19 ドラデモ的撮影環境について/末弟は再会する、坩堝の地で
神に見放されたなら、ワタシは死ぬ。
神を信じ続けることで、ワタシは生きる。
◆◆◆
飯と風呂と布団。そしてゲーム。それだけあれば、とは思っていたものの。
はい、いもでんぷんです、けど、も。
リアルの方が色々とありまして……って、録画しながらぼやくとか……でもなあ……うーん……ぼやこう。後で証拠になるかもだし。投稿できるかも不明だし。
この前、連休が終わったんですよ。それで、中断セーブも何もできないまんまだったんで、観戦モードで放置して会社行ったんですわ。満員電車に揺られて。そしたらすぐに上司が飛んできまして……初めて社長室なんて入りまして。
無期限の有給休暇、もらいました。
更には、英気を養えって、お札入りの分厚い封筒渡されました。
嘘みたいでしょ。ゲームでもそんなボーナスイベント見たことないんですけど。
社長、何やら小難しいことをのたまわってましたねえ……下っ端には関係ない経営的なあれやこれやを。途中から社長の顔を脳内で修正してましたもん。全体を小さくしてー、骨格をシュッとしてーって。髪型は冒険してウルフカットでーって。
とりあえず守秘義務は理解しました。超言い含められたんで。録画すれども、許可あるまで投稿しちゃ駄目だそうです。なんでやねん。生実況させてーな。
あと、信じらんないことも言ってましたね。
君! 会社のためにも、しっかりとゲームをしてくれたまえ!
……ですってよ皆様。意味わかんねえです。うちの会社、ぶっちゃけると都市インフラ関係の下請けなんで、ゲームとは全っ然関係ないんですけど。うけるー。
はぁ……こんだけぼやいても、まーだ現実感がないなあ。
まあ、ぼーっとしながらもドラデモやり続けているわけですが。
そういえば、少しですけどシステムトラブルも解消……というか、調子の戻る時があるとわかりました。たまに高速進行モードが使えるんです。正直助かります。さもなきゃ、無期限有給中、ずーっと復興観察して過ごす羽目ですもの。
で、今現在、まさにその高速進行モード中。
開拓地を俯瞰して、お空を太陽がグルングルン動いていくわけですが……見て下さいよってか見せられたらいいな、この微っ妙な増速と減速を。不安定すぎ。
それに引き換え、開拓地の方は安定の優等生っぷりですなー。いや凄い。
行政区はまだテント併用の仮役所って感じですけど、居住区はゲーム開始時点まで回復しましたね。軍民上げての精力的な復興作業といったところですか。畑作や牧畜の方もまずまず。ちょろちょろ動く人影から察して、子供、頑張ってるう。
防衛力に至っては、すんごく向上しました。桁違いに。
それもそのはず、何でかエルフが協力してます。水堀ですよ水堀。小規模のやつではありますが、エルフ製ですからね。言ってしまえば水魔法による結界ですよ。魔物はおろか、ヴァンパイアだって魔法なしじゃ越えられません。
人間の開拓地をエルフが防衛ねえ……やっぱりサチケルちゃんは大天使だったってことなんかなあ……スレ建てて報告したいなあ……禁則事項だけどもー。
ん? 太陽の動きが……あー、駄目っぽい。観戦モードへ移行ー。
そしてもって、我らのクロイちゃんはというと……よしよし、能力値上げに余念なし。訓練回数が規定値超えると自動訓練が可能なんです。いいアベレージで。
ただ、ですねえ……何なんでしょう。ご覧の有り様は。
ジグザグ持久走をしつつの砂袋持ちサイドレイズ、どうして兵隊も一緒にやってんです? 渡り鳥もビックリの大編隊になってるじゃん。先頭クロイちゃんだから、凄い数の変態が追いかけてるみたいじゃん。イケメン騎士、お前もかーい。
シラちゃんはいない。よかった。さすがに見学を……反復横跳びしてるう!
◆◆◆
丘の上へ伏せて、呼び起こされる詩想に耳を澄まそう。
北に厳美あり、か。風に鉄錆のとがりがある。茫漠の荒野を見下ろして、空の青は超然なまでに澄明だ。ここでは自然が人を突き放していて、遠く冷たく……。
「おい、マリウス。見てみろよ」
不機嫌な声。もう。オリジス兄上ときたらずっとこの調子なんだから。
「どこの輜重隊かと思いきや、ありゃ商人の車列だぜ」
「本当だ。四頭立ての馬車とは豪勢だね」
道とも言えない道を行く一行は、勤勉で執拗なアリの群れ。ただし女王アリが交ざっていたんだね。なるほど。それで獰猛な兵隊アリを伴っているのか。
「あれ? あの団旗って」
「ああ、傭兵団『赤獅子』だな。ヴァンパイアに味方して人間を襲ったっていう、いわく付きの連中さ」
「うわあ……豪胆な商人さんだ」
「物好きや馬鹿の類だろ。どこのお大尽だか知らんが、払いだけは良さそうだ」
傭兵は金銭が全てだものね。世評を気にせずそれを雇い入れて、世間を騒がしている地へと馬車を差し向ける……もしかして、商人さん本人が乗っているのかも。酔狂において半端は無粋だもの。
「ねえ、兄上。あの人たちと同道してみない?」
「はあ? 何でだよ、めんどくさい」
「面白そうじゃない。兵隊も、雇い主も、つつけば色々と囀ってくれると思う」
「うーん……そうかあ?」
都会嫌いのオリジス兄上だから、ああいう手合いは理解したくないんだろうね。
でも、駄目。
あれは劇物だ。素通りさせてしまっては、面白くないばかりじゃなくて、行く先で騒動の火種にもなりかねない。暴力と財力の結びつきを確かめなきゃ。
「おま、マリウス、そのじーっと見てくんのやめろ。わかったって。お前、最近ますます母者に顔似てきてて、怖いんだよ……」
「あ、言っちゃおっかな」
「待て! わかったっつってんだろ!」
ブツブツ言いながらも頷いてくれた。よかった。
「んじゃ、合流するか」
「うん。友好的にね」
「お行儀よくやるっての」
二人して立ち上がり、振り返る。
丘の陰には騎馬の隊列。練りに練った武を剽悍さとして身にまとう、精鋭軽騎兵一千騎。掲げる旗は黒地に赤く火刑十字。我が家門に伝わる猛き意匠。
ウィロウ家、火撃の軍勢、これに在り。
北の地は、ぼくたちによく似合う。
「兄者に伝令出しとくかなあ……到着遅れるかもって」
「マリウスの我儘でって言付けてもいいよ?」
「やんねえよ。そんな内容諳んじて駆けるやつの気持ち考えろよ……」
騎乗し、丘の上に馬列を並べた。槍を伏せても動揺はさせちゃうよね。旗を振っても駄目。オリジス兄上の不機嫌さが、そのまま兵気を剣呑なものにしている。
「ぼくが挨拶していい?」
「任せる」
まったくオリジス兄上は……五百騎を丘の半ばに待機させるなんて、そんなの、いつでも蹴散らせるぞっていう脅しじゃないか。友好的な逆落としなんてないよ。
まあ、ピリピリしちゃう気持ちもわかるけどね。
一刻も早くアギアス兄上に会って、色んな思いをぶつけたいんでしょ? 殴り合いになるかもしれないし、なんならぼくだって手がでるかもだけれど。
でも……まずは役に立たなくちゃ。軍人の節を尽くして、冷静にならなきゃ。
そして、見極めるんだ。
アギアス兄上ほどの人物に、自らの身命を捧ぐと誓われた少女を。深い絶望に沈んでいた心に、まばゆいばかりの火炎を燃え上がらせた少女を。ぼくらにも希望を抱かせた少女を。
クロイ……いったい、どんな御人なんだろうか。
正直なところ、目の前の徒歩兵百数十卒なんて、眼中に入らないんだよね。気もそぞろさ。まるで逢引に遅れそうな乙女のように。
「皆々様にご挨拶を。マリウス・ウィロウと申します」
さあ、ぼくは爽やかに微笑みかけるよ。だから剣の柄から手を離すといい、赤獅子団の戦士諸君。雇い主の手前もあるのだろうけれど。
「御一行の主殿へご提案に参りました。北の開拓地まで、ご一緒しませんか?」
お話しようじゃないか。道すがら、舌を遊ばせて。
それで、もしもアギアス兄上の迷惑になるってわかろうものならば……その時は速やかに殲滅してあげるからさ?