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ゲーム実況による攻略と逆襲の異世界神戦記(アウタラグナ) 作者:かすがまる

第2部

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46 ペンタゴンにおける攻略会議と異世界介入について

 人間であることが、ワタシの誇りだ。
 人間として生まれたのだから、それは当然のことだ。


◆◆◆


 かすかにフルーティなカカオの香り。ミルキーで包み込んでくるような甘み。

 会議室に居並ぶメンバーはどの一人もコーヒーだから、負けじと三カップを並べ置いたのは正解だった。電脳対策室を出ていられる時間は有限なのだから、どのような機会であれ最高の環境を演出して誰に憚ることもない。

「……定刻である。これより第五十七回攻略会議を始める」

 大佐の声はいつも重々しい。身の引き締まる思いだ。

「まずは異世界大陸における戦況を確認するぞ。中央平原の戦力図を確認すべし。『サンダー』を中心とするヴァンパイアの大規模侵攻軍五十万余は、予想通り、その戦力を複数点に偏在させることで防衛線の突破を図ってきおった」

 ヴァンパイア領から伸びる矢印は、大きなもので七つ。そこから小さく枝分かれするものが幾つか。まるで雷のようだ。

「縦深攻撃作戦であるなあ。その猛勢と重層性は、第二次世界大戦におけるバグラチオン作戦を彷彿とさせおる。つくづくもって、ヴァンパイアの踏破能力と継戦能力には目を見張るものがあるが……いかんせん弱点が明確であるからには」

 全ての矢印が、どこかで青いラインにぶつかっている。巨大でひび割れのようにも見えるそれは、エルフの総力をもって敷設した運河群だ。

「このように聖流線バプテスマラインは実に有効的であるが、所詮は防勢作戦、かかる大攻勢を打ち払う見通しは立たん。別表の通り、局地的には歩兵浸透戦術による被害も出ておる。第二攻勢を受ける前に、我々は次の手を打たねばならん……」

 補足はないかと大佐の目が問うてきているが、首を横に振る。現状はまさに説明された通りで、対抗作戦を欲すればこその攻略会議だからだ。

「幾つか確認したいのですが」

 挙手したのは空軍サイバー軍団の中尉か。電脳戦の天才は、さて、今回も鋭利な思考を披露してくれるものか。

「『コマンダー』は『サンダー』を抑えていて、これは千日手。『ウォーター』は『ブレイク』対策のための予備として待機。そして……見せ札の『シールド』にはその後の動きが何もないのですか?」

 ふむ。ユニークユニットについては大佐に頼るわけにもいかないな。直接担当している者が答えるべきだろう。挙手して発言せねば。 

「そうだ。図らずも『ゴールド』を撃破した以上は、何か突発的な動きもあるだろうと思ったが……最終戦争宣言以外は、特にこれといった動きもない」
「ヴァンパイアによる威力偵察の類もないのですね?」
「ない。平穏そのもののようだ」
「伝聞ですか……接続が劇的に安定化したとのことですから、『コマンダー』から『シールド』への接続変更はできませんか? そうすればより周辺情報の詳細が知れるのでしょう?」
「技術的には可能だが、リスクが大きい。接続の不安定化を招くかもしれないし、よしんば変更できたとして元に戻せない恐れもある」
「それは厳しいですね……最大戦力である『コマンダー』を上手く操れないでは他に支障がでますか」

 その通り、『コマンダー』はエルフの切り札中の切り札だ。対ユニークユニットだけでなく対デーモンの要ともなる。最も効率よく運用しなければならない。

 歯痒いシステムでは、ある。

 それこそまるで神託のようにしか介入できない上に、一ユニットに焦点を合わせなければならないから全体像が捉えにくい。こちらとあちらの時間の流れが同調しないから混乱するし、言語も常識も異なるから情報に齟齬が生じやすい。

 ふむ。だからドラゴンデーモンRPGはアクションゲームとして発売されたのかもしれないな。欠陥ストラテジーゲームのようでは話にもならなかったろう。

「中尉、何が気になるのかね」
「は、大佐殿。『シールド』への無警戒さが腑に落ちません」
「『シールド』の配置は戦線の南端である。何が起こらずとも予備戦力として警戒されているとも解釈できるものぞ?」
「『ゴールド』撃破の事実がなければ、そう納得もできるのですが……」

 無策にすぎるということか。なるほど言われてみると確かに。『シールド』の戦力としての未熟さが念頭にあって、客観性を欠いた判断をしていたかもしれない。

「そもそも小官は『ゴールド』撃破の原因にいまだ違和感を覚えているのです。亜人領域における小戦力同士の攻防……『シールド』の防御力を鑑みたとしても、消耗の果ての偶発事では些か無理がありましょう」

 それは前回、前々回の攻略会議でも議題になったことだ。混ぜ返されても困るのだが、心底から納得している者が皆無であることもまた確かなことだ。

「あ、あの……大佐殿……」
「む、何だね。思うところがあるのならば発言するがいい。上等兵」

 おずおずと挙手したのは、海兵隊から選出されたメンバーだったかな。オンラインゲームに詳しいという触れ込みだったが、特にこれという見識もなく、聞くべきところもないから、すっかり存在を忘れていた。

「その、人間勢力が……」
「上等兵、用語は統一せい。人間ではなく亜人であるぞ。アジア人的外見で赤色をシンボルとするなぞ、実に忌々しいことなのだからな」
「あ、いや、でも……日本人だって……」
「サムライはブルーである。レッドはパージである。不見識を申すな」

 そうだ、思い出した。彼は横須賀基地に駐屯していたのだった。それで、ゲームのみならず日本のサブカルチャーにも詳しいという話だった。

 だから、アラスカへの核攻撃もサンフランシスコでの化学兵器テロも、他人事という姿勢でいられるのだろうな。そんなところも日本風だ。何もかもを対岸の火としていて、天使の寛容にも似た鈍感を晒しているぞ。

 君も家族を失い、下半身不随にされてみるといい。世界の見方が変わるだろう。

「それで? 亜人勢力がどうしたというのですか?」

 おや、中尉は先を促すのか。電脳将校というものは情報への執着が強い。

「ええと……砦以北に、戦力が集められてるって話があったじゃないですか。原生動物の襲撃も跳ねのけて、こう、妙に盛り上がってるって。その、それと同じようなことを、日本の友人が話してまして……また聞きになるんですけど……」

 要領を得ない話しぶりだ。しかし、どのような内容であれ会議中の発言は等しく尊ばれなければならない。攻略会議に選出されるというのは、そういうことだ。

「その、動画投稿サイトに発表される動画には、ゲームの実況プレイというジャンルがあるんです。中でも日本においては生実況というスタイルが人気で……」

 ホットチョコレートをすする。やはり聞くべき話ではなさそうだ。

 異世界のこととはいえゲームと現実を混同するなど、分別のある大人がすることではない。それが戦争であればなおさらだ。

「あの、ドラゴンデーモンRPGのちょっと変わった実況があったそうなんです。何とも不思議な内容になっていて、その……亜人勢力の神となって開拓地を防衛したんだとか。ユニークユニットを操る感じで、こう……」
「ただの改造データではないですか? 流行っているのでしょう?」
「あ、いや、MODにしては出来が良すぎるというか……あと、内容がシンクロしすぎているというか……」
「シンクロ? どういうことです?」
「開拓地に『シールド』が配置されたって話なんです。日付も、多分、一緒で」
「……なるほど。日本が独自に異世界介入を行っていると?」
「う、疑いというか……偶然にしちゃできすぎかなって」
「それでも偶然でしょうね。日本のスーパーAIは既に我が国が接収しています。情報技術者もです。そうでもしなければ接続は実現しませんでしたから」

 大佐が苛立っている。じきに話題は打ち切られ、今後の作戦が示されるだろう。それを聞いて電脳対策室へ戻るまでが、人間らしい環境に身を置ける時間だ。

 接続は極めてデリケートな行為だ。ひとりで行わなければならない。

 たったひとりで、また、異世界戦争を指揮しなければならない。

 失敗は許されない……絶対に許されないのだ。
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