姫騎士リーゼロッテとSCP-■■■■-AW
ヴラジ帝国。この異世界に置いて最も軍事力を持った国家である。
この世界にある3つの大陸、北から『神が住まう土地』神域、『人類の領域』人界、『魔境』魔大陸のうち人界の南側を国土とする。その為、魔大陸より来る魔族の軍勢が国土を脅かし、年々国力は落ちていた。人界の中心部に位置する聖王国の呼び掛けで人界連行軍ができたが焼け石に水。一番に自国の兵が消費され、国は荒廃し始め、いつ内乱が起きてもおかしくなかった。
そんな時だ。遂に人界の中心部に位置する聖王国が勇者の召喚に踏み切った。
勇者召喚。それは異世界より強大な力を持つ者を呼び寄せる古代からの禁呪。戦争の火種となりかねないため、封印されていたそれが聖王国でそれが遂に行われたのだ。
帝国の貴族だけでなく民も喜んだ。これでもう大丈夫。勇者が来る。この国はまだ終わらない。そう思っていた。
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「ええい!なぜまだ勇者たちは来ない!」
ヴラジ帝国執務室。ここにはヴラジ帝国皇帝、テオドール=ヴラジがいた。皇帝は未だ来ない勇者たちに焦り、憤っていた。それに怯えるように報告をしていた宰相であるボンパドールが更に震えながら続ける。
「ど、どうやら召喚した勇者たちにはそれほどの戦いの技術が無く、簡単に死なれては士気の問題に関わるため、訓練が必要なのだと……」
「なんと嘆かわしい‼一体勇者たちは異世界で何をしていたというのだ、このままではこの国は荒廃してしまう……ただでさえ城内に侵入者が現れたというのに……」
突然自国の姫の入浴しているところに現れた侵入経路のわからない正体不明の賊。それも皇帝の頭を痛めさせていた。
執務室は一気に暗い雰囲気に包まれるのだった。
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こんにちは、杜若です。いま、僕は牢屋の中にいます。
やってしまいました。まさかSCP-249の転移先が女湯なんて誰が予想できたでしょう?
しかも湯気のせいでSCP-408が『水で羽が濡れる』と騒ぎ、どっか行っちゃいました。それで透明化が解かれ中で入浴していた金髪で青目の美少女にばれてぶっ飛ばされて今ここにいます。ここに連行されるときこの建物の外観は結構豪華だったのであの美少女はお姫様だったのでしょうか。
「どうしようこれ」
ええ、現状確認は十分です。持っていた荷物は全部持っていかれ、牢の中に足を鎖で繋がれて椅子に座らされております。これ下手こいたら処刑コースまっしぐらですね。
逃げるといっても旅の資金は持っていかれた荷物の中。逃げるのは簡単だけどさすがに一文無しで異世界生活できるとはとても思えない。
かといって正直に言えば逃げ出した理由の軍事利用。
この後のことを考えて考えて考えてたら――
「お腹すいたな……」
とりあえずご飯でも食べて落ち着こう。
甘い物が食べたいな。
「SCP-871《景気のいいケーキ》」
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ヴラジ帝国第三王女リーゼロッテ=ヴラジ。
金の髪と蒼の瞳をもつ美しい彼女は姫として異端な存在にいる。彼女は王女でありながら騎士であったのだ。彼女は高い身体能力と剣技を持ち年一度に行われる帝国闘技祭では上位入賞し、帝国大隊長の一人に選ばれていた。
そんな彼女は今鎧に身を包み尋問室に向けて歩を進めている。
尋問対象は一人のなんの変哲もなさそうな少年。しかし突如王城の浴場に現れたのだ。
自分の入っていた、浴場に。それで、見られた。いろいろと。
(ええい!何を意識している‼相手はただの賊だぞ!)
頬に熱いものを感じ一度立ち止まって頭を振り、冷静になる。さっきよりも少し早い歩調になりながら歩く。
尋問室に向けて地下へ階段を降りているとき、感じるはずのない臭いが鼻に入ってきた。
(甘い匂い?)
それは、階段の入り口にいた見張りでも気づけない微かな物だが人並み外れた身体能力を持つリーゼロッテだからこそ分かった。そしてその匂いが簡素な机と椅子位しかないはずの尋問室からしていることも。
不審に思い一気に階段を駆け降り扉を開ける。そこには――――
呑気にケーキ食ってる少年がいた。
「ーーーは?」
呑気にケーキ食ってる少年は扉が開いたことに今さら気づき「わっ」と声をあげてこちらを見た。
やっと扉を開けたことに気づき驚いたような表情をしていた少年はリーゼロッテの茫然とした顔を見て、
「えーっと、」
困ったように頬を掻いて、
「取り敢えず、ケーキ食べます?」
と言ってきたのだ。
取り敢えずげんこつ入れた。
SCP-871は次回解説します。