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しっかりしてるなぁ


 ごつい鎧を着た兵士に呼び止められてしまった。なんですか……怖いんですけど……


 「君、ギルド証や通行証はどうした。無いのか?」


 「あっはい」


 あ、やっぱりそういうのいるのね。勿論昨日この世界に来たばかりの俺はそんなものを持っていない。


 ドローンからの映像でときたまそういう感じの物を見せている人がいたのは確認していたから、映像と同じ物を造ろうかと思ったが、人によってその通行証が違った事、手や影で一部が見えなかった事、魔法がある世界なので金属探知機的な何かがあって偽造がばれるかもしれない事、以上のことから造るのは止めた。通貨も同様の理由から造っていない。


 だが大丈夫だ!俺は秘密兵器を持ってきている!この国だからほぼ必ず通じる方法を。


 「ないのかぁ、一応必要なんだがなぁ」


 ちらちらとこっちを見てくる。分かってますってぇ~、はい。


 笑顔で兵士が出していた手の上に五百グラムぐらいの金塊を置く。


 「ああん、何だこれ……? ……おお……兄ちゃん、出来れば通貨のほうがいいんだが……」


 渡したら怪訝な顔をしていたが、何を渡されたのか分かったら一瞬顔を輝やせたが次には困惑した顔になってしまった。一瞬でも喜んだのだから賄賂自体は正解だったのだろうが……渡す量が少なかったかな?

 

 通してもらわないと困るのでダメ押しでもう一声。


 「あの、貴方の行きつけの店とかありますか?よろしければ今日の夜おごりましょうか?」


 これで良いはず、大抵の小説ではこうやって奢れば良かったはず。しかし、初対面の人に向かって奢ってあげましょうかって言うのは変な感じがするし、緊張するな。日本で人に奢ったことなんて一回も無かったしな。


 「あ、ああ、妖精亭って所だが……まあ、良いか。行っていいぞ」


 行って良いと言われたので前に進む。上から鉄柵を落として閉じるようなっている重厚な門の下をくぐって都市の中に入る。


 すると俺の後ろに並んでいた冒険者らしき人物がさっきの兵士に話しかけるのが聞こえてきた。


 「良かったなぁ~旦那、良いもん貰ったなぁ~」


 「まあ……うん、そうだな」


 冒険者らしき人物の含むものがある言い方と、兵士の答えの歯切れの悪さを少し怪訝に思いながら、人々の熱気渦巻く雑踏の中に入り込んでゆく。







 冒険者ギルドらしき場所はドローンが見つけてくれていたのですぐに到着するだろう思っていたが、朝市か何かの時間と重なったせいだろうか、大勢の人々の間をすり抜けて行かないといけなっかたので、時間がかかったし、汗だくになった。


 冒険者ギルドと書かれた看板のある建物の横で息を整えてから、石造りで所々に木が使われている三階建ての立派な建物に開け放たれた扉から中に入っていく。

 中は思ってたよりも人は少なく、穏やかな空気が流れていた。


 建物の中は正面に長机を仕切りで区切った受付らしきカウンターがあって冒険者が何人か並んでいる。奥には扉があってさらに奥に行けるようになっている。事務室かなにかだろう。

 左手の木の壁には幾つもの紙が貼りつけてあり、数人がその紙を眺めていた。奥には二階に続くのであろう階段がある。

 そして右手には椅子やテーブルが多数設置してあり、ちらほらと人が座ってご飯を食べたり、談笑したりしていた。奥には厨房らしきものが窺える。


 建物に入る前には横に広いなって事しか分からなかったけど、中に入ってこうやって見てみると奥行も随分あるってことが分かる。カウンター縦にに四十人ぐらい並べそうだ。実際には鎧とか着てるからそんなに並べないだろうけど。


 ギルドの中を進んでいくと、座っている何人かがちらっとこっちを見たが、直ぐにまた仲間達と談笑し始めた。


 時々野太い笑い声が右手から聞こえてくる。その楽し気で希望に溢れた声を聴いているとこれからの冒険に対しての期待が高まってきて早く冒険者になりたいという気持ちが沸き上がる。



 カウンターの上のほうを見ると天井から板がぶら下がっていてそこに、新規登録、依頼受付、依頼報告、昇級申請、総合案内と書かれてある。カウンターとその上にある板の内容が連動しているのだろう。


 新規登録以外のカウンターはそれぞれ二つあり、総合案内の所はカウンターが他より広い。計九つのカウンターがあり、何処もある程度の人が並んでいる。


 新規登録と書かれている板の下にあるカウンターに並んでいる列に歩いていき最後尾につく。最後尾って言っても前に二人いるだけなんだけどな。


 二人とも十歳かそこらの男の子でこの世界に来てから見てきた中で一番みすぼらしい格好をしている。門の前で見た冒険者らしき人達も鎧ががへこんでいたり、破れていたりとかなりボロボロであったがそれは戦闘の結果でそうなっただけだろう、元々のつくりはしっかりしていた。


 だけどこの二人の服装は継ぎ接ぎだらけで生地が薄くサイズもあっていない。端々がほつれていて、そのほつれている糸を引っ張れば全て(ほど)けてしまいそうに感じる程頼りない印象を与える。

 靴らしきものは履いているがそれも少し厚めの布を(くるぶし)あたりでロープで縛っているようにしか見えない。

 身長は俺が百七十ちょいあるから二人とも百三十センチぐらいだろうか。今受付の人と話している子は少し顔がキリっとしていて、後ろで聞いてる子はちょっと頼りなさそうな顔立ちだ。


 ここに来るまでに見た人達は皆体格が良かったが、この二人は頬がこけていて、袖から見える腕は細い。髪は長くバラバラで、髪の色はキリっとした顔の方の子はくすんだ赤色で、頼りなさそうな子は茶色だ。


 二人の後ろに並んで観察していると、強めのすえた匂いが二人の方から漂ってきた。


 だが、この二人がそう特別だというわけではない、この世界の人達は全員臭いのだ。この二人は他の人達より少し違った臭いで少し強い。


 この世界の人達の体臭が強いのは肉体労働が多いのもあるだろうし、多分シャンプーやボディーソープ等がこの世界にはないのだろう。毎日体を洗っていても水洗いだと、臭いはそう落ちないだろうし、香水等の香り付けをしてもその下にある臭いは薄っすらと漂ってくる。

 

 門からここに来る間に沢山の人の中を通ってきたので、いろんな体臭を嗅いだ……いい香りなんて一回も嗅がなかった……




       閑話休題


 俺が来る前にある程度話はついていたのだろうすぐに前の二人がカウンターの前からどいて、脇を通ってそのまま外に出て行った。

 前に向き直り、カウンターに歩を進める。やっぱり受付の女の人は美人だった。今見る限りだとこのギルド内に居るのは受付嬢を除き全員男なので受付は男性より女性のほうが受けが良いのだろう。


 「新規登録でよろしいでしょうか?」


 「はい」


 「では、まずこの用紙に必要事項をお書きください」


 「分かりました」


 差し出された黄ばんだ紙には上から順に名前、種族、年齢、出身、職業、スキル、特技、希望ポジション、拠点、パーティー、ソロ、所属クラン、希望クラン、実力試験を受けるかどうかなどが書かれていて思っていたより書くことは多かった。

 

 職業は多分ゲームで言う剣士とか魔法師とかで良いと思うけど……


 「あの~、職業って剣士とかで良いんですよね?」


 「はい、そうです。もしまだ戦闘経験がない、はっきり決まっていないと言う事でしたら空白でも良いですよ。他の項目もはっきりしないのでしたら書かなくても良いですが適切な助言、依頼が出せない事にもなるので出来るだけ書いたほうが良いですが、実力試験を受けるときにある程度能力測定をするので嘘は書かないほうがよろしいでしょう」


 「実力試験とは受けたほうがいいのですか?」


 「はい、受けないと正式な冒険者とは登録されず、ポーターの仕事しか出来ません。それに実力試験に落ちても正式な冒険者とは認められません」


 なるほど、これ書けば冒険者ってことにはならないのか。


 俺大丈夫か?『機獣召喚』はスキルだからそれを含めての試験になるだろうけど、体力試験とか身体能力の試験があったら落ちる自信あるぞ……





 名前は海斗、種族は人間、因みに朝の人ごみの中にエルフやドワーフがいるのを見かけた。なんかエルフは臭くなさそう。てか汗掻かなさそう。ドワーフはまあ……


 出身はフィン、一応この都市から遠い、国さえも違う街が出身という設定を作ってある。

 もしその街の出身者がいてもフィンは大きい街だったので、「お前見たことのない顔だな」って怪しまれることは無いだろう。

 なんでそんな遠い所からここまで来たって聞かれたら、ここが冒険者になるには最適な所だと聞いて来たんですけど、案外遠かったですよー、あはは で乗り切る予定だ。


 職業は召喚士とした。ロボを召喚するのだから間違えではないだろう。


 スキルは勿論『機獣召喚』と書いた。よく小説では主人公が目立たないようにするためにスキルを隠すけど、俺の場合は隠しようがないからな……最小で三メートル超えの機体って……

 まあ、隠す気はないからいいけど。


 特技は空白。特技と言えば速読、ガソリンの取り扱い、車の車体拭きぐらいだろうか。速読は本を速く読めるようになればもっと本を読めると思ってネットを漁ってやり方を見つけて身に着けたが、結局あまり小説を読むのには向いてなかった。資料などを読む時ぐらいにしか使わなかった……


 後者二つは実家がガソリンスタンドを営んでいたのでリピーターを増やそうと身に着けたものだ。それで実際にリピーターが増えたかどうかは知らない。話かけてくれる人は増えていていたがそれは俺が長くやっていたからだけかもしれないし。


 まあ、三者ともこの世界では必要ない特技だ。


 希望ポジションは空白だ。そしてソロの項目に印を付けた。俺は【セクター】とかに乗ってダンジョンに潜る予定だったので、他の同行者など考えていなかった。それにロボたちの大きさでは連携はし辛いだろう。

 まあソロなので前衛という事になるのだろうか。でもロボの中の安全地帯にいる前衛って…… よってロボをその中で操るのがどのポジションになるのか分からなかったので空白にした。


 拠点、希望クランは未定としておいた。フーリンに来てから直行でここに来たので宿などもまだとっていないのだ。本拠地は【ヨルムンガンド】なんだが此処に書くのは違うだろう。

 クランはそんなのあったんだと今知ったので未定にするしかない。


 実力試験は勿論受ける。試験を受けないと正確な冒険者になれないらしいし、ポーターって要は他のパーティーの荷物持ちでしょ。収入低そうだし、やりたくない。ポーターをするために【セクター】たちを造ったわけではないのだ。その正反対の事をするために【セクター】たちを造ったのだ。




 全て書けるところは書いたので受付嬢に紙を差し出す。


 すると受付嬢はその紙を見て少し困ったように見た後、他の紙を取り出してきた。


 ? ……まだ書くことがあるのか?


 「すいませんが、共通語で書いてもらいたいのですが、代筆しましょうか」


 えっ!?


 渡された新しい紙を見るとそこには確かに日本語と違う言語で書いてあった。さっきは何の疑問も抱かずに日本語で書いてしまった。そりゃこの人には読めないか。

 今更だが自分が異世界の言語を話せるし、読めることに気付いた。多分神様が何かしてくれたのだろう。



 今度はしっかりこちらの言語で書いて渡す。


 すると、また困ったような顔でこちらを見てきた。


  あれ?また何処(どこ)かいかん所あった?


 

今回主人公がこの世界の人達の体臭がきついと言っていましたが、それは世界が違うのも理由です。外国の方の体臭がきつく感じるのと同じで慣れていないため強く感じました。日本に住んでいた人が海外に行って日本に帰って来ると今まで気付かなかった日本人の体臭に気付くと言う話を時々聞きます。身近な事には慣れ過ぎてしまって意外と気付かないものですね。

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