異世界に降り立つ&ロボお披露目()
足が地面についた感覚がすると同時に目の前に雄大な草原の様子が広がっていた。
青々とした膝下程度の草々が風に吹かれて左右にゆらゆらとなびいている。風は温かみを含んでおり、気持ちよく空は快晴、気温も丁度良く最高の気候である。
神様がわざわざこの日この場所に転移させてくれたのかと思うほどとても気持ちいいシチュエーションだ。
思いっきり息を吸い込む。日本にいたときはずっと埃っぽい部屋かガソリン臭い所にいたからかとても空気がおいしく感じる。
服はこちらの世界の平民が来ているものだろうか?何かの植物でできた上着にズボン結構生地は粗くゆったりとしている。日本にいた頃に着たら痒くなっていただろうが、今はまったくそんなことは感じない。
思いっきり自然を感じたところで動き始める。
普通なら暗くなるまでに街や街に続く道を探して泊るところや生活するための拠点を確保するところだが、そこら辺は全く問題ない。
焦る事は何もないのし、まだ太陽は空高いところにあるので、この大自然を楽しみたいと思う。よってそのための準備をする。
ーー準備中ーー
よし!これで終わった。服は着替えて黒いパイロットスーツとなっている。手の指先から足の指先まで覆われていて、所々にはプロテクターを仕込んである。
中を見て回りたかったがそれは夜でも出来るので我慢して、まずはこの自然を楽しもう。
ただ魔物のいる世界でこの身一つだけで歩いて回るというのは心細いので、この世界での慣らし運転も含めて『機獣召喚』を使いロボを呼び出そうと思う。
蜘蛛型の姿を脳内に浮かべながら「来い!」と念じる。
すると結構な大きさの魔法陣が目の前の地面に浮かび上がり、そこから蜘蛛型が徐々にせり上がってくる。
へぇ~、こういう風に出てくるんだ!いいね、いいね。あれとは違う召喚方法じゃん!あれは徐々に大きくなっていく光の中から出てきたからなぁ。
魔法陣の光に照らされながらゆっくりと出てくるロボ 光によって影の凹凸が鮮明に浮かび上がり、その異形を見る者の目に焼き付ける。
神様も粋なことしてくれる。ますます感謝だな。
そしてついに蜘蛛型の全身が露わになった。
およそ体高三メートル横幅四メートル奥行六メートル 大まかに分けると上部と下部に分かれていて、上部より下部のほうが少し短い一.三メートルと一.八メートルぐらいかな?
下部は電子部品やら魔道具などの壊れやすい物を覆う装甲を纏った八本の太い少し濃い灰色の脚。メカっぽくごつごつとした感じがあり、わざと艶消しをせずに金属光沢全開である。陰密性はゼロだがこんな巨体なのだ元から陰密性など無いようなものだ。
だったらカッコよさを追求するのが普通だろう。
どの脚もごついが特に中央の四本の脚はあまり戦闘で使う予定はないので移動時安定するようにより太く、壊れにくいように関節を二個しか造ってない。
太く造ってあるため結構な出力が出るようになっている。
因みに装甲は五ミリ。関節部はゴムみたいに伸縮性のある素材を使って球状に覆っている。
前脚と後ろ脚の四本は戦闘時に使うので複雑な動きが出来るように関節を多くし七個も造ってある。そして各関節ごとに多少伸びるようになっている。先端に行くほど関節の幅が狭くなっていき、タコのように足を丸めることも出来る。
先端にはいくつかのギミックを組み込んでいて、そのため少々先端が最初に考えていたよりも太くなってしまったけど全体としてみるとそんなに格好は悪くはなっていないと思う。
此処の関節は伸びるためある程度余裕を持たせて中央の関節に使っているのと同じ素材を使っている。
上部は実際に自分が入り、長時間過ごすかもしれない操縦室なので下に絨毯を敷き、操縦時に座る椅子は柔らかいクッション素材を使っていて居心地が良いようにしてある。因みに椅子は狭いため余りたおせないがリクライニング式だ。
そしてその席の周りには操縦するための装置がたくさんついている金属でできた箱に囲まれているが、はっきり言って殆どのボタンやスティックは使わないだろう。
あまりにもその数が多すぎるのだ。手が二本しかないない人間にどうやって八本ものスティックとボタンを操作しろというのだ。
まあ設計したのは自分なんだけどな。設計してるときにはなにも疑問に思わなかった…… というより少ないより多いほうがいいでしょうと思ってたくさん付けた覚えがある。
『機獣召喚』スキルでどのボタンがどういう機能を持っているかは分かるが、分かると出来るは違うのだ……
自分で操作するとしたら二本の脚だけだろう、まあ二本だけといっても日本にいた頃では到底頭の処理と体が追い付かなかっただろうけど。
操作できるのはこれまた『機獣召喚』スキルのおかけだろう。因みにある程度のアクションは登録されていてボタンを押せば実行してくれる。
ダンジョンを攻略していけばもしかしたら自分で四本ぐらいなら脚をタイムラグなしに同時に操作できるようになるかもしれない。
この世界では魔物を倒すとその倒したものにレベルアップ的な現象が起きるらしい。まあレベル制じゃなくて徐々に上がっていくシステムらしい。随分と羨ましいシステムであるがこの世界ではこれがないと生きていけないのであろう。
それなら魔物を倒しまくって素早さ的なパラメーターが上がれば操作する手と頭の回転が上がってもしかしたら四本いけるかもしれんということだ。
そして嬉しいことにその恩恵は生物だけではなく物とかにもあるらしいのだ。まだまだ俺のロボたちには成長の余地があるということでとても楽しみだ。
少し逸れてしまったが、じゃあ俺が二本しか脚を操作しないんだったら誰が他の脚を操作するんだってことになる。
それはこの蜘蛛型君の頭脳〈魔法融合型電子計算機〉が担当してくれる。
この魔法融合型電子計算機とは神様の管理する文明の最高峰のコンピュータに神様の魔法を組み合わせた途轍もなくすごい自律思考型情報処理システムである。
神様が魔法をかける前でも人間と遜色ない会話機能や思考回路を持っていて、容量も処理速度も量子コンピューター並みであった。
つまりその文明は地球の文明を余裕で越えるほどの技術力を持っているってこと。
途轍もなく気になる……行ってみたい…… ゲームとか絶対にすごいもの出来てるんだろうなぁ。電脳チップ埋め込んだり、脳に直接情報を送り込んで勉強いりませんとか…… 宇宙に進出したのかなぁ、どんな生活してるんだろ働かなくてよかったりするんだろうか…… …… ……
《閑話休題》
神様がかけた魔法はそのスパコンの軽量化・縮小化・情報処理能力の更なる強化である。縮小化は大いに
役立った。百分の一ほど小さくなったおかげでこの蜘蛛型君にものせることが出来るようになった。
情報処理能力強化の魔法をこの機体のコンピューターにはかけなくても良かったのだが、他の機体に必要で造ったので折角だからとのせている。
因みにこれは椅子の下に金属板で覆って固定してある。
これらの椅子とボタンやスティックが付いた装置を囲むように装甲車などの銃座についている灰色の弾除け用のシールドが設置されているが、前方が見やすいようにライフルでも抜けない透明な強化ガラスに置き換わっていて、後部と横も見やすいように一部強化ガラスとなっている。
つまり弾除けシールドより強化ガラスの占める面積のほうが多いってことだ。
この強化ガラスは罅が入っても小さければ直ぐに修復するように魔法がかけられている。割られるとさすがに直らないけどね。
天井は半球型となっていて金属板で覆ってあり、淡く発光して機体内が暗くならないようにしてくれている。色は変更可能でスパコンさんに頼んで機体の損傷度によって黄色、赤と変化するように頼んである。気づかないうちに深刻なダメージを受けている可能性もあるからね。
上部と下部は横一.八メートル縦五メートルの金属板で繋がっており、上部の操縦室は状況によってその上を前後ろにスライドするようになっていて、戦車の砲頭部のように回転する。金属板は縦に四分割してあり、それぞれ二本ずつ脚が付いている。
例えば操縦室を四分割してあるうちの後部二つにスライドさせるとその下には後部の脚四本あるってことで、前にある四本は上になにも乗ってない状態となる。そうなれば前二つの金属板をこちらに持ち上げるようにすれば前の四本の脚が自由に使えるようになる。
出入口は後部についていてボタンを押せば開くようになっているが、手動でも開くようになっている。電気系統、魔導系統が故障して開かないなんてことがあっても大丈夫なようになっている。
蜘蛛型君から全体を見てみると下部の脚の可動範囲を広げるために上部が小さくなってしまっている。ぶっとい八本の脚のうえにちょこんと乗った操縦室がアンバランスに見えるが、自分で造ったものなのでそんなに気にならない。むしろカッコいいわ!
出来上がってからこちらの世界に来るまでに十分見ていたのだが、現実の光の中で見るのとは少し違い、今もいろいろ見ていたら日が少し傾いてきてしまった。蜘蛛型君に乗り込む。真ん中の脚をよじ登り、後部の扉にはめ込んであるレバーをガチャガチャっとする。
これは正規の手順で行わないと開かないようにしている。
操縦席に座って話しかける。
「よろしく、スイ」
スイとはこの蜘蛛型君の頭脳のスパコンの名前だ。蜘蛛だからスパイダーでスイだ。安直だが変な名前でもないからいいだろう。
そしてこの蜘蛛型君にも名前はあり、セクターと言う。蜘蛛は昆虫じゃないけどまあいいだろう!
機体名【セクター】 気に入ってるし(俺が)
「はい、よろしくお願いします。主」
スイはあまり喋らないというか喋る話題がない。自分が元から積極的に話すタイプじゃないからってのもあると思うけど。でも必要なことは教えてくれるから困ってはいない。操縦のアドバイスとかボタンに登録するモーションとか。
仕事に忠実で公私混同しないタイプ的な?
「装甲を下ろしてもらえるかな。あとこのまま真っすぐにゆっくり進んで」
いくら透明な強化ガラスとはいえ肉眼で見るのとはやっぱり違うし、外の空気に触れたいしね。
ウィーンと音を立てながら装甲が一部下がっていく。外の空気が操縦席に流れ込んできて、爽やかな空気を送り込んでくれる。草々の匂いがいい。
「では、動きます。」
スイがそういうとともに巨体に似合わぬ静かな駆動音が周りに散っていく。
八本の脚がそれぞれ独自に動き出す。これもまた金属が擦れるような音やぶつかり合う音をそれほど出していない。地面に脚が付いた時もそれほど音がしない。それにこの巨体だ総重量は途轍もないものだが、八本の脚に重さが分散しているとはいえ、地面には押し固めたような跡が残るぐらいである。
これも神様の魔法だ。別に神様の魔法を使わなくても騒音をそれほど出さずにする方法はあったが、それだと機体がこの大きさに収まらくなってしまったので結局神様の魔法の出番となった訳である。摩擦緩和に衝撃緩和、重量緩和、重力緩和等々補助魔法のオンパレードだ。
ところで全ての脚をスイに任せているのは二本だけ操ってもスイの邪魔になるだけだからだ。ピアノで親指だけ違う人が操作しているようなものである。ただスイは高性能なので合わせてくれるだろう。
基本的に操作をするのは気が向いたときぐらいだろう。スイが高性能すぎるのだ。
やることがない…… まあそうなるようにロボたちは造ったからな……