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9/21

双子の音楽家

 お花見を続けていたら、どこからか楽器の音が聞こえてくる。

 聞いたことのない曲ね。


「ん? なんか人が集まってんな」


 あれは確か、野外ライブとかをする場所?

 豪華なコンサートが開けるもののはず。


『カズマとあやこの能力が一定値を超えました。イベントを開始します』


「そういう効果もあるのか」


「パラメーターは上げないと不便よね?」


「だろうな。イベント見ておくか?」


 ちょっと悩む。けどずっと見ないでおくと支障が出るかも。

 この世界の流れを把握する意味でも、必要かもしれない。


「このゲームの目的って、恋人を見つけることよね? 裏目的はないの?」


「わからん。戦闘があるんだし、魔王ぶっ飛ばすとかありそうだけどな」


 これは面倒ね。

 メッセージは設定解説をしてくれるけど、ネタバレはあまりしてくれない。

 コーザの時みたいに、チュートリアルや仕様解説なら別みたいだけれど。

 さてどうしましょうか。


「イベントはいつでも見られるのか?」


『このイベントは四月から六月限定です』


「行ってみない? 好感度上げるようなイベントは全部いきましょう」


「そうだな。最速で上げていこうぜ。イベントは危険そうじゃなけりゃ、溜め込まない方向でいくか」


 そんなわけでイベントを進めることにしました。

 綺麗で大きな屋根付きの舞台と、ずらりと並ぶベンチ。

 立ち見のお客さんまでいるわ。


『今は無料で行われている演奏会の最中です。ラストは音楽特待生にして、クローバー王国の双子の兄妹アークとアリーシャ』


 素人の私でもわかる、綺麗で澄んだ音色。

 みんな静かに聞き入っている。

 二人はとても美形で、それがこの空間をより幻想的にさせているのでしょう。


「兄がヴァイオリンで、妹がピアノか」


『楽器だけでなく、その歌唱力は上流階級の集まる学園でも群を抜いており、アークは光を纏う戦士としても一流です。次期クローバーを継ぐ王子でもあります』


 紺色の髪と白い肌。金色の瞳。

 長身で、立っているだけで絵になるタイプね。

 王子様と言われれば納得できる。


『アリーシャは成績優秀。属性付与魔法と強化魔法に優れており、歌姫としても評判です』


 凛とした佇まいのお兄さんとは対象的に、アリーシャさんは優しそうで物静かな人。

 紺色の髪が少しだけ明るくて、色白のお人形さんみたい。


「完全に別世界の人間だな」


「まあゲームの中なんだけど、それにしても美形ねえ」


 それでもカズマが一番なことに変わりはないけれど。

 美形のジャンルが違う気がします。

 やがて演奏は終わり、拍手喝采観客大満足の中、一礼して去っていきました。


「ん? これでイベント終わりか?」


「あの二人が出てきて終わりなのかしら?」


 よくわからないまま自分のクラスのところへ戻ると、さっき見た兄妹がいるではありませんか。


「おや、君たちは確か……」


「え?」


 私たちを知っている?

 何かしら。何かイベント飛ばしているの?

 カズマと目が合う。とりあえず成り行きを見守ろうという視線。


「ようやく会えたな。A組の七色の熾天使あやこさん」


 なんですかその恥ずかしい名前は。

 初耳ですけど。誰ですか言い出したの。

 ちょっと問い詰めたい。

 カズマが笑いを堪えているのがわかる。


「そちらの方は、A組の黒獅子カズマ様ですね」


「いや……えぇ……カズマ違いじゃないか?」


 カズマも困惑している。

 ごめんなさい、ちょっと笑いそう。

 さっきカズマが笑ってたのは許してあげるわ。


「間違いない。同じクラスであれほど目立っていたからな。オレの記憶に残っている」


「クラスメイトだったのか。んじゃカズマでいい」


「そうか。学園での友人第一号が君とは光栄だ。アーク・クヴァル・クローバー。アークと呼んでくれ。どうも堅苦しいのは苦手でな」


「ああ、よろしく」


 なんか打ち解けていらっしゃる。

 悪い人じゃないのかしらね。


「アリーシャ・クヴァル・クローバーです。よろしく願いします」


「あやこです。よろしくお願いします」


 優雅にお淑やかにお辞儀されました。

 こういう所作が決まっているところがお姫様よねえ。


「あの、あやこ様の試合……私も見ていました」


「様づけしなくていいわ。お姫様なんでしょう?」


「いえそんな……凄いのは兄ですから」


 ちょっと俯くアリーシャ。それでもかわいいあたり卑怯だと思います。

 何やってもかわいいのはずるいわ。


「もっと堂々としていろ。いつも言っているだろうアリーシャ」


「お兄様……」


「こういう場だ。強くは言わん。君たちも、よければ妹と仲良くしてやってくれ」


「ええ、よろしくねアリーシャ」


「もうお友達ですわ!」


 カレンやウェイドもやってきて、みんなで挨拶を交わす。

 これで共通の知り合いが増えたわね。

 アリーシャは悪い子じゃなさそう。仲良くしても平気かも。


『あやこのヒーローにアークが追加されました』


「えぇ……」


 無粋で水を差すメッセージウィンドウ。

 反射的にカズマを見ると、なんともまあ苦い顔。


「カズマ」


「そっちもか?」


「えぇ……そりゃイベントってそういうことよね……」


「……油断したぜ」


 間違いなくカズマのヒロインにアリーシャが追加されている。

 そうかそういうゲームか。覚えたわ。


「二人ともどうしたんだい? なんだか疲れているようだけど」


「気にしないでくれ。ちょっと予想外……いや、まあ大丈夫だ」


 説明しても納得してくれないだろうし、完全に頭おかしいと思われるわ。

 信じてくれるとしても、みんなはゲームキャラですとか、なんか伝えづらい。

 そもそもここゲームっぽい異世界なのかもしれないし。


「今はお花見を楽しみましょう」


 気持ちを切り替えるのよ。

 カズマとお花見。そこだけ考えましょう。

 自分にとって都合のいい現実を見ていくのよ。


『誰かと話すことができます。誰と会話しますか?』


「カズマで」


「あやこで」


 即決ですよこんなの。

 そして示し合わせたように散り散りになり、二人で会話できる余裕ができた。


『カズマとあやこの好感度が上がりました』


 そんなもの日常的に上がってるわよ。

 もっと上げていきましょう。

 二人して桜の木に背を預けて一休み。


「これ慣れるかしら?」


「そう気負わなくていいさ。やれることからやっていこう。俺たちはいつだってそうしてきた」


「そうね。ちょっと戦闘はあるけれど、豪華な学校と家がある。お友達もできて、こうしてお花見もできる。悪くないわ」


 きっとこれから戦いもある。出会いもある。

 けれど隣にはカズマがいる。

 ならこの生活も、そう悪いものじゃないと思う。


「これからもずっと、こうして二人でいられるといいな」


「いるわよ。いつまでもずっと。いつだってそうしてきたわ」


「そうだな。この世界でも必ずあやこを守る。約束だ」


 お互いの肩が触れるか触れないかの距離まで近づく。

 なんとなく、雰囲気に流されてカズマの肩に寄りかかろうとして。


「おお、っととと」


 すり抜けました。ええすり抜けましたともさ。

 慌てて体勢を整える。この程度で転ぶほどドジっ子じゃないわ。


『好感度が足りません』


「足りてるっての」


「まったくだな」


 二人して苦笑い。

 笑えている。少しはこの瞬間を楽しめているのでしょう。


「せっかくの異世界よ。精々楽しんで攻略してみましょう」


「そうだな。珍しいものもあるだろうし、さらに強くなれば攻略も楽になるだろ」


「まだ強くなる気なのね……」


「まだ神とか出てきたらかなりきついぜ」


「普通勝てないのよ」


 幼馴染が身体能力だけで神に勝とうとしています。

 それもこれも私を守るためということは理解しているけれど、明らかに成長速度がおかしいのよねえ。


「もっとだ。ただ守れればいいだけじゃない。いつでも笑っていられるように。悲しい思いをさせないように。それが………………よし、急いで攻略しよう」


 またシステムに阻まれたわね。

 カズマは伝える時直球になるから、すぐ規制されるのねえ。

 見習いたいけれど、照れとシステムの邪魔が入る。

 慣れたらこれも楽しめるのかしら。


「つまりなんだ、これからもよろしくってことさ。最近言った気もするけどな」


「そうね。せっかくだし楽しみましょう」


 結論は同じ。この世界でも二人で生きていこう。

 それが再確認できるだけで、明日からもなんとかやっていける気がしました。


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