の屈強な騎士たちがやって来たそうです。


 そして曰く、



「その女は『深淵の魔女』である」



 ……訳もわからず、固まる二匹にかまわず、騎士は続けました。


「『深淵の魔女』は『深淵の玄き森』に還さねばならぬ。さもなくば、首を刈って神に捧げねばならぬ」


 そう言って、彼女を拿捕するために囲んだようです。


 茶色の斑ネコは、顔色を変えて、彼女が『深淵の魔女』とやらの筈がないと訴えました。


 彼女は、彼がミィミィと乳を求めているうちに、二軒隣の家で生まれている。少年はその頃を覚えていないが、彼女の両親は才色兼備と名高く、だから、その生まれたときには近所中の皆が、挙って見に行ったのだ。そこで愛らしい赤子が育ったのは、誰もが知るところ。


 そう訴えたようですが、受け入れられず。

 それどころか、抵抗する彼は組伏せられ、地に這いつくばされたのです。


 尚も言い募る彼は殴られ、蹴られ。

 彼女は、彼に乱暴しないことを引き換えに、縄を受け入れました。


 痛みと悔しさに、叫び、顔を歪ませたネコの少年は、騎士がいなくなって暫くしても、その場から起き上がることはありませんでした。




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