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ゲーム実況による攻略と逆襲の異世界神戦記(アウタラグナ) 作者:かすがまる

第2部

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49 影魔は同情する、敵の敗北を/軍官は画策する、敵の敗退を

 ワタシの全ては神のものだから。
 この心のざわめきもまた、神のものなのだろうか。


◆◆◆


 真昼間に、何だって作戦指揮なんてやっているのだろう。私は。

 上手いこと『黄金』の遺石を回収した側近なのだから、忠節を認められ哀悼の日々を許されるのが慣習だと言うのに……強行軍で最前線にまで出張らされて。

「ターミカさま、ターミカさまあ……」

 魔神め。まったく魔神め。

 宮殿の奥で寝腐っていればいいものを、ここにきてやたらに行動的なのだから始末に負えない。まさか()()の場に顔を出すなんて思いもよらないにもほどがある。顔を晒す気なんてなかったのに……妙な抜擢までされて。

 あの射るような視線……あの酷薄な笑み……まさか。

 まさか……私の素性を知られていた?

 いや、ない。それはありえない。念入りに偽装したんだ。偶然も重なって、私の来歴はどこまでも綺麗な模範的ヴァンパイアのそれのはず。供物も祈祷も欠かしていない。戦歴だって悪くない。

「まだ『通視』していらっしゃる……ああ……美しいお顔、お胸、お肌……」

 そう……大丈夫……大丈夫だ。私はまだ陰に潜み続けている。どう見られどう扱われようとも、本心と目的とを暴かれない限りは、大丈夫なんだ。

 そう、ただの魔神の気まぐれだ。いつものごとく。

 だいたい、何が時来たれりさ。何が最終戦争宣言さ。心の底から忌々しい。どうしてお前に、この世界の行く末を決める権利がある。

 別の世界の存在でしかない、お前のごときに……ンはんっ!?

「ターミカさま、布陣が終わったようにございますが」
「え? ああ、そう……そのまま合図を待つように伝令を」

 副官の手を振り払う。どうしていちいちいやらしく触ってくるかな。乳房を押し付けてくるのも迷惑だ。これだからヴァンパイアってやつは……。

 とにかく、今は目の前の戦争を何とかしないと。

 勅命でもって責任を負わされた以上は、任務を果たさないと殺される。

 原野には人間の軍隊……中央に徒歩兵二千の横列があって、それをはさむように騎馬兵が左右それぞれ一千……まず尋常な様子に見えるけれど、ね。

 私の『陰見』は虫を使う。秘策の類は通じないよ。

 徒歩兵の盾に隠れて、ソードラビットが一千匹ほどいるね。それに、後方の町には盛大に旗だの篝火だのが用意されているけれど、あそこには動きの悪い兵隊が二百人くらいしか残っていない。

 つまり、君たちは総勢五千と少しの兵力で、その全力をここに展開している。

 対するところのこちらの兵力は、ベアボウ千牙長の兵力に私の麾下を加えた三千五百名が主戦力で、黒狼一千頭が副戦力の、計四千五百。これだけでも十分に勝てそうだね。でも、見えないところに待機させた五百名が勝負を決める予定だよ。

 私は君たちを知っている。人間の強さをわかっている。油断なんてしない。

 開戦の合図は……さて……どうしようかなあ。

 実のところ、私は君たちを殺したくなんてないんだ。開拓地から移動してきたのだから、あの異常人間との関わりもあるのだろうしね。

 そもそも、人間を滅ぼしても何ら得るところがないよ。むしろ魔神が喜ぶ分だけ損なくらいだ。もちろん『黄金』の弔い合戦なんてつもりもないさ。いっそ、その勢いを魔神へぶつけてほしいくらいだね。少しは隙を見せるかもしれない。

 でも、ねえ……もう戦争が動いている。ひとつひとつの命なんてまるで気にも留めない無分別で無配慮で無慈悲無軌道な暴力が、私の事情をも巻き込んでいる。

 この期に及んでしまっては、君たちの事情なんてどうでもいい。

 本当に、私は君たちを殺したくなんてないけれど……だからといって、さして生かしたいとも思っていないから……面倒が少なければそれでいい。

 悲しいね。

 世界を毒する存在が宣言した最終戦争とやらの渦中では、誰も彼もが下らない。勝ち残るだろうヴァンパイアすらも、所詮は使い捨ての駒。きっと最後には滅ぶ。

 結局のところ、使徒すら脇役。使徒でなしなんて端役。

 何を志したところで、できることは限られているけれど。

 君たちよりも私の方が、幾分、この世界の真実を知っている。その分だけ、果たすべき使命も重いのじゃないかな。多分ね。

 せめてもの同情を寄せて……うん、開戦の合図は君たちに任せようか。

 好きに始めるといい。

 日が傾けば傾くほどに、夕闇が迫れば迫るほどに、君たちは焦れる。夜を恐れて動き出す。その隙をつく。効率よく勝つにはそれがいい。

 そして、そんな勝ちを重ねた先で……こちらの任務を果たさせてもらうよ。


◆◆◆


「うーん……こりゃ我慢比べかなあ」

 思わずぼやいた言葉が、末っ子君と兵長を振り返らせた。どっちも目が怖いよ。そりゃ、吸血獣の戦力たるや予想以上のもんだけどさ。

「二人とも、落ち着けって。ヴァンパイアが姿を見せておいて、攻めてこない。そこに疑問を持とうぜ。戦闘大好きな血飢えの獣さん方が、交渉無用の大戦争を宣言しておいて動かないんだぞ? どう考えたって怪しいだろ」

 大げさに足を組み直したから床几が鳴った。悲鳴みたいでよくない音だな。満腹でもないけど腹を叩こう。鎧の上からでもパカポコ陽気に鳴らす。

 兵士たちが見ている聞いているんだ。将官が神経質になっちゃあいけないな。

「……罠ですか」
「ありそうだろ? それはそれでヴァンパイアらしくもない話だけどな」
「罠……俺たちをここへ留め置いて、迂回した別動隊が新地を襲う」
「強者の策じゃないな。別動隊を出すなら側面なり背面なりから襲わせるだろ」
「ぼくたちの動きを見てから変化するつもりとか」
「真っ当すぎるところだと、それだけどなあ……」

 人間の基準で考えれば、末っ子君の答えで文句もない。格上の戦い方としても間違っていない。だけど、吸血獣がそれをやるかなあ……あるいは、そこに何か策を差し込んでくるつもりか。

「ならば、無言の脅迫でしょうか。戦わずに退けという」
「そんなお行儀を期待できる相手じゃないな。『黄金』であんなだったんだぞ? 極北の本戦から流れてきたような連中に……いや、そうか、もしかしたら……」

 あれらは、何か目的をもってここへ来た部隊なのかもしれない。この状況を良しとする目的があるのなら、何の不思議もありゃしない。

 人間の軍を観察する……のは、これまでやら昨日やらで充分だろ。

 撃破が目的ならば攻めてくる。何だ。この状況をどう利用するつもりだ。

「うーむむ。目下、連中は攻め急いでいないわけだが……時間をかけたいのか、時間をかけても構わないのか……どっちだろ?」
「……違いがあるのか?」
「前者なら民を逃がせる。ここに陣取ったまま、絶対に通さんぞっていう気迫を出してりゃいい。それがあっちにとっても願ったり叶ったりになるからな」
「待て。民は多いぞ。開拓地までも遠い。襲われたら……」
「死に物狂いでぶつかりゃいい。それで退くだろ。時間をかけたいんなら、そんな短期決戦は避けたいわけだしな」
「乱暴な対策ですねえ」
「戦争だからな。ああ、でも、そうなったら末っ子君は遠巻きにな。擲弾騎兵は温存が基本方針だ。兵長もわかってるな?」
「ああ……だが、あんたも共にぶつかるのか? 片翼の騎兵を率いたらどうだ」
「だから、馬に乗るのは勘弁してくれって。内腿のところの傷が深いんだ。黒狼どもときたら、主どもに似たものか、野蛮お盛んでさ。一物こそ守りきったけど」

 内股になって震えて見せる。どうだ、二人とも笑せてやったぞ。こういう時は下品な笑いがいいんだ。生身で等身大の自分を思い出せるからな。

「では、軍官殿の突撃は有りや無しや、ぼくが確かめましょう」
「お、ひと探りやってもらえる? まあ、もう少し様子を見てからだけど」
「はい。軽く挑発してみれば、色々と見えてきますから」
「くれぐれも、ぶつかっちゃダメだぜ?」
「ふふ、くすぐる程度にしてみせますよ」

 そうそう、その腹黒そうな微笑みが出れば問題なしだ。紅顔の若武者が悲壮感なんてものを漂わせてどうするんだか。

 さてと。二人の士気はこれでいいとして。

 どう勝ってやろうかな。

 吸血獣を相手に腹の探り合いだなんて、心清くほがらかやさしい私には向いていない気がしてならないけど……力任せよりはよっぽどやりやすい。

 気配でわかるんだよ。焦れているんだろ、末端の吸血獣たち。

 慣れないことをさせられて、でも逆らえなくて、悶々としているんだろ。

 あの『黄金』の軍ですら、ああも子分どもが好き勝手していたんだ。使徒でもない誰ぞに率いられた吸血獣たちが、そう長いこと我慢していられるはずもないさ。

 どんな目的や罠があるにせよ、長対陣が必要なものなら、つけ入る隙はある。

 放っておけば、徐々に破綻していくだろうからな。

 我慢比べだ。

 そっちのたがが緩んでくるのを待って……翻弄してやるぞ。
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