チュートリアルを捻じ曲げろ
傷ついたウェイドとカレンを運び、舞台から脱出完了。
カレンは想像よりずっと軽い。お嬢様って軽いのね。なんかずるいわ。
「馬鹿が! 誰だか知らんが、ウェイドもろとも焼け死ね!!」
もうすぐカズマに当たる。
カレンさんを運び、ウェイドに肩を貸してリングの外へ。
姿勢を低くし、急いで翼を閉じて衝撃に備える。
「ふはははは!! でしゃばるからだ! 死ね!!」
爆発が起こり、轟音が暴風と混ざり合って襲い掛かる。
舞台が私の腰のあたりまで、高く作られているからか、しゃがんでいれば防御できないものじゃない。
「まだ伏せていて。収まったらカレンの回復を」
「カズマはどうする? いくらなんでも無事じゃすまないぞ」
「カズマは無事です」
煙と炎が散っていく。リング中央には無傷で立っているカズマの姿。
黒い鎧が半透明になってはいるけれど、まあ大丈夫でしょう。
「あれを耐え切ったのか……カズマの体はどうなっているんだ」
「あぁ? なんなんだお前は?」
コーザはこちらを見下すような、不機嫌な声だ。
楽しみを邪魔されたことへの恨みもこもっているでしょう。
「悪いな。ダチが丸焼きにされるのは見過ごせねえ。選手交代だ」
翼を広げてカズマの隣まで一直線。
操作にも慣れたわ。今度ゆっくり飛んでみよう。
「カレンは?」
「無事よ。気を失っているだけ」
「そうか。そんじゃ、始めるか」
突然氷柱が私達を襲う。咄嗟にそれぞれ装具で防ぐ。この程度は問題ない。衝撃も吸収してくれる。
「よくもオレの試合を邪魔してくれたな」
「試合? 準備運動なんだろ? 俺が本番の相手をしてやるよ」
「私がセマカさんの相手、ということになるわね」
「あらあら、わたくしの相手が庶民に務まりますかしら」
コテコテの悪役だわ……っていうか私は庶民設定なのね。
「いつも面倒ごとに付き合わせちまうな」
「いいわよ。付き合うということは、カズマと一緒にいられるってことだもの」
「オレを無視してんじゃねえ!!」
レーザービームのような魔法がカズマに当たり、装具がほぼ透明になる。
コーザの魔法もそこそこ威力があるみたいね。
『現時点の魔装具では勝ち目はありません。撤退し、ステータスを上げましょう』
「負けイベントってやつか? 悪いが退く気は無い。つまり勝ちゃあいいんだろ?」
カズマの震える声からはっきりと怒っている事がわかるわ。
鎧を解除し、腕を回している。邪魔な鎧から解放されてどこか嬉しそうね。
「なんだ? 偉そうなこと言ってやっぱり降参か?」
「まさか、本気で勝ちにいってやるよ」
指をぽきぽき鳴らすカズマ。そうね、つまり勝てばいいのよね。
「どういうつもりだ? まさか装備なしで勝つとでも言うつもりか?」
「そのつもりさ。あんな重いだけの鎧なんぞ邪魔なんでな。要するに勝てばいいんだよ。鎧を着ていなければならないというルールはあるのか?」
困惑しているコーザ。まさかこんな質問をされるとは思っていなかったのでしょうね。
「ふっふはっははははは!! 気でもふれたか? まさか鎧を脱げば手加減をしてくれる、などと思ってはいまいな?」
「カズマ、無茶だ! 君たちにこれ以上傷ついて欲しくない!」
まあそういう反応になるわよね。カズマのことを知らなければ無理も無いわ。
「安心しな。すぐに終わらせてやる。装具なんて使わなくても勝てばいいんだろ?」
「問題ない。最後に立っていた者が勝者だ。だがカズマ……」
リング外のウェイドの言葉に満足気にうなずくカズマ。これで勝ちは決まったわね。
「そこでゆっくり休んでいろ」
「カレンをお願いします」
まだ目覚めないカレンをウェイドにお任せして、敵討ちといきましょう。
「こっちに来てからストレスが溜まっていてな。悪いがお前で解消させてもらう」
「図に乗るなよ狂人が! 装備を捨てて何になる! 無様に恥を晒すがいい!」
「装備もねえやつに負けて、恥を晒すのはどっちかな?」
瞬間、音も無くカズマの姿が消える。
「なんだと? どこへ行った?」
「セイヤアァァ!!」
声がした時には、コーザの顔にカズマのパンチがめり込んでいた。
呻き声も出せずに猛スピードでごろごろと闘技場を転がっていく。
「どうした? さっさと立ちな。この程度じゃないだろ」
よろよろと体を起こすコーザ。
起き上がれるなんて……装具って凄いわね。
「オレの装具が……砕けている!? なにをした!」
兜が殴られたところだけ砕けているわ。あれ高かったりしないでしょうね。
試合中なんだし、お金持ちっぽいから自費でなんとかしなさいコーザ。
「ただブン殴っただけさ」
「嘘をつくな!」
「実感させてやるよ。嘘かどうかきっちりとな」
あっちは心配ないでしょう。
こんなもので負けるカズマじゃない。
「それじゃあ、こっちもいきましょうか」
セマカの相手をしましょう。正直私もかーなーりストレスが溜まっていた。
せっかく十年越しの片思いが成就したのにこの扱い。ちょっとくらい発散してもいいわよね。
「ふん、まずは貴女から潰せばいいだけのこと。いかに素早くとも、私とお兄様に挟まれては、あの男も終わりでしょう」
油断しているわねえ。どうせいい装備なんでしょう? ちょっと痺れるくらい平気よね?
私の右腕に眩い雷光が集う。高笑いを続けるマリーにそっと腕を向けた。
「スパークル・ライトニング!!」
光速を超えた電撃が、幾重にも無限軌道を描いて襲いかかる。
全力なら一発一発が星くらい貫通できる威力よ。
一応死なないように加減はしたわ。
「ぎゃあああぁぁぁ!!」
全身からバチバチと火花を散らすマリー。
かなり手加減したからか、装備の良さか、まだ動けるみたい。
「なんですの……その魔法は……見たことのない……」
異世界転移は初めてじゃない。前にいた剣と魔法の世界で受け継いだ技術よ。
負けイベントだかなんだか知らないけれど、そんな結末認めないわ。
「無理を通させてもらうわよ」
「強力な魔法など、詠唱させなければいいだけのことですわ!!」
まだまだ元気なセマカは威力も種類も区別なく、とにかく魔法を連射する作戦に出たみたい。
なるほど、集中を切らせるにはいいかもしれないわね。
でも私の翼はちょっとやそっとの攻撃では微動だにしない。
「カレンのお返しよ。ハリケーン・ブラスト」
翼で空へ上がり、かく乱しながら魔力を展開。
渦巻く暴風が魔法を巻き込んでセマカへ突っ込んでいく。
「また知らない魔法……ですが無駄ですわ! わたくしのシールドは風程度では破れませんわよ!」
「風だけならね」
この魔法のやっかいな点はそこじゃない。
風が触れた場所は私の意志で爆弾となる。
「うぅ……なんですのこの魔力は!?」
「爆破の痛みを思い知らせてあげるわ」
風がシールドを削り。シールドに触れた風が一瞬遅れて爆発する。
止む事のない波状攻撃は魔法の壁を貫いて、セマカを爆破の渦の中へ導いていく。
おまけで魔力の羽も追加しましょう。
「うあああああぁぁぁ!?」
無事、きっちり、がっつりセマカに爆破を当てることに成功した。
これでカレンの借りは返したわ。地上に降りて決着を付けましょう。
「そろそろ終わりにしましょうか。ギャラクシー・ブレイカー!!」
空間の壁を操作し、宇宙と繋げて直接流星群をぶつける必殺魔法の一つ。
私の使える魔法の中じゃ相当強い部類よ。
「きゃああああぁぁぁぁぁ!?」
星の激突はその衝撃で会場を揺らし、さっきの大きな火の玉よりも強い光と爆音で世界を包む。
マンガみたいに吹っ飛んだセマカは星になった。
まあ装具もあるし大丈夫でしょう。
「流石ゲームの世界。これだけやってもダメージが入るだけ。いいわねえ周囲の被害を気にしないで撃てるのは」
さてカズマはどんな感じかしら。